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トラベラーズ・レコード  作者: くるい
至るべき世界
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八十五話 神呼びの儀式

「――逃げて」


 大声で張り叫ぶ声ではなかったけれど、誰もがその声の方向に振り向いた。

 この戦の中で声が届いたのは、別にテレパスを使用したとかではない。まるで時が止まったかのように行われていた全ての戦いが停止(・・)したからこそ、場の全員へと届けられたのだ。


「出来るだけ遠くへ、逃げて」


 敵はぴたりと行動を止め、サーリャ達に攻撃をしようとはしなかった。

 それどころか動作を止めた敵軍が一人、また一人、赤い魔力の粒子となって天へと昇っていく。


 ――彼らは魔力となって、還っていた。

 遥か空より大地を見下ろす魔神(・・)に魔力が集まっていく。大木よりも太い足が赤く滾り、山のように巨大な体躯に赤を纏っていく。

 それは絶望の体現。予想し得る上で最悪の事態。


 サーリャはあまりの力の差を肌で感じ、唖然とその光景を見上げていた。動けない……いや、こんなの、動けたってどうすることもできないではないか。

 ――だって、何千と存在していた敵の全てがあの魔神と同化していくのだろう? それだけの魔力を内包したモノに立ち向かうことを勇気とは言わない。

 自殺をしに行くようなものだった。


 膨れ上がる魔力を浴びるだけで意識が肉体から抜け落ちそうになる。これまでよりも何倍にも膨れ上がった魔力が、全身に重圧を与えてくる。

 それはサーリャだけではなく、ギリアムも、ディッドグリースも、魔法を行使しようとしたその態勢のまま動けないでいた。


 息をするのさえ忘れるほどの、強大な魔力。

 ――こんなの、どうしろと。その絶望が、サーリャの足を地面に縫い留めていた。


 だから。


「――はあああああああああぁああああ!」


 虹色の魔力を全開にしたリーゼが空を駆けて魔神へ突貫するのを、サーリャは止められなかった。

 これまでどんな戦をも切り抜けてきたリーゼの魔力も、光り輝く虹色の剣も、アレには――。


 僅かに伸ばされた指先だけが彼女を追う。視界と重なった人差し指が虚しく空を掴んで。

 リーゼの小さな身体が、巨大な腕に叩き落された(・・・・・・・)


 ただの一振りだった。

 リーゼを捉えた魔神の腕が、上から下へと無造作に振られただけ。そんな虫を払う程度の動作で、勇者リーゼはただの一撃で腕と地面の間に押し潰される。


 ごうん、まず初めに激しい衝撃が大地を揺らした。次に耐え切れなくなった地盤が崩壊し、全員の立っている足場が砕けて巨大なクレーターを生み出す。


 重たげに持ち上げられる腕の下、真っ赤な血に染まったリーゼが倒れていた。

「……づ、うっ」

 虹色の魔力を不安定に放出しながら、彼女はそれでも剣を取る。折れた手足で力強く立ち上がり、彼女は全身に魔力を纏う。

 勇者の肉体強化は普通のそれとは違い、本人の底力を何倍にも引き上げる驚異的な固有魔法だ。だが万全ではない上に、全身に重傷では済まされない傷を負うリーゼには負担が掛かり過ぎる。

 折れた骨や筋肉は、少し動かすだけでみしりと軋む。だがリーゼは諦めない。全力を以て剣を振るい、反撃とばかりに魔神の腕へ斬撃を放った。


「――《天象神化》あぁぁ!」


 彼女の纏虹神剣がより強く輝くと、天から真下へと振り下ろされた剣の先から虹雷が迸る。それは進むほどに大きく力を増して空間を裂いて、魔神の腕の半ばへ食らい付く。ばちり、と雷鳴が轟いて――大木よりも太いその腕が、真っ二つに両断された。

 血は出ない。肉体のほぼ全てが魔力の塊で構成されている腕は、魔神本体から離れても空中で停滞するのみに留まっている。

 つまりリーゼが削れたのは、切り裂いた部分の魔力(・・)だけ。


 腕の切断面から幾重もの赤黒い触手が生え、何事もなかったように元通りに接着されていく。


「……ぜんぜん、たり、ない」


 リーゼは掠れた声で呟き、更なる勇者の力を引き出した。それはあの時灰色が吹き荒れた時よりも強い、虹色の嵐。彼女の周囲を旋回して暴れる魔力が、彼女の意志を力へと変換する。

