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第159話 逮捕とラジオ

1918年9月30日 ニューヨーク州 ニューヨーク ブルックリン コニー-アイランド地区 『ハーヴァード-イン』

ある酒場を警察が取り囲んでいた。


「これは、これは、警察の旦那様方、こんな場末の酒場に何の用で」


この酒場『ハーヴァード-イン』のマスター、フランキー-イェールが出てきて応じた。にこやかな笑みこそ浮かべていたが、その眼には自分の城に慮外者を踏み入れさせまいとする決意が現れていた。


「なに、手間はとらせんよ…単刀直入に言うぞ。ここでバーテンをしているガキがいるだろう。そいつを出せ」

「…罪状は何ですか」

「殺しだ、被害者は一般市民。ニューヨーク-ワールドの夕刊紙イブニング-ワールドの編集長チャールズ-チャピンとその妻だ」

「…そんな…何かの間違いでは…」

「チャピン氏は死んでいるから聴取は無理だが、目撃者がいるんだ。そいつが殺人犯はこの店のバーテンダーだと言っていた」


警部とイェールが話している間に問題の人物は警官に捕らえられていた。殴られたらしく、頭からは血が出ていた。


「警部、見つけました。クソ、暴れるんじゃない」

「マスター、助けてくれ、俺は殺しなんてやってない」

「アル…今は無理でも、必ず助けてやる。俺がトーリオの兄貴に話して必ず自由にしてやる。だからそれまで待っててくれ」


罪状が一般市民の殺害という事であれば自分が口出しする事は出来ないと考えたイェールはこのあたり一帯をし切っていたイタリア系ギャングのボスであるジョニー-トーリオに頼むしかない、と考え今は励ましの言葉を贈るのが精いっぱいだった。


だが、イェールとトーリオの努力にもかかわらず結局、アルことアルフォンス-ガブリエル-カポネは釈放される事は無かった。

逮捕されたのちに、殺されたチャピンの遺留品の中からカポネのサインの入った殺害契約書が発見され、さらにチャピンとカポネが言い争うのを見たという証言が出たからだった。これによって警察はチャピンが妻の殺害を画策してカポネに依頼したが、何らかの理由で争いとなりカポネがチャピンも殺したと結論付けた。裁判でもこの見解は覆ることは無く、その後、カポネはオーバーン刑務所に収監され、そこで起こった囚人同士の乱闘に巻き込まれて命をおとす事になる。


1918年10月2日 ニューヨーク州 ニューヨーク マンハッタン カール-シュルツ-パーク アーチボルト-グレイシー-マンション

アーチ-ボルト-グレイシー-マンションは、スコットランド、ダンフリーズ生まれの商人アーチボルト-グレイシーが建てた別荘で、1801年にはこの場所で連邦党員の集会が開かれ、アレクサンダー-ハミルトンの提案で、ニューヨーク-イヴニング-ポスト紙が創設されるきっかけとなった。その後、1896年にニューヨーク市の管理下となり、現在はカール-シュルツ-パークの一部となっていた。

そんな、アーチボルト-グレイシー-マンションで2人の男が話していた。1人はニューヨーク市長ウィリアム-ランドルフ-ハースト、そしてもう1人はフランス共和国コルシカ島を拠点とする犯罪組織ユニオン-コルスからの使いの男だった。


カポネのチャピン殺害の罪をでっち上げたのはユニオン-コルスであり、その指示をしたのがハーストだった。

ハーストの指示でチャピンをはじめとするニューヨーク-ワールド系列各紙の関係者のスキャンダル内偵もしくはねつ造を依頼されたユニオン-コルスは、借金と妻の病気に苦しんでいたチャピンが無理心中を企てていたこと知って、ついでに商売敵のイタリア系組織を排除すべく、偽の殺害契約書を作り、証言者を用意し、警察官と検事を買収して、イタリア系組織とニューヨーク-ワールド紙が繋がりがあるかのようにでっち上げた。


ハーストもこのでっち上げに乗った。基本的に愛国党は反移民政策を掲げた政党であり、党内に強固な基盤を持たないハーストが権力を得るには確固たる実績を上げる必要に迫られていた。それが、仇敵であるニューヨーク-ワールド紙の影響力低下と同時に行なえるのならば反対する理由は無かった。


「『暴かれたイブニング-ワールド紙編集長とイタリア系ギャングの黒い繋がり』…傑作ですな、これは」

「いやいや、君らが動いてくれたからだよ。さて、報酬の方だが…」

「いえ、今回は必要経費だけいただければ十分です。今回の件でイタリア人どもが動きにくくなるだけで我々にとっては大きな利益なのですよ」

「それはどうかな?ユダヤ人だっているだろう」

「…ここアメリカではヨーロッパに比べて緩いようですが、それでもユダヤ人が疎まれているのは変わらないのでは?」

「なるほどな。イタリア系が鳴りを潜め、ユダヤ系組織が幅を利かせるようになれば、反ユダヤ主義を煽ることでユダヤ人を排斥する事が出来る、ということか」

「ええ、そうです。ポログムとまではいかないでしょうが、それでも悪い意味で注目が集まるのは確かでしょうな」

「なるほどな、ではまたの機会に」

「はい、市長」


そう言って、使いの男は出ていった。


「ユダヤ人か…同じユダヤ人ならギャングよりも"例の2人"の方が私にとっては強敵なのだがな」


使いの男が出ていってから、ハーストは2人のユダヤ人の事を考えていた。


新聞王として有名なハーストだったが、最新技術への好奇心も旺盛な人物であり、特に航空機への関心が高いことで知れていたが、メディアの分野でも新技術に着目し、発明家であるリー-ド-フォレストが実験的に開局したラジオ局『2XG』を傘下に納め、ハーストの影響力は新時代のメディアにおいても絶対的なものとなる、と思われた。


しかし、ここに来て強敵が現れた。ルクセンブルグ生まれのユダヤ人でアマチュア無線用無線機テムリコの開発、アマチュア無線の専門雑誌『エレクトリカル-エクスペリメンター』の出版で知られ、作家としての一面も持つヒューゴー-ガーンズバックとロシア帝国生まれのユダヤ人でアメリカン-マルコーニ無線電信社で技師として働きながらラジオの開発訴えるも却下され続けたため退職したデイヴィッド-サーノフの2人が独立系ラジオ局『エレクトリカル-エクスペリメンター-ラジオ』通称、『EER』を開設したのだった。


ニュースが中心の『2XG』に比べて『EER』はもっぱら娯楽系が中心で、特にガーンズバックが執筆した小説をそのままラジオドラマ化した諸作品を放送する番組『アメイジング-ストーリーズ』は大人気だった。ニュースは『2XG』だが、娯楽は『EER』という人間も多かった。


だが、こうした状況はメディアの一極支配を目指すハーストにとっては好ましいものではなく、ハーストも『2XG』に対して娯楽分野にも力を入れるように指示する事になるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ニュースメインの大型メディアの娯楽番組…… SFの朗読とか面白そうですね、宇宙戦争とか。
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