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第86話 大分裂の時代

1916年4月3日 アメリカ合衆国 ニューヨーク州 ニューヨーク

その日、議場は満員だった。誰もが壇上にいる人物が何を言うのか、それを待ち望んでいた。

そして、壇上の人物、セオドア-ルーズベルトは厳かに宣言した。


「私はここに愛国(パトリオットン)パーティーの結党を宣言する。私はアメリカに住むすべての者たちがアメリカに対して忠誠を持つようにならなければならないと考える。全てのアメリカ人は未だ手斧を置くべきではないのである。我々は愛国者としてその先駆けとならねばならないのである」


ルーズベルトの演説に歓声が広がった。手斧を置くとはジェファーソンの言葉からの引用であり、アメリカ人にとっての同化政策は未だ終結していないという事を表していた。

新党名が愛国党という名になったのはティルマンが引き入れて来た民主党員に当然のことながら南部出身者が多かった事から彼らに対する配慮という意味合いが強かった。


当初は、民主党、共和党、双方の連合と融和を前面に打ち出すために連合党ないし融合党という党名が主に共和党員の間から出ていたのだが、民主党員から拒否された。連合党はその党名がかつての南北戦争時の北部を意味する連合(ユニオン)、またはエイブラハム-リンカーンが南北戦争中の1864年の大統領選挙時に率いた党である国民連合党を連想させることから拒否され、融合党についてもノースカロライナ州で19世紀末期に黒人の共和党員と人民党員によって結成された政党を想起させる事からこれも拒否された。

南北の溝は依然として深かった。


結局、妥協案として愛国党という党名が採択されたのだった。


この、愛国党の結党はある程度分裂を予想していたタフト率いる共和党保守派はともかく、クラークを中心とする民主党にとっては予想だにしない出来事であり、民主党は大きな混乱に見舞われる事になるのである。

しかし、大きな混乱に見舞われたのは民主党だけではなかった。


同日、まるで愛国党の結党に合わせたかのように(実際には全く関係は無かったが)、アメリカ社会党においてアメリカからのアジア人労働者排除をめぐる所謂、ミルウォーキー論争を巡ってヴィクター-ルイトポルト-バーガーが中心になって、ユージーン-ヴィクター-デブスの弾劾を求める論文を自身が1901年に創設した日刊紙である『ミルウォーキー-リーダー』に掲載し少しでも支持を集めようとした。

この動きに対してデブスは逆にバーガーの除名処分を検討するが、党内にはバーガーの主張に賛同するものも多く、特にバーガーの地盤であるウィスコンシン州とアジア系移民との衝突も増えつつある西海岸ではその数は特に多かった。


そして、デブスの弾劾を求める論文が掲載されてから一月後の5月3日、遂にバーガー派は離党を宣言し、西海岸カリフォルニア州サンフランシスコにてアメリカ労働者党の結党を宣言した。

この政党は公式には1876年に結党された同名のマルクス主義政党の理念を受け継ぐものとされたが、実際には同時期のサンフランシスコでデニス-カーニーによって結成された主に苦力(クーリー)を標的とした反移民政党を念頭に置いている事はわざわざサンフランシスコで結党した事からも明らかだった。


こうして後に『大分裂の時代』と言われることになる、アメリカ政治の混乱は熱狂と共に幕を開けたのだった。

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