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トラベラーズ・レコード  作者: くるい
至るべき世界
87/91

八十六話 全てを視た先に

 断層の魔法使い――クロード・サンギデリラ。

 今や魔術使と名乗る彼は、けれど最初からそのような人物であったわけではない。


 産まれはどこかの小さな村。そんな小さな世界のみを見て育った、ただの人。

 とりわけ両親が特別な血筋を持っているわけでもなく、最初こそクロードは平々凡々な才能の持ち主でしかなかった。

 大多数の人間と同じく魔物に抗う手段もなく、今この生を必死に過ごすことしかできない日陰者。ただ今を生きる為だけに生きていただけの――精々が基礎的な魔力の扱いと幾つかの生活魔法が使えるだけの適正しかなかった凡人。


 魔法学校の主席を張るだけの実力は彼にはなかったといえよう。

 少なくとも、この時までは。


 彼はほどなくして村を出ることになる。

 理由は至極単純なもので、〝村が魔物に襲われて崩壊した〟から、住む場所がなくなっただけのことであった。


 何の前触れもなく、唐突に魔物の群れに襲われた村は酷いものであった。

 空を飛翔する魔物に村人達は啄ばまれ、四足の魔物に畑を踏み荒らされ、巨大な魔物が口から放った炎が村を焼き払う。数少ない攻撃魔法を扱える村人や武芸者は真っ先に死に、農具や調理器具を手に立ち向かった残りの者は皆例外なく物言わぬ肉塊にされた。

 その中、クロード・サンギデリラは両親が決死の思いで村の外へと逃がした唯一の生存者だ。他にも子供を逃がそうとした者達は居たが、たまたまクロードだけしか生き残ることができなかった。


 ただし決して運がいいとは言えない。逃げ延びた先に救いがあったわけではない。

 村から外は、一寸先も暗闇の未知の世界であり――それまで安穏と日々を暮らしていたクロードにとっては、素っ裸の身一つで絶望の中に叩き込まれたようなものであった。


 そこで、彼はとある魔法を手にした。

 開花した、と言い換えてもいい。彼の中に眠っていた力が、目覚めたのだ。


 それは全てを見通す魔法。視力の強化や遠視の魔法などではなく、距離を関係なしに現在の全てを見通す――そんな力で。

 クロードはとにかく今を生きる為、突如身に宿ったそれを余すところなく発揮して自然界を切り抜けていった。


 そうして年月が過ぎてから、ようやく自身の持つ魔法が()()()()()()ことを知る。


 ――誰もがクロードの魔法を認知していなかった。

 ――誰もがそんな魔法は知らないと言い切った。

 自身の持つそれが既存の魔法体系から外れている魔法だと理解したのは、その時が初めてで。


 それまではある程度の実力さえあれば誰でも同じように魔物など倒してしまえるとクロードは本気で思っていたが、決してそうではなかったのだ。


 道理で魔物と対等に戦えるわけだ。一人で自然を生き抜けるはずだ。

 クロード・サンギデリラは、既にただの人ではなくなっていたのだ。


 ――そもそも、魔法というものはある程度形式が定まっているものである。

 有用だからと編み出され、便利だからと使い回され、万人が時代を越えて魔法の研鑽を積むからこそ体系が出来上がる。

 例えば人の身近にある火の魔法は相応に使われやすい。何に於いても火というものは大切だったからだ。生活魔法が広く普及しているのも使う人間が多いからであり、強化魔法に至っては誰しもが使える基本的な技能、というレベルまで普及されている。


