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トラベラーズ・レコード  作者: くるい
勇者を売った女
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十五話 燃え盛る村

 少しばかりタイミングが悪かったようだ。


 村長の言葉を聞いた俺は眉根を寄せ、リーゼも目を見開いている。

 リーゼが気にしているのは主に魔物の方だろうが……。


 しかし早朝から会いに行けばよかっただとか、昨日の内に事を済ませておくとかそういった後悔が浮かぶほどではない。よくあるただの擦れ違いで、向かう先と目的の二つが出揃っている。何も困ることはない。


「――レーデさん、助けに行きましょう」

「そう言うだろうと思ったよ。村の位置は分かるのか」

「分かりません!」

「……」

「けど魔物の気配を辿れば必ず見つかるはずです。戦闘しているなら、いくら気配を遮断できる魔物でも関係ありませんから」


 村長やラディアンに一礼してすぐ、リーゼは身を翻す。こうなった彼女は止まらない。


「情報ありがとうございます、村長さん。それでは」

「お主ら……」


 であれば、これ以上話を続ける意味もなく。


 リーゼを見失わないよう視線を預けながら、村長に礼を言って会話を切る。俺も続いて、追うように走りだした。







「こっちで合ってるのか?」


 村を飛び出して少しのこと。

 直進しているリーゼにようやく追い付いた俺はようやく併走するまでに至っていた。リーゼも俺が見失わなってしまわないようにと速度を落としているのだろうが、そんな走り方をして持つのかという程度には速い。


 しかしそんな俺の疑問を余所に、リーゼは汗一つ流していない顔で返してきた。


「はい、こっちから反応があります! それも、かなり!」

「……かなり?」


 最初から一匹だとは思っていなかったが、リーゼが声を荒げるほどなのか。

 街道から逸れた道なき大地を突き抜けていた俺は、リーゼが足を止めるのを見てから自分にも制止を働きかける。


 続けて焦った様子で虹色の剣を出現させたリーゼの眼前、緑から茶に変わり始めている乾いた大地を突き破って何かが数体飛び出した。

 土煙を払って中空で体勢を整えたそれらはこちらを睨み、着地する。


 黒々した体表に筋肉質な体型、四本足で立つその背にはぼろ切れのような翼が二対。鎌首をもたげた長い頭は額から突き出る二本の角を掲げ、リーゼに咆哮を浴びせた。


「……っ、纏虹神剣てんこうじんけん!」


 リーゼの行動は早かった。

 刃から雷を迸らせ、横に振り抜かれた一閃が魔物の一体を真っ二つに斬り捨てる。だがその間にも次々に魔物は地面から飛び出しており、いつのまにか数十体にも及ぶ軍勢に俺達は囲まれていた。


 まるでこれ以上の侵攻を防ぐため現れたかのようだ。そしてこの光景は、一度ではない。

 昨日の化け物と何か関連性を持っている。確かな目的を持って魔物が動いているのは明白だった。


 直ぐに得物を懐から抜き放ち、俺はリーゼに背を向け反対に位置する魔物の群に銃口を向ける。


「リーゼ、魔物はこれで全部か!」

「え? 私達の方には、えっと全部だと思います!」


 ざっと計算し、リーゼが斬り伏せた一体を除き残りが合計十三体。リーゼと俺で半々に分かれ、取り囲むように陣系を取っている。

 しかし小さい種なのか、俺が見下すことの出来る程度の体長だ。

 化け物とは違ってリーゼの剣閃に一撃で両断されたことを見るに、個体の能力は高くはないだろう。


 これ以上地面から出現しないことから考えても、リーゼの言葉は正しいと判断していいか。


「はぁぁあ!」


 果敢に魔物へ肉迫していくリーゼを後ろ目でちらりと窺ってから、俺も目の前の敵に対処することにした。


「人間じゃないから、少し不安だがな――」


 じりじりと詰め寄ろうとしてくる魔物の両角の間に一発弾丸を撃ち込んだ。一瞬遅れて魔物が俺に警戒を示した直後、頭を貫き後頭部より抜けたのを確認して俺は安堵の溜め息を洩らす。


