七十話 染まりゆく赤の序章
この世界に於いての、赤に纏わる話だ。
まずは魔力の話をしよう。
通常、生物が扱う魔力に色はない。色という概念が魔力に発生されるのは、魔法を使用する者が魔力を行使――力に変換して初めて現れるものだ。
火に纏わるものであれば赤色に。水に纏わるものであれば青色に。土に纏わるものであれば茶色に。しかしそれも必ず、という話ではない。各々が持つイメージに尤も近い形に添って力を変質させるのが魔力の特徴であり、何にでも変化する千変万化の物質――それが魔力というものの正体である。
しかし、これより説明する赤に関しては上記の前提は取り払わなければならない。
今回――それは主に、火の概念外で扱われる魔法の赤についてである。それは魔物が例外なく放つ赤色の魔力であり、レッドシックルの持つ赤色の剣に赤色の魔力であり、そして名も無き町にて奴隷商の一人が扱っていた赤色の魔力である。
これらの魔力についての共通点は、どれも魔力をそのまま扱っているのにも関わらずその色が赤く染まっていることだった。
通常であれば火の概念を通さなければ魔力は赤くは染まらず、単なる力として放出される。しかしこの魔力を使った魔法に関しては、全てが赤く染まってゆくのだ。それは肉体強化による魔法ですら同じであり――そこから考えられるのは、その魔力自体がこの世界に充満している魔力とは別種の物質だということ。しかしこれを完全に別の物質だと決めてしまうのは早計である。
何故ならば、どちらにも魔法を行使可能だという共通点があるからだ。
二つの違いを挙げよう。
赤色の魔力は、無色の魔力よりも強大な力を生み出す傾向にある。例えば赤色の魔力を扱う魔物と無色の魔力を扱う人間の地力の差、レッドシックルの剣を介した赤い魔力による身体能力の上昇率など。どちらも、無色の魔力を介するよりも元から色の赤い魔力を介した方が強い力を発揮することが分かっている。
更に、レッドシックルに関してはその魔法を奥の手扱いし、且つ本人達が魔物から奪った力であると公言する以上――赤色が特別な意味を示しているのは明白だった。
一人だけ完全な例外として虹色の魔力を持つ勇者が存在しているが、ここでは触れないことにする。
さて、何故今更になって赤色の魔力に触れようとしたのか――。
これまでの旅路でその色は幾度となく現れていた。共通して赤色の魔力は元々が魔物側の力だということも分かっている。勇者が固有の能力――即ち虹色の魔力を持っているように。
しかしそれだけでは特段思考する必要はない。海賊はその力を何らかの方法で奪って己が力にしただけであり、魔物が赤色の魔力を放つのは半ば当然の事として処理すればよかっただけ。
しかし今回。
魔法使いの何者かが、研究という形で赤色の魔力に関わっているという。
ただの偶然として処理していい案件ではない。
その名はクロード・サンギデリラ。
断層の魔法使い――魔物の研究に携わる男だ。
「――特殊強化結晶?」
魔法学校への道程をひた走りながら。
俺がその問いを放つと、彼――ジョッキー・フリートは岩石と化した首筋をまるでならすように撫でつつ、咳払いの後にこう呟いた。
「そう、それがクロードが現在行っている研究の内容だ」
特殊強化結晶――それは人間が魔物に対抗するための対魔物用戦闘魔道具、その試作品の名称なのだそうだ。
魔物が持つ赤い魔力を内包する人工結晶で、端的に言えば人間が操作するための炉心と媒体である。
「――現在は? 含みがあるな」
「クロードは昔似たような実験を行って失敗しているんだ。その時の研究は魔晶を肉体と融合させる研究、だがそれは既に失敗に終わっている」
人体魔晶化計画。
戦力の低い人間が魔物に対抗しうる策としてクロードが発案したのが、魔晶を人体と繋げることで膨大な魔力を戦力に変換する研究だった。