 しかし便利さだけが大事なのではない。

 もう一つは、それが誰にでも使える魔法だということである。ある程度体系化される為には、それが万人に使いやすくなければならないのだ。

 如何に有用であり便利であっても、全人類で何人しか使えないような複雑怪奇な魔法が体系化されることは絶対にない。

 つまるところ、クロードの魔法はそういう類の物であった。


 そして、研鑽を積めば積むほどその魔法は真価を発揮する。


 全てを視るということは全てを知るということ。

 全てを知れば全てを理解することも可能だということ。この世界全てを網羅できる彼には、誰も使えぬ空間転移などという奇跡の所業すらも可能にしてしまう。


 そうやって生きてきたからこそ到達した終着点がある。

 クロード・サンギデリラだからこそ到達した結論がある。


 この世が何であるのか――。

 そんなもの、過去や未来を視るまでもなく、現在を見通すことさえできれば到達は可能だ。

 現在の全てを知れるのなら、過去を想像することも未来を予測することもできるのだから。


 つまりは。

 この世界の〝神〟という荒唐無稽な存在を認め、神という存在の行いを認めたのであれば。

 世界がどのようにして継続しているのかを知るのは、そう難しいことではない。


 ――ああ。知ってしまったのだ。

 自分達は所詮、天上に住まう神々に造られただけの物だったということを。

 村が滅びたのも一人で生きたことも特殊な魔法を扱えたことも全ては最初から決まっていた盤上の出来事であったということを。


 全ては意識的に意図的に造られた一本道なのだとクロードは知った。

 これまで自分が自分の意志で決めてきた生き方は、そうなるように設計されただけの規定事項でしかなかったと理解した。

 今まで己が必死に頑張っていた何もかもが、神々が齎した規定事項から逸れていないことを理解した時――クロードは初めての絶望を抱き、そして同時にとある決意を胸に刻む。


 ならばその神を自分と同じ盤上に引き摺り降ろしてやろう。

 何でも思い通りに出来ると考えるその浅はかな傲慢を砕いてやろう、と。


 そうと決めた行動さえもが規定事項であるかもしれない事を考慮して、クロードは行動に移した。


 長い、長い、準備だった。

 何のために次元の狭間まで活用したと思っている。神々の邪魔を細々と続けてきたと思っている。少しずつ盤上の調子を狂わせてきたと思っている。

 全ては直接この地獄に神々を引き摺り降ろすため――今更崩されてなるものか。


 この世はお前達の思い通りにはならない。

 人が、魔物が、世界が、全ては己の意志で生きているのだと証明するために。

 これより始めよう、終幕と開幕の物語を。


 ――あぁ、ようやくこの時だ。

 期は熟した。条件は整った。悲願はすぐそこにある。ならば突き進もう、果てのない旅路の終着点へ。

 その先へと進む為、全てを犠牲にする覚悟はとうの昔に出来ている。


 さあ、現れよ、顕現せよ。

 世界の救い手たる神々よ。

 その威光を以てこの世の災禍を断ち切り給え。

 その時こそ――。


 神を、簒奪する。












「ああ――よく頑張っているよ、勇者の子は。心身共に限界を越えてるっていうのにまるで諦めることをしないのだからね」


 繰り広げる戦いの最中だ。

 離れた場所で死闘を続ける勇者と魔神の戦いを眺めつつ、クロードはふとそう言った。


「どこ見てんだテメェ――」


 ギリアムは右手の魔晶と地中の成分を掛け合わせて一本の刃を練成、血のようなどす黒い切っ先を片手に握り、クロードの喉元へ突き込む。

 クロードは手首のスナップで直剣を自在に操り、回転させるようにして上から斜めに弾き飛ばす。

 素早く右手順手に直剣を握り直し、ふむと頷いた。


「その魔力……魔神に吸収されてしまわぬよう自らの魔力で保護したようだね。中々繊細なことをする、もっと怒りで我を忘れているのかと思っていたが」


