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第59話 オデッサの密会と新たな火種

1915年4月20日 ドイツ帝国領ウクライナ オデッサ

オデッサは19世紀以来発展を続けていた都市だった。第一次世界大戦以前はロシア帝国でも有数の港湾都市であったし、戦後にドイツ帝国に割譲されて以降もドイツ帝国領ウクライナの中では最大の都市であった。


そんなオデッサに住まう住人は支配者であるドイツ人、現地住民であるウクライナ人よりも他民族の方が多かった。ロシア帝国時代から多数が居住するユダヤ人、オスマン帝国から逃れてきたアルメニア人、そのアルメニア人たちを追放した側の存在であるトルコ人、先年、独立したポーランド王国から来たポーランド人、中にはイギリスやフランスなどのかつてのドイツの敵国人やはるばる清国から来た華人の姿もあった。


そしてそのオデッサのホテルの一室ではとある密会が行われていた。


「西の同胞よ。我らはオスマン帝国政府よりその忠誠に疑問を持たれているようだ。このままでは我らがアルメニア人やアッシリア人と同じ道をたどる日も近い」

「しかし、東の同胞よ、そうはいっても実際に戦うのは我々ではなくキリスト教徒だ。彼らを動かすのは容易なことではない…大戦の反動からか我らに関する目は厳しくなっているからな」

「だが、頼みの綱は最早貴方方しかいないのだ。それにオスマン帝国が崩壊すれば聖地への帰還すら果たせるやもしれぬ」

「それはとても魅力的だが…しかし、今は厳しいと言わざるを得ない。そもそも、虐殺と言われるがその現場を見たものはひとりもいないのだろう?ただの根も葉もないうわさに過ぎないという可能性もある」

「貴方方は同胞を見捨てるのか」

「そうは言っていない。ただ機が熟していないと言っているだけだ。取りあえずアルメニア人やアッシリア人たちの噂には役に立ってもらうとするよ」


話しているのはユダヤ人だった。

しかし出自は異なっており、方やオスマン帝国出身の主にイベリアから迫害を逃れて中東や北アフリカに居住するようになったユダヤ人の子孫であるセファルディム、方やドイツ帝国出身の欧州に居住し続けたユダヤ人の子孫であるアシュケナジムだった。

彼らユダヤ人たちは大きな危機に直面していた。セファルディムはアブデュルハミト2世がアルメニア人やアッシリア人に対して行っていた反乱分子排除政策がついにユダヤ人に対しても行われようとしていたのである。

これに関してはオスマン帝国領サロニカの失陥の原因を同市に多く居住していたユダヤ人がギリシア軍と内通していた為という風説が広まっていたことからアブデュルハミト2世がユダヤ人の排斥を決断したのだと言われている。


そうした事からセファルディムたちは同胞であるアシュケナジムに助けを求めた。しかし、助けを求められたアシュケナジムもまた、危機に直面していた。


第一次世界大戦中から協商国側、同盟国側の双方でユダヤ人が敵国と内通しているのではないか、という風説が広まり始めた。実際には各国のユダヤ人はそれぞれの国の為に奉仕していたのだが、ヨーロッパ人の間に長く蔓延っていた反ユダヤ主義は簡単に払拭できるものではなかった。

また、戦後のヨーロッパの列強各国がそれぞれ内政面の理由で戦争を忌避しているという事情もあり、武力介入の要請は慎重になるしかなかった。唯一列強で戦争らしい戦争をしているのは、オーストリア=ハンガリー帝国だったが、国力に乏しい上にオスマン帝国側に立って参戦していた。


そうした現状の為、アシュケナジムもセファルディムの危機は分かっていたが、表立っては動く事が出来なかった。


そのため、彼らはセファルディム経由の情報を使い、オスマン帝国にてアルメニア人やアッシリア人の虐殺が大々的に行われている事を示唆する記事をヨーロッパ各国やアメリカの自分たちが所有する新聞にて書かせた。


各国政府はもちろん無視したが、一国だけその動きに乗ろうとしていた国があった。

地中海に面するイタリア王国だった。イタリアにとってはオスマン帝国とはリビアの領有権問題を抱え、更にオスマン帝国側で参戦したオーストリア=ハンガリー帝国との間にはイタリア統一運動以来の未回収のイタリアを巡って対立する立場にあった。


多くの国民が参戦に反対し、議会でも野党である社会党が戦争よりも格差解消を訴える立場をとって強固な反対運動を続けていたために、国民をまとめられる口実を欲していた。

さらにローマ教皇から内々にイタリア王国との和解に関する交渉を持ちかけられていたこともイタリア政府にとって都合が良かった。フランスに代わる新たなカトリックの守護者としてのイタリア王国、列強の中でも後進国として扱われていたイタリアにとって列強としての立場を確立するためのまたとない機会だった。


こうして様々な思惑のもとに新たな戦火が燃え広がろうとしていたのだった。

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