元々、人間が己の身体の中に保有しておける魔力量には限界がある。
個人によって差はあるものの、基本的には魔物よりも少ない魔力しか持ち合わせていない。
無論、十二人の魔法使いは魔物をも超える飛び抜けた魔力量と技術を保有しているのだが――それだけでは数が圧倒的に足りないのだ。まさかたった十二人でこの世界全てを守り切れるはずもなく、出来たとしてもまず身が持たない。
ならば素質の低い者でも、更には魔法使いでない者でも魔物に打ち勝てるようにしよう――それが、結晶による直接的な魔力供給である。
技術があっても魔力量が低く、高度な魔法を扱えない。そういった悩みは魔法使いの中でも数多く存在していた。己の鍛錬で魔力量を増やすことは難しく、ほとんどが生まれながらの量で定められてしまうことから、高位の魔法使いになるにはまずそれを充分に扱えるだけの魔力量が必須とされていた。
魔晶とは自然の中で生まれる濃密な魔力が結晶となって形になったもの、そこにクロードは目を付ける。
人間に魔力がないならば、他で補えばいい――。
自分の体内の魔力を使うのではなく、形となったその魔力を身体と同化させて魔力の保有量を直接増やせばいいのではないかと。
しかし、その実験が成功することはなかった。どうしても魔晶が上手く人間に定着せず、被験体に異常が見られたのだ。
極端に強い魔力を得たことによる魔力中毒や拒絶反応による気絶や、魔力を引き出せないなど弊害の原因を掴めずに研究は頓挫してしまう。
「だがクロードは研究を諦めなかった。一緒に研究していた連中が諦めていても一人で開発を続け、最終的に造り出した魔晶が赤い魔力の込められた結晶、クロードが特殊強化結晶と呼んでいた人工魔晶だったんだ」
魔晶の研究、か。
「それがどこで現れたのかは知っているのか」
「いや、そこまでは分からないが……報告と一緒にその魔晶を持ってきたんだ。それは最近だった」
「話だけ聞いていても、その魔晶を人体と融合させたところで同じ末路になると思うんだが?」
「俺だってそう言ったが、クロードは自信たっぷりに『最終調整だけ』つってたんだ。勿論中身は知らねぇけど……やっぱり引っ掛かる」
視界の奥、爆炎が魔法学校から上がる――遠目でそれを睨み付け、彼は焦りがちにこう告げる。
「神聖教国が攻めて来るってのは、実は知っていた。そいつもクロードが――」
「……なんだと? じゃあ何故お前は奇襲などされているんだ」
今のは俺が言っていい台詞ではないが。
「いや、警告だけさ。どの道俺は外壁の補強と都市の拡大に忙しかったから、そんなこと気に留めている暇はなかった……まあでも無警戒ってわけじゃない、既に他の魔法使い達は動いている」
俺のテレパスで神聖教国の攻撃を報せたんだ、と続けて。
「そしてクロードはこうも言ってたんだ。その時に成果を見せてあげようって……不自然だろ、まるでこうなるのが最初から分かっていたみたいだ」
「――ちょっと待て」
俺は口を挟む形で彼の言葉を遮り、歩を止めた。
魔法学校はこの場所から見えるほどには近い。だが突入する前に、一つ確認しなければならないようだ。
「そんなことが分かっているのなら最初から言えとは言いたかったが、そこは置くにしても――俺はそこまで言っちゃいないからな」
「何がそこまで、なんだ?」
「俺が言ったのは魔物が関与しているという部分までだ。その口振り、まるでクロードが神聖教国と繋がっているとでも言いたげだな? 俺は現時点ではそのような想定までしてはいない」
彼は自分でも納得し切れていないような顔付きで、それでも口にする。
「まぁ……そうだ。歯切れは悪くなるけど、確かに俺は仲間を疑っている」
「それも俺に話すくらいだからな。随分と確信を持っていると見えるが」
「お前言ってたよな、学長の件のこと。あれは――あれも、クロードが最初に発見したものなんだ。だがそれだけを聞いて黙って頷いているほど俺も素直じゃない。当然俺も気になって、個人的に魔物の気配を追うつもりで探りを入れた」
