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第283話 偽物と本物

1940年10月21日 ベルギー王国 テッセンデルロー郊外

「だから、俺は言ってやったんだよ。あんた等はワイパーを解放したって喜んでるらしいがそりゃ何処のことだ?ってな。そん時のイギリス人の顔ときたら…」

「おいその話は聞き飽きたぞ」

「しょうがねぇだろ、もうネタ切れなんだから」


イギリス人がフランス語をうまく発音できない事をネタに陣地内でフランス兵たちが談笑していると、戦車のエンジン音と履帯の音が聞こえてきた。誰何すると、ロシア帝国陸軍フランス派遣軍所属であるとの答えが返ってきた。アレクサンドル-イリイッチ-エゴロフ大将率いるロシア帝国陸軍フランス派遣軍はロシア軍の中から抽出されて、西部戦線に派遣された部隊でその精強さはよく知られており、フランス派遣軍という名称にもかかわらず大協商の各地に派遣されており、現在はアントワープ解放ののちにベルギーに駐留していたのだった。


たしかによく見ると戦車は多くが消耗してイギリスあるいはフランス製に更新された装備の中で、ロシア人が全幅の信頼を置いていまだに使っているアレクセイ-ミハイロヴィチ-スリン技師、アレクサンドル-アレクサンドロヴィチ-モロゾフ技師そして、ウクライナ出身者ながらハリコフ機関者工場でのモロゾフの後輩だったため抜擢されたミコラ-オレクシジョヴィチ-クチェレンコ技師の3人が共同設計した戦車、SMKだったがどことなく違和感を感じるものだった。戦車に続いて現れた歩兵部隊の装備がやけに旧式だったり、ドイツ製のものが多かったのも気になった。


(パッと見ただけなら本物だ。だが、なんだこの違和感は…しかし、それだけで足止めするのはあまりにも…)

「はやくしてくれないか、司令部より移動の命令を受けている」


戦車より上半身を出した顔に傷のある"ロシア人指揮官"が苛立ち隠さずにロシア訛りのフランス語でそう言った。結局フランス兵たちは、この部隊に関しては司令部に対しての報告を行なわず、そのまま通過させることにした。


『手間をかけさせやがって…前進』


"ロシア人指揮官"は何かをロシア語で吐き捨ててから号令をし、車列を前進させた。


「上手くいくものだな。意外に」


しばらくして戦車の中で"ロシア人指揮官"ことドイツ人民空軍降下猟兵による特殊作戦の指揮官であるオットー-スコルツェニーは驚きとともに湧き上がってくる喜びの感情を抑えきれずににやりと笑った。


この特殊作戦の目標はラインの守り作戦における大協商軍の後方攪乱であり、そのため兵員に降下猟兵以外にもドイツ本土に住むスラヴ系少数民族であるソルブ人やカルパトウクライナに住むウクライナ人を加え、さらにその全員にロシア語を習得させるなど徹底したものになった。作戦を実施するのが降下猟兵なのはドイツ人民軍があまりにも投機的すぎると実施を拒否する一方で、ベジタリアン作戦によるドイツ本土への相次ぐ化学攻撃によって日を追うごとにルーデンドルフの信を失っていると考えた人民空軍司令であるヘルマン-ゲーリングがこの作戦に飛びついたからだった。

もちろん装備もそのために用意するように命じられていたのだが、元々装備が不足しがちな降下猟兵では本物のフランス派遣軍が装備しているような新型のロシア、イギリス、フランス装備など用意できるはずもなく、ドイツ人民軍が鹵獲した装備は人民軍の部隊や主にバルト海沿岸地域のドイツ人やロシア人とポーランド人によって理不尽に領土を分割されたリトアニア、ラトビア、エストニアなどの諸民族から構成された補助部隊である『人民の嵐』に回されていたため入手できるはずもなく、全体としての印象はややちぐはぐなものとなっていた。


だが、そうした不安要素にもかかわらずスコルツェニー率いる部隊は後方への浸透に成功し、戦争における最終作戦について協議するためメヘレン(ドイツ支配下より解放されたとはいえアントワープは瓦礫の山であり、メヘレンのほうが被害が軽微だった)に開催されていた大協商戦争指導連絡会議の襲撃に成功したのだった。


1940年10月23日 ベルギー王国 メヘレン オーストリア大公女マルグレット宮殿

「クソ、よりにもよって俺たちの名を騙りやがって…お前たちドイツ野郎を生きて返すな」


本物のフランス派遣軍所属であるゲオルギー-コンスタンティノヴィチ-ジューコフは兵士たちに向かって怒鳴った。


当初は錯乱したロシア兵による発砲事件という報告だったが、それが部隊単位の襲撃であるとの報告にかわると偽装したドイツ軍部隊による襲撃であると確信し、そうであればこそロシア軍の手で始末すべきと主張した上官であるアレクサンドル-ミハイロヴィチ-ヴァシレフスキーに従ってジューコフは出撃していたが、つい先ごろ目の前でヴァシレフスキーが吹き飛ばされたことで完全に理性を失っていた。


だが、いくらジューコフが怒っても、相手も相当の手練れであり容易に倒すことはできなかった。


(エゴロフ閣下が招いたこととはいえ…無事でいてくれればよいが)


ジューコフはヴァシレフスキーがドイツ軍の特殊作戦を恐れて警備の強化を進言した際に、エゴロフがそれを却下したことを知っていた。冷静に考えれば最高司令部の襲撃よりも補給基地等への襲撃のほうが確実な作戦であるし、そもそも、ドイツ軍がラインの守り作戦という()()()()()()を行なわざるを得ないほど、追い詰められている現状ではそうした特殊作戦の実行すら怪しいと考えていたエゴロフはヴァシレフスキーの警備強化案を一笑に付し、各地の補給基地などに分散するように命じた。スコルツェニーたちが移動できた背景にはエゴロフの命令によって部隊単位の移動でもさして怪しまれることがなかったからだった。


しかし、エゴロフがあり得ないといっていたことは現実で起きたのだった。

宮殿に突入されるまで、誰も気が付かなかったことは大協商の緩みをそのまま示していたようなものだったが、この襲撃でエゴロフは比較的軽症で助け出されたものの、イギリス軍のジョン-グリア-ディル大将やフランス軍のアルフォンス-ジョセフ-ジョルジュ上級大将など多くが戦死し、大協商はその頭脳を失い、ドイツ軍はその隙を見逃さずに大攻勢を開始したのだった。

スリン技師は史実では白軍に加わった後、チェコに亡命してCKDでLT-38などを設計した人物です。


コーシュキン技師だけ仲間はずれなのは史実で彼が菓子工場のエンジニアから機械工学を学んで戦車技師に転身できたのはセルゲイ-キーロフの知遇を得たからなので、作中世界では戦車設計者として名を残すことはなさそうですが長生きはできそう。

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