 誰にも止められなかった。魔神の魔力だけで心も身体も押し潰されていたサーリャは言葉一つ発することができない。


 本当は止めなければならない。そうしなければ彼女は自分の存在が滅ぶまで戦ってしまう。だがどれだけ力を入れようとしても、指先一本動きやしない。

 魔法使いとは所詮、こんなものなのか。どれだけ魔力を放出しようとしても、身体の自由が効かないだなんて。そんなはずが――。


「やぁ、壮健なようで何よりだよ。サーリャ」


 それは煙を纏って、ゆらりとサーリャの前に登場した。

 黒いシャツを着た金毛の青年。理知を思わせる青金の瞳がこちらを射竦めると、懐から小さな水晶を取り出して。


 そこでサーリャは気付く。

 彼の象徴たる白金の外衣さえ羽織ってはいないが、その顔を見間違えるはずもなく――。

 自分が動けないのは、恐怖と魔神の重圧に平伏しているだけではないのだと。


「……上手く嵌まったけど、人形相手にお喋りをしていても流石につまらないね」

 パチン、()()()()が指を鳴らした。

「――っ! ク、クロード――アンタ、」

呪縛(・・)を解いた途端に叫ぶのはやめて欲しいね。僕は君とじゃれ合いに来ただけなのだから」

「呪縛ですって……? 自分が何をやっているのか……分かってんでしょうね」

「そりゃ勿論。君の、君達の推測は実に的を射ていると言えよう。終ぞ僕の目的にだけは気付くことはなかったけれど……」

「ぬけぬけと……今すぐ止めなさい、あんなもの起動してどうするつもりよ! 世界でも壊す気? あんなもので支配者にもなったつもりなのかしら? っは、笑わせてくれるわね」


 クロードはやれやれと首を横に振って。


「世界を壊すには至らないよ。確かにアレは世界を滅ぼしたがっているけれど、その願いは叶わないだろうね」

「……何が言いたいわけ? アンタが何をしたいのかも、何言っているのかも訳が分からないわ。戦争を起こして、魔法都市を壊滅させて、あんな化物まで生み出してまでアンタがやりたかったことって何?」

「知る必要があるのかい?」

「アンタいつでも私を殺せるんでしょ、だったら教えたって何も問題ないじゃない」


 突如現れたクロードにサーリャは困惑していた。今まで頑なに姿を見せなかったはずが、どうして今この場で現れたというのか。


 ――そして、これは〝クロード〟だ。サーリャの知るクロードと同じように見える。何者かに操られているような雰囲気には、決して見えない。

 だが、サーリャを縛っているその呪縛(・・)とやらを見ればクロードがどれだけの外法に手を出しているのかは窺える。恐らくはギリアムもディッドグリースも、クロードの何らかの手によって動けないようにされているはずだ。


 なら……何故彼はこんなことをやっている?

 その上で、何故自分に話し掛けてきた?


「それもそうだね。ここまで来れば種を明かしたところで未然に防ぐことはできない。いいよ、教えてあげる」


 クロードの背では決死の覚悟で戦うリーゼと魔神の姿が。

 本当なら今すぐ加勢したいが、彼が解除したのは喋ることだけ。肉体は依然として封じられたままだ。無理矢理魔力を流し込めば対抗できるのかもしれないが、大魔法を不発させられた時点でサーリャの魔力は枯渇しかけていた。

 流石に暴れる魔力など残っていない。


 奥歯を噛み締めるサーリャの伸ばし続けていた腕にクロードが触れてくる。

 払いのけることも、また出来ない。


「最初こそ、純粋に魔法使いを強化するための研究だったんだよ。あの魔晶の研究はね」

「よく言うじゃない。最初から魔神を生み出すためだったんじゃないの?」

「いいや」彼は強く否定する。


「本当に魔法使いの為の研究であったよ。けれど僕は研究を続ける内に、ある日見つけてしまったのさ。そして気付いてしまった。こうして研究をする僕も、そうやって精一杯生きている君も、この魔法都市も、魔物も、そもそもこの世界が彼らの箱庭(・・)だってことにね」

「……はぁ?」

「勿体ぶる言い方をしてしまったかな。でも、それが事実さ。この世界は箱庭さ――動物も魔物も魔法も、この世界も含めて、何者かに造り上げられただけの箱庭だったんだよ」


 彼は暗い雲に覆われた空を見上げ、サーリャの腕に這わせていた指を空へ突き出す。


「僕はね。この天上に存在し、遥か高みから僕達を造り上げ、観察している神々(・・)を地上に引き摺り降ろすつもりなんだ。だから世界は壊されない(・・・・・)。世界が本物の危機に陥れば、神々は観察を終わらせない為に必ずやってくる。魔神は、神呼びを行う為の一手段に過ぎない」

「……神、ですって」


 サーリャは息を呑んだ。普段なら馬鹿にしてしまうような空想や妄想の話なはずだったクロードの言葉が、これまでの旅と重なってくるのだ。


「そう、神だ。神は僕達が住むこの世界を丸ごと実験しているような連中でね。彼らは世界を造り上げ、僕達が醜い争いを繰り広げているのを上から眺めて楽しんでいるんだ。僕達が本を読むような感覚で」

