08
アカネが出ていってからしばらくの間、私は浴槽の外で涼んだり、またお風呂に入って汗をかいたりして、また適当にくつろいでいた。景色を赤く染めていた夕日も今ではすっかり沈んでしまって、外から丸見え状態だった露天風呂は、闇のカーテンでようやく目隠しがされた。辺りは、夜空の星でようやく周囲の輪郭が見えるくらいに真っ暗になっていた。
アカネからもらった『承認』は彼女がお風呂から出ていくときに戻していたので、今の私の魔力は、元の1万5千に戻っている。もしもここに誰か他の人がいたら、お互いに『承認』しあって赤い光をやりとりして、ちょっとは周囲を明るくできるかも……なんて、バカみたいなことを考えるくらいには、私の気持ちも平常運転に戻っていた。
それで、もう十分にお風呂を満喫したし、そろそろ私も出ようかなって思っていた時。そこに、「彼女」が現れた。
暗い浴室の入口からは、脱衣場の明りが微かに漏れ出ている。
その薄明りさえも届かずに、色がひときわ濃くなっていた影の一部分が、ゆっくりと動く。はじめは見間違いかなって思ったし、そうじゃないと分かっても、なかなか何が起こっているのかを理解することは出来なかった。だって、その影を作っている本体はどこにも見えないのに、影だけが、意思を持って勝手に動き出したみたいだったんだから。
でもやがて、その影を目で追いかけているうちに、それ自体が本体だったんだということに気が付いた。
サラ……サラ……。
影が動くとともに、上質なシルクの布を撫でるような音が聞こえてくる。自然と心が落ち着いてしまうその音は、「彼女」の髪が風になびいている音だ。
私の胸の位置ほどの背丈の彼女の、地面に引きずるような長い黒髪。ツヤやかなその髪の色は、宇宙と繋がっていると言われても信じてしまいそうなほどに、心を引き付ける不思議な魅力がある。細くて小さくて華奢な体の上には、幼さの感じる可愛らしい顔。その肌の色も、宝石のように透き通った黒だ。黒目の大きなつぶらな瞳で真っ直ぐに私のことを見ている彼女は、本当に、上から下まで一切の曇りもないくらいに、真っ黒だったんだ。
よく、真っ白な物をみたときに、「清純」とか、「穢れがない」っていうイメージを感じることがあったりするけど……でも、私はこのときの彼女を見て、逆に完全に真っ黒なものからも同じようなイメージを抱けるんだってことを、教えてもらった気がした。そのくらい、そこにいた黒髪で黒い肌の女の子は、神々しくて、美しかったんだ。
「あ、貴女は……」
実際に私が彼女の姿を見るのは、今が初めてだったけど。でも、その正体はすぐに分かった。
「もしかして……」
「……」
彼女は私の言葉を待たずに、静かに小さな口を開く。上下の唇の間を、細い唾液の糸が伸びる。その様子にも芸術的なまでの美さがあって、嫌らしさは全く感じない。
そして彼女は、濁りのない清流の水音のような心地よい声で、私にこう言った。
「…………気色悪い」
え?
「じろじろと、舐めまわすようにワシの体を見るな…………この変態が」
あ、あれ……?
清らかな、濁りのない声が……私を罵倒してる? へ、変態って、そ、そんな……。
い、いや……確かに私、さっきまでこの娘の神々しい姿に見とれちゃって、割と、じっくりねっとり視線を向けてたかもしれないよ……? 「舐めまわす」とまではいかなくても、「ちょい舐め」くらいはしちゃったかもしれないよ……? で、でもそれは、別に変な意味じゃなくってね……? むしろ、芸術作品を見て感動してたのと同じような、とても崇高で高尚な心理作用といいますか……。
あ、あれれー? な、何でこの娘、ご自慢の長い髪で体を隠しちゃったのかなあ? そ、それじゃあホントに、私がこの娘の体をいやらしく見てたみたくなっちゃうよね? 私が、お風呂に入ってきた幼女をガン見して、幼女の裸に興奮する変態ってことになっちゃうよね……?
