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第265話 勝利の誓い

1939年1月9日 ドイツ自由社会主義共和国 ベルリン

「では、アメリカ人は戦争から手を引くつもりだと?」

「あくまでも、そのような意見が出始めている、という程度ですが…」

「例の陰謀論のせいかね?だが、あのような風説がそこまでの影響を与えるとはにわかには信じられんな」


側近であるグレゴール-シュトラッサーの言葉にドイツの事実上の支配者であるエーリヒ-ルーデンドルフは冗談でも聞いたかのように半分笑いながら首を横に振ったが、シュトラッサーは真剣だった。

ルーデンドルフの言う陰謀論とは最近アメリカ国内でささやかれているもので、愛国党は中間選挙に勝利するためにフィリピンでの敗北を隠蔽した、というものだった。これはアメリカ陸海軍の司令部がフィリピンを脱出したのは中間選挙選挙日だったが、伝えられたのはその翌日になってからだったことが影響しており、そのことから、愛国党に反発する国民党が故意に隠蔽が行われたと主張していたのだった。そのことはルーデンドルフにも報告はされていたが、アルゼンチンやペルーでは押されているとはいえ、全体的に見ればまだ優勢な戦争を捨てるという考えはルーデンドルフには理解不能だった。


「同志ルーデンドルフ、アメリカは戦時体制の移行に伴い統制が強まっているとはいっても所詮は民主国家であり我々のような秩序だった体制の構築が難しいのです」

「しかし、同志シュトラッサー、このままアメリカの離脱を認めれば我が国は経済的に立ち行かなくなる」

「軍事的にもまずいぞ、同志カレツキ。連中が相手をしているのは東洋人のような二線級だが、数だけで言えばかなりの脅威だ」

「お二人の懸念はもっともです。ですが、アメリカの離脱を防ぐためには彼らの意思を変える必要がある。それもホワイトハウスの中だけではなく、国民全体の意思をです。そのようなことが果たして我々にできるのですか」


戦時経済全体を担当するミハウ-カレツキと内戦時の英雄であり、空軍司令となったヘルマン-ゲーリングがシュトラッサーの言葉に反発するも、シュトラッサーの返答に対して二人、特に軍人であるゲーリングは渋い顔をするのみであった。現状が行き詰まっているということは二人とて分かっていたからだった。二人が言葉に詰まったのを見て会議室内では議論が始まった。


「アラリック作戦を実行に移すのはどうか」

「この真冬のアルプスを越えさせる気かね。冗談じゃない。冬季戦装備は全部ロシア行きなんだぞ」

「そもそも、ポーランド人がペテルブルクにこだわったのがまずかったんじゃないのか」

「開戦以来パリ陥落を夢見て屍の山を築いているドイツ人に言われたくはない。確かに我々は成果を出した、おかげでロシア人は釘付けだ」

「ロシア人相手の"軍事演習"と一緒にされては心外だな。一度本物の戦争をしてみてはどうかね」

「少し、いいですかな」


騒がしくなり始めた会議室の中に落ち着き払った声が響いた。


「何かな、同志ロンメル」

「私もアルプス越えには賛成ですが、できれば西を目指すべきだと考えます」

「タンネンバウム作戦か」


発言者は、こちらも革命時の英雄であったエルヴィン-ヨハネス-オイゲン-ロンメルだった。開戦直後にはベルギー軍の包囲殲滅などで戦果を挙げた。一方でセダンの戦いでは功を焦って突出した結果、そこを大協商軍に突かれるなどミスも多かったが、それでも国民的人気は非常に高いこともあって、いまだに大きな発言権を持っていた。


「同志ロンメル、スイスが堅固な要塞地帯であるということを知らぬわけではなかろう」

「要塞に関してはウクライナのような化学戦で対応すれば良いのでは?」

「そううまくいくかね。彼らだってそれなりの備えはしているだろう」

「ええ、それなりの備えはしているはずです。しかし、それは我々がスイスを利用しようとしているという考えに基づくものであって、それを粉砕しようとしていることを前提としたものではないはずです」

「つまり、工業地帯としての利用はあきらめて、ただの突破口とするための侵攻作戦ということか」

「待ってくれ、同志ロンメル」


ルーデンドルフに対し、淡々とスイス侵攻作戦を語るロンメルに対して、カレツキが悲鳴のような声を上げた。


「失礼だが、同志はかの地の経済的重要性について理解しているのか」

「ええ、もちろん」

「いや、わかっていない。あそこにはイギリスやフランスだけでなくアメリカの資金が流入しているのだぞ。それを保証する中立国という存在を消すつもりなのか」

「何も焦ることはないさ、同志。我々が新たに保証すればいい。勝利者となって、ね」

「そういうことでは…」

「同志ロンメル、見事な作戦だがそのままというわけにはいかんな。いくらか修正の必要がある。…それから、同志カレツキ、君の意見は十分に分かった。退出したまえ」

「同志ルーデンドルフ、ですが、これは…」

「退出するんだ。もう疲れただろう」


ルーデンドルフの威圧的な言葉にカレツキは退出するしかなかった。


「さて、ここまでの諸君の意見を検討した結果だが、私としては同志ロンメルの案を修正したうえで採用したいと思う。確かに先ほどの同志カレツキの反対意見にも一理あるのは確かだ。しかし、我々の使命は何か、それは悪辣で旧弊なる帝国主義者を打ち倒し、この世界に新秩序を築き上げることである。タンネンバウム作戦の成功とその後のパリ解放は、同盟国アメリカの大衆を奮い立たせ、イギリス、フランス、スペインといった敵対諸国の労働者の抵抗運動の狼煙となるだろう。勝利万歳(ジークハイル)

勝利万歳(ジークハイル)


ルーデンドルフの言葉を聞き終えたすべてのものはシュヴーアハント、と呼ばれる人差し指と中指、親指を立てる独特の敬礼でそれに答えた。もともとはローマ教皇に仕えていたスイス傭兵が行なっていた忠誠を誓う儀式が起源のものだったが、リープクネヒト時代に宣誓の証として行われていた体制への反抗を意味する拳を突き上げる敬礼を嫌ったルーデンドルフは元々は三位一体を意味していたシュヴーアハントを祖国と人民、そして社会主義の勝利に対する宣誓ということにして強引に復活させていたのだった。


それを見てルーデンドルフは満足そうに微笑んでいた。

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