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第55話 ベルンの革命家たち

1915年 1月10日 スイス ベルン

部屋の中に四人の男がいた。その男たちは何れもロシア人であった。


「では、決行は2カ月後か」

「ええ、既に準備は済ませてあります。最早、体制の犬と成り果てたアゼフら日和見主義者に不満を持つ同志は多い」

「…仮に社会革命党戦闘団の人員が裏切るとして本当にそれだけで勝てるのかね?」

「同志アレクサンドル-アレクサンドロヴィッチ、ご安心ください。既にモスクワ周辺の"細胞"には極秘裏に指令を与えてあります。駐留軍内への浸透、労働者の組織化などです」


ボリシェヴィキの指導者として知られる革命家ウラジーミル-レーニンの問いに対して、元社会革命党戦闘団員という経歴を持ち転向してボリシェヴィキになったヴィクトル-ヴィクトロヴィッチ-ロープシンという男は準備が整ったことを知らせたが、同席するアレクサンドル-アレクサンドロヴィッチ-ボグダノフは疑問を口にした。

だが、ロープシンはそれに対して名前の後に父称を合わせて呼び、ボグダノフに対して敬意を示しつつもその疑念を打ち消そうとした。


「私が心配しているのはそういう事ではないのだよ」

「というと?」

「最近、ボリシェヴィキ幹部の失踪や末端組織の壊滅が相次いでいると聞いている…その多くは組織内に忍び込んだ社会革命党からの離反者に見せかけたオフラーナの工作員の手によるものだという」

「同志ボグダノフは同志ロープシンをオフラーナの工作員だと疑われているのか?」

「同志トロツキーそういう訳ではないが…」

「同志を疑うなど極めて反革命的な言動ではないか、同志ボグダノフの自己批判を要求する」

「落ち着き給え。確かにロシアにおいて多数の同志が逮捕されつつある、今の同志ボグダノフの疑念はもっともだ。だが同志は信頼すべきものの筈だ」


なおもロープシンへの疑念を捨てきれないボグダノフを、それまで口を閉じていたレフ-ダヴィドノヴィッチ-トロツキーが批判した。

ボグダノフは一時期レーニンと激しく対立して、ボリシェヴィキから脱退していたことがあった。その後は再びボリシェヴィキへと戻ったが、トロツキーからは良く思われてはいなかった。

レーニンはトロツキーとかつてのライバルが言い争う姿をしばらく見た後、余裕たっぷりに調停して見せた。それはかつてボグダノフを追い落とすために必死になっていた男ではなく、名実ともにボリシェヴィキの指導者となった男の優越感の無意識の表れでもあった。


「同志諸君、来たる二か月後の蜂起によって、ロシアのみならずベルリン、ウィーン、ローマ、パリ、ロンドン、そしてアメリカ、アジア、アフリカのまだ見ぬ同志たちが覚醒し、共に圧政者と資本家たちからの軛から解放され、自由となり人類史の新たな地平を切り開く、その第一歩を我らはしるす事になるだろう。今こそかのマルクスの言葉に従って動く時が来たのだ。万国の労働者よ団結せよ」


レーニンの脳裏には自らが失敗する事への恐れなどは微塵も無かった。あるのはただ成功への渇望と確信だけだった。それほどまでにロープシンの示した計画は完璧なものだったのだ。

そんなレーニンをトロツキーは敬虔な信徒のように熱を込めた目で見つめ、ボグダノフはどこか冷めた目で見守り、そしてロープシンはなぜか冷たく笑っているように見えた。


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