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トラベラーズ・レコード  作者: くるい
呪縛の在処
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四十四話 足りないから

 ギレントルが船に戻る頃、グレイグ達の船は無事に港に船を着けていた。既に大半の海賊達は赤き世界の恩恵を得て己の力を大幅に強化し、魔物を駆逐するべく港へ突入している。


「――せ、船長――リーゼさん!?」


 限定的な指揮官として動いていたグレイグは、リーゼを抱えてやってくる傷だらけの船長を見てその目を驚愕に見開いた。


「あー……なるほど、お前達が向こうからリーゼ連れてきたのかい?」

「申し訳ありません! 本来は連絡を待たねばならなかったのですが、我慢出来ず」

「ルールは厳守だけど、時にゃそれよりももっと大事なモンがあるってぇの。グレイグ、アンタが普段の対応を取っていたら――帰る場所、なかったかもしれないんだぜ。助かったよ」


 ポンとその肩を叩き、ギレントルはにんまりと笑う。深い傷を負ってなおその背はデカく、グレイグは思わずその姿に見惚れてしまう。


「そんで、状況は? ちなみにこの港を襲ってるボスっぽいのはリーゼが倒してくれた。獣みてぇなのとデク人形の残党が残ってるってのはアタシも把握してるよ」

「はい。正確な確認は取れていませんが、敵の数は徐々に減らしています。赤き世界もこっちの魔導球で補ったのでもう少しだけ持ちます、これから畳み掛けに入るつもりですが――」

「そうか、んじゃまぁ後は頼んだよ。アタシはホラ、柄にもなくちょっとやられちまってね。船で応急処置してくっからよ」

「傷は大丈夫なのですか?」

「バーカ、死にゃしねぇよ。心配されるほどじゃねぇ。――頼んだよ、グレイグ」


 そう告げ、レッドシックル号へと戻る船長の背を少しだけ見つめ、グレイグは目線を離した。

 あの傷は誰がどう見ても重傷と答えるほどの傷だった。全身の肉が深く切れ、自慢の外套が自らの血に染まっている。ここで船長も戦いに赴こうとするのであれば流石にグレイグも止めていたが、その辺りの自制をしてくれるだけで十分だ。

 それ以上の心配は不要と判じ、グレイグは船長に強く頼まれた役目を果たすべく自らもその剣を抜く。

 命知らずの魔物に、海賊の力を思い知らせてやる、と。





 ◇





「ん……あ、あれ」

「起きたかい、リーゼ」


 リーゼが目を覚ますと、そこは海賊船の一室であった。目の前には上半身を晒して包帯を巻いているギレントルが居た。


 ああ、私は戦っていたのだと。

 つい先程までの出来事を思い出して、リーゼはそれまで横たわっていた柔らかい感触から身を起こす。

 今まで自分が寝ていたのはベッドであった。

 するとここはギレントルの私室なのだろうか。今までリーゼが使ってきた他の部屋と大した違いはなかったのだが、リーゼはそう思った。


「寝てな。力ァ使い過ぎだよ。それ以上無茶すんな」

「え? まだ私は大丈夫だと思いますよ」

「お前の基準で平気でもアタシから見りゃ平気じゃねぇのさ。大体リーゼ、お前今まで何してたんだ? ――何かあったってぇ顔しかアタシにゃ見えないんだが」


 ギレントルは自らの腹を指して、静かにそう呟く。彼女が指したのは腹部の裂傷ではなく――食事のことを指しているのだろうというのは、リーゼでも瞬時に理解する。だからこそ軽く笑って流そうとすると、鋭い調子でこう刺してきた。


「どんだけ飯食ってなかったらそうなっちまうんだ? そりゃぶっ倒れるだろうよ、腹と背中がくっつくまで何も食ってなけりゃぁな」

「あーそうですねぇ……食べる物、無かったですから」


 リーゼとて探さなかったわけじゃない。しかしあの樹海内部においておよそ食べられる物の一切は見つからず、腐乱死体を食べるわけにもいかないので仕方なく絶食していたのだ。

