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第320話 あるアメリカ人のごく普通の日

一応、4周年記念兼評価ポイント2000pt突破記念作品ですが、あれも書きたいこれも書きたいで話がブレてしまった感がありますね…

1944年7月19日 アメリカ合衆国 カリフォルニア州 サンフランシスコ

アメリカ勢力圏以外はロンドンオリンピックの開催に沸き立っていたが、第二次世界大戦の開戦前にアメリカ合衆国は国家としては1936年に行われるはずだったバルセロナオリンピックではなく同時にベルリンで開催される人民オリンピックに参加すると表明し、親アメリカ的な国々もそれに倣っていた。そして、大戦終結後も大協商との緊張関係を理由に不参加を貫いていたため、その日はアメリカ人にとってはごく普通の日だった。


1933年に建設が開始されるも大戦の勃発によって中断されたサンフランシスコ-オークリッジ橋の代替として巨大な道路鉄道併用橋兼用のダムが作られ、続いて行なわれたサンフランシスコ湾の北側に位置するサンパブロ湾の埋め立てによって大きく変化したベイエリアには新街区が造られていた。そんな、新街区ではこの日、久しぶりに旧友が再会を果たしたところだった。


「やあ、久しぶりだな」

「貴方のほうこそ元気そうじゃない」

「久しぶりの休暇だし、楽しもうじゃないか」

「久しぶりって…貴方、"カレンダー"はあまり関係ないじゃない。今でも軍人なんだもの」

「まぁまぁ、ここの飯は結構うまいんだ」


そういって笑った、少し前の7月4日の独立記念日に人類初の超音速飛行を行なったチャールズ-オーガスタス-リンドバーグに対して戦時中に陸軍航空隊の補助組織として設立された女性操縦士部隊であるベッツィー-ロス飛行隊の一員として、航空機の輸送などを行なっていたアメリア-メアリー-イアハートは納得できなさそうな顔をしながらもメニューを開いた。2人はともに戦前には飛行家として著名であり、互いに尊敬しあっていた。


イアハートの言った"カレンダー"とはテクニカル-アライアンスの提言によって、戦時中行なわれていた戦時特別法に基づいた国民をいくつかのグループに分けて、週4日間労働とその後の週休3日を義務づけた国民への作業割り当て制度を戦後になってから主に南部閥からの意見によって戦時中にひそかに問題となっていた家庭崩壊の危機を避けるため、グループの割り当てを家族単位にすることや安息日である日曜日の絶対休日化などの修正を加えたものであり、軍人などの公務員を除けばすべてのアメリカ人に適応されていた。


「そういえば、家のほうはどう?」

「…最近はあまりよくないな。この間ジュニアが"43”(フォーティー-スリー)を聞いてて思わずレコードを叩き割ってやったら、それからはもう大喧嘩だよ。流行り物だっていうのはわかるがあんなのはアメリカ人の聴くものじゃない」

「そっちもね…こっちじゃオースタスに夢中。何度、アメリカの方のフットボールをしろといても聞きやしないわ」


お互いの家庭内の話が終わると2人はほぼ同時にため息をついた。

アメリカの音楽はヨーロッパの影響を強く受けた古典的なクラシックや移民たちが持ち込んだ民俗音楽が主流であり、愛国党政権の誕生以降も外国語の使用を禁じすべて英語を使用するように改められるなどはしても基本的には変わり映えしなかった。そんな中でアメリカの音楽界に新風を吹き込んだのがハリー-パーチの43微分音階に基づいた従来の西洋的な音楽とは違う独自の音楽だった。特徴的な43微分音階のリズムや前年の43年頃からその模倣が多くなされるようになり、主に西海岸の若者の間で流行し始めていたことから"43”(フォーティー-スリー)と俗称され、リンドバーグとともにサンフランシスコに移ってきていたリンドバーグ家の長男チャールズ-オーガスタス-リンドバーグ-ジュニアも今や熱狂的な"43”(フォーティー-スリー)のファンだった。


