詐欺が蔓延るこんな世の中じゃ 2
さすがに『サクラ』テクニックも見破られ、『閉鉱帰還の書』の売れ行きが悪くなった頃、僕……じゃなくて詐欺集団は新たなテクニックに手を広げる。
『桁詐欺』だ。
例えば『閉鉱帰還の書』を50,000メル(ある時期の相場)で販売するとお店の吹き出しに記載したとする。
そして実際に50,000メルで配置する。詐欺じゃない、極めて真っ当なお店であるというアピールだ。数枠分に商品を配置し、当然『サクラ』テクニックでこれらのアイテムは売り切れにしておく。
そして、一枠だけ500,000メルで同アイテムを配置する。
そうするとなぜか売れる。
値段くらい見ろよ!と思うかもしれないがこれもフリーマーケットではよく見られる手口だ。今回は例として『閉鉱帰還の書』を取り上げたが、実際にはもっと高価格帯の方が成立しやすい。
『10,000,000,000』と『1,000,000,000』。並べてみると違いはよくわかるけど、実際的には誤認しやすい。かなりメジャーなテクニックだ。
メイプルは桁数によって文字の色が変わるという親切な実装をしてくれてはいるがそんなことは関係ない。桁が違っても気づかない奴はいるし引っかかる奴は普通にいる。僕も何度かやった。……いや、引っかかった側ってことだよ?
これの派生パターンとして、『個数詐欺』なんてのもあったね。フリーマーケットではいつ頃からか買い取り機能と言う便利なシステムが追加されて、お店の枠を使って欲しいアイテムを買い集めることができるようになった。
クエストに必要なアイテムを買い取って簡単に終わらせたい!とか『混沌の書』を沢山買ってアイテムを強化したい!なんて人が金に物を言わせて大規模買い取りを行ったりするのに使う訳なのだけど……ここでも詐欺が登場する。
1個あたり50,000,000メルで『混沌の書』を買い取るとしよう。そしてその下に5個辺り50,000,000メルで『混沌の書』を買い取る枠を配置する。
5個辺り……つまり1個辺りに換算すると10,000,000メル。ぱっと見の価格は同じなのに表記の1/5で買い取れる。もちろんこの表記の場合は5個ずつの単位でしか売れないので、混沌の書を5枚以上持っている業者からしか買い取れない。5枚持ってない人からは詐欺れないし「なんで5枚単位でしか売れないんだろう?」という不自然さを感じ取られてしまうが当たった時は莫大な利益が見込めるわけだ。
本来は端数のアイテムを買い取りたくない、売りたくないという時に使われるシステムなんだけど、正直詐欺の温床にしかなってなかった感はある。
とにかくこういった数字のマジックはメイプルでは日常茶飯事。他にも派生パターンはいっぱい。50,000メルで売るよ!と吹き出しに書いておいて500,000メルだったり。あるいは50,000メルで売るよ!と書いておいて5,000メルで配置し『サクラ』に買わせ、売り切れてない商品だけ500,000メルで置くというパターンもある。これは「あっ、このお店の人価格間違えちゃったんだ!気づかれる前に買わなきゃ!お買い得だ!」と言う功名な演出によって誤認を誘発させるパターンだね。
こうして騙されるという事を知らないメイプルプレイヤーは社会の荒波に揉まれ、学習する。リアルで騙される前にゲームで騙されることによって低リスクで詐欺の危険性を知ることができる。だからこそメイプルは神ゲーだ。
そもそもこの程度の詐欺は所詮ゲーム内通貨で完結する程度のモノ。リアルマネーを介した詐欺なんかとは比べ物にならないくらい悪質さが違う。確かに僕は桁詐欺を行っていたけれど、それはあくまでメイプルのプレイヤーに詐欺の危険性を伝えるための講師として正義感を持って騙していたのであり悪い事をしようと思ってやっていた訳ではない。もちろん世間には悪意の目を向けられるかもしれない。しかしそれでもこれが僕の仕事だ。いくら他人に白い目で見られようと構わない。僕の行いによってプレイヤー達に経験を積ませることが出来るのであれば喜んで悪鬼となる。理解されなくても構わない。騙された人々は僕の事を恨むだろう。言わばこの試みは僕の自己満足であり、独りよがりの意志によって行われた正義の暴走——。それでも彼らはいつかは気づくだろう。「あの時詐欺られなければ今の自分は無かった」「社会の生き方を彼がおしえてくれた」そして立派な社会人として僕に詐欺られた経験を活かし、一流の会社員や起業家として経済を回していく。そういう事に僕は幸せを感じるんだ。
※この作品はフィクションです