「当たれば死ぬ、ね……そいつは安心した」


 だが残りは俺の攻撃に敏感なまでに反応し、注意を向けた瞬間に四散しその場から飛び去った。

 野生の勘というやつか。数体が背の翼を活用して空中へ飛び上がることで立体的な陣系を取り直し、左右と上方から波状攻撃が迫ってきた。


 俺が銃口を向けると全力で射角から身体を逸らし、そのままの勢いで突っ込んでくる。

 そういう動物的なところに関しては人間より遙かに学習が早いな、少し面倒だが――。


神触結界しんしょくけっかい!」


 俺が次なる行動に出ようとする寸前、リーゼの叫びが耳に届いて来た。俺が眉をしかめる数十センチ手前の空間に半透明の壁が張られ、馬鹿正直にぶち当たった魔物が跳ね返される。


「……結界か?」

「中からの攻撃は通ります、数十秒しか持ちませんので気を付けて下さい!」

「なるほど、そういう能力か――助かる!」


 一瞬俺の横を通過したリーゼがそう忠告だけをし、流麗な動きで魔物の群に斬り込み更に数体を両断していく。血祭りに上げられるその光景を苦笑しながら眺め、俺は残る敵を駆逐せんがために銃を構えた。


 効果を教えて貰っていたために尚更その絶大さには驚くが、今は感心などしている時間はない。

 リーゼの暴れっぷりに動揺する魔物の一体へ銃口を向け、再び引き金に手を掛ける。


 結果。

 戦闘時間はごく短く、二発目の銃声の時点で戦いに幕を引く形となった。

 リーゼがほぼ全ての敵を斬り殺したため、俺はほとんど何もしていないに等しいが。


「……また反応? 来ます!」

「ふん、やはりか」


 装填を済ませ、リーゼの注視する方角へ視線を合わせる。地形の起伏や木々、岩などの障害物で遠くを見通すには叶わないが、この先に村があることは魔物がやってくる方から見ても証明されたも同然だろう。


「魔物は恐らく、お前を先に進ませたくないんだろうな」

「そ、そうなんですか?」

「知らん。ただの予想だが――」


 魔物は何故トンネルに立ち塞がったのか、何故リオン村へと進む俺達の前へ出現しているのか。


 新たに地面から出てきた同種類の魔物の群を見て、俺はその数を確認しつつリーゼに伝える。


「リーゼ、先に行け。ここの奴らは俺が始末する。お前は魔物なんざ無視して、一直線に向かってリオン村で戦うサーリャと合流してこい」

「でも、それだとレーデさんが危険です」

「俺はお前が思うほど柔な人間ではない。お守りをするのは俺じゃなくサーリャにやれ、この程度の魔物なら俺一人で十分だ」


 敵の数、十体。先ほどよりも数は少ないが、それでも多い。

 だが、やれないこともない数だ。


 リーゼはしばらく悩んだ様子で表情を険しくしていたが、やがて決意したように頷いた。


「……分かりました、信じます」

「テレパスを常時繋げておく、そっちの状況を随時説明してくれ。俺もそうする」

「はい。神触結界しんしょくけっかい――」


 一度は時間切れで無くなった半透明の壁――俺の周りに結界が張り直された。

 リーゼは俺の言葉通り一直線に駆け、進行上の四体の魔物を斬り裂いて一瞬俺へと振り返る。


「無事でいて下さいね! レーデさん!」


 そう叫んで、奥へと走り抜けて行った。


「ったく……結構見抜いてんじゃねぇのか、あいつ」


 俺の持つ銃が一度に撃てる弾は六発。次を撃つには装填しなければならないリスクが伴うが、リーゼは行く前にきっちり四体の魔物を倒していった。

 つまりは六体。俺が一発で倒すことができれば、丁度の数だ。


 俺は銃の説明などリーゼにしてやった覚えはないが、彼女はもう説明せずともこの武器の特徴を理解していたらしい。


 これでは次に模擬戦でも申し込まれた時、危ないかもしれん。

 まあいいさ。その時はその時で、俺も手を打つことにして。


「しかも結界まで張っていきやがったな。これで信じます……とか笑わせてくれる、本当にな」


 テレパスを繋げる前に一通り悪態を吐き、それから魔石を展開させる。

 先に行ったリーゼを追おうと俺から注意を逸らした魔物の一体を撃ち抜いて、戦線布告の言葉を告げた。


「敵がリーゼだけだと思うなよ。さっきも俺が攻撃するまで敵だとも見なしていなかったようだが――その考え、死んで後悔して貰おうか」


 どうせ言葉も通じないだろうがな。


界越しに魔物の群を睨み据え、自らその群に突っ込んだ。






(とりあえず俺の方は終わった。リーゼ、状況は?)


