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第318話 剣を鋤に、鋤を剣に

本日、3月12日で投稿開始から4年となります。これからもよろしくお願いします。4周年記念になんか書きたいけど、何を書こうか…

1944年4月21日 オーストラリア連邦 クイーンズランド州

「計画段階ではどうなるものかと思っていたが、まさかこれだけの鋼材がすぐに届くとはな…つくづく我が祖国がアメリカと手を切ったのは間違いだったのかもしれないな」


一時期は平和主義者であったためにルーデンドルフ政権によって収監されたものの、その後獄中で"転向"したために戦後ドイツからアメリカ合衆国に政治亡命することを余儀なくされ、現在はヘンリー-ジョン-カイザー株式会社で技師として働いているヘルマン-ゼイゲルは感嘆しきった様子でそう言った。


1941年の世界大戦終結後、各地では多くの復興事業が行なわれていた。クイーンズランド州では戦争初期にイギリス軍の空爆を受けた以外は目立った戦災はなかったが、動員解除された軍人たちのために職を与える必要があり、様々な公共事業が行われていた。現在、ゼイゲルが進めている計画は元々はシドニー-ハーバー-ブリッジの設計で知られるジョン-ジョブ-クルー-ブラッドフィールドが構想したものでクイーンズランド州沿岸部の河川を内陸部まで引き込むことを目的としていたが、高温な内陸部ではすぐに干上がってしまい役に立たないという指摘を受けて一度は断念されたものだった。

そこでゼイゲルは発想を変え、太平洋からトンネルを使って海水を引き込み、水圧管で発電を行ない、その後、引き込まれた海水が蒸発することで絶えず発電できるばかりか周辺地域に雨をもたらすことで農業にも役立つという新たな計画として復活させた。


このように大規模な計画が承認されたのは大規模な工業化のための電力確保と農業用地の拡大を同時に推し進めたいというオーストラリア政府の意向だった。そのために必要な資材こそ戦時経済からの転換を目指していたアメリカ企業からの供給に頼っていたが、オーストラリアの農業及び工業分野での自立を目指す動きなのは明らかだった。こうした剣を鋤に作り変える動きは各国で見られたが、その理由は次のようなものだった。


まず第一に戦時からの復興が始まったとはいえいまだに物資不足が続いており可能な限り国内での自給が求められたこと、第二に特にヨーロッパ地域では保守党および自由党が戦後計画として打ち出していたイギリス資本中心とした大規模な復興のための投資計画が労働党政権によって認められず、大英帝国及びその勢力圏以外の諸国は自力での復興を強いられたこと、そして第三に大西洋および太平洋、そして南米大陸で勢力圏を接する大協商とアメリカ合衆国との関係が不透明であり、いつ次の大戦が始まってもおかしくないという危機感を共有していたこと、そして、第四にそうした危機感こそあれど戦時中の遺恨により各陣営内では不和が生じていたからだった。


最後に関してはアメリカの力が圧倒的なかつての連携国陣営の残党である極東やオーストラリアに関してはまだ良かったが、大協商内部でのイギリスとフランスの対立は緩やかにであるが、確実に深まっていった。1943年のセント-ジェームズ会談以降のイギリス優位に不満を持ったフランス共和国はヨーロッパ各国の連携を謳いながらフランス石油の独占するガワール油田からの石油供給を餌に周辺各国への取り込みを図ったが、ヨーロッパ各国ではそうしたイギリスおよびフランスが主導する石油資源から脱却しようという動きが少しずつ進められていた。例えば、イタリア王国ではシルヴィオ-マリア-ジュゼッペ-フランチェスコ-ガイが主導して北イタリアでのメタンガスの抽出と暖房用燃料としての利用が推進された。また、スペイン王国ではフランス国内でTPVとの競争に敗れたポール-アルザン設計の電気自動車がカタルーニャ地方バルセロナに拠点を置く自動車会社によって製造され、主に都市部でそれなりに普及した。隣国ポルトガル王国でも同様であり、電気自動車は戦後のスペイン及びポルトガルの経済発展であるイベリアの奇跡の象徴となった。


こうした各国の自給的体制を構築しようとする動きを後のスウェーデン王国の歴史学者は自国の政治家、地政学者であるヨハン-ルドルフ-チェーレンの言葉を借りて自給経済(アウタルキー)への衝動と評した。一方でこうした自給経済(アウタルキー)への衝動はアジアではまた違った展開を見せた。フランスの同盟国である大日本帝国ではアジア主義を標榜しつつ、ヨーロッパに依存しない経済秩序を作り上げようと試みた。これは、主に軍需を除けば軽工業を中心とする日本の産業界と清国の産業界とは競合関係であったことから連携は失敗したが、こうした日清両国の動きは政治的分裂こそ決定的なものとなっていたが、経済的には着実に成長していたインド地域の警戒を招くことになり、のちにはインド地域の複雑な政治事情もあって衝突の火種となるのだが、それはまだ先の話だった。


