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第102話 駒と舞台

1916年9月20日 イギリス オックスフォード大学 ベリオールカレッジ


「まあ、そう硬くならずに。楽にしたまえ」


ガチガチに固まってしまった青年を前にイギリス外相ロバート-セシルはそう言った。

しかし目の前の青年はまだ緊張したままだった。いや、むしろセシルの言葉を聞いて余計に硬くなったようだった。


「それで、僕に何の用なんですか、僕はしがない学生ですよ」

「だが、いずれ君はバハーに代わって信徒たちを導く立場なのだろう」

「それは…そうですが」

「私としては君や君の御父上に少しばかりだが援助をしたいと思っていてね。カレッジは違っても同じ大学の卒業生だ。それに、世界平和を願っているのは私も同じだからね」


そう言ってセシルが笑みを見せる、青年も少しは落ち着いたようだった。

青年の名はショーギ-エフェンディ。19世紀にバグダードで創始されたバハーイー教の次期指導者とみなされている人物だった。

バハーイー教は世界平和や多様性の中の統一などの教義が知られているが、その中で最も知られているのはイスラームの預言者ムハンマドを最後の預言者とするイスラームの教義を真っ向から否定し、ショーギの祖父であるバハー-ウッラーこそが新たに神からの啓示を受けた新たなる預言者であると主張したことだろう。

当然こうした教義がムスリムたちに認められる事は無く、バハーイー教徒たちは各地で迫害を受けていた。


一方で、バハーイー教の中には教育の普及や科学と宗教の調和、政府と法の尊重といった近代西洋国家的な思想も含まれていた。

加えていえば、彼らの聖地がアッカとその近隣都市であるバージ、そして、ハイファのカルメル山というようにパレスチナに存在していたこともイギリス政府、特にその首班であるホレイショ-キッチナー首相にとって好都合だった。

リエージュ会議において決定された聖地におけるすべての宗教の平等の一文を盾にキッチナーは特にカルメル山をバハーイー教徒に引き渡そうとした。


何故ならカルメル山はユダヤ教でモーセの次に偉大な預言者とされるエリヤが祭壇を築いて奇跡を起こし異教の神であるバアルを崇めるものたちを捕らえた神聖な地であったからだ。

そうした聖地を敢えてユダヤ人たちの手に渡さないというキッチナーのささやかな復讐だった。

不安要素としてはキリスト教世界でも聖地のひとつとされた事から、19世紀ごろからキリストの再臨を願うアメリカ人やドイツ人が入植して居住地を築いていた事だが、これについては各国との交渉でどうにかなると考えられていた。

一方で、現状のパレスチナにおける最大勢力であるアラブ人については何の配慮もされていなかった。これは当時の列強諸国が彼らアラブ人の事を特に気にかけていなかったからだった。所詮、彼等はゲームの駒に過ぎず、プレイヤーは自分たちであるという意識が強かったためだった。


1916年9月20日 ガージャール朝ペルシア ギーラーン ラシュト

イギリスにおいて取引が成立していた頃、イギリスから遠く離れたペルシアにおいても一つの取引が行われていた。


「なるほど、では貴方方は我々の側につくと」

「まあ、そういうことですな」

「テヘランの政府にはもはや何の期待もしておりません」


ハマダーンの憲兵隊司令官にしてパイロットという異色の経歴を持つモハンマド-タギー-ペシアン少佐とペルシアコサック師団を率いるレザー-ハーン大佐はギーラーンの抵抗運動の指導者であるミルザ-クチク-ハーンの問いに対してそう答えた。

それを見ていたグレゴリー-コンスタンティノヴィッチ-オルジョニキーゼがやったぞ、とでも言いたげに反対側で見守っていた男たちに対して笑みを浮かべると、反対側に座っていたヨシフ-ヴィサリオノヴィッチ-スターリンは呆れた顔をし、アナスタス-イヴァノヴィッチ-ミコヤンは苦笑いを返した。


もともと、ペシアンとレザー-ハーンとの交渉はクチク-ハーンとスターリンの二人が行なっていたのだが、どう考えても腹に一物あるペシアンとレザー-ハーンを引き入れる事にスターリンは反対し、逆にペルシアにおいてこれ以上の外国人勢力の拡大を望まないクチク-ハーンは彼らを是が非でも取り込もうとし、激しい論争になり、結局クチク-ハーンの意向をくんでオルジョニキーゼが交渉役としてスターリンに代わり派遣され、ペシアンとレザー-ハーンを引き入れたのだった。


この事に対してスターリンは不満を漏らし、ミコヤンに宥められる日々が続いていたのだが、オルジョニキーゼは友人が自分の仕事の成功を喜んでくれるだろうと思い笑みを浮かべたのだった。


しかし、どのような事情があろうとも、ペシアンとレザー-ハーンが立憲派に寝返った事は従来からの反乱が続いていたアラベスターン、ギーラーンを含めてペルシアの西部辺境全体が反乱勢力の手中に収まったことを意味しており、これまで極力、外国勢力の介入を拒んできたモハンマド-アリー-シャーであっても遂に他国に支援を求めざるを得ない状況となってしまった。


こうして、列強各国のゲーム盤に新たにペルシアという国家が舞台として追加される事になった。

元々はバハーイー教の話で一話、スターリンたちの話で一話というように別の話にする予定でしたがくっつけて二話分を一話にしたものです。多分今後もこのような話が増えると思います。


それにしても、アナスタス-ミコヤンが規約に引っかからないか、若干心配ではある。

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