 静まった空間。火薬と血臭の混じり合った空気を忌々しげに吸い込みながら、俺は六つの死体を調べていた。

 その間にリーゼにテレパスで連絡を取ると、彼女からの返事は数秒後に届いた。


(そっちはもう終わったんですか? 怪我とかなかったですか?)

(心配性な奴だな、怪我などしていない)


 神触結界とかいう術に守られていたのに何をすれば怪我をするのか聞きたいくらいだ。それほどまでに結界は強力で、更に言えば最初のよりも効果時間が長かったため俺が残りの六体に苦戦を強いられるような事態には陥らなかった。

 リーゼが効果を強めたものを施したのだろう、お節介な奴だが、お陰で大した消耗もなく倒すことができた。


(んで状況は?)

(あ、はい! たった今村が見えました――? え、あれは――昨日……魔――)

(ん? 何を言っている)

(です……か……魔物…………言……る……)

(おい、リーゼ?)


 ノイズが入ったように靄が掛かり、リーゼの言葉が断続的になり始めた。俺はすぐにテレパスに異常がないか魔石を引っ張りだしたが、ぼんやりと光るばかりでその異常が全く掴めない。


(レーデさ……危な……来――)


 結局最後まで分からず、魔石は光を点滅させて次第に弱くなり、完璧に輝きを失った時点でリーゼからの連絡も止まってしまった。

 少しの間待っても反応の一つすらしない魔石については一旦諦め、俺はリーゼから届いた言葉を繋ぎ合わせる作業へ移る。


 あまり内容は伝わらなかったが、大事なワードを幾つか拾えたのはよしとしよう。


「……昨日の魔物……? 手傷を負わせた魔物が村に出現している? リーゼは俺に危ないから来るな、と言っているように聞こえたが」


 そこだけは伝わり易かったのが腹立たしい。その部分だけ、彼女の思念が強まった証拠だ。俺の心配をするのはいいことだが、大事な情報を優先的に伝えて貰いたのが正直なところである。


 だが、問題はそれだけではないらしい。

 リーゼが俺に来るなというレベルなら、昨日の魔物以外にも新手が数体来ているか、もっと別の脅威も存在していそうだな。


 俺は目線を下にやり、魔石をしまいつつ魔物の死体を調べる作業へ戻る。ナイフで腹部を裂かれ、頭蓋を縦に割られた黒い魔物。

 俺がテレパスを送る前にやっていたことだ。


 魔物がどんな存在であるのかを確かめるために解剖していたのだが、俺はある程度腹の中身をいじくり回した辺りで止めにしていた。

 これ以上やってもこの場で新たな発見をするのは難しいと判断したからなのだが、そろそろ集めた情報を纏めていこうか。


 さてこの魔物だが――魔物がどんな生態系をしているのか気になってはいたが、これは少しばかり異質であると言えた。


 まず脳味噌はある。指令塔としての役割が頭になければ銃弾一発ではまず死なないだろうから、これは既に分かっていたこと。


 異質なのは身体の構造である。

 臓器が心臓と肺しかなかったのだ。血液を循環させる心臓があり、咆哮を行うことからそれら二つの臓器があるのは当然。しかし他がないというのはどういうことか。

 口がある癖にその先は肺にしか繋がっておらず、勿論胃袋はない。それらに繋がるはずの臓器は勿論、生殖器がないことから子を産む器官すらもない。


 そこで蟻の生態系を思い出したが、この巨体を大量に産む女王蟻とは一体どんな化け物だ?


