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百合する亜世界召喚 ~Hello, A-World!~  作者: 紙月三角
chapter07. 茜色の世界
76/110

01

 1つ、考えてみたいことがある。


 私は今までに、3つの『亜世界』を移動してきた。

 最初は『人間男の亜世界』、次に『モンスター女の亜世界』、そんで、一番最近が『妖精女の亜世界』。その3つの『亜世界』に転送されたときのことを思い返してみると、そこには、いくつかの共通点があったような気がする。


 例えば、「転送されてからしばらくの間は、気を失っていた」とかがそう。バカ王子が言っていた、体が新しい『亜世界』に慣れるためには少し時間がかかる、ってやつだ。確かに私もその言葉の通り、これまでの『亜世界』に転送された直後は気を失っていた。

 でも、実はそうは言っても。

 エア様の妹ちゃんたちが『妖精女の亜世界』から『人間男の亜世界』に来たときは、すぐに活動出来ちゃったらしいじゃん? 決まった時間にしか眠らない体質の彼女たちは、転送されても気を失わなかったわけじゃん?

 ってことはそれは、「比較的そうなることが多い」ってだけで、「絶対にそうなる」ってわけじゃないってことなんだ。


 じゃあ他にもっと確かな、「絶対にそうなること」って何かないのかなあって考えてみると、1つ、思いついた事があって…………。それは、「転送された人は必ず、『管理者』の近くに到着する」ってことなんだ。

 『人間男の亜世界』のバカ王子は、言わずもがなだし。『モンスター女の亜世界』だって、私は転送されたところから数日歩いただけで、すぐに『管理者』のアシュタリアに出会うことが出来た。『妖精女の亜世界』にいたっては、転送されて数分もしないうちに、『管理者』のエア様の方から私の前に現れた。それってつまり、どの『亜世界』でも私は、『管理者』の近くに転送されてたって言っていいんじゃないの?

 だって、『亜世界』だって一応は1つの世界なわけだし。もしもそんな世界に、私が何のルールもなしに適当に転送されてたんだとしたら……。たった1人しかいないはずの『管理者』に出会うことなんて、普通に考えて絶対に不可能だ。一生探しても『管理者』に出会えなかったとしても、不思議じゃないはずなんだ。でも実際には、私は今まで結構な短時間で、今までの『亜世界』の『管理者』に会えてしまっている……。

 それって、「絶対にそうなる」って決まっていたとしか考えられない。


 つまり……『亜世界』間を移動するときは、『管理者』が基準になるんだ。転送される人は、必ず『管理者』の近くに転送される。それが分かっているからこそ、あのバカ王子は私を『亜世界』に転送しているんだ。



 ……。

 何で私が、今更こんなどうでもいいことを考えているのかって言うと。それは、こういう事を考えるくらいしか、やることが無くなっちゃったから。っていうか、もう、ヤケクソになっちゃってるからかな……。

 だって……だってさあ…………。

 私はそこで目を開けて、改めて、自分の置かれている状況を確認した。


 さっきこの『亜世界』に転送されてきて、意識を取り戻した後すぐに目を開けたときに、見えた光景。あんなのは、何かの間違いだよね……? ただ、私が寝ぼけてただけだよね……? そんな期待を胸に、目を開けたわけなんだけど……。やっぱり何度見ても、目の前の光景は何も変わってなんかいなかった。

 雲にかぶさるような大空の中で、私は地面に向かって、ものすごいスピードで落下していた。


 あー、はいはいはい。「『管理者』の近くに転送される」って言っても、別に「水平方向」とは限らないんだねー? 『管理者』に対して、「垂直方向」で近くに転送される場合もあるんだー。なるへそー。おかげで、ただでスカイダイビング出来ちゃったー、わーい、ラッキー…………って。


「ばっかじゃねーのーっ!?」

 いやいやいや!? こんなのあり得ないでしょっ!

 なんで空の上なの!? なんで落ちてんのっ!? あのバカ王子、なんでこんな位置に転送すんのよっ!? こんなもん、地面に落ちて即死じゃねーかよーっ!


 現実逃避に失敗した私は、余りにも救いのない目の前の現実に引き戻されてしまった。

 今の状況は、上空数kmの距離から絶賛落下中。もちろんパラシュートなんかつけてなくて、私の恰好は、最初に『人間男の亜世界』に召喚された時と同じ、学校帰りの制服のままだ。私が寝ている間に王子の城の誰かが洗濯してくれたのか、以前についた汚れはすっかりきれいになっていた。

 って、そんなことはどうでもよくって!