「もう、出る……」
彼女は小さな体を翻して、お風呂の入口に向かって出て行こうとする。さっき来たばかりなのに。まだ、湯船につかってもいないのに。
え? や、ヤバくない? もしかしてこのままだと、私、取り返しのつかないことになりそうじゃない? だ、だって、このまま彼女がお風呂から出て行って、そこで出会った誰かに、「気持ち悪いやつが体をガン見してくるから、お風呂に入れない」とか、告げ口されたりしたら……。それってもう、言い逃れ出来なくない?
更には、その噂がアカネの耳にまで届いちゃったりしたら……。
「ちょ、ちょっと待ってっ!」
慌てた私は、出て行こうとする彼女の手を掴んでいた。そして、彼女の名前を叫んでいた。
「こ、コルナちゃんっ!」
そう。
彼女はコルナちゃん……あの、黒い布の中身だった。
今までは黒い布に包まれていて見ることが出来なかった彼女の姿が、お風呂というこの場所で、初めて私の目の前に現れたというわけだ。初めて会ったはずの私にそれが分かったのは、事前に、アカネとピナちゃんから彼女のことを聞いていたからだ。黒い布に包まれているコルナちゃんは、実は「10歳の女の子」だってことを。
彼女の所属している黒狼教団は、「黒」っていう色を何よりも尊い物として、大事にしている。だから、黒い影を消してしまう太陽のことを邪悪な存在として毛嫌いしていて、信徒はいつも黒い布で体を隠しているんだそうだ。彼女が常にハロウィンちっくになっていたのは、それが原因だったんだ。
それだけでも随分アレだけど、彼女たちの黒好きはそれどころじゃなく。身に着けるのも、口にするのも、黒い物だけ。反対の白い物は、一切口にしないんだそうだ。
「放すのだ……変態め……」
幼い見た目からするとちょっと異様に思えるくらいの落ち着いた喋り方で、コルナちゃんは私を突き放そうとする。
でも、私はそんなのには全然動じなかった。新興宗教とか聞いたときはちょっと怖がってたくせに。今の私は、勝手に彼女のことを「ちゃん」づけなんてしちゃうくらいに、親しみを感じてしまっていたんだ。
だ、だって、黒い布の中にこんな可愛い女の子が隠れてるなんて、知らなかったんだもん! 何も知らないときは不気味に思えていたことでも、ちょっとでも知ったら考えが変わったりする物でしょ!?
た、例えばほら、黒い布しか見えなかった時のコルナちゃんってもっと大きな身長だったように見えたけど……もしかして、シークレットブーツを履いていたの? つまり、子供扱いされたくないから強がってるってことで……や、やだ! 超かっわいいー! とか……。
「何を、笑っているのだ……この、ド変態が」
え? 私、笑ってた? うっそー、全然気付かなかったー。
「気色悪い……気持ち悪い……」
う、うわーん。もおー、そんなこと言わないでよー。
小さな女の子にひどい事を言われても、不思議とショックや悲しさはない。むしろ、可愛らしい幼女にそんな風に拒絶されていることに、ゾクゾクとした快感のようなものさえ感じ始めていて……あ、あれ? もしかして私って、ホントに変態なのかな? い、いやいや、そんなわけないってば。こ、これは、その、そういうアレじゃなくってね……? 小さな子供との微笑ましい触れ合いといいますか……あくまでも、私の有り余る母性が暴走しちゃってるといいますか……。
そんな風に、全く説得力のない自己正当化を頭の中で繰り返していた私だったけど……しばらくしてやっと、正気に戻った。(って言っちゃうと、さっきまでの自分が完全におかしくなってた事を認めちゃう気がして、ちょっとアレなんだけど……)
そうか……そうだよね……。
よく考えてみたら、彼女は、コルナちゃんなんだよね……。
黒い布を頭からかぶった、不気味すぎる女の子。黒狼教団っていう、新興宗教の教祖の娘。つまり、もしかしたら嘘をついてアカネに近付いているかもしれない存在なんだ。
いくら、中身がこんな可愛らしい幼女だったとしても。ずる賢く嘘をついて、アカネに危険を及ぼすことなんてあるわけがなさそうな小さな子供だったとしても……。
ここは、私の常識とは何もかもが違う『人間女の亜世界』。そして目の前の女の子は、どこにでもいる普通のJKの私とは違うんだ。別の世界の別の人間を、私の常識で判断することなんて出来ない。しちゃいけない。だからこそ、私はこのコルナちゃんを、ちゃんと警戒してあげなくちゃいけない。
ただの幼女と思って、甘く見ちゃいけないんだ。
「いい加減…………離せと、言うとるのに……」
大きな黒目で、私を睨み付けている彼女。その、可愛らしい彼女の姿がだんだん、恐ろしい企みを持ったテロリストのように思えてきた。
「あ、貴女は…………」
だから私は、さっきまでのバカみたいな態度からは一転して。
恐る恐る、彼女に訊ねた。
「本当に……本物なの……?」
「む……」
「前の『管理者』に、選ばれた人なの……?」
「ほう……?」
私の雰囲気が変わったのに合わせるように、コルナちゃんの態度も変わった。
「誰かから、ワシらの話を聞いたようだな……」腕をつかむ私を、逆に圧倒するように。その十歳の女の子は、信じられないくらいに大人びた様子で、言った。
「だが、それを聞いて…………どうするのだ?」
「え……」
「ワシが嘘をついていたら……どうするというのだ?」
嘘をついていたら、どうする? って……。彼女、何でこんなこと言うの……?
