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第23話 派兵要請

1907年9月20日 フランス共和国 パリ

深夜にもかかわらず議論が続けられていた。議題は仏領インドシナで武装蜂起した新黒旗軍への対処だった。


「それで、清国政府はなんと」

「今回の件は一部反乱勢力の独断であり、清国政府として一切責任は負う立場にはない。ただし必要ならば鎮圧の手助けをすると」

「それで済むと思っているのか連中は。我々がドイツ人と戦っている間に後ろから刺してきたんだぞ」

「しかし、インドシナ総督府からはサイゴン周辺の他、フエをはじめとする主要都市、ダナンなどの港湾を除けば騒乱状態だと」

「だが、ここで清国軍を引き入れてみろ、彼らはそのままベトナムをかつての様に保護国とするかもしれん。いや、むしろそれが狙いだったのでは」


実際のところ清国政府にそう言った思惑は一切ないのだが、かつてベトナムを巡って戦った間柄であるため疑心暗鬼になるのも仕方がなかったともいえる。


「まだ、手はあります。友好国を頼るのです」


それまで、議論を聞いていた外務大臣テオフィル-デルカッセが言った。


「同盟国だと、ロシアに清国への圧力をかけてもらうのかね、それとも正式に同盟関係という訳ではないが、イギリス辺りに頼んで派兵を」

「日本ですよ」


デルカッセの言った日本という、予想外の国名に誰もが驚愕した。


「気は確かかね。東洋人の反乱鎮圧を東洋人に要請してみろ、我がフランスは自力で反乱鎮圧も出来ぬ国だと笑いものになるだけだ」

「ですが、形式上は我がフランスとかの国は同盟こそ結んではいないものの準同盟国ともいえる関係です。それに清国と違ってインドシナへの野心も乏しい」

「だがなぁ…」


あくまでも渋り続ける高官たちを前にデルカッセが次の言葉を紡ごうとしたとき、慌ただしく扉が開いた。


「報告します。ハノイが反乱軍によって陥落させられた模様」


翌日、フランス政府は大日本帝国に対し仏領インドシナへの治安回復のための派兵を要請した。


1907年9月22日 大日本帝国 東京

東京では派兵の是非をめぐる閣議が開かれていた。


「やはりフランスとの関係を考えれば派兵するべきかと、今回に関してはイギリス他の周辺国も好意的ですし、清国も表立っての妨害は出来ないと思います」

「陸軍としては、政府には慎重な決断をしていただきたいと考える次第です」

「海軍としても陸軍の意見に同意します」

「それは、派兵をやめろという事ですか、あなた方は用も無い時には派兵して、肝心な時には兵を出せないという事か」


2度目の外務大臣となる星亨の言葉に対して、陸軍大臣の桂太郎が控えめに反論し、海軍大臣の山本権兵衛も同意すると、星は怒りを露わにしながら反論した。第二次台湾出兵の際に各国からの抗議の対応にあたらされたのを相当根に持っているようだった。


「陛下の赤子を異国の地にて死なせるのは私とて心苦しいが、これも日本のため、どうか涙を呑んで征ってもらいたい」


内閣総理大臣の伊藤博文がそう言った。


日本政府はフランス政府の要請に従ってインドシナに軍を派遣する事にしたのだった。


1907年11月1日、大日本帝国陸海軍はインドシナへの派兵を開始。戦艦敷島を中心とした仏印派遣艦隊からの艦砲射撃と共に日本軍はベトナム北部ハイフォンに上陸した。

土匪を中心とした数合わせの部隊はすぐに敗走したが、新黒旗軍の主力である旧黒旗軍を中心とした部隊は手ごわく、日本側にも多くの死傷者が出たが、結局は近代兵器で武装し、統制のとれた日本軍が勝利した。戦の要諦が火力にあるという事が証明されたのだった。

こうして、ベトナム北部を占領され、清国との連絡を絶たれた新黒旗軍は、その後ゲリラ戦に転じ、およそ5年という長い時間をかけて徐々に壊滅していくことになる。


一方、日本軍の予想以上の善戦はフランスの他、各国で報じられ日本という国の見方を変える事になる。

そうして、世界から思わぬ称賛を受けた大日本帝国だったが、一度実力を知ったフランスが放っておくはずはなかった。なにしろ彼らは戦争中なのだから。


様々な外交的アプローチがなされたのちに、1908年1月10日、御前会議にて大日本帝国はドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国に対し宣戦を決定。


こうして、なし崩し的に日本軍は欧州というあらたな戦場で戦う事になるのだった

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