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第58話 ある革命家の死

1915年 3月10日 ロシア帝国 モスクワ キエフスキー駅付近


「さて、そろそろだな」


そうつぶやいた革命家、ウラジーミル-イリイッチ-レーニンはモスクワへの到着を心待ちにしていた。万が一の事態に備えて怪しまれないように変装をし、無表情を貫いていても、その僅かに上擦った声がそれを表していた。


(スイスからオーストリアハンガリー帝国を経て、ポーランド、ドイツ帝国領ウクライナ、そしてロシア帝国と怪しまれずに通過出来た。ならばあとはモスクワに潜伏している同志たちと共に革命を成し遂げるだけだ、そして自分は…歴史に名を残す)


レーニンはそんなことを思いながら自らの野望を成就した後の事について考えを巡らせていた。

だが、レーニンの野望が成就する事は無かった。


キエフスキー駅にレーニンたちが乗った列車が入ろうとした、まさにその時に"事故"が起きた。

()()()()()()()により、突如として列車が脱線し乗客の半数が死傷し、残った者たちは病院に搬送された、だがその中にレーニンの姿は無かった。レーニンは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()変装して待機していた秘密警察(オフラーナ)の人員によってすぐさま事故現場から秘密警察(オフラーナ)のモスクワ警備局へと拉致されていたのだった。

そして、激しい拷問の末レーニンはロシアにて革命を成功させるという悲願を果たす事無く、その命を散らす事となった。

公式には脱線事故の後、行方不明とされ彼が拷問の末に死亡した、という事実が明らかになるのは半世紀が過ぎた後の事となる。


1915年 3月15日 スイス ベルン


「ロープシン、ロープシンはどこだ。どこにいる!クソッだから私は反対したんだぞ」

「…ああ、そうだったな…君は、いや貴方は反対された。だが私は…わたしは…」


留守を任された革命家の一人であるアレクサンドル-アレクサンドロヴィッチ-ボグダノフは怒りを滲ませながら、ロープシンの捜索にあたっていたが、その姿は何処にもなかった。

ボグダノフの横ではレーニン不在の間、ボリシェヴィキの実質的なトップを任されていたはずのレフ-ダヴィドノヴィッチ-トロツキーが縋るような目でボグダノフを見ながらただうわ言の様に後悔の言葉を吐き続けていた。


レーニンが鉄道事故に見舞われたらしいという報告を受けた時に、ボグダノフはロープシンを召喚し詰問しようとしたが、トロツキーがそれに反対し、2人の間で問答が繰り返されている内にロープシンが消えたという報告が入り、ボリシェヴィキ内部は大混乱に陥った。特にトロツキーは大きな衝撃を受け、今のような無気力でただひたすら赦しを請うような状態へとなってしまった。


ボリシェヴィキの柱、レーニンの死によってボリシェヴィキはその組織的活動を終える事となった。生き残った革命家たちはあるものは殺され、あるものは表舞台から身を引き、そしてあるものは別の形で歴史に名を残す事になるのである。


1915年 3月15日 オーストリア=ハンガリー帝国 ウィーン


「ベルンも良いが、やはりウィーンだな」


ボグダノフたちがロープシンの捕縛に躍起になっている頃、ウィーンの市街を散策する一人のロシア人がいた。

彼の名はボリス-ヴィクトロヴィッチ-サヴィンコフ、ボリシェヴィキの内部にヴィクトル-ヴィクトロヴィッチ-ロープシンの偽名で潜伏していた男だった。

彼は社会革命党のテロ組織である戦闘団の一員として数多くのテロを実行した経歴を持っていたのだが、戦闘団の指導者であるエヴノ-フィシェレヴィチ-アゼフより、ボリシェヴィキの指導者であるレーニンの殺害を命じられ、2年ほど前からボリシェヴィキ内部に潜伏していたのだった。

しかし、用心深いレーニンは絶対に隙を見せようとせず、そのためサヴィンコフは別の方法を考えた。

ロシア帝国国内で親ボリシェヴィキの偽の革命組織ロシア人民解放委員会を作り上げて、蜂起計画を練り上げレーニンをおびき寄せるというものだった。真実味を持たせるために実際にテロ活動も行わせた。標的は政府の役人や資本家ばかりではなく、本来の同志である社会革命党員すらも「資本家の狗」として拷問の末に殺した。

秘密警察(オフラーナ)の取り締まりが厳しくなる中で突如として勢力伸ばし始めたこの組織にレーニンは大きな興味を抱き、そのパイプ役としてサヴィンコフを重用するようになり、結果としてモスクワを目の前にして死ぬことになったのだった。

ガボン神父との接触に始まり、社会革命党の合法路線への転換、今回のレーニンの殺害など近年のアゼフの動向に関しては思う所が無いわけでは無かったが、サヴィンコフは直ぐに考えを切り替えて散策を楽しむ事にした。彼はアゼフの事を信頼し切っていたからだ。

奇しくもそれはトロツキーがレーニンを崇敬していたのとまったく同様だった。妄信の果てにサヴィンコフがどうなるのか、それはまだ誰にも分からなかった。


ただ一つ、社会主義武力革命を目指す勢力の中心がヨーロッパでも辺境と言えるロシアからヨーロッパ中央へと移った、という事だけはレーニンの行方不明の報を聞いた誰もが分かっていた。


偽の組織の名を騙っておびき寄せて殺すという手は史実のロシア内戦時にサヴィンコフがチェーカーにやられた手口だったりします。


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