二十八話 閉鎖空間
「ところで、この船でどう戦うつもりだ?」
リーゼを船室に寝かせ、戻ってきた俺は他の船員に指示を出しているガイラーに声を掛けた。
まぁ、リーゼの方は船室で放置しておけばいいだろう。いざ戦闘になった時は、本当の意味で吐いてでも戦って貰うがな。
「ん? ああ、そのことな」
一通り船員が動く様を見つつ、ガイラーは首の裏を掻きながら自ら俺の方へと歩み寄ってくる。
少し見回ってみたが、やはりこの船には俺が見る限りこれといった武装は見られなかった。以前にもリーゼよりも前の代の勇者と共に魔物を駆逐したレッドシックルだ、豪華なだけではないだろう。
「んまぁ魔法が使えねぇってんならぴんと来ないかもしれんな。確かに海にのさばる魔物と戦うには、船ってのはどうしても不利になっちまう。当たり前だが」
「魔法か。そうだな、俺の想像じゃ遠距離魔法で戦うくらいしか思いつかん」
予想できないわけではなかった。砲台などが積み込まれないのは存在していないから、といった理由は勿論あるが、それ以前にそんなものがあったとしても積み込む必要さえないのだからな。
わざわざ大掛かりな武器を設置して鉄の塊を撃ち込むより、人が魔法を唱え放った方がよっぽどいい。
ギレントルは俺の持つ銃を珍しく思い興味を持っていたようだったが、結局銃など利便性は魔法より遙かに劣る代物だ。この世界で似た物を真似て製造した所でほんの一部の連中にしか使われず、次第に廃れていくのは目に見えている。定期的な整備を施さねばならないのは問題だ。放置すればすぐに使い物にならなくなってしまう武器が、ここで流行るとはとても思えない。
「いや、そりゃまぁ魔法も放つさ。だが、間違ってねぇけど足りないな。海賊船なんてのは対人専用だからよ、本来魔物と戦うように作っちゃいねぇが――そいつを解決すんのが、魔導球って代物だ」
「ほう」
ガイラーは船の中央を指し、「この地下にあんだよな」と溜め息混じりに呟く。
「そこそこでけぇし燃費も悪く、場所も取るのが厄介なんだがな。しかし魔導球は一時的な船の動力として活用することもできるから、やべぇ嵐なんか来た時には手早く撤退も可能だ」
「魔力を込めて動かすのか?」
以前サーリャに込め直して貰った魔石を見せると、ガイラーは珍しそうにそれを見る。
「あぁ? そんなもん持ってんだな。原理は同じだよ、ただ大きいってこたぁ、それ相応の量を注がないといけないがな」
先程から船員が甲板から居住区の方へと出入りしていたのは、内部にある魔導球に定期的に魔力を注いでいるからだという。
ガイラーはそこで、自らの腰に差した赤い剣を取り出した。
「赤き海の大征伐――なにも、そいつぁ血だけで染まったわけじゃねえのさ。本当の意味で、船が赤く染まるんだよ」
その腹を撫で、くるりと一回転させる。
「この魔導球は、発動した瞬間辺り一面を覆うほどの赤く濃い魔力結界を発生させる。そん時条件を満たした奴だけを、その魔力によって強化させんだよな」
「恩恵に預かるに必要なのは……その剣、か」
「ま、そういうことよ。後は小舟を大量に出して白兵戦に持ち込むってなもんさ。なんなら海に落ちても死にゃしねぇよ」
慣れた手付きで回転させた剣を腰に戻し、ガイラーは未だ気配の変化がない水平線を眺めた。
「訓練されてないお前さんやリーゼちゃんじゃこいつは使いこなせねぇだろうけどよ、そっちはそっちのやり方ってのがあんだろう?」