 それよりもレーデの捜索を優先していたのもあって、今に至るまで食べ物は愚か飲み物すら口にしていない。


 それでも平気だったのは、昔の自分だけだったか――。


「助けて貰ってなんだけど、非常に突っ込みにくいこと聞かせて貰うよ。アタシは人を気遣うなんて遠回りは出来ないんでね」

「……はい」

「こんな時、絶対に姿を現すようなもう一人が居るはずだろ。レーデの奴はどこ行った? お前がこんな状況になるってぇことは、来てないんだろ。何があった、言ってみな」


 ――レーデ。

 そうだ、彼を捜していたのだ。ずっと。

 そして今も、その為にここに来ている。

 この港は救った、ならリーゼが居る必要はどこにもないだろう。


「……私はレーデさんを捜してます。それじゃあ、」

「あぁ? おいちょっと待ちやがれ」

「……」


 踵を返して部屋から出ようとした所を、ギレントルに押さえ付けられる。


「私……行かなきゃならないんです」

「人の話聞いてたかおい? お前の今の目――死んでんぞ? そんな奴放っとくほど馬鹿してねぇぞ、アタシはな」

「……私、が?」


 リーゼは自分の目の辺りを片手で覆う。

 何が普段と違うというのだろう。

 分からない。


「行かなきゃならないって、どこにだ?」

「え、レーデさんを……捜さなきゃ、いけなくて」


 リーゼは酷く混乱していた。

 だってレーデが居なくなったのだから、レーデを捜すのは当たり前のこと。でも途中で魔物が襲うのだったらそんな危険は逃しておくわけにはいかない。

 その魔物はもう居なくなった。港にも魔物の気配はもうしない。それなら、リーゼはレーデの捜索に戻るのが必然だろう。

 それを、どうしてこの人に止められるのだ――。


 パシン、と両頬が強く引っ叩かれたのを感じた。じんじんと強く痛み出した頬。

 リーゼは虚ろな瞳でギレントルを見やる。彼女はリーゼの頬に手を当てたまま不機嫌そうにこちらを睨み付けていた。


「気ぃ取り戻したか、リーゼ。どっかおかしいぞ、戻ってねぇなら次はぶん殴るけど」

「あ……あ、えっと……その、ギレントルさん、何で怒ってるんですか」

「怒ってねェよ……分かったこうしよう。リーゼ、何があったのか一から教えな。アタシがレーデ捜索を手伝ってやるよ」

「……わ、分かりました」


 言われるがまま、何があったのかを細部まで伝える。

 北大陸に渡ってからリーゼとレーデがどのような旅を続けていたのかと、その結末を。

 聞き終えたギレントルは露骨に顔を歪めてみせた。


「んで、アンタは今こんなことやってんのかい」

「はい、そうです」

「――馬鹿じゃねぇのか」


 抱き締められた。身長差がある分リーゼはギレントルの豊満な胸に顔を埋めることとなり、柔らかい感触に沈み込むようにして体勢を崩した。

 抵抗はしなかった。

 暖かみがあったから。

 何故だろう。


「なげぇこた言わねぇよ。ただリーゼ、そうなっちまったら駄目だ」

「そうなる……?」

「レーデは大切な仲間だったんだろ」


 大切でないわけがない。でなければリーゼがここまで躍起になることはなかった。


