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第112話 提携と団結

1917年1月11日 アメリカ合衆国 イリノイ州 シカゴ

「ラフォレットさん、ようこそお越しくださいました」

「デブス氏、勘違いをされないようにあらかじめ話しておくが、私は別に社会主義者という訳ではない。アメリカを救うため必要だと感じた事を述べているだけなのだ」


歓迎の意思を伝えたアメリカ社会党党首ユージーン-ヴィクター-デブスに対して、招かれた側の革新党党首ロバート-マリオン-ラフォレットは不機嫌そうに述べた。


2人がここにいるのは社会党と革新党の提携について話し合うためだった。


共和党時代からラフォレットは産業国有化を含む極端な進歩主義的主張とその性格から煙たがられ、1912年には党を割って革新党を結党してみたものの、そこまで勢力を伸ばす事も出来ていなかった。16年の選挙では新たに結党された愛国党の中心となったルーズベルト系進歩派が南部との妥協を選んだことから、支持が伸びるのではないかと考えられていたが、蓋を開けてみれば愛国党の圧勝だった。

しかし、それでもデブスにとってラフォレットは話す価値のある人物だった。ラフォレットはウィスコンシン州上院議員であることから、アメリカ社会党を離党してアメリカ労働者を結党したヴィクター-ルイトポルト-バーガーの本拠地であるウィスコンシン州をラフォレットとの提携によって切り崩そうと考えていたからだった。愛国党や共和党、民主党といったブルジョワ政党を倒す前に人種主義に囚われた裏切者である労働者党を倒す方が優先するべきだとデブスは考えていたのだ。

一方、ラフォレットとしても分裂してもなお多数派であったアメリカ社会党との提携は、自らの党勢拡大と将来的な愛国党と共和党の打倒の下準備として役に立つと考え、この提携を受け入れる事にした。


ラフォレットの革新党とデブスの社会党は様々な紆余曲折の後に合併してアメリカ社会革新党となる事になるのだがそれはまだ先の話だった。


1917年1月20日 スイス チューリッヒ

チューリッヒのとあるアパートの、薄暗い一室で、一人の男がタイプライターの鍵盤を叩いていた。


『…よって、我々の使命はこの世界の根幹、つまり社会科学や生物学や物理学といったものを貫く原理を探求し、解明する事であり、そしてそこから理想的な人類の進歩のための理論を導き出す事である』


ひとまずタイプを終えた男は、傍らにあった水を飲みほして一息ついた。

男は元ボリシェヴィキ、アレクサンドル-アレクサンドロヴィッチ-ボグダノフだった。2年前のレーニンの()()以来、再びボリシェヴィキを離脱したボグダノフはベルンからチューリッヒに居を移して、著作活動を行なっていた。


専らの関心は社会科学や生物学、物理学の関連性を解き明かし、その組織的な原理を見つける事だった。

ボグダノフはそうして導き出されるはずの組織的原理を現実社会へ応用しようと考えていた。既存の社会システムに代わる、新たな科学的原理に基づいた組織による新しい社会システムだった。


ボグダノフがこうした著作活動に打ち込むようになった原因はボリシェヴィキの失敗だった。

資本主義を打倒し、新たな社会を構築するはずのボリシェヴィキが資本主義者であるロシア帝国に敗北したという事実は、どこか社会主義の理論に()()()()誤りが存在するのではないか、であるならば、それに対する理論的な考察が必要ではないか、そう考えての事だった。


「ボグダノフさんいますか、お客さんです」


ノックと共に初老のアパートの管理人がドア越しに話しかけてきた。ボグダノフはすぐさま机の引き出しの中からFNポケット-モデルM1905を取り出し、ポケットの中に忍ばせると鍵を開けた。レーニンの()()以来、護身用の武器として愛用しているものだった。管理人と共にいたのは、そこそこ身なりの良い、中年の男だった。


「初めましてボグダノフさん。スパルタクス団のカール-リープクネヒトと申します」

「スパルタクス団…バルカン戦争中の過激な抗議活動のために国を追われたものたちか」


ボグダノフはスパルタクス団にいい印象を抱いていなかった。あまりにもかつてのボリシェヴィキ(自分たち)と似すぎている、と感じているからだった。いずれ、彼らの熱意は焦燥から暴走をはじめ、最後には自滅すると思っていた。


「実は近々、我々はインターナショナルの再結成を行なう予定です。その事に関して是非あなたにも協力お願いしたいのです」


リープクネヒトが口にしたのは意外な言葉だった。てっきり、スパルタクス団と共に革命活動をと、言うかと思えば、第一次世界大戦中に各国ごとに分裂し、消滅したインターナショナルの再結成の手伝いをしろと言ってきたのだった。


「…大戦中の第2インターナショナルの消滅以来、各国の社会主義勢力は独自の道を歩みつつあります。皮肉な事に大戦と近年のバルカン戦争を経てもなお、打倒すべき帝国主義国家たちはある程度の協調的な行動を維持しているというのにです。だからこそインターナショナルの再構築による社会主義勢力の団結が必要なのです」

「…私でなくともベルンに留まっているトロツキーや先日、エカテリンブルグから上海に逃げたスヴェルドロフがいるだろう」

「スヴェルドロフ氏とは連絡がつきませんでした。何しろ遠く離れた東洋ですからな。それと…トロツキー氏は参加を拒否されました」

「拒否?何故だ」

「我々が社会革命党を招こうとしている事がお気に召さなかったようで」

「それは…そうだろうな。あの党は大戦中以来ロシア帝国政府に対し妥協し続けているからな」


まあ、理由はそれだけじゃないだろうな、とボグダノフは思った。

レーニンを嵌めた、あのロープシンという男は元社会革命党員を名乗っていた。だからこそトロツキーとしては心情的にも社会革命党を招く国際会議などは論外だったのだろう。


「…正直、我がスパルタクス団としても現在の社会革命党の路線は体制にすりより革命を放棄した反動的なものであるという認識です。しかしながら、そうした改良主義的な路線が支持を得ているのもまた事実なのです」

「すべては団結の為、か」


その主張の是非はともかく社会主義の名のもとに大同団結するためには、親体制的な政党の参加も認める、とリープクネヒトは言っていたのだった。


その後、ボグダノフはリープクネヒトと共に第三インターナショナルの実現に向け奔走する事になる。

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