「……アンタが言いたいことは分かった。でも、呼んでどうするっていうの」

「おや? 君は()を知っているんだろう? 人が生み出した空想のことじゃないよ。今この世界の裏で密かに動いている、神のことだ」

「……!」


 そこまで言われれば、嫌でも一つの存在に辿り着く。それは魔物を束ねて何かを企んでいる女神イデアのことしか考えられない。


「僕は〝神〟を超越するために、神を呼ぶ。必ず来るよ、僕は彼らが来ることは知っている」

「どうして断言出来るわけ?」

「彼らは世界の危機を事前に知ることで、危機が訪れるよりも前に崩壊の可能性を潰して回っている。だからこそ僕は断層(・・)に隠れて神の目を欺き続け、こうして魔神という危機を生み出すことに成功したわけだ。そうなった今、彼らは直接魔神を止めに来る他にない」

「……神様ってそんな奴らだったかしらね。私の知っている神様ってのは、世界の崩壊に立ち向かうような連中じゃないわ」

「いいや来るとも。彼らは別に僕達の為を思って世界を救っているわけではないのだからね。そのために他の可能性はゼロにしたかったんだ。こうして君達を縛り付けたのもそう、君の魔法も阻害したのもそう――流石に魔法陣(・・・)経由でアレを使われたくはないからね」

「……どこまで覗いてんのよ。随分と趣味が悪いのね、アンタ」


 きっと、魔法陣のことも知られているとは思っていたけれど。その口ぶりは、さっき初めて知りましたという言葉ではない。舌打ちを浴びせるサーリャに「プライベートには関与していないよ」笑い掛けてくる。


「そんなこと言っているワケじゃない」

「まぁ、ともあれ。これから神を呼ぼうってのに、いくら疑似的とはいえ火の神など呼ばれて計画を狂わされるわけにはいかなかったのさ」

「っは、出した所で時間稼ぎにしかならなかったわよ」

「いやいや、ゼロじゃないよ。謙遜する必要はない。勝てるだけの可能性はあの魔法には秘められていた。僕は君を正しく評価している」

「上から目線極まりないわね。忌々しい」

「現然たる事実を述べたまでだけど。全く、僕はあの魔神を生み出す為に数千の魔晶と一つの国を消費したというのに、君は一人でやろうとしているのだから……頭が上がらないね」

「――この野郎。で、なんなの、殺すならさっさと殺しなさいよ、何の為にアンタは私に話し掛けてきてんのよ、おちょくってるわけ?」

「違う、僕は君と戦うつもりはない。そこで固まってるディッドグリースも、邪魔だから一度は始末さえしたそこのギリアムだって今殺すつもりはあまりないんだ」


 言う。サーリャと同じく動くことを封じられているギリアムが、怒りだけで首をぎちぎちと動かしてクロードを物凄い形相で睨み付けていた。

 クロードは肩を竦めて、くつくつ笑んでいる。

 本当に心の底から楽しがっているだけに見えるけど――じゃあ、何の為に。


「あ、別に殺さない理由がないわけじゃない。でも君達を殺したところで今の魔神に取り込む意味もないからね」

「取り込むって……! アンタ、まさか樹海で戦っていたバロックは、殺したの?」

「君の粋な指金(・・)で暴れてくれた彼か、別に無事だよ? 君と同じようにちょっと話をして、遠くの魔物対峙にでも足を運んで貰ったけど」

「……ああ、そうなの」


 真偽は問えないが、言葉に嘘はなさそうだった。

 というかそんな場面からずっと覗かれていた? 冗談じゃない。どの時点から見ていたというのだ、こいつは。


「――じゃあ、まさか。アンタがリーゼの異常も引き起こして」

「いいや、それは関係ない。僕が勇者の不調を利用しているのは事実だけど、別件だ。僕はヲレスとは無関係」

「……じゃあ何でそれを知ってるっていうの。断層(・・)で見たとか言わないでしょうね」

「ははは、分かっているじゃないか――さて、そろそろ来るね。僕は、もう一つのイレギュラーを止めるために来たのだから」


 クロードは腰の直剣を引き抜く。無骨な鉄製の剣だ。

 それを右手に持ち、切っ先を何もない空間へと差し向ける。

 リーゼと魔神が争う方向でもなく、サーリャ達でもない場所に剣を? 何をするつもりだとサーリャが問う前に、赤い魔力(・・・・)がこちらにやってくるのが見えた。

 あの赤は、魔神――じゃない。


「どうなってんだか知らねーけど、てめーを倒せばいいみてーだな!」

「ノア、慎重にやるぞ。俺から息を合わせる」


 赤い魔力に、走る青い雷電。

 この都市に来て最初に出会い、別れたはずの――ノアとソーマであった。


 クロードは剣に魔力を走らせ、特攻してきたノアへその剣を盾のように翳した。魔力と魔力がぶつかり合い衝撃圧が発生する。打ち合うノアの合間を縫い、クロードの頭部目掛けてソーマが放った雷が飛来する。

