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第71話 戦略爆撃とフォッカーの懲罰

1915年10月5日 イタリア王国 ローマ エセルシト宮殿 


イタリア陸軍の参謀本部が置かれているこの建物では、イタリア陸軍きっての航空主兵論者であるジュリオ-ドゥーエ大佐が対オーストリア=ハンガリー帝国のための航空機を使用した今までにない規模での都市爆撃を実行するべきと主張したのに対し、カドルナ参謀総長の腹心であるエミリオ-デ-ボーノ大佐がそれを一笑に付した事から大激論が行われていた。


「…つまり君は、こう言いたいわけだ。『私の航空隊で爆弾を敵地に投下すれば、戦争を終わらせる事ができます』と…バカも休み休み言いたまえ。たかがその程度でこの戦争が終わるわけがないだろう。第一、ドイツ帝国が我々に宣戦を布告してきたことでオーストリア=ハンガリー帝国軍の士気は上がっている。先日のオスマン皇帝暗殺事件の影響でロシア帝国が我々の側で参戦する可能性が出てきたの良い事だが、その参戦が確実ではない以上、我々は当面防御を固めるほかない。よって、そのような投機的作戦を行なう余裕はない」

「しかしながら、敵国内の工業地帯を叩く事によって敵の補給を断つことが出来ます。また、市街地への攻撃は敵国民の士気を下げる為にも大いに有効と考えられ…」

「問題はそこだよ。なるほど、確かに敵国民の士気を下げる事は出来るかも知れん。だが、そのような攻撃によって中立国の世論が親オーストリア=ハンガリーとなる事は避けられないだろう。戦略的に考えれば利点よりも欠点の方が多い作戦案だと思うが」

「大戦中にツェッペリンがパリを空襲した時は…」

「規模がまるで違うではないか」

「しかし…」

「そこまでにしたまえ。ドゥーエ君、君の主張もわからんでもないが、やはり市街地への攻撃という点は問題だ…目標を鉄道駅や工場に限定してはどうかね?」

「ありがとうございます。カドルナ閣下」

「うむ、護衛の部隊については私の方で手配しておくよ」


暫く議論を続けていた二人を興味深そうに見ていたカドルナがなおも反論をしようとしたドゥーエを諫めた。

カドルナの助け舟によって限定的ながら自分の作戦が認められた、そう感じたドゥーエは礼を述べると退室していった。


「よろしかったのですか」

「なに、どのみち敵の増援を断たねば我々は敗北する。であればこそ打てる手はすべて打たねばならないのだよ。幸いにしてオーストリア=ハンガリーの鉄道網は貧弱だ。そこを叩けば時間稼ぎぐらいは出来るだろう」

「目標はどこに…」

「ふむ、そうだな…ブレンネロだ。あそこにしよう」

「ブレンネロですか。では、ドイツ人どもがアレマンニ族で、我々は現代のアディウス-ゴティクスというわけですか、疫病で死にたくはないですな」

「全くだな。護衛の部隊の方は…フランスから来た連中がいただろう。奴らを使え」

「ああ、あのコウノトリ部隊ですか」


デ-ボーノに対し時間稼ぎの必要性と有効性を説いたカドルナは目標をインスブルックとボーツェン間を結ぶブレンナー鉄道の主要駅ブレンナー、イタリア語名ブレンネロとした。

するとすかさずデ-ボーノが古代ローマ時代の故事を持ちだしてきた。ブレンナー近隣のブレンナー峠を通り、侵入しようとしたアレンマンニ族はローマ皇帝アディウス-ゴディクスに撃退されたが、アディウス-ゴディクス自身は疫病により病死していた。

カドルナは笑いながら、それに応じると爆撃の護衛部隊にフランスから来た義勇兵部隊を当てる事とした。


フランスは長らく中立を保っていたが、ドイツ帝国が参戦すると親イタリア的な態度を取っており、今まで禁じていた義勇兵の派遣すら公然と行ない始めていた。コウノトリ部隊もそんな部隊の一つだった。


1915年10月20日 オーストリア=ハンガリー帝国 ブレンナー駅上空

カプローニCa.31爆撃機が次々と爆弾を投下していった。この日爆撃に参加した爆撃機は30機であり、当時としては破格の機数と言えた。もちろん鉄道駅の機能を停止させるには十分な数だった。


「すごいな、これが現代の戦争か」


フォッカー社製戦闘機を操るコウノトリ部隊唯一の日本人滋野清武は感心したようにつぶやいた。

彼が駆るフォッカー社製戦闘機はフランス陸軍航空隊が試験採用したものを、コウノトリ部隊が受領したものだった。

もしも、第一次世界大戦時にドイツ帝国がオランダに侵入しなければフォッカーはドイツ帝国の為に機体を制作していたかもしれないといわれているが、フォッカーはかつて大戦を祖国オランダと共に戦ったフランス軍にこの機体を売り込んだ。

この戦闘機の特徴はアントン-フォッカーが開発した世界初の機銃同調装置を装備していた事だった。この装備によって、コウノトリ部隊は敵機に対して優位に戦う事ができた。


後にドイツ軍、オーストリア=ハンガリー軍からは『フォッカーの懲罰』としてフォッカー戦闘機は恐れられることになる。


そして、この日のブレンナー爆撃は世界初の戦略爆撃理論に基づいた爆撃として世界史に名を残す事になる。

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