 滔々と語りながら、背後から迫る魔毒と呪縛を返す刃で切り崩した。

 クロードは敵対する残りの魔法使い二人を視界へ収め、

「まあ僕としては――ラッテ。君が敵対したことが一番の驚きだけど」

「そんなに驚くこと? 気分が変わっただけだよ。人様の獲物を横からぶんどる――だから敵対する、そういう気分になっただけ」


 ラッテは両腕に魔毒を這わせると、クロードの懐へ肉薄する。その拳に纏う毒の魔力は触れるだけで死に追いやる類の――文字通りの〝魔毒〟だ。

 高位の魔法使いだとか化物だとか一切関係なしに、その攻撃の直撃は死を意味する。


 クロードがあまり得意でない肉弾戦をどうにか躱して後方へ逃げた先、ギリアムの援護射撃が間隙を縫って飛んでくる。

 それが、ただの矢や砲撃ではなく〝錬金〟魔法による攻撃と来れば厄介極まりない。

 更にその物質に特異な魔法が重ね掛けされているとなれば――これも絶対に当たってはならないものだ。


 その二つの波状攻撃を捌き切ったところで終わるわけもなく、ディッドグリースの呪縛がじりじりとクロードの行動範囲を蝕んでくる。

 当然それも触れてはならない魔法であり――霧状の紫色が接触してしまわぬ前にラッテを振り切り、クロードは次元の狭間へ跳んで空間を転移した。


 ここまで防戦一方。そしてこれからもクロードが攻勢に出られるタイミングはない。

 そう冷静に分析し、呪縛に汚染された直剣を迷わず投げ捨てた。ほどなくして、合金製の剣がどろりと汚泥に変化する。


 やれやれ、と感情を吐露して。

 扉でも叩くように空間を叩いて割ると、その手に新しい直剣を手にし――かちり、鞘に収める。


 果たして彼が何を行っているかなどこの場の全員が知る由もないが、彼自身のみが扱える〝断層〟に一々疑問を挟む面子でもない。

 各々がただ彼の魔法を分析し、この場で敢えて()使と名乗った彼の一挙一動に注目していた。そう自らが名乗る以上、彼の魔法は単なる()ではないと見るべきだ、と。


「いやぁ、僕はそんなつもりはないんだけどね。ただ自分の目的の為に動いているだけでさ」

「俺を利用した上に先に攻撃仕掛けてきた奴の台詞じゃねぇな」

「君が余計な疑念を抱きさえしなければ何かをするつもりはなかったし、それに君も僕を利用していたのだろう? それでも感謝はしているよ、研究を見事完成させてくれたのだから」


 クロードはその右手に赤く輝く結晶を握った。特殊強化結晶(リキャストクリスタル)、魔力の外付け装置――そして魔物の変異魔力――ギリアムは舌打ちする。


「今更だが、お前に報告なんぞしてねぇはずだが?」

()()()()からね。それで説明は十分だろう?」

「ああ十分だ、死ね」


 宣言。放つ魔力が空間へ溶け込み、世界そのものを造り変えるギリアムの錬金魔法。錬金とは名ばかりの彼自身の特別製(オリジナル)。求めた結果を自在に錬成するギリアムの魔法が、無尽の刃を以てクロードへ降り掛かった。


「……おっと、これは」


 剣の柄に手を掛けようとして――クロードは空間を裂いて脱出する。


「それで逃げられると思っているのかな?」


 その転移先に大量の呪縛がばら撒かれ、ぎょっと目を見開いたクロードは前面を覆うように障壁を展開した。びしゃりと張り付いた呪いは障壁を容易く砕き、その先のクロードを呑み込んでいく。


「どうしたそら避けてみせろ、この程度で死ぬタマじゃあないだろう君は!」

「やりづらいったらない、というか流石に三対一は分が悪いなぁ……」

()()()()で済むと思ってるわけ?」


 クロードは自身を呑み込まんとした呪縛と魔毒を相手に魔術陣(・・・)を起動した。サーリャが扱うそれとはまた違う魔力の流れを持った、青白い輝きを放つ何らかの術式。それらがクロードの肉体から魔力を吸い上げ、異常な増幅を繰り返して魔力が膨れ上がると、呪縛と魔毒の両方を相殺する。