「まぁな」
俺はどうだかな。その時次第で援護に回ることになるとは思うが、果たして出番はあるのか。
敵方が俺を狙ってくれさえすれば手っとり早いんだが、どっちにしろ今回の要はリーゼだ。
リーゼの働きによって、戦局にも報酬にも影響が出てしまう。
頼むから船酔いで戦えない、だなんてのは冗談でも止してくれ。そうなったら船外に放り出すが……。
「そろそろ、この辺りで報告が出ていたはずなんだがな――まだか?」
ガイラーはいつの間に持っていた海図と海を見つめ、ふむと首を傾げる。
「影も見当たらないな」
「影っつうか、さっきから平面しか見えねぇよ。魔物の気配もありゃしねぇ」
ここから見える海は、嵐などとは無縁の平穏さを保って静かに波を打っている。魔物が海を封鎖しているどころか、一体も姿が伺えない。
海に隠れていても気付かないのは俺一人だけだ。魔力の概念がある以上、軍勢と言えるだけの数が蔓延っていればその魔力で他は感知する。
しかし、それらが全くないというのは――つまり、考えるべきは一つの事柄に帰結する。
昨夜現れた、アウラベッドや三体の剣士。奴らは目の前に現れるその時まで、リーゼですら存在を感知できなかった魔物だ。この海に潜む魔物が俺達の動きを事前に警戒していれば、隠れることは可能か。
しかしそう出来る知能を持ったのが最近で、ガイラー達はそれを知らない。昨夜のアウラベッドとの会話は、人々が軒並み逃げてしまっていたせいで誰も聞いちゃいない。
これで魔物が知能を持っていると説明するのは些か荒唐無稽な話である。
同時に余計な混乱も生みそうだ。
そのため、俺は最小限の注意だけを促すことにした。
「気を付けた方がいい。昨夜襲ってきた魔物も、近付かれるまで気配を感じなかった」
「マジかよ、了解。ただまぁ警戒するっきゃねぇわな。もうちっと先に進む、悪いけどリーゼちゃんにはそんなに休ませてやれねぇかもな」
ガイラーは若干苦い顔で言い残して、船首で構えているギレントルの方へと向かっていった。腕を組んでいたギレントルがガイラーの方へ首を動かし、何やら話し込んでいる。
他の船員もいつ魔物が現れてもいいように、船から身を半分乗り出して常に海を警戒している。本船に付いてくる後続の海賊船も同様の警戒を見せていた。
俺も銃を取り出し、同じように辺りを警戒しておくことに。
念のためリーゼにテレパスで連絡を入れ、俺は静かに波打つ水面を睨んでいた。
異変が起こったのは、しばらくしてからのことだった。
「一隻いねぇぞ……?」
俺の隣の船員がそう言って、後続の船を見やる。
今回討伐に向かう船はこの船合わせて十隻だ。しかし現在、後ろに見える船は確かに八隻しか見えない。
俺はほとんど船の数など確認していなかったが、少なくとも最初はいたはずだ。
そして現在に至るまで、何も起こっていない。
忽然と船だけが、消えた?
船内がざわついた。他の船員もその目で確認し始め、確かに一隻いないことに違和感を覚える。何の異常すらないままに巨大な船が消えることがあるのだろうか――と。
疑問に思うのも、束の間。
「……ん?」
視界の隅。
丁度俺が見ていた先の船が、突然見えなくなった。
すぐにテレパスを起動し、俺はリーゼを呼び付ける。
(魔物のお出ましだ。いつ戦闘になるか分からんからさっさと戻ってこい)
(は、はい……分かりました……う……あれ、酔い止めの残りはどこに、あ、あった……!)
