第107話 ハッピーエンド
今年の投稿はこれで最後となります。皆様良い御年をお迎えください。
1916年11月8日 アメリカ合衆国 ニューヨーク州 コーブネック サガモアヒル
アン女王様式で建てられた邸宅である『サガモアヒル』はセオドア-ルーズベルトの私邸の一つだった。
この日にそこにいるのは愛国党員ばかりだった。愛国党の勝利を祝うパーティーが行われていたのだった。
結局、波乱とともに幕を開けた選挙戦は結果としては愛国党の勝利に終わった。民主党と共和党の中から愛国党へ鞍替えするものが多く出た事などが影響した結果だった。
「楽しんでいるかね?」
「ああ、勝利の美酒は格別だよ。次期大統領。いくら飲んでも酔った気がしない」
「ははは、二日酔いになって翌日に支障きたさないでくれよ。次期副大統領」
酒を飲みながら軽口を叩きあっているのは勝利によって次期大統領となる事が確実となったセオドア-ルーズベルトと次期副大統領ベンジャミン-ティルマンだった。
「…まあ、認めたくはないがハーストのおかげだな」
「まだ、そんな事を言ってるのかね?彼の協力が無ければ我々は敗北していたかもしれないというのに」
「そうはいうがな、ああいう売り上げばかり求めるようなのが一番危険というか…」
「大衆は常に新しい話題を欲するものだよ。彼はそれに合わせているだけだ」
「…ラフ-ライダースで一躍国民的英雄になった君が言うと説得力があるな」
「そんなこともあったな」
「いずれにしても今回の勝利でアメリカは変わるだろうな」
「ああ、民主党と共和党の2大政党制が確立して以来人民党をはじめ多くの政党が挑戦してきたが打ち破った例は無かった。まさしく我々の勝利は歴史を変えたのだよ」
そういうとティルマンとルーズベルトは再び乾杯してから酒を飲みほした。そんな二人に話かけてきた青年がいた。
「父さん、おめでとうございます」
「クエンティン、今日は水曜だぞ?学校はどうした?」
「休んできた。電報でも良かったけどやっぱり直接勝利を祝いたくて」
「全くこの悪童め。ハーバードに入っても変わらないなぁ」
「君がクエンティンかね?噂はよく聞いてるよ」
「ありがとうございます。ティルマンさん。良い噂だといいんですが…ね」
そういうと、クエンティンと呼ばれた青年はいたずらっ子そのもの目でルーズベルトの方をチラリと見た。
クエンティン-ルーズベルトはルーズベルトの末子だった。
父親がホワイトハウス入りした時にまだ4歳だった彼はホワイトハウスの芝生にダイヤモンドを作って野球をしたり、雪が降った日には雪玉を何も知らない警備のものに投げつけたりと、やんちゃな子供として知られていた。
そんな彼も今やハーバード大学で父親の跡を継ぐべく猛勉強に励んでいた。ルーズベルトもそんなクエンティンに大きな期待をかけていた。
「そういえば、お前の愛しのフローラにもぜひ会いたかったのだが」
「父さん、残念ですが、今日は来てませんよ。彼女もいろいろあるみたいだし」
「せっかくの"ハッピーエンド"なのになぁ」
「…まさか、映画のネタにされるとは思わなかったよ」
「…やはり、親子だな君ら」
先ほどとは逆にルーズベルトがいたずらっぽくクエンティンを見るとクエンティンは渋面を作った。父親に茶化されたのが不満のようだった。それを見せられたティルマンとしてはただただ呆れるしかなかった。
フローラ、とはアメリカ合衆国の名家の一つ、ホイットニー家当主で馬主として知られるハリー-ペイン-ホイットニーの長女フローラ-ペイン-ホイットニーの事だった。
8月4日に行われた彼女の社交界デビューにおいてフローラは熱心な民主党員でルーズベルト嫌いの父ハリーの意向に反してクエンティンにエスコートを頼み、しばらくしてから婚約までしてしまった。
当然、民主党支持者だったハリーはこれに激怒した…のだが、大統領選挙戦の最中だったことから話がおかしくなった。
この話を知った共和党や社会党、進歩党といった非民主党系の反愛国党のメディアが一斉にルーズベルト家とホイットニー家の"つながり"についての"暴露記事"を掲載した。大企業と癒着するルーズベルト家のイメージを大衆の間に定着させる事を狙ったのだった。しかし、これにはハリーとルーズベルトの両者がそろって激怒した。何しろ"暴露"された"真相"は事実無根なものだったからだ。
それでも、大衆の中にはそう言った分かりやすいイメージ戦略に飛びつく者も多く、ルーズベルトは一時窮地に立たされてしまう。また、ティルマンの工作によって民主党から多くの離脱者が出ていた事から、ハリーは民主党員から疑惑の目を向けられることになってしまった。
だが、愛国党のバックについていたハーストが火消しを始めると状況は一変し始めた。ハーストは支援を条件に引き入れていたデヴィッド-グリフィス監督のもとでダグラス-フェアバンクスとメアリー-ピックフォード主演でクエンティンとフローラをモデルにした映画を作り上映させた。
あくまで、フィクションとされていたが、実際の所、クエンティンとフローラがモデルだとわかりやすいようにあちこちに工夫が凝らされていた。
進歩主義を標榜する指導者の息子である若き貴公子が、それに敵対する大財閥の美しき令嬢と出会い恋に落ちるが頑迷な令嬢の父親である大富豪はあくまで二人の仲を引き裂こうとする、という筋書きの二大スター共演による恋物語は瞬く間に大ヒットとなり、モデルとされたクエンティンとフローラの二人にも非難よりも同情と祝福の声が増えていった。
こうして、婚約から始まった一連の騒動は当初撮影を拒否していたが、支援の約束を盾に半ば強制的に撮らされたグリフィス監督と潔白であるに関わらず民主党からの信頼を失った上に、愛娘を大嫌いなルーズベルト家に嫁がせなければならなくなったハリー以外は概ね満足する終わりを迎えたのだった。




