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シャナと花のバラッド  作者: 藤和葵
第四章・願い事ひとつ
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02.ソノラ

 

 雛菊は退屈のあまり花瓶の花の花びらの数を数えていた。でも菊に似た花の弁を目で追って数えると切りがないので、飽きた所でやめる。


「た、い、く、つ~」


 歯切れよく声に出す。が、相手をしてくれる人は誰もいない。

 散歩でもしようかと部屋の扉を開けば、見張りの兵士が「セラフィムは安静に養生するよう国王からのお達しです」と、やんわり部屋に戻されてしまう。

 いくら怪我人と言えど、出歩けない程の重傷ではない。城内で拉致された為の警戒なのだろうと雛菊は考える。

 だが、セイリオスはもうこの城にはいない。だから流石に侵入してまで再びやって来るとは思わないのだが、念には念をと言う事だろう。


「これじゃあ、塔の時と同じじゃない」


 ぼやいて、雛菊はテラスに出る。

 眺めも良い海沿いの客室は塔より高い位置にはないがやはり脱出は難しい。脱出をする気はないが、どうも厳重に囲われると息が苦しくなった。

 何かテレビや漫画、小説でもあればと思うが、生憎とこの世界にはそれらがない。

 小説ならあるのだろうが、残念ながら雛菊にはそこまでのラキーア文字はまだ読めない。


「退屈だー」


 再度声に出しても何も変わらない。せめてルビでもいたらと思うが、怪我人に気を使っているのか部屋にはいなかった。

 たっぷり五日も眠った所為か、眠気もない。


「……寂しいな」


 つい出た言葉にはっとして雛菊は口を押さえる。何だか留守番も出来ない小さな子供になった気がして恥ずかしかった。

 しかしそれは無理もないのかもしれない。元の世界でもこの世界でも「独り」という経験を雛菊は殆ど味わった事がないからだ。

 家には大抵専業主婦の母がいた。誰もいなくても、誰かが帰って来る安心感があった。

 シャナの家でもそうだ。時々シャナがふらりと家を明けたり、アサドが町に降りたりをしたが、雛菊にはそこで家事をする事で人の気配を感じながら、家を守っている安定があった。

 だけどラス・アラグルの生活は違う。

 雛菊は客人で、家事をする必要もない。勝手を知らない広過ぎる宮殿だと尚、人の気配も感じられない。その為、部屋に閉じ込められてしまうと一気に不安になるのだ。


「衛兵さんとお喋りしてもいいのかな」


 扉を眺めて自問自答をするが、彼の仕事を邪魔して彼が怒られないか考えると気後れしてしまった。

 諦めて視線を扉から視線を外すと、もう一枚の扉を見付ける。隣りのシャナの部屋に繋がる扉だ。

 ノブを捻ると扉はあっさり開く。けれどシャナはいない。


「シャナは、どうしてるかなぁ」


 アサドにはシャナの事を聞きそびれてしまった。シャナも自分の所為で傷を追っていた。その具合が気になる。

 怪我だけでもない。

 あの騒動で有耶無耶になってしまったが、まだしっかりと仲直りをした訳ではなかった。それが雛菊の胸に引っ掛かる。

 どうして喧嘩になってしまったのか原因は分からないが、自分が持ち出した相談が引鉄なのは理解しているからやはり一言謝りたかった。

 他にもその相談の要因でもあるアサドの事も考えなければいけない。未だにその答えは見付からずに雛菊の気分は重いが、この部屋にいるとそれも少し晴れた。

 僅かでもそこにシャナの気配があったからかも知れない。

 部屋やベッドはメイドが来たからか綺麗に整頓されていたが、開いたまま伏せられた本や、無造作に机に広げられた数種の草がシャナの研究室を思わせる。

 雛菊は何となく誘われるようにベッドの方へと腰掛けた。

 取り替えられたシーツに匂いが染み込んでいる事はないのに、不思議とシャナの気配が感じられた。

 そのまま体を仰向けに倒し、頭を傾けると枕カバーの柔らかい絹が頬を撫でる。


(そういえばシャナと喧嘩した時に、顔面に枕を投げられたっけ……)