リーゼの間抜けな声が聞こえ、俺はそのままテレパスを切る。
「――構えな!」
ギレントルが大声でそう発したのは、その数秒後のことであった。
この船を除く全ての船が、姿を消した。
驚くよりも前に、視界が暗くなる。
まるで太陽など最初からなかったかのように空が漆黒に染め上げられ、不気味なほどの静寂が辺りを包む。
船員達が混乱しながらも赤い剣を抜く中、俺は一人納得していた。
「……そういうことか」
船は消えたのではない。
俺達が、周りの船を認識できなくなっただけなのだ。
「おい! あれを見ろ!」
船員が叫び、指を差す。
その先――海が大きな飛沫を上げ、化け物の咆哮が耳をつんざく。
異質な暗闇の中、船外を覆うようにして現れたのは――蛇のような姿形をした、巨大な魔物であった。
「畜生が――気ぃ付けろ!」
先手を取られた悪状況。
その中で一番最初に手を打つことができたのはやはりというか、俺しかいなかった。
横から海賊船に突撃を仕掛けてくる蛇の頭部へ、構えていた銃を六発全て撃つ。乾いた銃声が妙に静まっていた船上に響き、鈍い音を立てて蛇の頭部へ炸裂した。
と、言ってもサイズがサイズである。銃弾は蛇の頭部にめり込んだだけに終わり、それで少しは動きが鈍ったもののお構いなしに胴体を船体にぶつけてきた。
ぐわんと揺れる海賊船。体勢を崩した船員達は必死にどこか掴まれる場所に手を掛けて吹き飛ばされないように耐えているが、続けて何度も蛇の巨体が船体を叩く。
ぎりしと軋む船はまだ形を保っているが、そう何度もやられては真っ二つに裂けてもおかしくはない勢いだ。
俺も何とか体勢を崩さないよう足を踏ん張りつつ、懐から取り出した弾薬を新しく込め直す。今この場に鞄など背負って来ているはずもなく、残弾は懐へ仕込んだ分の二十発までしかない。
「魔導球はまだ使うんじゃないよ、タイミングはレイドに任せる! こっちは――アタシに任せなぁ!」
「……な」
ギレントルが紅蓮の双刀を引き抜き、船首から躊躇なく蛇へと飛んだのを見て俺は絶句した。
赤い閃光が蛇に突き刺さり血飛沫を上げ、のたうち回った蛇は船を離れてゆく。
何らかの妨害魔法が仕掛けられた暗闇の中、単独行動とは――。
そして予想は的中し、ギレントルも蛇も視界から消え失せてしまった。
あの豪傑が呆気なく死んでしまうとは思わないが、端から組織のトップが取っていい行動ではない。
とはいえ、あの蛇も放置し続けていたら船自体が沈みかねなかった、か……。
「何があったんですか!」
一歩遅れてリーゼが扉を乱暴に開き、甲板へ飛び出してきた。その時には既に天聖虹陣は使用済みだったのか、全身から虹色の粒子を生み出して宙に浮いている。
「リーゼ、魔物が先手を打って攻撃を仕掛けてきた。状況は見ての通り、敵は何らかの手段を用いて船外の視界を封じている。俺には分からんが魔法を用いた所業だろう。どうにか払えるか?」
「……なるほど。どうでしょう、やってみます」
俺の説明を聞くや否や、リーゼは高くへと飛翔した。まだ顔色は優れていないようだがあの調子ならば吐かないだろう。
未だ最初の蛇を除いて敵影は見当たらず、俺に出来ることはない。
ひとまず俺は、既に船員に指示を飛ばし始めていたガイラーの元へ走って戻る。
リーゼとのテレパスは常時繋げたままにしておき、俺はガイラーにリーゼの行動を説明する。
「了解――ただ無茶すんなよ、うちの船長はいっつもあんなんだから、こっちも人のこと言えねぇがよ!」
「安心しろ、テレパスは繋いであるし、リーゼは視認出来る距離に居る。問題は……」
「分かってる。これじゃ連携の取りようもねぇし、こっちから反撃することもできねぇってことだ」
そう。