1944年5月10日 ロシア帝国 トボリスク県 トボリスク ククリン邸

トボリスクはシベリアでは歴史の古い町だったが、その時代の移り変わりとともに重要性は薄れていき、特にシベリア鉄道の主要幹線から外れたことにより、基本的に復興計画が鉄道沿いに行なわれていたことにより、衰退はさらに顕著となり、街の希望は1年ほど前に建設された"化学兵器関連施設"による雇用のみだった。そんな、トボリスクにある旧シベリア総督府公邸であり現在では"化学兵器関連施設"を訪れる要人の接待に使われているククリン邸では皇帝アレクセイ2世が"化学兵器関連施設"に勤める"物理学者"であるゲオルギー-アントノヴィチ-ガモフから説明を受けていた。


「そうか。では、すべて順調なのだな」

「はい、陛下。実証試験のための用地ですが」

「いや、試験はしない。イギリス人に勘付かれたくはないからな」

「ですがそれでは…」

「別に爆発しなくても、ベルンのようになるのだろう?であれば構わん」

「いえ、最悪は鹵獲される恐れも…」

「…やむを得んな。どこか適当な用地を探すほかない…か」


アレクセイ2世は鹵獲と聞いて顔色を変えると、渋々ながら実証試験のための用地を探すことに同意した。トボリスクにある"化学兵器関連施設"で研究されていたのは化学兵器ではなく1925年に発見された核分裂反応を利用した新兵器、即ちウラニウム爆弾、アメリカでは退役軍人で現在は作家として活躍しているハワード-フィリップス-ラヴクラフトによるセンセーショナルな宇宙爆弾(コズミックボム)という表現のほうが知られていた兵器だった。


もっとも、ロシア以外では兵器としての利用については予備的な研究にとどまるか全く研究されていおらず、そうした核分裂反応のもう一つの利用法、ウラニウム鉱石を利用する新機関の研究開発が進められていた。これには各国の政治的及び軍事的な理由があった。


まず、政治的理由として各国が国土の復興と将来における機能分散化または地下化、あるいはその両方を推進していたからだった。例外としてはイギリスがあったがこちらはイギリス宇宙飛行研究協会が考案した宇宙生息地構想を基とした軌道疎開構想のための宇宙開発計画の実施を急いでいたためであり、各国で爆弾としてではなく機関としての利用が優先されていたのは、このように地下空間あるいは宇宙空間での動力源として必要とされていたことがあげられた。


また、軍事的な理由としては社会主義ドイツにとどめを刺したのがベジタリアン作戦による炭疽菌による農地の汚染による飢餓であったから、フランスなどでは仮想敵国の食糧生産を断つことを念頭にコロラドハムシのような農業害虫や小麦葉さび病菌の改良、培養がひそかに進められ、将来予想される飢餓戦争に備えていた。イギリスではそうした試みに加えて、バーンズ-ウォリス発案の高高度からの大重量爆弾の投下によって地下壕を無力化しようとした地震爆弾の構想を発展させ、軌道上からの攻撃によって他国が構築しつつある地下構造物を粉砕し、そのうえで化学、あるいは生物兵器を使用することを考えていた。一連の計画は新約聖書の天から落ちた星にちなんでワームウッド計画と名付けられ、その研究の副産物として運動エネルギーを利用した兵器にも注目が集まることになる。


このように主に人類の未来を耕す鋤としての役割が各国で期待されていた核分裂反応だったが、ロシアでは違った。アレクセイ2世は強烈な反共主義者であり、核分裂反応に鋤としてではなく社会主義者をこの世から一掃するための剣としての役割を期待していたのだった。ロシア各地やロシアと同君連合となっていたボヘミアのウラン鉱山からは鉄鉱石や銀鉱石と偽装されたウラン鉱石が大量に採掘にされ、ガモフのようなロシアの誇る頭脳によって実験に生かされていた。


しかし、各国はロシアのこうした動きに関しては無関心だった。ありえないこととされていたのもあったが、一番の要因は人類初の世界大戦である第一次世界大戦で唯一手を挙げてしまった国と蔑まれて以来、各国ではどこかロシアあるいはロシア人について軽んじる風潮があったからだった。最初のうちは化学兵器開発にしては多すぎる予算について疑問視する声もあったが、開発計画に関連した汚職によって逮捕または告発されることが相次ぐにしたがって腐敗と不正蓄財のためのものだと認識されるようになり、そうした声も少なくなっていった。


各国がそれらがすべて間違いであったと知るのはまだ先のことだった。

ヘルマン-セルゲルの表記をゼイゲルに修正しました。


ゼイゲルの計画の元ネタは作中で書いたブラッドフィールドの計画のほかにも一つあり、それが史実でエジプトで行なわれるはずだったカッターラ低地の灌漑計画です。


カッターラ低地の灌漑計画の立案者だったフリードリヒ-バッスラーは大戦中にDAKに従軍していた経歴があるので出しても問題はないかとも思いましたが一応、本格的に活躍し始めたのが戦後なのでゼイゲルにしました。


アウタルキーは本来、自給経済ではなく閉鎖経済と訳すのが正しいのですが、本作ではあえて自給経済と訳しました。可能な限り自給したいのであって、別に完璧に閉鎖したいわけじゃないし…


コズミックボムは史実ではごく短期間の間だけ原爆の別称として使われていた単語で、史実では45年ごろが初出らしいのですが、ラヴクラフトが発案者ということにしてちょっと早めに採用しました。本当にマイナーな言葉らしく普通に調べると馬のほうしか出てこない…まぁ、馬のほうが偉大過ぎるのもあるんでしょうが

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