私は、彼女の台詞の意図が分からなくて、困惑してしまう。
だって、彼女がちゃんと前の『管理者』さんに選ばれているんだとしたら、単純に「選ばれた」って言えばいいだけのはず。わざわざこんな、誤魔化すような言い方をする必要はないよね? そんなことを言っても怪しまれるだけだし、得することなんて何もない。これじゃまるで、わざと私を惑わしたいみたいで……。
じゃ、じゃあ……貴女が、「嘘つき」なの?
アカネのところにやって来た3人の内、嘘をついていたのは、コルナちゃんだったの……?
「ふん……」
コルナちゃんは、私をバカにするように、鼻で笑った。
「どうとでも…………好きに想像すれば良い」
彼女は、あっけにとられていた私の手から、スルリと逃れてしまう。
そうして、「もうお前なんかには興味がない」という感じで、長い髪の毛に隠れた後ろ姿を向けて、出口に向かってしまった。
遠ざかっていく、小さい黒い影。
もしも……もしも彼女が、本当に「嘘つき」なのだとしたら……私はここで、彼女を行かせるべきじゃないと思う。
彼女が何を企んでいるか分からない以上、自由に動かすのは危険だし。アカネや、アカネが作ったこの『亜世界』を守ると決めた私は、何かをしでかす前に彼女のことを捕まえてしまうべきなんだ。
自分とは何もかもが違う彼女のことを、ちゃんと「敵」として扱わなければいけないんだ。
でも……。
そのときの私は、それと同時に、全く別のことも考えていた。
彼女のことをテロリストとして恐れながらも、その一方で……。
だから……。
「『承認』……」
去っていく彼女の背中に向かって、私はそう呟いていた。
「……!?」
赤い光に包まれたコルナちゃんが、怪訝な顔をして私に振り返る。
「お前……何を、している?」
赤く照らされている、真っ黒な顔。
その光景は、アカネやビビちゃんが『承認』をもらったときとは全く違う。神秘的なコントラストだった。
「何をしていると、聞いているのだ……」
一度は立ち去ろうとした彼女が、凄みのある言葉を言いながら、引き返してきた。
「え、えと……」
私にも、自分で自分の今の行動を、すぐに上手に説明することが出来ない。多分コルナちゃんよりも、私の方が戸惑っていて混乱気味ですらある。
けど、それでもなんとか、行動の意図を伝える努力をしてみることにした。
「な、なんかさ……コルナちゃんは、多分大丈夫かな、って……思ったんだ。多分、アカネを傷つけたりしないんじゃないかなって……」
「何を……?」
「だから私、それを分かって欲しかったんだよね。私は、貴女のことを信じてるよって……。信頼してるよって……知っておいて欲しかったんだよね……」
「ふん……」
彼女の口から、湿った息が吐かれる。全てが黒に包まれた彼女だったから、その息すらも、黒い色がついているように錯覚してしまいそうだった。
「何の根拠もないくせに……ワシが、お前の言う『嘘つき』ではないと思ったか……?」
「う、うーん……」私は、ちょっと自信のない感じで答える。「っていうか……コルナちゃんなら、『嘘つき』でも大丈夫かなって、思ったのかなー……?」
「は……?」コルナちゃんは、呆れきったような顔で言う。「適当なことを……」
適当、かー。
「あ、ああー……。た、確かに私って、結構適当なとこあるかもー。元の世界だと、アカネとか他の友達とかにも、しょっちゅうそんな感じのこと言われてたしー……」
まさか、この『亜世界』にきてまで言われるとは思わなかったけどね……。
反論の余地のないコルナちゃんの言葉に、私は思わず、照れ笑いを浮かべてしまった。
「口だけなら、何とでも言えるのだ……。こんなことをして、ワシを、油断させたつもりか……?」