 いくら怪我はないとはいえ、女の子の顔に投げるのは感心しないなと雛菊は吹き出す。

 思えばシャナが感情を剥き出しにする事は珍しい。それだけにどうしてあんなに怒ったのか気になる。


「今なら聞いて教えてくれるかなぁ」


 流石にまだ怒っているなんてないだろう。

 枕に顔を埋め、さてどのようにその話を切り出せばいいかと雛菊は考えた。

 考えて、例え仲直りしてもシャナが笑って仲直りの握手なんて幼稚園児みたいな事はしてくれないだろうなとぼんやり想像して雛菊は小さく吹いた。


 ――考える内にうつらうつらとしてしまったのだろう。雛菊は自分の体を揺する振動に目を覚ました。


「はれ……わらひ、ねてた?」


 朧気な世界を明確にしようと雛菊は目を擦る。


「そうみたいだね」

「しかも、なんかもうゆーがただし」


 首を窓の方に向けて外の景色を確認してゴチた。


「どれだけ寝てたんだよ」


 時間なんか分からない。最後の意識下では青い空があったのだと雛菊は自分の言葉に応える声の主を見ると、目を見開いた。

 寝起きの無意識で気にもしていなかったが、いざはっきりとその姿を認めるとどんな顔をしたらいいか分からなくなる。

 彼は横たわる雛菊の傍に腰掛け、夕陽よりも鮮やかな真紅の瞳で見下ろしていた。

 女装の名残でまだ少し長い黒い髪がさらりと首筋をなぞり、白い肌が余計に際立つ。


「シャナ……」


 雛菊はパッと身を起こす。が、刹那苦痛に顔を歪めた。


「馬鹿……! 急に動けば傷が痛むに決まっているじゃないか」


 慌てて雛菊の体を支えて、シャナが傷口に手を当てる。その瞬間に触れられた部分から熱が伝わり、痛みが和らいでいった。

 次第に痛みが引くと雛菊は息を吐き、シャナとの鼻先の距離に気付く。

 シャナの前髪が雛菊の頬を掠める。その上シャナの手が雛菊の地肌に触れている。シャナが顔を上げると視線は至近距離で交わり、雛菊は顔に熱が昇るのが分かった。

 訳が分からず気恥ずかしい。

 よくよく考えれば人のベッドで勝手に寝ていた事も恥ずかしい行動だ。それをシャナ本人に起こされた事が拍車をかけて恥ずかしくて、心臓をごちゃごちゃと掻き混ぜられている気になる。


「ご、ごめ……」


 咄嗟に身を引いて雛菊は少しでも距離を取ろうとする。それに対してシャナが特に何も言わなかったので内心ホッとするのだが、気持はまだ落ち着かない。


「――ところで、君は此処で何をしてるのかな」

「えーと、退屈だったから冒険?」


 肩を竦めてわざとおどけると、シャナはあからさまに呆れた様子で一瞥した。


「どうして少しの間も大人しく出来ないんだ。また拉致られてもいいのか、君は」

「ごめんなさい」


 雛菊が素直に頭を下げるとシャナもこれ以上の小言を引っ込める。


「……すぐに見付かったからいいけどさ。部屋に行ったら見当たらないから心配した」

「心配、してくれたの?」

「僕を薄情な人間にしたいなら期待に応えるけど?」


 問い返されて雛菊は首を振る。

 嬉しいのに、何故だか素直に嬉しいと声に出せなかった。

 普段なら難しく考えずに言える言葉も上手く話せない。

 久しぶりに顔を付き合わせたからだろうか。

 以前はどのように話していただろうか。

 必死に思い出しながらそれでも雛菊は黙ってしまう。

 ぎこちない空気はシャナにも伝わり、少年は諦めたように肩を落とした。


「話したくない程、軽蔑するのは当然だね」


 一体何を言い出すのか。雛菊が顔を上げるとシャナは自嘲して俯く。


「……もう誰かから聞いたんだろ。僕がアサドを異形に変えた罪で、さっきまで審議にかけられてたって。……例えアサド本人の弁護で無罪になっても許されるものじゃないとも思ってる?」