 しかしクロードは空間ごと(・・・・)雷を切り払い、ノアではなくソーマへ意識を向けた。


「うん? てっきり君は死んだと思ったけど。また、会ったね」





 ◇






 少し前のこと。

 再びヲレスの診療所地下の培養液を利用して体力を回復させたノアとソーマが、瓦礫だらけの魔法都市を駆けていた。


「つーかやばいだろ、これ!? いつのまに化物はあんな近くまで来やがってんだよ!」

「長い間を回復に当ててしまったからだろう。とはいえ俺達が相手にするのがアレだ、急ぐよりも万全の状態で挑んだ方がいい」

「それもそーだな、結局真正面からぶつかるしかねーしな……って、アレ! 見ろよソーマ!」

「……?」


 走りながらノアが示した方角へ目を凝らす。ソーマに見えるのは赤い渦と、巨大過ぎる魔神の姿だけ。

 しかしノアには見えていた。魔晶の力で強化された視覚が、濃霧のように濃く撒き散らされた魔力の中で戦う者たちの姿をはっきりと映していたのだ。


「やっぱいやがる――クソが、いや分かってたけど」

「ノア? 何が見えるんだ」


 そこに居るのはサーリャとディッドグリースとギリアムだ。当然ノアは戦ったギリアムについて悪態を洩らしているわけだが、サーリャ達が共闘する旨も事前に聞いていたために驚きはノアにはない。

 しかし直接見てしまった以上は不の感情が昂るのは止められないため、悪態を口に出すことで感情を抑えているわけだった。


「あれ? あの虹色……もしかして勇者、か?」


 これ以上はと半ば逃げるように視線を逸らすと――力を失って戦えなくなっているはずの少女が、巨大な魔神と直接戦闘を行っていたのだ。それも中々に善戦しているようで、魔神が幾度となく切り裂かれては再生を繰り返している姿が窺える。


 というか、なんだ、何かがおかしい――そうだとノアは呟く。

 勇者以外の三人が全く動いていないのだ。それに――サーリャに重なって見にくかったが、もう一人だけ人物がそこに見えていた。黒い服に金色の髪が特徴の人物で、細身の剣を手にしている。


 その人物だけが動いていたのだが、その姿に見覚えはなかった。

 ノアにはその人物が何やらサーリャと話をしているように映ったが。しかし。この状況で悠長に会話をしているのは、何故? そんな余裕や時間がないのは誰が見ても分かるはずなのに。


「なんだアレ……? 別の仲間か? 何やってんだあれ、リーゼしか戦って」

「――ノア、俺にも説明をしてくれ。俺には見えない」

「ん、あ、あーそっか。すまねー……えっとな」


 ノアが見えている範囲の情報をソーマに伝えるとソーマは目をぎょっと大きくした。

 それからその場所を睨むように見つめて、小さく首を振る。


「なるほど、戦っているのは彼女なのか……ふむ。〝金髪〟の男も気になるが」

「ん、知ってんのか?」

「知っていると言われれば、多分そのはずだとは思う。ノアがギリアム・クロムウェルと戦闘している間に、俺が戦っていた人物の特徴に似ていた」


 濁す形でそう言う。

 ソーマが確証に至り切れないのは、その人物が白金の外衣を着用していなかったことにあった。


 金髪と剣を装備していることからある程度予想はできるのだが、これまで魔法使いというのは全員が特徴的な外衣を必ず羽織っていたのだ。ただの衣服というだけでなく、魔法的な補助や階級等の役割も果たすため着用しているのだと解釈していたが――着ていない、となると予想が外れている場合も十分にあった。

 同じ髪の色と似た武器を持っているだけで、同一人物と判断することはできない。


 だがそれは疑問を持たないことには繋がらなかった。

 明らかにおかしな状況で、他にも不明な点がいくつもある。

 ソーマは少し考えてから、こうノアへと聞いた。


「声は聞くことはできるか?」

「声だって?」

「この距離でも鮮明に特徴が捉えられるほど視力が強化されているなら……或いは遠方の音も拾えるのではないかと思ったのだ。俺達は元々、そういった五感は強い。今のノアならもしかしたら聞こえるかもしれない」

「あー……それもそうだな。ちょっとやってみる、ただあんま期待すんなよ」


 あまり常識的なことではないため、聴力を使うことはノアには考え付かなかったのだ。少し自信がなさそうに返すノアに「頼んだ」とソーマは言う。

 言われるがままに意識を耳へと集中させた。視力とは違って具体的な位置の音を狙って聞き取ることなどやってはこなかったが、その自信の無さに反してノアの耳には視界とリンクした音が全て()()()()()()()