ジョッキー・フリートが扱う魔法はかなり特殊な位置にある魔法で――大地、自然に干渉することでその力を借り受け形にする魔法、というようなもの。その力を使って学長を殺した魔物の痕跡を読み取ろうとした結果――それは。
「そんな痕跡はどこにもなかった。いや……魔物の形跡は確かにあったよ。だが、侵入してきた様子はどこにもなければ逆に出ていった様子もなかった」
「調査ミスという可能性はないのか?」
「あったかもしれないがほとんどない。何かが踏み入ってさえいれば、正体が分からずとも痕跡は残るはずなんだ。なのにそれさえもなく、精々あったことと言えば――赤い魔力の残滓だけ」
「お前さっき魔物の形跡はあったと言っていなかったか?」
彼はそうだと頷く。
「魔物の形跡はあった、赤い魔力もあった――同時に痕跡がなかった。だが侵入者ではない人間の痕跡はあった、クロードのだ。侵入した何者かの痕跡は一切なく、それだけがあったんだ」
赤い魔力に魔物の痕跡があり、侵入者は存在しないが内部の人間であれば存在した。
魔物を研究し続けていたクロード、か。
「お前はクロードが学長を殺している、と。そう疑っているわけだな」
「理由までは分からないが……そうとしか考えられない」
「となると神聖教国との繋がりはどう考えている。協力関係だ、というのならばわざわざ侵攻があることをお前たちに報せはしないと思うが」
「それも分からない――だが状況証拠はあって、だから困っている。だから、俺は確かめに行くんだ」
「……ふむ。そうか」
魔法使い側の裏切り。
ヲレスのような奴がいるのであれば、こういう奴もいるのだろう。
あまり都合の良いように解釈するつもりはないが、クロード・サンギデリラは魔物と繋がっている――或いは彼自身が魔物側に位置しているのかもしれない。
それなら辻褄合わせは簡単だ。魔物の勢力であるのなら、魔法使いと神聖教国の両方が滅ぶことは利点にしかならないのだから。
しかしその場合でも、不理解さの多い行動ではあるのだが。
「分かった。どちらにせよそいつはこの段階で魔晶を使うつもりだろう。あまりいい予感はしないし、事前に止めておかねば戦を止める云々の話ではなくなるからな。今回の騒動の黒幕がクロード・サンギデリラであるのならば――俺はまずそいつから止めるとしよう」
「……何からなにまで、助かる」
「お前の為にお前を助けたわけでもなければ、お前の為に魔法学校に乗り込むわけでもないがな」
「それは分かっている――ああ、まだ待ってくれ。一旦仲間と連絡を取る。内部の状況が知りたい」
俺が先行しようとすると今度は彼に止められる。
俺はすぐにテレパスかと納得し、額に手を当てて目を閉じたジョッキー・フリートから目を離した。
そういえば俺とこいつのテレパスが繋がったのは何故なのだろう。一度パスを繋げた人間以外とは繋げられない、とリーゼは言っていた気がしたのだが。
懐に入れた魔石を衣類の上から触り、起こり得るはずのない事象に眉をひそめる。
まあいいか。今はそんなことよりジョッキー・フリートが他魔法使い達へ連絡を取っている間、神聖教国への対処をどうするか考えなければな。
元々が魔法使いに相当な恨みを持っている連中だ、一筋縄では止まらんだろう。
「……ったく」
こんな時、リーゼがいればきっと何とかしようとするのだろう。全ての人々が平和に暮らせるような、そんな儚い理想を求めて。
何かを救うのは、俺の役割ではない。
◇
「――あーはいはい生きてんだ、てっきり死んだかと思ってた」
魔法学校、実践用にと設置された修練場の奥にて。
幾数人の死体を眺めつつ、脳髄に走ったテレパスの声に反応する女がいた。毒々しい黒紫の髪に病的なまでに白い肌の――魔法使い。