 雛菊は息を飲む。

 審議だとか無罪だとか、何の話だか全く分からない。

 けれど何が原因かは分かった。


「――シャナは、どうしてアサド君にあんな事をしたの?」

「簡単だよ。僕が弱いからだ。身勝手だったからだ」


 答えになっていない答えに雛菊は惑う。

 尋ねたい想いが喉元まで来ているが何とか飲み込み、顔を背けるシャナに怖々と体を寄せた。

 確かにアサドのあの姿を見て、そうしたのがシャナだと言うなら残酷な仕打ちだと雛菊は思う。ただ、残酷だけれどシャナが何の理由もなしにそんな事をするとは思わない。

 むしろ信じているぐらいだが、その雰囲気に声をかけるのを躊躇われた。

 それでも放っておく事はもっと出来なくて、雛菊は遠慮がちにシャナの頭に触れる。

 微かにシャナの肩が震えたが、嫌がる素振りはなかったので雛菊は構わずにそのまま頭を撫でた。

 するりと柔らかい髪が指の間を抜け、とても心地がいい。その感触に夢中になり、雛菊はただシャナに触れていた。

 彼には何の慰めにもならないかも知れない。

 それでもシャナの髪に触れる度に極度な胸の高鳴りを抱えたまま、雛菊は安らぎすら覚えていた。

 慰めるというのはただの口実で、雛菊自身で触れる理由を作っただけなのかも知れない。


「ヒナギク……」


 あまりに夢中に撫で過ぎた為か、とうとうシャナが顔を上げて雛菊の手を取った。

 掴まれた手首から雛菊はその腕を視線で辿り、シャナを見詰める。

 真紅の瞳が揺れるように真剣な色を帯びていた。


「困るよ」


 搾り出したような声を耳に雛菊も緊張して尋ねる。


「どうして……?」

「どうしてって……」


 それこそシャナは困惑して、また顔を背けた。


「シャナ」


 シャナの様子のおかしさに雛菊はむきになって追及してしまう。何とか目を合わせようとするが、それでもシャナは頑なに拒む。


「困るんだ……」


 手を話すとシャナがまた呟く。


「――君が……」


 言いかけるがその言葉を雛菊は聞く事はなかった。

 何か廊下で揉める音が響いたかと思うと、シャナの部屋の扉が乱暴に開いた。


「ちょっと、勝手は困ります!」


 乱入者の後ろで声を鋭くするのはランフィーだ。その傍で雛菊の部屋の前に立っていた衛兵も窮している。

 その人物はそんな声を気に止める素振りもなく、優雅にヒールを履いた長い足を伸ばして二、三歩進む。

 背中に流れた銀色の髪がさらりと揺れ、褐色の肌に浮かんだ大きな翠色の双眸がシャナを見付けると、艶めく唇を吊り上げた。

 雛菊はこの乱入して来た人物を見て息を飲む。

 まず思ったのは、とても目鼻立ちがはっきりとした迫力のある美女。そして、これもまたまだ未成熟な雛菊と比べたら凹凸のはっきりとしたスタイルに目を引かれる。そのスタイルの上で水着に近いような露出の高い服装だと、殊更注目を集める人物だった。

 美女はそんな自分の魅力を存分に理解しているのか、見事な曲線を描く腰を誇示して立ち、甘ったるそうな吐息を零す。


「貴君がシャナ=ステラ・ミラ様かしら」


 尋ねながらもそうであると既に確信をした口調だ。


「それがなんだい」


 応じて立ち上がるシャナがさり気なく雛菊を隠す。が、雛菊はその意図を掴めずに影からちょこんと首を覗かせると、胸の谷間を強調して一礼する姿を見た。


「あたくし、北はニヴェルから参りました、ソノラ=イスラ・デ・ピノスと申します。創天の魔術師として是非、お見知りおきを」


 これは一体どういう流れなのか。

 雛菊はシャナのベッドを占領したまま来訪者を迎えた。

 シャナは変わらず雛菊の盾のように立ち、ソノラと名乗る謎の美女を正面で捕える。

 そのソノラも優雅に腰に手を当てたポーズでシャナと対面する。取り残された雛菊は何事かと二人を見守るしかない。


「ニヴェルの魔術師がなんだって此処に?」

「少々、伯母上の頼みでこちらにお使いへ参ったんです」


 微笑んでシャナを見下ろしたかと思うと、ソノラは恭しく少年の足下に膝をつけて目線を合わせた。


「伯母上……?」

「この方はニヴェル国女王の姪御様であらせられるのですよ。それとシャナ様――」

「なに?」


 ソノラの後ろから説明を挟むランフィーが遠慮がちに前に出た。その際、雛菊と目が合ったがすぐに戻される。


「ヒナギク様が何故貴方様の部屋にいるのでしょうか」

「……リハビリだよ。大した事はない。話を戻すよ」


 あまりその件に触れられたくなくてシャナは軽く流したが、ランフィーはまだ納得出来ないようだ。同様に雛菊もランフィーがいつの間にか自分を敬称付けで呼ぶ事が気になったのが、口を挟む事が出来なかった。