この暗闇の中では他にも俺達と同じ状況に陥っているはずの海賊船と連携が取れない。
そのような場面で海賊達の要、魔導球を使用しても本来の威力の十分の一も発揮出来ずに終わるだけだ。
先ほどギレントルがその身を持って証明した通り、小舟を出して強引に攻め入ろうものならそれぞれが孤立してしまい、こちらが各個撃破される形になる。加えて他の船の連中も連絡無しにそんなものを発動されたら、出るしかなくなってしまう。
差し当たって今もっとも優先度を高くしなければならないのは、この暗闇の視界を元に戻すことであった。
「副船長、船体になんかひっついてやがる――」
「そっから下がれ! 中央へ寄って一人も孤立するな!」
ガイラーは叫び、それぞれ外を見張っていた船員も甲板の中央へと固まってそれぞれ数人体制で陣系を取り始める。
間もなくして船の壁を這い上がって出てきたのは――トカゲ、のような姿形をした魔物。黒ずんだ苔色の鱗に、頬辺りに付いたエラ。ちろりと長い舌を覗かせ、その体躯が甲板に乗る。
その個体個体は俺達と同等程度のサイズだが――何より数が、圧倒的だった。
この数が他の船にも既に襲っていると見ていいだろう。こういう時、本来の主力である船長副船長、助っ人である俺とリーゼが固まっているのは非常に不味い。
俺もここまで壊滅的に分断されるとは考えちゃいなかったが――他の船にもリーダーがいるとは言え、ここ以上の混乱は免れない。早い内、どうにかしないとな。
俺は一旦銃をしまい、懐からナイフを二本取り出して構える。こちらもこの人数だ、それにいつ揺れてもおかしくない不安定な船の上で銃撃など、万が一仲間に当たっても困る。
あの程度の敵なら今までの経験上ナイフと体術で仕留めることは可能だろう。
「相手は人間じゃねぇが、妙な連携を取ってんのは確かだ、気を抜くなよお前ら! 魔法の得意な奴は後衛に回って援護しろ! 直接魔物と殺り合う奴らは魔物を引きつけることだけを考えりゃいい、無理に倒そうとはするな!」
「俺も今回は前に出る。ガイラー、お前は?」
「今は俺が指令塔だ。俺が出ちまうと、不測の事態にゃ対応できねぇ。すまんがここで援護に回る、そんなに得意じゃねぇが……」
「了解した」
それでいい。
ギレントルがあんなだから若干心配していたが、その分副船長がしっかりしていたとはな。私生活は相当腐っているが、こういった場面では頼りになるじゃないか。
(リーゼ、状況は?)
(ええと……これも結界の一種、だと思いますけど)
難しそうに言って、リーゼはそれからこう続ける。
(結構強引な方法になりますが、私の神触結界で上塗りすればなんとか。でもかなり力使っちゃいます)
(ちょっと待ってろ。少しだけガイラーと話をしてみる)
(はい)
「ガイラー、一つ聞く。リーゼが言うには魔物が発生させているこの暗闇は、一種の結界だそうだ。そいつに対抗する魔法ってのは使えるか?」
「結界……? ああ、効くか分からんが、やれないこたぁない。結界張ってる魔力を乱すくらいだが」
「ふむ。リーゼがこれから結界を払うが、一人でやると負担が大きいそうだからな。できるだけリーゼの消耗を減らしておきたい、頼めるか」
「オーケーだ」
「俺が合図で『リーゼ』と大声で叫ぶ、そうしたらやってくれ」
言って、俺は前へと突貫した。
既に乱戦は始まっており、船員達が赤い剣で持って次々に襲い掛かるトカゲと戦っている。ガイラーの命令は忠実に守っているようで、後衛の強力な氷や土系統の魔法がトカゲに直撃し止めを刺している。やはり一体ずつの強さはそうでもないようだ。
(リーゼ。成功するかは分からないが、ガイラー達が結界に小細工を仕掛けてくれるそうだ。合図は俺が出すから、そうしたらやってくれ)
(はい、分かりました!)