「だが――魔物は生物と同じ、か」


 死ぬと煙のように霧散し消滅するのではなく、ゲームのように鉱石や魔導具、未知の素材などのアイテムに変わるわけでもない。

 魔物は死ねば人間や動物と同じくただの死体になる、超常的ではない生き物だった。

 他の動物との違いはまだ分からないが……。


 血に汚れた手とナイフを拭って懐に入れると、俺はリオン村のある方角へ目をやる。

 新手はこない。既にリーゼへ集中しているためか、俺などに構っている余裕はなさそうだ。


「……ここまでで十分。これだけ分かれば、調べる必要はどこにもない」


 何らかの理由でテレパスが切れてしまったのが痛いが、リオン村の方角は分かった。リーゼがどのような強硬手段を取ったか直接見てはいないものの、真っ直ぐ進めば目的地に辿り着くことは可能だろう。

 そちらには、“期待”ができることを祈らんばかりだ。


 六つの死体を残して俺は、汚れた大地を踏み先へ進む。


 その後の道で魔物が襲い掛かってくることはなかったが、リオン村への道中で山林に入ったこともあって、到着までは少し時間が掛かってしまった。

 と言ってもダライト村から直線で換算した距離は長いわけではなく、道中でリーゼが倒した魔物の死骸を道標にしたこともあってそこそこスムーズに進めてはいた。


「……こりゃ、酷い」


 村の惨状は酷いものであった。至るところが燃え上がり、煙が天に昇っている。だが石造りの建造物が多いのが幸いしてか、結構形は保てているようだ。

 全てが焦土と化してしまえば村の再興も何ももありはしないからな。


「ん、あれは――」


 ふと目を向ければ、村の中央にぶよぶよとした丸い何かが蠢いているのが見えた。建造物に阻まれていてほんの一部しか見えてはいないが。


「黒い、卵? そうか……あれが魔物の発生地か」


 まだ村の入り口に来ているだけだが、道中の魔物と同種の奴らが大量に這っているのが窺える。これだけでも俺が対処し切れない量で、無論道中の数とは比べ物にもならない。

 俺に狙いを定めてこないのはいいが――。


「《イグナイト・ロア》」


 得体の知れない熱気を感じてそちらへ警戒すれば、遠くから放たれた炎弾が魔物の群れを直撃した。着弾と共に大炎上し広がった火炎が魔物を焼き払う。


 火の魔法――まさか。


「あんたそんなところで何やってんの、逃げろって言ったでしょ――? って……」


 そいつは端にある家の屋根から飛び降りてきた。

 装飾過多な紅蓮のローブをはためかせ、その魔法に全く似つかわしくない青色の長髪が宙に舞い、ふわりと俺の目の前に着地してくる。


「ちょっと待って、村人……じゃないわね。旅人かしら? にしたってこんな状況で足踏み入れてくるなんて馬鹿じゃないの?」

「……あぁ」


 目つきの悪い三白眼、赤の瞳が俺を睨み付け、明らかに面倒臭そうに眉がつり上がる。

 また癖の強い奴が登場したもんだ。こいつが例のサーリャだというのは間違いないんだろうが……あまり認めたくないな。

 関わり合いを持つと面倒だという雰囲気が滲み出ている。


 そうか、こいつが家屋を炎上させていた張本人なわけだ。

 事前に村人は逃がしているらしいが、やることが悪い意味で剛胆である。


 俺は睨まれない程度に渋面を作り、得物を懐にしまってから応対する。


「ここで社交辞令や礼儀など必要ないな。単刀直入に言わせて貰うが、リーゼとは会ったか?」

「……!」


 その名を出した途端、青髪紅蓮の少女は俺に詰め寄ってきた。胸倉を掴まれた辺りで払おうかと思ったが、流石に止めておくことにした。

 これはリーゼより面倒なタイプかもしれん。


「あんたリーゼを知ってるのね?」

「この会話の流れで知らないとかあるのか? んでリーゼの奴とは会ったのか、会ってないのか」

「会ってたらこんなに切羽詰まってないわよ、それくらい分かるでしょ! というかあんた誰? リーゼの何?」


 同じような悪態を返し矢継ぎ早に質問責めしてくるサーリャに若干の辟易を覚えつつ、俺は仕方なく口を開く。


