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第194話 憂鬱と苦笑い

1921年5月1日 ザバイカル-ハン国 チタ

ザバイカル地方の中心都市であるチタはヤクーツクやネルチンスクなどの原型となった砦を築いたコサックであるピョートル-イワノビッチ-ベケトフが1653年に築いた砦を元に発展した都市だったが、ヤクーツクが社会革命党ウラジオストク支部とウクライナ人が中止となって成立させた極東革命政府の支配下にあるのに対しネルチンスクとチタはザバイカルコサックそれにブリヤート人が反乱を起こした結果成立したザバイカル-ハン国の支配下にあり、とくにチタはその首都であった。


「ペトログラードの連中はウクライナへと兵を進めたらしいが、我らなど眼中にないという事か」

「まあ、そう言うな。こっちに向かってくる連中を減らせて良いじゃないか、そうだろう?()()()?」

「まあ目下の問題はそっちだな…おい、ダライ-ラマと南京の皇帝はいつになったら私をハーンとして認めるのだ。私を源義経の転生者として承認したではないか」

「何しろ国内はメキシコ風邪の流行が収まっておらず未だ混乱状態にありますし、…加えて言えば未だ南京の連中はハーンの実力を疑っている節があります。今しばらくの辛抱が必要かと」


酒に酔いながらグリゴリー-ミハイロヴィチ-セミョーノフとにこやかに歓談していたロマン-フョードロヴィッチ-フォン-ウンゲルン-シュテルンベルクは近くにいた東洋人に対して怒りをあらわにしたが、東洋人はそれをあっさりと受け流して理由を説明した。

ザバイカル-ハン国を自称していたこの国家の支配者を正式にハーンと認めていた人物は支援者である大清帝国を含めて誰もおらず、そのためウンゲルンはそのたびに承認を求めていたのだが、その回答は否定的なものばかりだった。あえて、いうならばウンゲルンがチンギス-ハーンの生まれ変わりと称した事に対して、敵であるロシア帝国側が兵士たちを鼓舞するために、あえてウンゲルンの事をそうだと認めたのが唯一の例だと言えたがそれですら正式な承認とは言えなかった。


「ほう、この私の実力を疑うとは…かつて自分たちが誰に征服されたのか忘れたのか?」

「まさか、そのような事は無いでしょう」

(まったく、この狂人め。誰がお前などを認めるものか)


東洋人、張作霖は表向きはあくまでもにこやかにウンゲルンの言葉を聞きながらも、内心ではウンゲルンの事を狂人として罵っていた。張作霖からすればウンゲルンの言動は狂人そのものだったからだ。


「まあまあ、ハーン、それよりもまた漢陽より武器が来ました」

「…その忠誠心だけは認めてやろう」


そういうと、ウンゲルンは張作霖に退出を命じた。


「まったく、話を合わせるのも楽ではないな。吸うかね?」

「いただきます」

「で、今回は何が来たんだ。いい加減、型落ち品の88式では辛いぞ」

「は、それがなんと初の国産自動小銃だそうで…」

「…なるほど、どうせ泥やら何やらで動かなくなるものを押し付けて我々に評価しろ、ということか」

「その言い方はなんとも…せっかく我が国が西洋人どもに追いついたわけですし」

「本当に追いつけているのか、我々は…少なくとも奴らの持っていた半自動小銃は故障なぞしなかったぞ」

「それは…」


退出した張作霖は目録を見ていた張宗昌に煙草をすすめた。張宗昌は大清帝国初の国産自動小銃が試作品とはいえ完成した事を喜んでいたが張作霖がポツリとつぶやいた言葉に何も言い返す事が出来なかった。


張作霖は吸っていた煙草を地面に投げつけると足でもみ消した。


「南京のやつらは、自分たちがひっかきまわしているつもりでいい気になっているようだが、下手をすれば…」

「ですが、そのある程度は仕方ないかと、我々とてここにいるのはロシア人を殺せるからでしょう」

「たしかにな、だがいずれは止まらねば」


北清事変後の南京議定書によって常に欧米列強より抑圧されてきた清国にとって、常に振り回される側だった自国がロシア帝国に対し優位な立場となった事はある種の優越感を与えるものであり、張作霖や張宗昌が軍事顧問としてウンゲルンたちの側に加わっているのは命令であるという事もあったが、単純にロシア人を殺せるからという側面も大きかった。長年渦巻いた憎悪はそれほどまでに根深かかったのである。


「ひくにしてもある程度の成果は必要でしょう、ここか、それ以外で」

「それ以外だと?どこか他にあるのか」

「なんでもマカオをポルトガルから買収する運動が在野の運動家や財界を中心に盛り上がっているようで」

「いくら本国が内戦中だからってそう簡単に売るかね?大体あそこはほぼ香港の付属地みたいなものだろう?」

「さあ、そこまでは…」


マカオは1887年の葡清条約によって清国から正式にポルトガルに割譲されていたが、ポルトガル本国での内戦ぼっ発以降、その買取を目指す運動はメキシコ風邪の流行という非常事態にもかかわらず清国各地で募金活動が行なわれていた。


「結局、我々にできる事は、ここで狂人のご機嫌を取りながら向かってくる敵兵を殺すだけか、嫌になるな」

「ロシア人どもに情でも湧きましたか」

「まさか、狂人のご機嫌取りに疲れただけさ」


そういうと張作霖は実に憂鬱そうな顔を張宗昌に向けた。それを見た張宗昌は苦笑いをするしかなかった。


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