いまいち煮え切らない私の様子に、ますます彼女は不信感を募らせてしまったようだ。左手を前に出して、真っ赤に光る自分の指輪を私に見せつける。
「こんなもの……何の意味もない。どうせ……言葉一つで、お前はすぐに取り返せるのだから……」
「え……? あ、そっか」
最初にピナちゃんがアウーシャちゃんとやったときみたく、『承認』で人にあげた魔力は、『否認』で取り戻すことが出来る。いくら私が自分の魔力を全部コルナちゃんにあげちゃったとしても、私はそれをすぐに取り戻せるんだ。
だから、これだけじゃあ、私が彼女を信頼したってことは分かってもらえないんだ。むしろわざとらしい分、余計に嘘くさく思えてしまっても、無理はないわけで。
だったら……。
私はそこですぐに、自分の左手薬指にはまっていた指輪を抜き取った。
それから……さっきアカネが私にはめてくれたものだから、ちょっとだけ躊躇したけど……思い切ってその指輪を、露天風呂の外に放り投げた。
「な、何を……」
そこで初めて、コルナちゃんの冷静な顔が、驚きでちょっとだけ崩れた。
「へへ……やっちた」
私はまた、照れながら言う。
「あの指輪は、魔力をやり取りするための端点なんだよね? だから、あの指輪がなければ私は魔力をやり取りすることは出来ない。さっきコルナちゃんにあげた私の『承認』だって、取り戻すことが出来ないんじゃない? ……これなら、私が貴女を信頼してるってこと、ちょっとは信じてもらえる?」
「ば、バカな……」
私と、私の指輪が飛んで行った方角を交互に見るコルナちゃん。
「し、信じられない……何を……何を、しているのだ……?」
「信じられない? あー、ですよねー?」
自分がやったことだけど、自分でもバカみたいなことしてるって思うよ。
「でも、ここまでやんなきゃ、貴女に私の言ってることを信じてもらえないでしょー?」
「ほ、他に、どこかに指輪を持っているのでは……」
「そんな風に、見える?」
そう言って、私は両腕を広げて自分の体をコルナちゃんに見せる。ここは、まだお風呂の中。当然、今の私は全裸だ。更にダメ押しで、「アレだったら、好きに調べてもらってもいいけど?」とまで言って、彼女にアピールする。実際に彼女がじろじろ見たり、じっくり探したりしたら、かなり恥ずかしくって困っちゃうところだったけど……。幸い、コルナちゃんはそんなことはしないで、何かを諦めたように小さく首を振るだけだった。
どうやら、やっと私の言うことを少しは信じてくれる気になったみたいだ。
「なぜ、だ……」
「え?」
「なぜ……そんなことが出来るのだ……? どうして、こんな風に……ワシを信頼するなどと……」
「あはは……」
確かに、そんな風に考えるのは、もっともだ。
だって、コルナちゃんは新興宗教に所属していて……それは、気に入らない人を排除しちゃうような怖い宗教で……。しかも彼女は、嘘をついてアカネに近づいてきた人かもしれなくって……。
……でも。
それって結局、全部人づてで聞いた話に過ぎない。
私が目で見て、耳で聞いたコルナちゃんは、そうじゃないって思えたから……。
「だって、コルナちゃんは多分、優しい人だから」
「な、何……?」
「『友達』想いの……優しい人、だから」
その言葉を聞いた瞬間、コルナちゃんがそっと顔を背けた。まるで、恥ずかしがっているみたく。それを見て、私は自分の考えが正しかったことを確信した。
ああ、やっぱりこの娘は……。
私は彼女の手を取って、彼女に微笑みかける。
「私は、アカネのために、この『亜世界』を守りたいんだ。そのために、もしもアカネを傷つけようとして近づいてきている人がいるなら、何としてもそれを止めたいって思った……」