「まあ、凌ぐだけなら可能ってことさ」


 クロードは即座に三人と距離を取った地点へ転移し逃げ延びていた。

 その表情には幾ばくかの疲れが見えるものの、未だに張り付いた余裕だけは消えていない。

 しかしそこには明らかな戦力差がある。クロードが他の三人より飛び抜けて魔法の扱いが精巧なのは見て取れるが、とはいえ三人を相手には絶対に覆ることがない差があった。


 それでも余裕があるのは目的が〝別にあるから〟に相違ない。即ち、三人を倒す必要がないということだ。


「大手を振って敵対をするつもりはなかったんだけどね、少なくとも君達とは……」

「いやいやクロード、あんなことやって敵対してないって方がおかしいでしょ? 見てみなよ」


 ラッテが親指を示した先にあるのはただただ荒れ果てた都市。そこに荒野はなく、生命もなく、

「あれはやり過ぎでしょ?」

「そうだね。すまないとは僕も思うよ。ただ、()()()()はやっておかないと――条件は満たせない」

「条件?」

「そう、条件だよ。それを満たすための一つとして、魔法都市はどうしたって邪魔だったから」


 救世主足り得る存在をこの世界で代替されては困るのだ。

 この世界だけではどうにもならない脅威がなければ条件は満たされたない――だから破壊しただけのこと。

 クロードは勇者を一瞥し、「これもその一つだよ」と言った。


「勇者も、邪魔だったからね」


 あればかりはクロードではどうしようもないものだった。

 だからこそこの場面に現れないよう修正したはずで――それが現れたということは、神々の意志に修正し返されたということでもある。ヲレス・クレイバーに細工をされていなければ倒されているのは魔神の方だろう。

 その場合は最初から別の手段へ移行する腹積もりではあったものの、それほどの脅威を〝勇者〟は持っている。


「――補助するわ、《ファイア》!」


 クロードの真後ろ。少量回復したなけなしの魔力を振り絞ってサーリャの加護を得、雷で加速したソーマが一直線に飛び込んで来た。

 形態変化させた大鎌を右側に、両腕をこれまでかというほど伸ばした必殺の構え――ああ、あんなものを貰えば身体は真っ二つだろう。

 攻撃が分かり易いという欠点を補って有り余る速さと重さだ、クロードは防御に徹しなければ対処はできない。

 だが、今更それがどうしたというのだ。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 起動した魔力がクロードの周囲で輝き、青白い軌跡が空へ術式を刻む。

 術式それ自体が周囲の空間を取り込んでから起動し、透明な壁がソーマの大鎌を完全に押し留めた。

 苛烈な金属音と火花が障壁の前で散る。


 だが攻撃が通らないことなど端から承知していたようで、ソーマはそれを判っていながら更に力を込めてきた。クロードを障壁に掛かりきりにする算段か、補助の炎と雷が障壁を破壊せんと鎌へ流れ、弾ける火花の量が増す。

