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第144話 ブルガジェット城にて

1918年2月25日 イタリア王国保護領アルバニア マト県 ブルガジェット ブルガジェット城

アルバニア中央部の北に位置するブルガジェット城はオスマン帝国統治下では代々マト県知事の地位を世襲してきたアルバニア人ムスリムの名士ゾグー家の城であり、その権威の象徴だった。そして今はイタリア王国に対する反乱軍の拠点でもあった。


「イタリア軍はドゥラスやヴロラといった港湾都市に次々と増援を送り込んでいます。また北部ではカトリック部族がゲリラ戦を展開しており、特に補給線は絶え間ない襲撃にさらされているとの事です」

「オスマン帝国は劣勢であり、あと1、2カ月もすれば降伏するとの見方もあります」


状況は反乱軍にとっていいものではなかった。当初こそアルバニア人民衆の支持を得て戦いを有利に進めていたものの、そのままでは最終的な勝利に結びつかないことが分かっていた反乱軍指導者でゾグー家当主アフメト-ゾグー-ベイはイタリア以外の諸外国へアルバニアの独立を認めるように働きかけを行なったのだが、どこの国も承認しようとはしなかった。


ヨーロッパの多くの国は対オスマン帝国戦争に関わっていたし、それ以外の国はヨーロッパ諸国との関係を壊す気はなかった。

ゾグーが最も期待していたのはアルバニア系移民がおりかつヨーロッパとも対等に渡り合える国力を持ったアメリカ合衆国だったが、愛国党政権誕生以降モンロー主義政策を推し進め、特にヨーロッパへの不干渉を決め込んでいるため、ゾグーが期待したような支援は得られず、アメリカに移民してハーバード大学を卒業した正教会の聖職者で作家でもあるファン-ノリなどが中心となって集めた資金などをアルバニアに送っていたが、出来たのはその程度だった。


正教会の聖職者であるノリが支援していた事からもわかる通りアルバニアにおける抵抗運動は単なるオスマン帝国によるジハードの布告に呼応した反乱というよりは、イタリアとそれに与するアルバニア人カトリックとそれ以外との戦いであった。


しかし、イタリア軍による攻撃は圧倒的だった。

中央部地域を制圧した反乱軍は続いて主要な港湾都市であるドゥラスの制圧を目指すも、イタリア海軍が客船「コンテ-ロッソ」を改装し、船の前方に陸上機の発艦が可能な飛行甲板とカタパルトを設置して対地攻撃を行ない、攻撃後は飛行場に着陸するという、メキシコ出兵時にアメリカ海軍が行なった対地攻撃に続き2例目となる水上艦から発艦した航空機による攻撃で補給の要である鉄道を破壊されたことで、反乱軍の補給は滞るようになり、ドゥラス攻略は海を通してイタリア本土から潤沢な物資が供給されていたイタリア側の勝利に終わった。


「だが、イタリア人も決して楽な戦いという訳ではないはずだ。そこにこそ我々の勝機がある」


ゾグーは絶望した表情の部下たちを前に力強くそういった。

ゾグーの言う通り、イタリア側も決して楽な戦いであったという訳でもなく、ジャコモ-マッティオッティをはじめとしたバルカン戦争中は反戦活動またはその容疑で収監され、戦後に釈放されたいわゆる反戦社会主義者が、ベニート-ムッソリーニをはじめとするバルカン戦争への介入を支持し、戦中は積極的に戦争協力を行なった、いわゆる愛国社会主義者たちを社会党から追放して社会党の実権を掌握しており、マッティオッティらは、アルバニアに対する介入及び対オスマン帝国戦争のいずれにも反対し、バルカン戦争にて勝利どころか敗北に等しい講和条件を飲まざるを得なかったことに対して、政府に対する反発も強かったことから反戦運動が激化しており早めに決着をつける必要があった。


(いや、もはやそれしかないのだ。それに失敗すれば我々の身にはオスマン帝国の民と同じ運命しか残っていないだろう。もしかすれば反乱軍でも正教徒ならば助かるかもしれん、だが、それがいったい何になるというのだ。逃げ出せなかったものが逃げ出せたものを恨み、抑圧されたものが抑圧した者に対し報復をする。そんなことが続いてしまえばアルバニアは『国家』ではなくなってしまう。団結心を欠き、言葉、宗教、部族の違いで争うだけの土地になる。アルバニアを『国家』とするためにはイタリアに対する勝利こそが必要なのだ)


ゾグーは思考を終えると部下たちに対して力強く宣言した。


「我々は今確かにイタリアによって追い詰められている。だがそれはこのまま我々が敗北する事を意味するのだろうか、否である。すでにイタリア本土では厭戦論が広がりつつある。今しばらく耐え抜けば独立という名の勝利は近い。スカンデルベグがオスマン帝国軍を打ち破ったように我々もイタリア軍を打ち破るのだ」


ゾグーは内心、皮肉なものだな、と思いながらアルバニアの英雄スカンデルベグを引き合いに出して言葉を締めくくった。

スカンデルベグはもとは東方正教会の信徒だったが、オスマン帝国に人質として差し出された際にイスラームに改宗し、その後、オスマン帝国に反旗を翻した際にはローマ教皇からの援助を得る為カトリックに改宗している。

アルバニアのためには信仰をも捨てたスカンデルベグに対して、ゾグーたちは宗教を理由とする弾圧に対抗するために反乱を起こしている。もし、スカンデルベグならばどうするのかと思わずにはいられなかった。


「ベイに対し、敬礼」


誰かがそう言うと手のひらを下に向け、そのまま右手を心臓の上に置く独特な敬礼を行なった。これはソグー式敬礼と呼ばれるもので反乱軍の間で流行っているものだった。


のちにこのソグー式敬礼はアメリカなどで活動していたノリによって紹介され、一部の反体制組織などが抵抗のシンボルとして使う事になるのだがそれはまだ先の話だった。

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