 リーゼと魔神が戦う激しい戦闘音から空気や魔力の流れまで、音が混ざり合うことなく正確に耳へと届けられてくる。

 当然――サーリャとその人物が交わしていた会話も、全てが聞こえていた。


「あ……クロードって言ってるけど」

「やはり、間違ってはいなかったか」

「そんなことよりもだソーマ! 速度限界まで上げる、うちの手に掴まれ!」


 叫んだノアは返答を聞かずにソーマの腕を引っ掴んで、そのまま、今までの数倍に及ぶ速度で駆け出した。放出される魔力の残滓をその身に受けながら半目で問えば、ノアは更に速度を上げながらこう言う。


「悪いけど簡単に説明とかできねーかんな! 全部言ってくから理解してくれ、得意だろそういうの!」

「了解した――」






 ◇






 遠くから、駆ける二人の姿を眺めている者が一人。

 それは黄白の外衣をはためかせる魔法使いの女であった。


 彼女が二人を視線で追い続けた先。巨大な化物のシルエットが、赤く塗りつぶされた魔力の霧越しに見えている。見逃すわけもない、ずっと前からしつこいほどに存在感を見せていたのだから。


 彼女は側頭部の髪束を掻き上げ、苦笑気味に溜息を吐いて。

 それから一人ごちた。


「ノアちゃん、随分元気そうだけど……あっれー、もしかして……もしかしなくても、何? あれと戦うつもり? 本気? えー……うわぁ、勇気あるねぇ」


 一緒に走っている男は魔法使いは認知していないものだった。頭の中に浮かべた人物とは姿が違うことに首を傾げて、組んでいた腕をそっと外した。


「まあ、それしかないよね……あーあ、面倒臭かったからいいかなって思ったんだけど」


 緑色の魔力が彼女から溢れ出る。

 ――その行為が意味するところは一つだけ。

 魔毒の魔法使いが、戦うということだ。


「ギリアムも行ってるみたいだしね。私も敵対(・・)する理由ができちゃったわけだ――しゃあない、行くか」






 ◇






 立て続けに繰り広げられるノアの拳を剣で受け流し、クロードが大きく後退した。精悍な目つきで睨むノアへ笑い掛ければ、戦いの途中だというのに剣を腰に仕舞ってしまう。


「怒ることはないじゃないか。今更、一人や二人」

「てめーらのそういうところが嫌いなんだよ、魔法使い!」

「ノア、落ち着け、俺は生きて」

「知ってるし落ち着いてる。嘆いたって仲間だったモノは戻らないしな……終わらせるぞ、ソーマ」


 ノアの驚異的な聴覚がサーリャとクロードの全ての会話を正確に聞き取っており、クロードの正体を掴んでいたのだ。

 敵ではあっても仲間などではなく、サーリャやリーゼを助けるため、魔神の戦闘に取っておいた余力をクロードの奇襲へ回した。

 それも事前に気付かれていたらしく、躱されてしまったのだが。


 胸部の魔晶が輝き、ノアの魔力が極限まで高まった。

 クロードが「おお」と呑気に関心する中、魔力の螺旋が彼女の周囲を覆い、表面を鎧の如く纏っていく。


「何が研究だ、何が神だ、そんなくだらねーことでうちらを巻き込みやがって!」

「やぁ、会えて嬉しいよ。君のお陰で研究が最終段階へ進んだようなものだ、とはいえ……この短期間でそこまで魔晶を物にするとは思わなかったけどね」

「ソーマ」


 青雷がノアを横切りクロードへ飛来した。

 雷に合わせてノアが突っ込み、拳に纏わせた魔力をクロードへと放つも彼の手の平に受け止められる。


「っと、素で受けるのは流石に効くな」


 防いだその上にソーマが踊り出た。両手に構えた大斧が体内から発された電気に反応する。鉄と鉄が擦り合い弾かれ、駆動することで大剣へと形を変え、体重と合わせて斜め上から叩き込まれる。

