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第20話 巨鯨撃墜

1907年7月14日 フランス 上空

青空が広がるフランスの空を金属の外皮に覆われた巨大な鯨とでも言うべき物体が飛んでいた。

この物体こそパリに対する爆撃によってパリ市民を恐怖に陥れた、ドイツ帝国の誇るツェッペリン飛行船だった。


だが、そのドイツの力の象徴ともいえる空飛ぶ巨鯨に挑もうとする命知らず達がいることをドイツ軍は知らなかった。


「おい、兵隊さん見えたか」

「いやぁ、まだ何も見えませんね」

「ちゃんと見つけてくれよな。2000フランだぞ、2000フラン」


空の上で呑気な会話をしている人間たちがいた。1人は操縦士であるルイ-ブレリオだった。自ら設計したブレリオⅦを改造し、復座機体としてツェッペリン撃墜を狙っていた。

先ほどから会話しているのはフランス陸軍の気球部隊から派遣されてきた兵士だった。

後に登場する戦闘機のように機銃の搭載などは望むべくもないので、彼のような兵士が索敵と攻撃の双方をこなすのだった。ブレリオがこの日のために特別な機体で挑んだ様に、この兵士も特別な武装を軍から支給されていた。ロシニョール自動小銃。後のリュングマン方式と同様のガス圧作動方式を採用した世界初の小銃だった。


「あ、何か見えます」

「おっ居たかな…ってあれは…ラタムの野郎か。お前に渡す2000フランは無いからな」


大声で怒鳴るブレリオを見ながら、兵士は、そんなに怒鳴ったところで聞こえてるわけがないだろうと思ったが、更に怒らせて操縦が疎かになっても困るので黙っていようと心の中で思ったのだった。

ちなみにブレリオが先ほどから騒いでいる2000フランとはツェッペリンにかけられた懸賞金の額である。



「何言ってるか分かんねえよ」


ユベール-ラタムは、騒いでいるらしいブレリオを見つけるなりそう言った。彼もまた自作の機体でツェッペリン狩りに挑む事を決意した飛行家だった。


「こちらが先に見つけられれば楽なのですがね。旦那」


もはや、機内に収まりきっていない長物を持った男がそう言った。彼の持つ長物は象撃ち銃と呼ばれる、その名の通り象を仕留めるための巨大な銃であり、これならば金属外皮を持つツェッペリンにも効果があるだろうと思い、それを扱うハンターともども雇い入れたのだった。


大空を悠然と進む巨大な金属の塊を見つけたのは、両者ほぼ同時だった。


ツェッペリンには後の爆撃機のように高度な照準器などは無く、爆弾を落とすといっても地図とゴンドラから見える地形を照合し、目標と思しき場所を見つけたら勘で投下する、というものだった。

そのため爆撃前には高度を落とす必要があり、ツェッペリンは徐々に高度を下げている最中にブレリオとラタムに見つかってしまったのだった。


ブレリオが飛行船に機体を近づけると兵士はゴンドラに向かって自動小銃を撃ち始めた。


「なんで、発砲をやめるんだ」

「弾詰まりです」

「畜生」


ロシニョール自動小銃は元々6mm短縮弾を前提に作られていたのだが、フランス軍はそれを8㎜ルベル弾に改設計したものを渡していたのだった。

当然、8㎜ルベル弾の発砲など考えてもいないロシニョール自動小銃では故障が頻発した。

空対空戦闘など想定していなかったツェッペリンはいきなり、近づいて銃撃してきたブレリオの機体によって混乱していたが、銃撃を受けてからは拳銃など最低限の武装で応戦してきた。


「ブレリオに負けるな。さっさと当てろ」

「こんなに揺れる中で撃ったことないですよ。旦那」

一方、ラタムはより遠距離から撃てるという象撃ち銃の利点を活かしツェッペリンの気嚢を狙って発砲させていたが、空中という慣れない環境故か中々命中弾を得る事ができなかった。

しかし、ツェッペリンは2人の機体の攻撃が功を奏したのか徐々に高度を落とし始めた。


「よし、このままいくぞ、ラタムに負けるな」

「落とすのは俺だ。ブレリオ、お前は引っ込んでろ」


2人が追撃に移ろうとしたその時、地上から放たれた一発の砲弾によってツェッペリンは撃墜されてしまった。

2人の獲物を横取りしたのはパリ空襲を受けて、フランス軍が急いで配備していたM1897 75mm野砲を改造した即席対空砲だった。


こうして、2人の2000フランの夢は1発の砲弾によって燃え尽きてしまったのだった。

しかし、この日の戦闘は世界初の戦闘機による防空戦闘として歴史に記録される事になった。




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