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第270話 第2次世界大戦<11>

1939年10月10日、この日、イギリス領であるニューファンドランド植民地にある小さな漁港であるプラセンティアにアメリカ海軍の戦艦であるメリーランドが数隻の駆逐艦とともに現れたが、数日前よりプラセンティアに停泊していたイギリス、フランス、ベルギー、イタリア、スペイン王国、ポルトガル王国、ブラジル合衆国、チリ共和国、パタゴニア執政府の艦艇は攻撃しようとしなかった。それも当然だった、なぜなら、その後、このプラセンティアに集まった各国の代表はドイツ自由社会主義共和国とともに提携国陣営で主導的地位を担っているアメリカ合衆国との休戦交渉に署名する予定だったからだった。


この日のプラセンティアで開かれた、一般的にはマスメディア等で報じられた大西洋休戦交渉という名のほうが有名なアメリカ合衆国との休戦交渉にはシベリアから太平洋地域にまで広がる東亜太平洋戦線の主役であるロシア帝国、大清帝国、大日本帝国は未参加であった。


これに関してはアメリカの同盟国である極東社会主義共和国も同様であり、要するに建国以来不倶戴天の敵である極東とロシア、そして現在、満州蒙古地域と樺太にてそれぞれ交戦中の日本と清国は現段階での講和を拒否していたのだった。


しかし、リヨンでの戦闘こそ少しずつ自らの優位に進んでいるもののロンドン、パリ及びその周辺の工業地帯に対する空爆が激化しているイギリス、フランス両国をはじめとする欧州諸国には"アジア"の同盟国の心変わりを待っている余裕などなかった。


一方のアメリカにしてもそこまでの余裕はなかった。正確には余裕がないのはアメリカという国家ではなく、ウィリアム-ランドルフ-ハースト率いる愛国党政権のほうだったのだが。


ハースト政権としては例え同盟国を見捨てたと批判されようとも、国内の混乱を収束することを優先すべきであり、またそもそも、その混乱の原因が中立国でありアメリカの資産も多数存在していたスイスへの攻撃にあるのだから、むしろ戦っている背後から致命的な一刺しを与えた国家であるドイツを見捨てても問題はないのではないかと考えていた。


こうした各国の思惑もあって、驚くべき速さで条件がまとめられていった。


まず、北アメリカではおおむねアメリカの主張が認められ、カナダ及びニューファンドランド植民地そしてフランス領のサン-ピエール島とミクロン島がアメリカの占領下におかれることとなり、また、ケベックをはじめとするフランス系住民の追放についても定められた。

加えてアメリカの同盟国であるリーフ共和国がムルヤ川から中アトラス山脈、ウムエルビア川を通って大西洋に至るまでの拡大を認めるのと引き換えに、モロッコ王国臨時政府を称するモロッコでの独立運動家たちへの支援の永久的な中止と、"ベルベル系住民"のリーフ共和国への追放が含まれていた。


また拡大を認められたのはリーフだけでなくリベリア共和国もそうだった。リベリアに関してはフランス領ギニアのうち森林ギニアとコゴン川以東の沿岸ギニア、バンダマ川の以西の象牙海岸、それにイギリス領シエラレオネをそれぞれリベリアに対して割譲した。リベリアの領土拡大についてはアメリカ国内のみならず、占領下にあるカリブ海の島々からも黒人たちの多くをリベリアに追放することにより完全なる人種分離を成し遂げることを計画しており、そのためには既存のリベリア領土だけでは黒人たちを押し込める土地が足りないのは明白だった。イギリス及びフランス植民地の住民については、追放され、そののちは宗主国である両国が責任を持つとされたが、その分を差し引いてもまだ足りないとされていた。


会議に参加していなかったいくつかの国家においても、国境線に変化があり、アメリカの影響力の強かったオランダ王国はブーゲンヴィル島の領有を正式に認められたほか、カリブ海のセント-マーティン島のサン-マルタン植民地を割譲されている。


また、ポルトガル共和国はカーボベルデ諸島とアゾレス諸島、マデイラ諸島がアメリカ領とされ、ポルトガル領ギニアに関しては沿岸ギニアを失う、フランス領ギニアに与えられる新たな海への出口として割譲されることとなり、完全に消滅した。


オセアニアではオーストラリアとオーラリアがいまだに激しい戦いを続けていたが、そのどちらも今回の交渉には招かれていなかった。そして、戦い続ける彼らの頭越しに現状多くがオーストラリア軍の占領下にあるキンバリー地域を除く、西オーストラリア州をオーラリアの領域として承認することが定められてしまった。


最も難航したのが残った太平洋地域と南米だった。

アメリカ側はフィリピンの完全な返還を求めると同時に占領下にあるコロンビア、エクアドル政府の解体とペルー共和国からの撤退を要求し、それに対して、大協商としてはフィリピンからの撤退は受け入れられないと拒絶した。


在フィリピンアメリカ陸海軍の存在とそこを根拠地とした戦略爆撃によってオーラリアに対する援助が難航したことはイギリス政府の記憶に新しく、この交渉は完全な平和ではなくあくまでも休戦を目的したものにすぎない以上、自ら弱みを作り出したくはなかった。結果として、フィリピンを維持する代償としてイギリスは当初は亡命政権として存在が認められるはずであったニュージーランド植民地政府の完全解体と撤退する方向で調整されていた在オーストラリアアメリカ陸海軍を縮小の上で維持することをを認めさせられた。


南米では結局、コロンビア、エクアドル両亡命政府に関してはイギリスとフランスはこれを認めないがその他の国は国ごとの判断に任せるとされ、また、ペルーはクスコを首都とする南ペルー共和国とリマを首都とする北ペルー共和国に分割されて、ペルー-ボリビア連合以来100年ぶりにペルーは南北に分かれた国家となった。南ペルーの首都がかつてのタクナではないのはタクナが太平洋戦争の敗戦によりチリに割譲されていたからだった。


こうして、後年、大西洋休戦協定と呼ばれる協定が調印され、少なくとも大西洋と南米地域、オセアニア地域では戦火はおさまることになった。


しかし、それは休戦交渉が失敗するであろうと考えて、継戦を訴え続けていた極東、ロシア、清国、日本、そして休戦交渉そのものから排除されていたドイツに大きな衝撃を与えることになったのだった。

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