「お前、一度でも涙したのか?」

「……え?」

「誰かに相談でもしたのか」

「えっと……ランドルさんとグレイグさんには話しました」

「そうじゃねェっての」

「く、苦しいですよぉ……」


 更に強めに背中を締められ、より深く胸に沈み込んだリーゼはくぐもった声でそう言う。が、お構いなしといった風にギレントルは止めなかった。


「んなのテメェ一人で抱え込むモンじゃあねえんだよ。今お前は、物事をマトモに考えられてねぇ。そんで無理矢理動かすために、妄執に囚われてる」


 ――例えば魔物を狩らなければならないと心に命じているように。

 ――何が何でもレーデを見つけ出そうとしているように。


 それ以外のことが、リーゼには何一つとして見えていなかった。

 それに気付いたギレントルはこうした形でリーゼを宥める。なまじ外見そとみと表面が取り繕われているために、誰も気付かず放置すればいずれ自分から壊れてしまうだろう。

 そういう類の精神状態を、今のリーゼはしていた。


「……じゃあ。だったらどうしたら……よかったんですか」

「あぁ――そうだ、そういうこと言えっつったんだよ。とりあえず吐き出しな」


 今度はリーゼ自らギレントルの腰に手を回し、強く締め上げてきた。あまりの強さに戦闘の傷口が痛むが、ギレントルは黙ったまま次の言葉を待っている。


「私、レーデさんと会えて嬉しかったんです。もう二度と離さないって思っていたんです。でもまた、いなくなっちゃいました……人間に騙されて、大切な人を失いました。もう、もう、何回私は――裏切られて、裏切れば、いいんですか」

「だから人を頼らなかったってか?」

「――そうじゃ、ないです。私はレーデさんを捜すしかないんです。レーデさんは、私の最後の――希望、なんです」

 締める腕が更に強まる。

「――レーデさんは、絶対生きてるんです。でもレーデさんは私が居なくなったら、もう消えちゃうんです――居なくなっちゃうんです。だから、そうなる前に私が、レーデさんの傍に戻らないと――」


 ギレントルはリーゼの言っている意味を深くは理解しなかったし、しようともしなかった。

 これは心の膿を吐き出す為の必要な行程だ。

 吐いても根本的な解決にはならない。

 けれど、吐かねばならない。


「――死んじゃ嫌なんですよ。死なない為に勇者になったんです。殺さない為に勇者になったんです。笑う為に勇者になったんです。私は、なのに――守れなかった」


 リーゼの盲目的な瞳の奥を見据え、ギレントルはこの勇者という存在が抱えてきた“何か”がとてつもない重みであることをただ漠然と知った。

 だが――その重荷は共有しない。聞くだけ聞いて、ギレントルは背負わない。そうすりゃリーゼは勝手にその荷物を半分、捨てる。

 それでいい。それで自然と、軽くなるだろう。


「何のために勇者になったのかって、何で人を斬らなきゃいけないんですか――? 殺し合わないと生きていけないんですか? ――騙すんですか? 道具のように扱うんですか――? 分かりません、私は勇者だから、人の気持ちが分かりません。どうしたら、いいんですか……ごめん、なさい」