「な、ならばなおさら……ワシのことを信頼するなど…………」
「ううん」
私はそこで、声の調子を真剣にして、自分の本心を告げた。
「貴女だからこそ、信じられるんだよ。『友達想い』のコルナちゃんだからこそ、ね……。本当は、貴女にも私を信頼してもらって、友達になれたらいいな……って思うけど。でも、それは流石に勝手すぎるよね? いきなりそんなこと言われても、まだちょっと無理だよね? だからせめて、私が貴女のことを信頼しているよってことは、知っていて欲しかったんだ。アカネのことを守るためには、貴女みたいな人の協力が、必要だから……」
「……」
コルナちゃんは、何も応えない。
それは、私の本意を探っているようでもあり。また、私の馬鹿さ加減に呆れているようでもあった。
「ふ……」
でも、しばらくして。
「『承認』……」
彼女は突然、そう言った。
「え……?」
さっき私は、確かに自分の指輪を外に捨てた。だから、私は魔力ネットワークに参加できなくて。彼女の『承認』をもらうことは出来なくなったはず……だけど。
どういうわけか、私が彼女にあげた魔力は、そのままま私に戻ってきてしまった。
「直接触れていれば、指輪は2つはいらないのだ……」
「あ、そういうことか……」
私がさっき掴んだ彼女の手には、きっと、彼女の指輪がはめられていたのだろう。だから、その手を通して彼女は魔力を戻してしまったんだ。
「でも、どうして……?」
彼女は、私のその質問には答えずに、ぼそっと呟いた。
「お前は、面黒いやつだな……」
え? 面黒い、って……?
……あ。もしかして、面白いってこと?
黒が尊くって、白が邪悪だって考えている教義だから……面白いじゃなくって、面黒いって……。
「もしも、ワシがお前の『承認』を受け取った途端に、お前に襲い掛かってきたら……どうするつもりだったのだ……。お前の魔力1万5千にワシの魔力4千を合わせて、ミノワアカネを殺しに行ったら……」
「そ、それは……」
それは、多分ない。そう思ったから、私はさっきコルナちゃんを『承認』したんだ。
私がとことん彼女を信じてあげなくちゃ、彼女も私を信じてくれることなんてないだろうし……。
「馬鹿者め……そんなことでは……騙されて、痛い目を見るだけだ……」
彼女は最後にそんな風に私に説教するような言葉を言ってくれてから、背中を向けてお風呂の出口に行ってしまった。
私はもう、彼女に何も言うことも出来ず、その背中を見送っていた。
私の気のせいかもしれないけど……出ていくときの彼女は、ちょっと笑っていたような気がした。その顔は、神秘的な芸術的な顔じゃなく、普通の可愛い女の子の顔のように思えた。
だから私はちょっとだけ、彼女と分かり合えたように思えたんだ。
それからしばらくして、コルナちゃんを追って、お風呂場を出て脱衣所に行ったところで。私は、愕然としてしまった。
だって、その脱衣所には私が脱いだ制服とかいろいろが、まるっとなくなっていたんだから。そして、その代わりとでも言うように、私が服を脱いだ場所には真っ黒な布が1枚……。
あ、ああー……。
そういや、私が着てた制服のブラウスって、白かったもんねー……? 下着も、上下薄いピンクだったしー……。
コルナちゃんの黒狼教団的に、そういうのが許せなかったのかな? そ、それで、勝手に処分しちゃって、私にも黒い布を着ることを強要してるっていう……。
いやいやいや……。全裸の上に黒い布1枚だけ羽織って、外に出れるわけないでしょうが……。って、っていうか、じゃあコルナちゃんって、今まであの布の下は……。
その瞬間。分かり合えたと思ったコルナちゃんが、急に遥か遠くの存在になってしまったような気がした。