 そのやり取りの横――黒い塊が墜落してきた。


「ガ――ハッ――」


 それはズタボロの黒装束。血塗れの肌から覗かせる白い骨が、千切れた肉が、その女の敗北を意味している。


「なるほど? そのための時間稼ぎというわけだ」


 人外の再生能力を持っていても、こう手酷くやられては戦線復帰に間に合わないだろう。


 クインが墜落させられた方角から烈火の如く魔力が膨れ上がった。

 クロードが意識だけを傾けると、魔晶の少女が自らの背後を取っていることがすぐに分かる。魔神による荒ぶる魔力の中で、それだけの圧が彼女から発されており――。

 ノアはより増した魔力を開放させ、クロードに狙いを付ける。


「後はおまえだけ、だああああぁ!」

「悪いね。でも、タイムリミットだ」


 彼女の腕を螺旋が描き、真っ赤に染まった拳がクロードへと打ち込まれる。

 肉も骨も砕けて破砕され、鮮血を辺りへ撒き散らされる。


 今度こそ防御も回避も反撃も行えずに一撃を受けたクロードは――その状態のまま、くつくつと。

 薄く、笑みを引いていた。


「いいさ。一撃くらいは君達に譲るとする……さあ、それでは全員で見ようじゃないか」


 ――勇者の敗北を。

 胸元にでかい風穴を開けられながらも、余裕たっぷりに彼は告げて。


「――――オオォオオオォオオオオオオオオォオオオオオオオ!!!!!!!」


 魔人が咆哮する。

 大木よりも太く巨大で凶悪な腕の先には、握り潰されて動かなくなった〝勇者〟の姿があった。


「リー、ゼ――」

 その声は、次の宣言にかき消される。

「さあ今この時をもって脅威は消失した! 最早お前を阻むものはいない! 誰もお前を止められない! 為すべきことを今! 魔神よ、()()()()()()()()()()!」


 その刹那、時が停止した。

 そう錯覚するほどに無音が世界を支配していた。


 誰もが動かない。ラッテも、ディッドグリースも、ギリアムも、サーリャも、クロードも、クインも、ソーマすらも。後一息でクロードを殺せる位置のノアでさえ、動かなかった。

 ――動けなかった。


 数秒間の空白の後。

 言葉通り世界を滅ぼしてしまえるだけの魔力を、魔神が解放した。

 魔神が溜め込んだ魔晶数千分の魔力を秘めた魔力爆発――。


 世界が一気に紅く染まる。

 空も、大地も、全てを紅く紅く紅く紅く、地獄のように染め上げて――。


 今日この日を以て、この世界の全ては消――――――――。


 ――――――――――――。

 ――――――――。

 ――――――。

 ――。




「させるわけないだろうこの馬鹿めが。さては妾を忘れたとは言うまいな? 貴様がまだこの世界を破壊せんと縋りついていたように――妾もまた護りに来たぞ、()()()()()使()()!」




 世界が崩壊するその直前。

 魔神の周囲へ幾重もの亀裂が走り、その全てから現れた巨大な()()()()が――魔神を串刺しにした。そして、魔神を取り囲むように()()()()()()が展開される。

 それはまるで、捕まえた獲物を逃がさない檻のように。


 ――ぴしり。

 魔神の眼前に小さな亀裂が走ると、そこから少女が現れた。

 小さな体躯に虹色の魔力を纏わせて――少女は腕を組む。


 少女はふん、と鼻息を鳴らして。

「はよこいやボケ共だらだらしてるとゲート閉じるぞ。え、何? 先行するなって? 阿呆がこちとら何年何百年、いいや何千年ぶりの人間世界だと思うとるんじゃわくわくしてんだよ分かれ。そしてお前ら若造がもっと急げ」

 場に似つかわしくない、そんな軽い冗談混じりの暴言を吐いた。


「……(ぬし)は歳取らんだろ? この儂は正常な世界で百年以上生きているんだから、もう少し思慮を深くだな」


 亀裂から新しく顔を覗かせたその姿に、魔法使い全員が反応する。

 その老躯。年季ある黒いローブを羽織った老骨。蓄えた白い髭――それは紛れもなく殺害されたはずの、〝万能〟の魔法使いアリュミエールであり。


「俺のお陰で出られたということを忘れていないか? ガデリア」


 それに続いて登場した人物にサーリャとソーマとノアが、目を見開いた。

 亀裂から出てきた男――彼を知る誰もが見間違えるはずもなく。


「うるさいぞ一発蹴り貰っとくか? 第一妾が拒んだら世界は滅びていたぞ」

「そうだが、急ぐ意味はなかったろう。時間との接続を失っていたのだから、どれだけ急ごうが遅れようが()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ」


 ――少女と対等に話しているその男は。

 それまでどこかへと姿を消していた、レーデであった。

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