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第99話 装甲戦闘機

1916年9月6日 ドイツ帝国 プロイセン王国 アーヘン ブランド地区 飛行場

飛行場から銀色の飛行機が離陸していった。だが、その飛行機は見るからに鈍く、重い、一般人が飛行機の飛行と聞いて思い浮かべる、軽快なものからはおよそかけ離れた飛行をしていた。


「やはり、メルセデスの新型でも無理か」


離陸の様子を心配そうに見守っていた男が、やがて諦めたような口調でそう言った。彼の名はフーゴー-ユンカース。ドイツ帝国の航空機制作会社ユンカース社の社長にして、先ほど離陸した機体の設計者だった。


離陸した機体はユンカースJ2。フーゴー-ユンカースが昨年の12月に設計した世界初の全金属片持ち単葉機ユンカースJ1をより洗練させて、戦闘機として設計し直した機体だった。

ドイツ帝国軍航空隊もこの機体には大きな期待を寄せており、増加試作機の制作が認められていた。

ドイツ帝国軍航空隊が期待を寄せていたのにはわけがあった。

第一次世界大戦では、主に飛行船の運用や弾着観測を行なっていた航空隊だったが、戦後になると仮想敵国であるフランス共和国やロシア帝国が航空戦力を整備し始めたために、それらに対処するための防空戦力の整備が急がれる一方で、対地攻撃支援や弾着観測も第一次世界大戦のころから変わらずに航空隊の主任務の一つだった。

しかし、1914年に勃発したバルカン戦争への軍事介入による戦訓が、ドイツ帝国航空隊に大きな衝撃を与えた。

対戦闘機相手の空中戦、そして対地攻撃支援や弾着観測における、機体の損耗率が想像以上に高かったのである。

当時の機体にはおよそ装甲と呼べるようなものは無く、運よく弾が当たっても問題ない箇所にあたるか、自身の飛行技術で回避する、ぐらいしか基本的に生き残るすべは無かった。


それでも問題は無いとされていた。何しろ空中で機関銃を運用するためには操縦士と銃手の最低2名が必要であり、そのような機体は必然的に復座の鈍重な機体とならざるを得ないから、回避は容易である。バルカン戦争以前ではそのような考えが一般的だった。


しかし、1915年10月20日のイタリア軍のブレンナー爆撃の陰で、フランス義勇飛行隊『シゴーニュ(コウノトリ)』が持ち込んだ世界初の機銃同調装置搭載の戦闘機フォッカーM.5が、ブレンナーの上空でドイツ帝国航空隊の戦闘機を叩き落としたことから、その考えは時代遅れなものとなった。


取りあえず、スイスのエンジニアであるフランツ-シュナイダーの特許を利用した機銃同調装置を作成し、ハルバーシュタット社の新型戦闘機D.Ⅱに搭載して前線に送り込んだ。

それと並行して、ドイツ帝国航空隊ではより抜本的な対策として、機銃に撃たれても容易に撃墜されない様な機体、つまり全金属機の制作を航空機制作会社に要求した。


この要求を受けたアヴィアティックやハルバーシュタットの技師が頭を抱える中、フーゴー-ユンカース率いるユンカース社のみが、可能であると回答したのだった。


そうして、試験機であるユンカースJ1に続いて装甲戦闘機と呼ばれた本格的な戦闘機であるユンカースJ2の試作に取り掛かっていたのだが、上手くいっているとは言い難かった。


原因はその機体の重さにあった。

当時はまだアルミニウムやジュラルミンの使用は一般的ではなくユンカースJ2は、試作機のJ1もそうだったが鋼板でその機体を構成していたのだった。当然機体は重く、それを飛ばせるほどの大出力エンジンも容易には手に入らなかった。

今回の飛行に関してはメルセデス社の新型エンジンで、170馬力を発揮するD.Ⅲエンジンを搭載していたが、それでも戦闘機として考えるとあまりにも不十分な飛行しかできなかった。


結局、この日の飛行の後ドイツ帝国航空隊は考えを改め、ユンカースJ2の試験を打ち切り、新たに観測及び地上攻撃機として全金属機の制作を命じた。これは観測や地上攻撃機ならば多少鈍重でも問題なく、唯一の取り柄ともいえる機体の頑丈さが最も役に立つと考えられたからだった。


そうして作られた観測及び地上攻撃機はJ.Ⅰ(社内名称はJ4)の名を与えられて、史上初のバスタブ構造を備え、地上攻撃機として航空隊、地上部隊の双方から絶大な信頼を寄せられる事になるのだが、それはまだ未来の事だった。

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