そしてもう1つ、こちらは西海岸に限らず広く若者の間で流行していたのが、オースタスと呼ばれるフットボールの変種だった。これは元々はアジア太平洋戦線で戦っていたアメリカ陸海軍とオーストラリア連邦軍兵士たちの交流の中で生まれたものであり、アメリカン-フットボールとオーストラリアン-フットボールというそれぞれ同じフットボール起源でありながらもそれぞれの大陸で独自の発展を遂げたフットボール同士のルールの擦り合わせの結果として生まれた新球技であり、オーストラリア(Australia)合衆国(U.S)の友好の証としてオースタス(Austus)と名付けられ受け入れられていたが、アメリカ人ならばアメリカン-フットボールをやるべきという意見も強かった。


「へえ、君はそういうのにあまり五月蠅いほうじゃないと思ったけど」

「私じゃなくてジョージよ」

「なるほどね。地位のある方々は大変だ」

「あら、あなたもこれからはその仲間入りよ。何しろ人類最速の男なんだから」

「…ジョージに言っといてくれ、原稿料とインタビュー代をきっちり払うなら独占契約してもいいと」

「悪いけど、それは後日自分で言って。私は休暇を満喫しに来ただけだから」

「いや、少し伝えるだけだろう?」

「あのね、チャールズ、私は仕事をしに来たわけでも、ましてや伝言板になるためだけに来たわけでもないの」

「……悪かったよ、アメリア」

「よろしい」


イアハートと夫であるジョージ-パットナムの関係は良好そのものだったが、イアハートは夫に対し平等な関係を求めていたしパットナムもそれを認めていたため、休日のこの日にパットナムの仕事の手伝いのようなことをさせられるのはイアハートにとって不快だったし、それを感じ取ったリンドバーグが申し訳なさそうに言うとイアハートはメニューを再び見始めた。


「へぇ…結構いろいろあるのね。さすが西海岸」

「こっちは離れて結構たつけど、やっぱりまだ北部はひどいのかい」

「場所次第。今ニューヨークだと貴方でも知ってると思うけどイースト川の埋め立て事業が進んでるし都市自体の再開発だって進んでるから活気にあふれててそんなに悪くないけど、他は何処もひどいみたい。そういう意味じゃニューヨークに住んでる私たちはまだ恵まれてるのかもね。モノは溢れてるし、何より自由だってある」

「なるほどね。まぁ、公民権自体は停止が解除されたわけだし、これから北部も復興していくさ」

「そうだといいけれど…でも、思い返せば最初は困ることばかりだったわ。特に除隊直後は軍関係者用の優先配給食に慣れきってたから、色んな物の味が合わなくて」

「へぇ、例えばどんな?」

「そうね…一番最悪なのはカバ肉とホミニーのポソレね。あれを食べるぐらいなら毎食オートマット食品食べたほうがマシ」

「うわぁ…オートマット食品のほうがマシという時点で食べなくても想像がつくよ」

「今度ニューヨークに来たらごちそうするわ」

「それは…オートマット食品?、ポソレ?」

「もちろん、ポソレ」

「おいおい、もしかしてさっきのことまだ怒ってるのか、機嫌直してくれよ」


とても音の壁を突破した男のものとは思えない、情けない声をあげるリンドバーグを見ながら、イアハートは愉快そうに笑った。

リンドバーグの超音速飛行に関しては書いたと思って過去の話見てたら見事に書いてなかったので、これを機会にしたことにしときます。


ハリー-パーチが第二次世界大戦までの人物という規約的に引っ掛かりそうだったらその部分は削除します。音楽活動始めたのが30年代からなんで多分大丈夫だとは思いますが…


サンフランシスコ湾の一部やイースト川の埋め立てについては史実で計画があったので採用しました。ニューヨークに関してはいずれ別の時に書きたいと思ってはいます。

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― 新着の感想 ―
[一言] リンドバーグジュニア生きていたんですか?! 史実よりも明るいリンドバーグだと思っていたのですが。 ジュニアは大衆的に大人気でしょうね。 秘孔メガネとマントつけさせてスーパーヒーローとして空を…
[良い点] 音楽やスポーツ、都市の社会基盤などにも目配りが利いているのが本小説の魅力の一つでしょう。 人間が生きる上で文化とスポーツも欠かせないものだと思います。 ひとつの歴史的事件は他とも関わり合っ…
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