彼女のその身体には、至る箇所に生傷が刻まれていた。
切傷に裂傷に打撲傷、何より重傷と言えるのは――左肩から先、ミンチにでもなったかのように骨ごと潰れた左腕だ。
しかし女は痛みに呻く素振りすら見せない。
右腕、すらりと細い指先がうつ伏せの死体の頬を優しく撫で、ゆるりと弧を描いて眼球へ到達する。ぐにゅり、と指に反発する眼球を何度も何度も愉しげに突きながら、女はテレパスを返す。
「こっちの状況? うん、そうねぇー三人は殺したよ。どれがあなたを襲った個体か知んないけど、他ももう処理されているはずだよ」
転がる死体は三つ。
男と男と女。情報はそれだけ。
他に特筆すべき点としては――おざなりな武器が三つあること。
しかし死んでしまえばただの物だ。武器は血塗れで横たわり、愚かな侵略者は為す術なく骸となった。その死体は紫に変色してゆき、灰色の紋様が全身を覆っていく。
――呪縛魔法――。
魔法を使わない侵略者が、魔法による呪いを解呪する術などあるわけがなかったのだ。
呪縛の魔法使い、ディッドグリース・エスト。
それがこの女が冠する魔法の名。
彼女は唐突に、口元を横へ裂く。
それは新たな獲物が餌に誘き寄せられ、引っ掛かったことによる笑みだ。
「……何、クロードが何処にいるかって? さあ、知らないねぇ。あぁ、こっちは忙しいからもう連絡してこないように」
こちらから強制的にテレパスを遮断する。
これでもう、余計な邪魔は入らない。
彼女は自らに殺意を剥き出しにするソレを細めで見つめ――死体の眼球から指を放し、
「あはは、無残に殺されたお仲間を見て怒り心頭かな? 生憎こっちもそのお仲間に左腕を潰されてね。ほら、干物みたいにぐっちゃぐちゃに潰れちゃったよ――代わりが欲しいんだよねぇ、腕」
死体の眼球を、見せつけるように人差し指で押し込んだ。ぶちゅりと潰れた白い液が指を押し退けて外へはみ出し、潰れた眼球が人差し指に刺さったまま引き摺り出される。
「てんめぇ――」
「怒る? 筋違いだ。喧嘩を売ってきたのはそっちだよ、私も痛いんだ。人を殺すのは心苦しいんだ。でもやらなきゃいけない――あぁ苦しい、苦しいって生きていることを実感する、私は生きているんだ! はははは、今からもっと苦しくなるぞ!」
魔法使いは自らの左腕をもう片方の手の平で撫で回し、宣言する。滴る血などに目もくれず、痛みや傷の大小を度外視に魔法を、魔力を練り上げる。
暗い紫色の魔力、例え魔力を使わない者でも明確に判断できる程の強烈な魔力濃度が彼女から発された。
呪いという概念に特化する呪縛魔法――ぎり、と鎖鎌を構える侵入者に、それは容赦のない濁流となって押し寄せた。
避ける術などない。
修練場全域を埋め尽くしてなお膨れ上がる魔法は、たった一人の男を飲み込まんと牙を開く。触れた瞬間に発動する衰弱の呪い、直撃と同時に魔法使いは名を上げる。
「私の名はディッドグリース・エスト、聞いたことや調べたことはあるかな? 呪縛の魔法使いだ――さあ、足掻いて喚くその様を見せておくれよ、この私を、魔法使いを殺すためだけに磨いたのだろう! そこの死体と一緒で居てくれるなよ!」
◇
「……あぁ、と」
ジョッキー・フリートは表情筋をぴくりと笑わせ、どこか緊張した面持ちで俺へと言葉を投げて来た。
「とりあえず手近に繋がった一人に連絡をしたのだが――拒絶された」
「……は? そりゃどういう」
拒絶、とはつまり一度は繋がったのだろう。その上で拒絶されるというのはどんな状況だ。
「元々、魔法使い同士の仲間意識は高くないんだが……そのせいか、忙しいからとさっさと切られてしまって」
「……他の奴はどうだった?」
「クロードは学校の内部にはいないらしく、反応がなかった。戦闘中からなのか、他の面子へもテレパスは届いていない……あと、一人眠ってる馬鹿野郎が居たよ。寝息が返ってきた」
「……この状況で?」