 ――が、ひび割れた空間が現れ、そこで大剣も防がれてしまう。


「極まった能力に完成された魔晶、合わさるととてつもないコンビネーションだね」


 対するクロードは余裕たっぷりに評価を述べると、背後へ出した空間に身体を沈めて姿を消す。

 二人と距離を離した位置へと再び現れ、彼は右手の指を鳴らした。


「おいで。クイン」


 彼の横に空間の裂け目が生まれ、漆黒の影が飛び出すと――黒塗りの刃が、ノアの喉元へと突き込まれた。

「……おま、え」

 ぎぃん。魔力に阻まれて刃がひしゃげる。右手に刃を握るその人物は、無表情でこちらを見つめていた。


「そちらの子は君に任せた。僕はそちらの彼を相手する」

「――分かった」

「クイン、なんでおまえがそっちにいやがる!」


 返答は新たに懐から取り出された刃で行われた。両腕から舞う斬撃がノアを防戦へと巻き込む。

「答えろよ! おまえは後方の奴らへ情報を伝えに行ったはずじゃ」

「最初からそちら(・・・)側にいなかっただけ。それにしてもお前だけが適合するとはね――ノア」


 黒装束から赤い魔力が溢れ出す。衣類越しに胸元から輝くのは、ノアと同じ魔晶の輝きだ。

 裏切っていたのだろう。いや裏切ってすらいなかったのだ。これまで一緒に戦っていたと勘違いしていたのは、ノアだけだったのだろう。

 赤い魔力を手に対峙する仲間だったモノへ――ノアは冷たい目を向けた。頭は相変わらず混乱しっぱなしだったが、なんだかもう、どうでもいい。

 底冷えした感情が、怒りを通り越して彼女を冷静にさせていた。


「……なんだ。そう、かよ」

「お前はここで死ぬんだよ。諦めて――魔神の糧となれ!」

「――どいつもこいつも……クソヤローばっかだな。吐き気がする」


 赤と赤が、衝突する。






 ノアがクインと戦闘を始めた頃、ソーマはクロードと一歩も動かずに向き合っていた。

 ソーマは大剣を脇に構えて雷電を迸らせているが、クロードは無手で構えも取らずに突っ立っているだけだ。


「構えないのか。その剣を」

「この前打ち合った時、君は本気ではなかったろう? 手を抜いていたつもりではないにせよ、今の君との斬り合いじゃ僕の細剣が折れるだけさ」

「だから無防備に突っ立っていると」

「無防備に見えるのなら来るといい。僕の余裕を削ぎたいんだろう? そこの三人を解放するためにさ」


 クロードが示したのは、彼が何らかの手法によって拘束し続けている三人の魔法使いのことである。既にサーリャは呪縛という種が割れているが、他の二人がどのようにして縛られているのかは不明のまま。

 ギリアムはともかくもディッドグリースに呪縛が効くはずもないのだ。どれだけ少なく見積もっても彼は二種類の魔法を常に制御していることになる。


 ノアとソーマが狙ったのはそこだ。クロードの集中力を削ぎ、仕掛けられた拘束を外すこと。注意をこちらへ引き付ければ拘束が解除されるはずだ。

 実際、ノアへクイン(・・・)をぶつけさせたのはこれ以上の邪魔を受けたくないからなのだろうが……しかし、クロードにはまだまだ余裕がありそうだった。


「大方君の予測通りだよ。僕は最低でも二種類の魔術(・・)を行使し続けているわけだからね、攻撃し続ければ彼らを縛り続ける余裕がなくなって、防御に術を使うかもしれないよ」

「……魔術?」


 ソーマがその単語に反応すると、クロードがはっと気が付いたような顔でこう言った。


「ああ、僕としたことが。まだ名乗りを上げていなかったね……では改めて――魔術使(・・・)クロード・サンギデリラだ。白金と言う衣を脱ぎ捨てた理由が、これで分かったかな」


 彼の足元から、青白い魔法陣が刻まれた。それらが植物のように空中へと生え、何らかの文字を中空へと刻み続けていく。

 サーリャが目を見開いた。その魔法陣は――しかし既に彼女は言葉をも制限され、喋ることすらも叶わない。


 クロードは羅列されていく文字を眺めてこう呟く。


「僕が編み出した自立型魔術陣だ。これは魔術自らが増殖し術式を描き出すことで、力を無限に増幅させる物でね。高度な認識と理解と操作技術さえ伴っていれば、僕の魔力は大して喰わないのが特徴なんだ」


 ――このように。


 術式の一部が魔力光による輝きを見せると、赤い触手がそこから現出した。赤い魔力で構成されたそれが、横薙ぎにソーマを狙う。

 ソーマはそれを回避せず、雷を通した大剣で斬り払った。あまりに重い触手の一撃は一つ防ぐだけで体力を激しく削ったが、触手の攻撃は当然一度には留まらない。新たに現れる触手の攻撃を一つ、二つ、その場で全て斬り伏せていく。


「ぐ……っ」


 ソーマには、彼の触手による攻撃を避けることができなかった。

 ソーマが回避を選択すれば、触手の射線上に位置するサーリャへ直撃する。身動きの取れない状態であんなものを受ければどうなるかは明白であり、その事実がソーマの選択肢を削いでいたのだ。