空で滞空しているリーゼを一瞬だけ見やり、新しく甲板へ侵入してきたトカゲへ視線を移した。
まずは、倒す。
「狙うは脚だな……」
――甲板の床を蹴った。
向こうが俺に気付くよりも前に股下に滑り込み、両手に構えたナイフを左右斜め上から十字に斬り込む。鱗を避けて柔らかい皮膚に突き立てた刃は左脚関節の間を抉り、着地して間もないトカゲの体勢が崩れ落ちた。
俺はそのまま船の壁を蹴って身を反転させ、背後からエラ部分へナイフを突き立て、掻き斬った。苦しみながらトカゲは暴れるが、背の上にしがみついて何度か同じ箇所を斬り付け、次第に衰弱して動きが弱くなるのを待つ。
「リーゼ!」
(リーゼ、やれ)
動きの鈍った頭部を踏みつけてトカゲを地面に叩き潰し、俺はそう叫んだ。
瞬時、赤い波紋が空中を水平に広がり――一つ遅れて、虹色の粒子が天から辺り一面に降り注ぐ。
「おお……!」
誰がそう発したか。
暗闇一帯に灰色の亀裂が入り、硝子の割れるような音がして散り散りに砕け散った。陽が射し込み、暗闇が一気に晴れてゆく。
(っ……レーデさん、来ます――!)
その最中、リーゼから一方的な念が送られ――巨大な炸裂音が、上空から鳴った。
俺が上を睨むのと、強い衝撃に弾き飛ばされたリーゼが落ちて来るのはほぼ同時。甲板を突き破って頑丈な木の板を破壊し、その華奢な身体がごぎりと嫌な音を立て、
「邪魔だなァ――大人しく、潰えちまえよ。人間」
その上から、リーゼを叩き付けた何者かが降ってきた。そいつは甲板にめり込んだリーゼを上から刺すように睨み、長く細い舌で口の周りを舐める。
その姿形は――アウラベッドのような人間型、トカゲの特徴を持った痩せ気味の男。だが決して貧弱なイメージなどはなく、硬質で黒ずんだ苔色の鱗からは悪逆そのものを思わせる黒い威圧が溢れ出している。
「魔物……? なんだ、コイツは……」
それまでトカゲ共と戦っていた船員達は、その親玉らしき姿に目を釘付けにされる。
「魔物、ねぇ――俺が魔物に、見えるか?」
そいつはちろりと舌を出して、悪辣に嗤って見せた。鋭く細められた三白眼が、そう呟いた船員へと突き刺さる。
不味いな。
このままでは、完全に敵の流れに持ってかれてしまう。
俺は船員から目を逸らすよう一歩前に出てナイフを懐へ入れ、代わりに銃を片手に構えた。
「なんだ。“アウラベッド”ではなかったな」
「――あぁ? なんだ、テメェは」
その名に強い反応を示し、ソイツはぎょろりと俺へ目を合わせた。アウラベッドの名を知っている俺に酷く動揺を見せたソイツは、怪訝な目つきで俺を睨んでいる。
(リーゼ、怪我の具合は)
(すみ、ません――油断しました。骨が、何本か……大丈夫です、すぐ、治します)
(ああ。さっさと治せ。それまで持ち堪える)
(お願い、します)
やはり骨の数本はやられていたか。
すぐ治すとはどれほどか、知らないが――。
「なんだ、お前は俺を知らないのか?」
「知るワケねぇだろ、どっからその名ぁ知った。事と次第じゃ、テメェには壮絶な死をプレゼントしてやるよ」
流暢に人間の言葉を語るソイツに、辺りは騒然とする。それはガイラーも例外ではなく、俺だけが薄く笑みを引いた。
「安心しろ、殺してはいない。にしても……そうか、お前は知らないのか。なるほどな」
「――ああぁ? テメェ、見るだけで苛つくな。ミンチにしてやろうか人間」
「……お前、何の為にこの海を閉鎖している? 誰からの“命令”だ」
イデアの名は出さずその目的だけを問う。
ソイツは首を傾げた後、さぞ不愉快そうに顔を歪めてその舌を音もなく口内に戻し――吐き捨てた。
「教える必要はねぇ。何せここで全員、死ぬんだからな」