 やがて言葉を途切れさせ、リーゼは力無く崩れ落ちた。床に転げてしまわないようにしっかりと抱き止めてやり、ようやく返事をしてやる。


「まだ言いたいことあんじゃねぇの?」

「……ごめんなさい、ごめんなさい、もっと、頑張ります――から、上手くやります、から」

「あぁ、そうかァ――」


 ギレントルはこういう人間を何人か見てきている。

 これだけ人に関わることをやっていれば、様々な人種に関わるのもごく自然だ。

 そんな奴は仲間にも居た。取引相手にも居た。殺した相手にも居た。


 ――共通点は、どれも自分が自分を壊している奴だということだ。

 要因が根本から来ているのか外部から圧迫された結果なのかは様々だが、今こうして心情を吐露しているリーゼも他の者も、同じだ。

 自らを追い詰めるような奴は、最後にはろくな結果にならないと。


 ギレントルはリーゼのことなど何も知らなかった。

 ただ若く、強く、そして固い信念を持つ勇者の少女であった。――それに加えてたった今、内に多大な闇を抱えているという事実を知っただけである。


 一言、耳元で小さく答える。


 リーゼが求める答えか、そうでないか、はたまた求める答えなどなかったか――それはギレントルの考えるところではない。

 自ら腐り果てる奴に付き合い、自らも腐敗などするつもりはなかった。船長の座に付いている者としても、己個人としても。


「もうねぇか?」

「…………………………はい」

「そっか。んじゃ、どうする? 先言うけど下らないこと言うなよ。だからお前に何が足りなかったのか、ちょこっと考えてみな」

「……」


 胸に顔を埋めているせいで、リーゼの表情はギレントルに分からない。

 黙ったままのリーゼは僅かに身を震わせるだけでそれ以上動かない。


「リーゼのことは知らねぇが、一つ言えることはあるぜ。聞くかい?」

「……なん、でしょうか」

「上手くやる必要ねぇだろ。時には頑張りも大事だけど、お前のそりゃ違う。失敗を必要以上に怖がって、怯える子供のそれだ――いいんだよ、上手くやんなくて。もっと間違えろ、お前は綺麗過ぎんだよ。それと人間に期待し過ぎだ。人間ってのは根っこからクソ汚ねぇんだから……おっと、こいつは言い過ぎかねぇ」

 ギレントルはリーゼを胸から引き剥がす。

 赤く腫れた目尻が見えた。

「まぁともかく今お前に足りねぇのは確実に一個あんだよ。なんだと思う? テメェで考えなきゃ始まらんぜ、そいつは」

「……」

「わかんねぇか?」

「……あ、あの」

「ん?」

「お腹……空いちゃいました………………」

「――ッハ」


 リーゼの頭頂部に鋭い手刀が決まる。うっと押さえたリーゼに向かってギレントルは笑った。


「そいつはつまり、アタシに飯奢れってぇことかい?」

「あ、ああいえ、そんなつもりはないです!」

「いいんだよいいんだよ、もっと頼れ。アタシみてぇな奴をもっと頼れってんだ――ま、そういうことだよ。リーゼ」

「――へ?」

「腹、減ってんだろ?」


 きょとんとするリーゼの前。ギレントルはにやりと憎たらしい笑みをちらつかせてから部屋の机の方へと移動すると、棚から何かを掴み取った。

 それは赤い――噛めば甘い汁が噴き出しそうなほどに身の詰まった、それだけで匂いが充満するような濃厚な果実だ。

 それを右手で持ってふらふらと揺らせば、何十日も食べ物を見てすらいなかったリーゼは思わず釣られて視線を泳がせる。


「こいつ食いてぇだろ。欲しいんだろリーゼ? ほれ」

「あ……っあ……」


 リーゼが果実に手を伸ばすと、ギレントルが遠ざけるようにしてその果実を高く上げる。


「あぁ駄目だ、欲しいんならなんか言わなきゃな」

「あ……食べたいです」

「食べたいじゃ駄目だ。こいつはアタシのモンだ、そう簡単にやるわけにゃいかねぇ……それでも空腹で死にそうだったら、お腹が減って死にそうだから『助けて下さい』って言えよ」


 目の前に食べ物をちらつかされてか、我慢していた空腹が限界に達したリーゼは何度も手を空ですかして――言った。


「――下さい」

「仕方ねぇ。そんなら助けてやるよ」


 その果実はギレントルの手から、リーゼの両手に収められた。

 一も二もなくかじり付いたその姿を、ギレントルは満足げに眺める。

 がぷり、かぷり、シャリシャリ。口の中で甘く滴るそれを一心不乱に噛む。喉に流す。ごくりと音を鳴らして、砕いた固形が食道を乱暴に通る。

 その行程を何度が繰り返して――リーゼは、はっと動きを止めた。リーゼは目を丸くしてギレントルを見つめる。


「いい加減分かったろ? お前に足りねぇもんがなんだったのかは」


 腹を満たすには至らなくても空腹から逃れて思考が落ち着いたことで、リーゼは目の前の彼女が何を自分に言わせようとしているのかようやく気付く。誰かに助けを求めろと、言っていたのだ。