 だが、そうして防ぎ続けるにも限度があった。

 ソーマが体力を損耗させて触手を防がなければならないのに対して、クロードは一度展開した以降はほとんど己の魔力を使わずして触手を操れる。

 このまま我慢比べをしていれば力尽きるのはソーマが先だ。だが、それ以外に選択肢がない。ソーマは治療したばかりの身体に鞭を打って、力任せに触手の攻撃を防ぎ続ける。


「どこまで持つかな」


 正に、それは絶望的な状況であった。

 魔法使いの三人は無様にもクロード一人の魔術(・・)に支配され。

 リーゼは勇者の力を限界以上に引き出し、命を削りながらも魔神と単体で戦い続け。

 ノアは同じ魔晶の力を振るうクインと殺し合い。

 ソーマはクロードの操る術式に翻弄され、彼の喉元に刃が届かない。


 誰もが一歩届かないまま、着実に状況は悪化する。


 限界はすぐそこだ。無尽蔵に生える触手に対応ができなくなっていく。いくら防いでも、終わるどころか勢いは激しさを増して――。


「随分苦戦してるねぇ、そら!」


 ――満身創痍のソーマへ止めを刺そうとした触手の一本が、ぶちゅんと潰れて爆ぜた。

 力を振り絞り、斬り払おうと準備していたソーマは直前で動きを止める。


 その力強い声は、上からだった。

 見上げた空中に見えるのは、黄白の外衣だ。

 身軽な身体をくるりと回転させてソーマの前に着地し、新手の魔法使いは楽しげに拳を構えて言う。


「へぇ。それがクロードの魔法ってわけだ? 面白い構造だけど、私の()は通じちゃうみたいだね」

「ラッテ……君まで来るのかい? おかしいな――それは、計算外だ」


 クロードの表情が少しだけ曇ったのを、ソーマは見た。

 それはソーマが生きていることに疑問を見せた時とは、また違う反応。

 彼が――ここに来て初めて、動揺を見せている。

 それまでどんな状況も事前に知っていたかのように対処していた彼が、この魔法使いには難色を示しているというのだ。


「最初はそのつもりだったけどね。でもさ、私の遊び相手を二つも奪おうだなんて――ねぇ? 図々しいでしょ、流石に。殺すよお前」


 ――尋常ではない殺気の塊が彼女からオーラのように発されて、至近距離でそれを受けたソーマはその鬼気に身体を硬直させた。身震いする四肢が、彼女の鬼気の強さを物語っている。

 魔力という概念ではなく、気迫という感覚的な物がここまで恐ろしさを内包しているとは。


 もしも敵対していたのならば、一番出会ってはならないのがこの魔法使いであったのだろう。

 そうでなかったのだけが幸いった。

 ソーマはごくりと息を呑んで、表情だけは変わらずに彼女へ声を掛ける。


「君は……」

「おっと名も知らない君。よく頑張ったね、はいこれ」


 彼女は後ろも見ずに何かを投げ渡してきた。放物線を描いて飛んできたそれを掴み取ると、それは透明な小瓶で。コルクで蓋された中身には、緑色の液体が詰められている。


「それ、私の〝魔毒〟が入ってるんだけどさ。いい具合に調整しといたから、()()()()()()()()()()()だけを溶かしてくれるはずだよ」

「……!」

「何をぼうっとしているんだか、別に理解する必要もないでしょ。さっさと掛けろ」


 語調を強めてそう命令し、彼女は一直線にクロードへと殴り掛かる。

 苦戦を強いていたはず触手が嘘のように叩き潰され、あっという間に距離を詰めた彼女がクロードを防戦一方に追い込んでしまう。


「……なるほど」


 これを使わせる時間を捻出するため、距離を離してくれたのか。

 ソーマは小瓶を右手に握り締める。


 彼女が言う〝魔毒〟がどのような物か、いくら考えたところで確かにソーマには分からないだろう。

 彼女の魔法どころか、ソーマは前提知識としての魔法の理解度が低い。

 知っているのは、敵対した際の対処法と感覚としての危険度程度のものだ。


 だから彼女を信頼するかどうかの判断は小瓶の中身云々ではなく、彼女がどう行動したかで決められる。


 ソーマはサーリャへ向き直り、小瓶の蓋を開けた。

「掛ける……頭からでいいのだろうか」

 クロードの呪縛により彼女は動くことはおろか言葉を発せないため、その辺りの判断は自身でするしかないようだ。


「――やってみよう」


 よく優柔不断だ何だととノアから言われるソーマではあるが、別に物事を決められないわけではないのだ。

 それならば纏め役など任されていない。主張を控えめにしているのは、慎重になっているだけ。

 一歩引いた地点から常に周りを見渡せるように自らを位置付けているに過ぎないだけであった。そんなことをやっていても、防ぐことの出来ない事態はどうしたって発生してしまうのだが。