 今はそんなことより、この状況を何とかしなくちゃ! このままじゃあ地面に激突するのは目に見えてるし! そんなの絶対にやだし! てか私って、高いところから落ちすぎじゃない!? 今までの『亜世界』でも散々落ちてきたのに、またなの!? こういうの、もう飽きたんですけど!

 ……なんて言ってても、どうしようもない。今は、レベルが高くてやたらと頑丈なティオも、地面にクッションを建築』してくれるアキちゃんもいない。だから、自分1人の力で何とかしなくちゃいけないんだ。この、これまでの『亜世界』でいくつもの死線をくぐり抜けてきて成長した私の力で、このピンチを何とか回避して…………いや、無理だよっ!

 こんな上空から落ちて無事でいられたら、もう人間じゃないでしょーがっ! こんなの、もうどうにもならないってばーっ!


 地面はどんどん近づいてくる。どうやら、私が落ちていく先には大きな街があるらしい。半ば諦め気味になっていた私は、飛び立った飛行機の窓から下を見るような感じで、その街を観察してみた。

 大きな店のような建物が並んでいる大通りに、たくさんの人が集まっている。何かのお祭りでもやっているみたいだ。その中には、私の事に気付いた人も何人かいるみたいで、上を見たり、私の方を指さしたりしている。

 ああ、もうー! そんなことしてないで、さっさと逃げてよー! このままだと私、貴女たちが集まってる真っ只中に落っこちてちゃって、大惨事になっちゃうから……。だ、だから、ほら……は、早く……は、早く逃げてぇーっ!

 そのとき、だいぶ近くまで来ていたその人だかりの中から、どこか聞き覚えがある、可愛らしい声が聞こえた。



亜世界定義(アプリケイト)っ! 『1秒後に、地上から突き上げる突風が吹く』っ!」

 え……?

 唐突で、意味不明な言葉。でも、その直後、その言葉通りの事が起こった。つまり、私が墜落しそうになっていた地面から、『突き上げる』ような『突風が吹いた』んだ。その風は、ちょうどクッションのように私を受け止めて、落下の勢いを殺してくれて。私は、フワッと天使が地上に降り立つように、安全に着地することができたんだ。


「た、助かった……の?」

 自分の身に何が起こったのか理解出来なくて、誰にともなく、そんな疑問口調を呟いてしまう。

 周囲には、さっき上空から見かけた人たちが不思議そうな目で私を見ていた。みんな、明らかに『人間』の『女の人』で、とりあえず、私が『人間女の亜世界』に転送されたって事は間違いなさそうだ。

 それにしても、今の風……っていうか、声って……。

 その疑問に答えてくれるように、また、さっきの懐かしい声が聞こえてきた。


「も、もしかして……ナナちゃんっ!?」

 私は、声のした方を向く。

 そして「彼女」を見た。


 周囲の人だかりをかき分けて……というより、人だかりの方が道をあけてくれて、彼女と私の間には、一直線の道のような物が出来ていた。その道を、彼女はこっちに向かってゆっくりと歩いてくる。

「ナナちゃん……なんでしょ? うそ……。まさかナナちゃんも、この世界に……?」

「え……? え? え?」

 信じられない、という風に、声を震わせている彼女。その表情は、100%の驚きの上から、更に120%の喜びの感情を加えてしまったみたいにぐちゃぐちゃに歪んでいる。でも、そんな表情でも私には確かに分かった。

「嬉しい……」

 目の前までやってきた彼女はそう呟くと、私に抱きついた。周囲から、小さな悲鳴のようなものがあがる。

「本当に、嬉しいよ……ナナちゃん……」

 女の子らしい柔らかい体。ふわふわの髪の毛。甘ったるくて爽やかで、ちょっと癖になる独特の汗の匂い。でも何より、「ナナちゃん」という独特な呼び方をする彼女のことを、私が間違えるはずがなかった。


「…………えぇーっ!?」


 心の底から嬉しそうに私を抱きしめている彼女の名前は、三ノ輪アカネ。『亜世界』に召喚される前に、元の世界で私が振った娘だった。


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