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第189話 対応協議

1920年11月25日 イギリス ロンドン 

イタリア王国とオーストリア=ハンガリー帝国との間で緊張が高まっている事に対して、ロンドンでは会議が開かれていた。


「つまり、イタリア人どもはやる気なのか」

「全く困ったな社会主義者という得体のしれないものたちに対抗するためにも、いまや、ドイツ帝国、そして、オーストリア=ハンガリー帝国の存在は必要になっているというのに」

「やはり、あの時無理をしてでもフランス人を止めていれば…」

「いや、あのときに動かずに感染対策を積極的に行なったことで、結果として支持率は落ち着いている。我々の内閣が戦争一辺倒の強硬派(ジンゴイスト)の内閣であるという風評は完全に過去のものになったわけだし、次の選挙でも我が保守党の勝利は確実だぞ」


会議というより批難交じりの雑談の様相を呈してきたのを見て、イギリス首相ホレイショ-ハーバード-キッチナーは静かに、だが、威厳を込めて話し始めた。


「諸君、静粛にしたまえ…外務卿、君はどう見る」

「はい、首相。難しい状況ではありますが、しかし、考えようによっては朗報と言えるかもしれません」


キッチナーに意見を求められたイギリス外相であるセシルオブチェルウッド子爵ロバート-セシルの発言に会議の場はざわめいたが当のセシルはそんなことは全く気にせずに発言を続けた。


「あくまでも私見となりますが、現在のオーストリア=ハンガリーは実質的な崩壊状態であり、ドイツにしても今年や来年はともかく今後十年に渡って存続できるのかと言われれば答えは否でしょう」

「ふむ、対オスマン帝国戦争の時のように全欧州で団結を…というのはどうかね?」


セシルの私見を聞いたキッチナーはキッチナー自身もあまり期待していなさそうな口調で全欧州の反共同盟結成の可能性を問うたが、セシルの答えは当然否だった。


「首相、今やドイツ皇帝ヴィルヘルム3世はジョン失地王ならぬヴィルヘルム失地帝となろうとしているわけですが、仮に首相がジョン失地王の立場であれば、ロバート-フィッツウォルターを倒すためにフィリップ2世と手を結びますか?」

「ヴィルヘルム2世が獅子心王に比肩するような人物とは到底思えないが、いやこの場合はヘンリー2世かな?…まあ、兎も角まずないだろうな。しかし、ジョン失地王はマグナカルタを受け入れるだけで済んだが、今回は社会主義革命だぞ?ドイツ皇帝は文字通りすべてを失う可能性がある以上自暴自棄になってフランスと無理な合意に達する可能性も無くはないのでは?」

「現状、フランス軍はアルザスを手中に収めています。そして、アルザスはもとよりフランス領である以上、それを追認した所でフランス人は納得する筈もない。ルイ14世以来の自然国境を認めるとあれば考えなくないでしょうが叛乱地域とはいえ工業地帯をみすみす手放すなど論外でしょう。空手形も一つの手ではありますが、それを実行できるほどの余力はドイツには無いはずです」

「ドイツの方が実際に内戦に突入している分、戦後にフランスが実力で奪い取ろうとしてきた場合ドイツ側には迎え撃つ余力ががないから、だな」

「ええ、ですから社会主義という赤い洪水に対してドイツとオーストリア=ハンガリーという決壊寸前の堤防を維持する事に注力するのではなくフランス、イタリア、そしてロシアを中心とした頑丈な、と、言うには少々頼りないですが、新たな堤防を構築し、維持する事に腐心するべきだと私は思います。ああ、勿論、我が国に来たいという人間がいるのならば断わる理由は無いですが」

「セシル君、フランスとイタリアは構わないが、ロシアに関しては困るよ」


ロシアという言葉を聞いたインド大臣ジョージ-フランシス-ハミルトンが難色を示した。


「しかし、ロシア人は極東で社会主義勢力による蜂起に直面しています。我が国を中心とした社会主義者に対する連携は大いに魅力的なはずです」

「だが、それでロシア人が勢いづくのは困る。せめてもう少し弱まるまで様子を見るべきだ。ただでさえ我が国を嫌っている連中が今の若い皇帝(ツァーリ)の周りには多いらしいしな。インド情勢が不穏な今こそロシア人を弱めねば」


ハミルトンの言葉は事実だったために、セシルはハミルトンに反論できなかった。

皇帝(ツァーリ)ニコライ2世の死後に即位したアレクセイ2世はまだ15歳の少年であった為、統治に関してはイギリス嫌いとして知られるボリス大公が助言して行なっており、イギリスとの関係は悪化する一方だった。


それだけならばまだよかったのだが、イギリスの最も重要な植民地である英領インド帝国にてメキシコ風邪の感染拡大に伴い各宗教の祭祀の縮小や中止を総督府が法令で定めてしまったがために、反英的だったインド国民会議派ばかりか親英的だったムスリム連盟までもが揃って撤回を求めて抗議活動をはじめてしまった。インド総督のオースティン・チェンバレンは何とか鎮静化を図ろうとしていたが、最悪の事態を考えるとロシアの影響力は少ない程都合が良かった。


「それから…社会主義に対する連携といったが、ペルシア人と蜂起した…何とかというトルコ人はどうする?」

「ペルシアに関しては一応我々に対して友好的ですから放置しましょう。トルコ人に関しては、そうですな、アルメニア人かギリシア人でもぶつければよいかと」

「なるほど、そちらに関しては異論はない」


後は特に異論が出る事は無かったためにキッチナー内閣の社会主義革命に対する方針は決まり、イタリアによる対オーストリア=ハンガリー宣戦布告とドイツの社会主義化は黙認されることとなった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] イギリス人の狡さ、あるいは「大陸に出ていくのも退くのもこちらの自由ですよ」という天然の利点を感じました。 [一言] イタリア‐オーストリア戦争というとアルプスとアドリア海を戦場にして詩的…
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