「――っぷはぁ! ……ほんとに、動けるように、なったのね」


 一思いに中身を頭から掛けると、すぐに効果が発揮して彼女が動けるようになった。緑色を被った彼女は両手を開いたり閉じたりして身体の自由を確認する。

 べたついた髪を左右に掻き分け、ソーマに頭を下げた。


「……ありがと。まさか、助けに来てくれるだなんてね」

「俺とノアの選択だ、気にしないで欲しい」

 言って、小瓶の中身を揺らした。

「後の二人にも同じ事をすればいいのだな」

「……あ、私がやるわよ?」

「それには及ばない」


 残りの二人――。

 ギリアム・クロムウェルとディッドグリース・エストは死闘を繰り広げた魔法使いで、ソーマが瀕死に追い込まれた人物ではある。

 が、それを気にする状況ではないし、怖気付くソーマではなかった。効能があると証明された以上、やるのは早い方がいい。


 同じ方法で小瓶の中身を同量ずつ二人へ傾ければ、サーリャと同じようにクロードによる拘束から解放される。


「お前、よく俺を助けようだなんて気になりやがったな」

「あぁ気分が悪いな、肉体の行動を制限されるというのは……君にありがとうと礼を言うには不適切だろうが、お陰で助かったよ」


 恐怖がないかと問われれば嘘にはなる。彼らの魔法により一度は死を見たのだ、脳で理解はしていても身体に痛みは染みついている。


 だがこうして真正面から魔神戦に参加してしまった以上、ソーマの口から二人へ告げなければならない言葉があるのだ。

 そうでなければ、サーリャへ小瓶を渡していたかもしれない。


 両名からそれぞれ言葉を受けた後、ソーマは事前に用意していた言葉を返した。


「俺達は〝魔神〟という存在を打倒するためにやってきた。なので、魔法使いと敵対するつもりはない」


 たったそれだけだが、共闘を成立させるためには必要な言葉だった。

 ギリアムが面食らった顔をし、ディッドグリースが面白い物でも見たかのようにくつくつ笑うのが見えた。


「言われなくても殺すつもりなんざねぇよ。あの野郎にぶち込めるチャンスだぜ。ラッテの馬鹿に助けられたのは癪だが、時間は有効に使わせて貰う」

「うんうん是非に協力させて貰おうじゃないか――君の心の在り方は興味深い、良ければ後で話をしよう。君の仲間を殺してしまったことは、その時に改めて謝るよ」

「殺す覚悟があるなら逆も然り。少なくとも俺が受け取っていい謝罪は一つもないのだと思う。しかし話があるというのならば……後でいくらでも相手をする」


 彼女と言う個人に何人が無残に殺されたのかは知る由はないが、そう答える以外に紡ぐべき台詞はなく。

 ソーマの寄こした返答を聞くなり、とうとう彼女は声を張り上げて笑い出した。


「は、はは……はははは聞いたかいギリアム! これだよこれ、私が興味をだね――っておっともういないのか、残念。では、後ほどにね」


 そして彼女も平然とソーマを背に、クロードとラッテが戦う戦場へと駆けていく。

 見送るソーマこそ、どこか感慨深い面持ちで呟いた。


「あっさりしている。流石は、魔法使いだ」


 ソーマの側こそ、被害や勝利など顧みない無謀な神聖教国軍だ。

 背後を見せた二人を後先考えずに攻撃することだって考えられ――思慮が浅かった、とすぐに反省した。仮にそれをやるのであれば、この魔毒で解除することすら行わなかっただろう、と。


「それはアンタの方に掛けるべき言葉でしょう」


 サーリャに声を掛けられて、ソーマは思考を中断した。


「悪いわね……治ったはいいけど、もう私じゃ足手まといらしいわ」

「魔力――か」

「そうね。色々と無茶しまくってた私も悪いんだけど、残り滓でどうこうなる相手じゃないもの。魔神も、クロードも」


 言って、ソーマの肩へと右手を置いてきた。拒まずそれを受け入れると、彼女の手のひらから淡い光と共に治癒の魔力が流れ込んでくる。


「私にできるのはこのくらい」

「……助かる。ありがとう」

「こちらこそ、よ」


 瞬く間に肉体の外傷が修復されていく。赤い触手を無理に斬り伏せることで連続していた筋肉組織に神経、骨まで影響していくのを全身で感じながら、改めて魔法と言う物の奇蹟と緻密さをソーマは感じていた。これほどの技術と叡智の結晶を、見過ごす手はどうあってもなかったのだ。


 それを捨てていた時点で国全体が思考を放棄をしていたことになる。

 原始の時代から何も成長せず、成長を止めてしまった国。

 滅びを迎えるのは、遅かれ早かれ起きていたことなのだ。


「なら、俺ができることは……」


 現在、戦場は三つに分けられている。

 一つはクロード対ラッテ、ギリアム、ディッドグリースによる地上での戦い。空中で高速戦闘を繰り広げるノアと()()()()()()()

 もう一つは改めて確認するまでもないが、リーゼと魔神による熾烈な一騎打ちである――。


 治療されている間は行動が出来ない。

 ある程度身体が修復し終えるまで、ソーマは眼前で繰り広げられている戦場を観察することにした。

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