寝ている時にテレパスが届くというのは驚きだが――というか協調性の無さが凄まじい。
仲間意識とかいう次元の問題ですらない。
俺は嘆息する。
「――でも、状況はある程度掴めた。恐らく既に、攻めてきた者の大半は倒されている。俺達の力を見誤ったのかどうかは知らないが……」
「そうか」
そんなことは分かっている。
元より奴らは自分達が戦争の合図に使われた起爆材――捨て駒である、と理解している。
誰もが、大人に達していないノアという女でさえ、己が死ぬということを理解していた。
樹海で俺に奇襲を掛けてきたあの二人は強力な戦士だった。けれども、たった十人だけの戦力で都市を落とせたか――無理だろうな。
俺はサーリャが単身で魔物を焼き払う光景を目にしている。ヲレスがどれだけ危険な奴かも嫌と言うほど確かめたし、ジョッキー・フリートの異様な生命力を獲得しているのも知っている。他の奴らも同じ、化け物染みた連中であることに違いはない。
協調性も仲間意識も薄いのは――彼らにそうする必要性がないだけで。
そんな連中を相手に全員無事に生還か、そこまでの期待はしていない。
だがこの戦争を止めるのであれば、ソーマ辺りに後続の部隊を攻め込ませないよう伝令を送って貰わねばなるまい。
そうさせる為の材料集め、少なくとも裏で手を引いている可能性があるクロードは確実に回収しなければならないが――そうか、そいつもいないとなると。
「ジョッキー・フリート。お前にはクロードの捜索を頼みたい。元々お前の目的は奴の真意を探ることだっただろうし、丁度いいだろう。俺は現時点で発生している魔法使いと神聖教国の間に割り込み、それを中止させてくる」
「お、おい……出来るのか、そんなこと? 俺を助けてくれたのは素直に感謝するが……お前、俺達と真正面から戦えるほど強そうには」
「クロードが黒幕であるのならば、既に都市から脱出している可能性が考えられる。手遅れになってからでは遅いんじゃないか?」
魔物を手引きし戦争を作る原因にクロードがいるのであれば、逃亡に成功されるのは非常に不味い。
特に色々、聞いておきたいこともある。
「く――役割を逆にはできないからな……分かった、そうさせて貰う。頼むぞ、死んでくれるなよ――恩人。この礼は必ず返す」
「そうか。期待しているぞ」
俺はそう返した後に、今まで教えていなかった自らの名を告げる。
「ジョッキー・フリート。今まで名乗っていなくてすまなかったな、俺の名はレーデだ。覚えておいてくれ」
そう言えば、折角作った偽名もまともに使う機会は訪れなかったが……ふむ、まあいいだろう。サーリャに名乗ったものと食い違うよりマシだ。
「――覚えておく。俺はクロードが向かいそうな場所へ足を運んでくる、手が空き次第そちらへ合流しよう」
言い、彼は何らかの魔法の詠唱を始める。土色の魔力光が全身より発されると、彼は瞬く間に地面へと潜り込んで消えて行った。
まるで水に溶け込むように沈むという異様な光景を眺め終え――俺は一人、呆れながら呟く。
「こいつらの使う魔法はつくづく、意味が分からん」
ただ大地という言葉が何を指しているのかは何となく分かった気がする。他の奴らもこんなのばかりだと思うと気が滅入りそうだ。
さて、と一息。
「――ん?」
俺が目をやった一点、校舎の壁を盛大に破壊して空中へと飛び出す何かが視界に映った。
二つの影だ。
細目でそれが何なのかを確かめ、片方がソーマであることを確認する。もう一つはソーマの影に隠れてよくは見えないが……なるほど。
どうやら敵と交戦中であるのは間違いないようだ。
「丁度いい。まずはそこからか」
俺は一度だけ得物を鞘越しに触れ、その方向へと駆け出した。
今日こそは今日こそはと言いながら気がつけば一ヶ月です。月一更新はちょっとやばい、でも多分恐らくきっと来月にノパソが買えるのでなんとかなる気がします。