「俺は奴隷にされたリーゼを購入し、旅をしている者だ。火魔法の使い手でサーリャってのはお前だな? 捜しに来た、いいからまずその手を離せ」

「はぁ!? リーゼを買った……? てかちょっと、なんで私の名前知って――…………はぁ、分かったわ」


 さんざんの逡巡の後、ようやく俺の胸倉から手が離れてくれた。

 どうにもこの世界の女の腕力は強過ぎるきらいがあるな。魔法で強化してるのは分かってるんだが、少しは手加減を覚えて欲しいもんだ。


「落ち着いたか?」

「落ち着いてない! ……それで、私を捜したって、なんでこの位置が分かったのよ。まさかとは思うけど、ダライト村にいたの?」

「ああ、お前が出発する前夜に村へ着いた。夜が明けてから村長と話をし、リーゼと一緒にここまで来たわけだ」

「じゃあ昨日の時点でリーゼがこっち来てたの? ……私んとこ来てくれれば良かったのに……」

「知らん、お前の気配さえリーゼが察知していれば話は別だろうが」


 そんな言葉を匂わせたことすらなかったがな。

 魔物のせいで気がそちらに向いていた可能性も否めないが、そもそも村に到着してからのリーゼは暢気に飯食って風呂入って寝ていただけだ。


 炎上する村を見やり、火の中から飛び出してくる魔物の群れに注目し、完全に村に背を向け俺に相対してくる彼女に告げた。


「魔物の第二陣が来ている、悪いが倒してくれ」

「っち――《イグナイト・ロア》!」


 振り向き様に伸ばした手の平から炎弾が飛び、大地に新たな火炎の華が咲く。村のことを考慮しない威力の火魔法は、新たに見えた魔物の全てを消滅させることに成功した。


「はぁ、ったくいつまで湧くのよこいつらは!」


 俺に振り返ったサーリャは吐き捨て、先の魔物のことなど忘れたかのような表情に変わって再び問いつめてくる。


 そのつり目も相まって、フィンのような子供がやられたら泣き出してしまいそうな感じがするのだが……この女は本当に子供の相手をしてやるような人間なのか?


「それで、リーゼは今どこよ?」

「分かってたらお前に聞いてねぇよ……」


 ああ、思わず口調が荒くなってしまったな。


「……リーゼは俺より先にこのリオン村に向かっている。俺はてっきり先にリーゼが着いてお前と合流していると思ったんだが」

「してないし、見てもいないわ。私は無尽蔵に現れるこいつらを倒していただけ。中央にあるこいつらの巣には魔法が全部弾かれちゃうし、どうしたらいいのよ全く」


 サーリャは首を大袈裟に横へ振り、知らぬ存ぜぬのアピールだ。

 テレパスが通じない今、リーゼが何処にいるのか本当に分からない。村には着いていたはずなんだが……。


「とりあえず、あの魔物をどうにかしないと話が始まらないわ。放置してると永遠に出てくるし、どうにかしてあの巣をブチ壊さないといけないけど私じゃどうにもならない」

「村にリーゼはいないんだな?」

「ええ」

「なら、俺はリーゼを捜してくる。お前にはここの魔物を任せておくとしよう」

 そう言って踵を返した瞬間、肩をがちりと掴まれた。

「ちょっと待ってなんでそうなるわけ?」

「ん、あの魔物をどうにかしないと始まらないんだろ? ここは役割分担だ、俺がリーゼを捜して戻ってくるまで――」

「《ファイアーバード》」


 俺の説明を遮って魔法が放たれ、手の平大の炎の鳥が連続で出現する。それらを村に飛ばし、サーリャは俺に向き直った。


「自動追尾で撃破してくれるから、少しは持つわ。リーゼがこの付近に居るんなら捜すのは私の仕事。なんか状況は分からないけど、私に付いてきなさい」

「……そうか、好きにしろ」


 やはり面倒な少女だが……まぁいい。

 リーゼを見付けてくれるというなら、それが一番楽な方法だからな。


 俺は村を飛び交う炎の鳥を眺めつつ、やかましい少女に付いていくことにしたのだった。

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