 レーデが居なくなった後、リーゼは単独でレーデを捜索しようとしていた。

 話しはしても助けを求めなかったのは、それこそ“求めなかった”のではなく最初からその考え自体が存在していなかったということに終始していたのだけれど。

 その根底には自分以外に頼れる人物がそもそも居なかっただけで、ギレントルは自らその役を買って出てくれたわけだ。


「……すみません、ありがとうございました――ギレントルさん」


 それを、リーゼは果物を与えられることで理解してお礼をして。もう一口だけ果物をかじる。

 飲み込んで、こう言った。


 ギレントルはただ食物を与えたわけじゃない。そうすることによって自分に言わせたかったのは――。


「レーデさんを一緒に、助けてくれませんか」

「おうよ、命の恩人の頼みだからねぇ。手伝おうじゃあねぇの」


 ギレントルは一つ返事で頷いた。


「――だけどもリーゼ、勘違いはしちゃいけねぇぜ。アタシだからこうするってだけで、事情を話す相手も助けを乞う相手も自分で選ばなくちゃな。リーゼには何度も助けられてっから動くんだってことは覚えておきな。知らない奴だったら、そんな頼みは聞いてやりもしないよ」

「それは分かっています。その上で――ありがとうございます」

「気にするんじゃねぇ。なんてったって、その剣渡したのはアタシなんだからな」


 帯刀しているだけで仲間と看做みなされる剣。

 それを所有するのは容易なことではないが、持つだけの人物と認められれば無条件で助け合う。それがレッドシックルという海賊だ。

 当たり前だが船長や副船長の見知らぬ人間が剣を持っていても無意味、どころか下手を打てば殺されるが。

 というか前提にリーゼが“途方もなく強い”からというのがあるのだが。


 ただ強いだけでは話にならない。

 一朝一夕の関係で海賊の顔そのものであるような赤き剣を渡されるなど、かつて戦いを共にした勇者でなければあり得ない。

 ――それだけの価値がリーゼにあったからこそ、ギレントルは自らを差し出すのだ。

 それはリーゼにも分かっていた。分かった上で、奇特な人だと思った。


「ま、大恩売れりゃあの銃ってやつを貸してくれるかもしれないしな?」

「それはどうか分かりませんけど……」


 リーゼは苦笑をする。

 そう言えばギレントルはレーデの持つ武器に相当な興味を持っていたと。


「まあいいんだよそんなのは。死体、確かに見つけらんなかったんだろ?」

「……はい。ありませんでした」


 無かったからといって、良い方向に物事を捉えられはしないが。

 相手は優秀な医者として名を轟かせる魔法学校主席の一人。リーゼは彼のことを詳しく知らないために危険度がどこまで高いか判断できないが、サーリャと同じく魔法の高みに至っている人物で、且つリーゼに干渉した程の使い手だった。

 油断がなかったといえば嘘になる。しかし、そもそも“勇者”を魔法で騙す程の魔法など――外れた領域に居る者でしかない。


 呪い。

 恐らくヲレスの本分は呪縛魔法だ。医術はあくまでも生物の肉体に精通するための基本でしかなく――彼が行使した魔法には、人の精神に介在する類の呪いが嵌め込まれていた。彼しか扱わない特殊技能オリジナルだけれど、その大元にあるのは――呪いだ。

 レーデが調べようとした呪縛魔法を、恐らくヲレスは極めている。


「なら生きてる。この身で奴と戦ったアタシが断言するんだ。生きてるんなら、捜しゃ見つかるよ」


 ヲレス・クレイバー自身も失踪している以上、リーゼもその可能性を信じていた。

 レーデという人物がそう簡単に死ぬような人間でないこともまた知っている。

 何故ならレーデは自身の力についてほとんど話していない。

 転移が何だ、異世界人が何だ、そんな秘密などほんの触りでしかない。

 彼は今まで何度も含みのある発言をしていた。ただリーゼにも話すつもりがないのなら、最初から誰にも聞かせる気はないのだろう。

 ヲレスの不可解な失踪はその辺りが原因なのかもしれなかった。


「お願いします」


 リーゼは再び頼んで頭を下げる。その心は幾分と落ち着きを取り戻し、虚ろだった瞳には僅かながらに生気を取り戻している。

 けれども――胸のざわつきは、止まらない。

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