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第76話 繁栄と歪み〈下〉

1915年12月20日 アメリカ合衆国 ニューヨーク州 ニューヨーク市

近衛がサンフランシスコでバハクナやドリューとアジア人種の団結を成すために会っている頃、ニューヨークではそれを阻止しようと考えている人間が集まっていた。ニューヨーク市は伝統的に北部が共和党、南部が民主党とされるアメリカの政治の中では異質な街であり、南北戦争直前の合衆国分裂危機の際には合衆国から離脱して南部にも北部にもくみしない中立宣言を出そうとしたり、都市国家として独立しようとした過去すらある、まさに南北の中立地帯と言えた。そして、ここにも繁栄するアメリカの歪みといえるものが存在していた。


「なるほど、では次の選挙では黒人の公民権については言及はしない、と」

「悪いがこれが私のできる最大限の譲歩だ。まあ、君らが婦人参政権法案提出後に否決するというならば我々は止めはしない」

「女どもに関しても譲歩してほしかったが、流石にそこまでは出来ないか」

「私はこれ以上切り売りするわけにはいかないからな。そもそも黒人の件からして未だに派閥内では不満が大きいのだ。場合によってはラフォレットに票がいくつか流れる事も覚悟しなくてならん」


ここに集まっているのは、元アメリカ合衆国大統領にして共和党進歩派の指導者セオドア-ルーズベルト、民主党サウスカロライナ州選出の上院議員であり、サウスカロライナ州知事を務めた経験もあるベンジャミン-ティルマン、そして米西戦争の際の報道で新聞王と呼ばれるほどの地位を築いたウィリアム-ランドルフ-ハーストの3人だった。


「ところでティルマンさん"ホール"の抑えはどうですか」

「ああ、そうだったな。ハースト君。同調する民主党員にいくらか声をかけている。万全…とまでは言えないが、前の選挙よりはマシな結果になるだろうさ」

「…お言葉ですが前の選挙も"ホール"の妨害が無ければうまくいったはずですよ」

「おお、そうかね。それはすまなかったなぁ。では、今回も手助けは不要かね?」

「まあまあ、2人とも」


険悪な雰囲気になり掛けたハーストとティルマンをルーズベルトが止めた。ハーストとティルマンの言う"ホール"とはニューヨーク州で強い影響力を持つ伝統的な民主党の派閥、タマニーホールの事だった。

ハーストはかつてニューヨーク市長選挙や州知事選挙に立候補した事があったが、強力な集票組織であるタマニーホールの前に敗北を繰り返していた。

その後は新政党として独立党を結成し、大統領選挙に出馬したりしたが、こちらも敗北し、いまやハーストの影響力はニューヨークに細々と残るだけだった。そこでハーストは共和党、民主党双方の分裂傾向を利用して再び政治の表舞台に立とうと画策しており、ルーズベルトとティルマンの2人を引き合わせたのもハーストだった。

なぜ、党の違う2人がハーストの求めに応じて集まったのかと、いえばアメリカ国内外の事情が影響していた。

第一次世界大戦後から始まった日清提携論である『東亜非戦論』は当初、欧米では全くといえるほどに注目されていなかった。

しかし、大日本帝国、大清帝国の両国で提携論が民間で盛り上がりを見せる中、アメリカのハワイを皮切りに西海岸を中心として、日清両国の移民たちによって人種平等を求める政治活動として『東亜非戦論』が利用され始めた。結局、西海岸各州の州知事からの要請を受けたアメリカ合衆国政府からの日清両国への抗議と激しい弾圧によってこうした活動が主流となる事は無く、直ぐに解散させられ中心人物だった孫文は日本に亡命し近衛家の食客となっていた。しかし、こうした日清両国移民の提携はいわゆる黄禍論を思い起こさせるには十分だった。


大日本帝国が第一次世界大戦で連合国側として戦いいくつかの戦果を挙げ、大清帝国が未だ眠れる獅子と恐れられる東洋の大国であった事からその提携は脅威として受け止められた。もし、大日本帝国単体であればアメリカ合衆国からは大した脅威と捉えられなかったのではないか、というのが後世の歴史家の見解である。

更にそこにムーリッシュ-サイエンス-テンプル-オブ-アメリカなどの黒人の活動が合わさり、強いアメリカを第一に考えるルーズベルトや白人至上主義者の代表例のような存在のティルマンからすれば、太平洋はアメリカ最後のフロンティアどころか白人文明の最終防衛線ともいえる地域になっていた。

『太平洋上で有色人種の脅威を押しとどめなければ、白人文明は崩壊する』この思いはここに集まっている3人に共通したものだった。


「そういえば、元大統領、当然"例の計画"には賛同していただけるのでしょうな」

「ああ、あれですか、もちろんです。最初はやはりチャールストンですか?」

「もちろんです。あそこは私が手塩にかけて作り上げた造船所ですからね」

「ははは、でしたら次があれば是非ニューヨークのガムデン造船所か海軍工廠に御譲り頂きたいですな」


ティルマンとルーズベルトの会話にハーストが茶々を入れた。"例の計画"とはティルマンが海軍拡張論者として知られたルーズベルトと接触する際に用意していたものだった。崇高な思いを抱いて集まったと言っても私利私欲が無かったわけでは無いのだ。

ハーストにとっても州知事当選後に多くの雇用がもたらされるであろう"例の計画"には大賛成だった。


こうして、共和党と民主党、両党首脳部が混乱する中、ここ、ニューヨークでは秘密裏の内に3人による未来図が描かれていた。

第75話のタイトルを変更しました。

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