「それで。そんな大層なお嬢さんがどうして僕の所に?」

「それがですね……」

「聞けば精霊師ウィッカとして超名うてのシャナ様がこちらにいると聞いたものですから、居ても立ってもいられなくてつい――……」


 唐突に会話に割込み、指先を唇に当ててはにかむソノラに雛菊は「ん?」と首を傾げた。

 何処かソノラの所作に引っ掛かりを覚えたのだが、はっきりと言葉に出来ずにただもやもやが胸に残る。しかもその事は雛菊だけが感じるもので、シャナやランフィーは全く気にも止める様子がなく話は続いた。


「それにしても、こんな時間にレオニスとの謁見は難しいんじゃないのかい」

「はい。ですから国王との謁見は明日になります」

「目的は?」


 難しい顔で問う声はソノラに向けられる。心なしか険しく射る赤い視線をソノラは肩を竦めて軽くいなし、笑顔の仮面を崩さない。


「勿論、セラフィムを見定める為ですわ」


 その微笑みは雛菊を見た。

 突然翠の視線をぶつけられ、雛菊は息を飲む。シャナとランフィーが咄嗟に身構えるが、ソノラは煽るような真似をせず、ただ雛菊を眺めるだけ。

 ベッドの上にネグリジェの裾を広げて座る少女を、頭の先から爪先まで。値踏みするようにじっと観る。


「貴方がセラフィム、なのよねぇ?」

「まぁ、一応……」


 その視線に不快さを隠せない雛菊は、短く頷く。


「情報では異界の住人と聞いたけれど、貴方が……そう……へぇー……」


 興味なさそうに呟くと、ソノラはクスリと微笑した。


(わ。馬鹿にされた)


 その綺麗な微笑に雛菊は彼女の感情を知る。

 シャナとランフィーは気付く様子もない。しかし、女の勘と言ってもいい直感が雛菊に告げた。

 今、ソノラは己の女としての魅力を雛菊と測っていたのである。そして、彼女の中で雛菊は敗者となったのだ。


(何よぉ。ちょっとだけ凄い美人だからって、ちょっとだけかなり胸があるからって、ちょっとだけとてもくびれが綺麗で足が長いからって……!)


 悔しいくらいソノラは同性の雛菊から見ても美しい。

 反面、異性だからこそ通じる、その美貌を鼻にかけている態度は生理的に気に食わなかった。また、ソノラは同性からの反感も当然のステイタスとして受け入れている感が見受けられる。

 だからこそ彼女は雛菊が苛々を募らせる事をさも愉快そうに受け止めもした。


「そのセラフィムを呼び出したのって、シャナ様なんですよね?」

「そうだけど……」


 突然話を振られ、シャナが僅かに身動ぐ。何となく肌に感じる空気が不穏なのも相乗してか動きがやや固い。

 それすら手に取る様に楽しみ、ソノラは流し目で雛菊を窺うと、指先でシャナの顎をついとなぞる。


「あたくし、それだけの力を持つシャナ様がすごぉく気になるんですよねぇ」

「は……?」


 しなを作った甘い声にシャナが後退る。ランフィーは目の前でいきなり始まった求愛に赤面し、雛菊は目を剥いた。


「あの、ソノラさん!」


 他の目を気にしない行為に雛菊は声を上げる。動きを止めたソノラに対し、シャナは助かったと距離を置いて逃げ、ランフィーも胸を撫で下ろした。


「ソノラ……さん、は、私を見定めに来たのでしょう? それを突然現れて、少し失礼ではないでしょうか」

「だーかーら、そのセラフィムを呼び出した主の器を見定めるのでしょう?」


 涼しげに反論すると、ソノラはシャナに手を伸ばして胸の中で抱き留めた。


「わ、ちょっ……!」


 豊満な胸に頭がすっぽり挟まったシャナは狼狽えてもがく。しかし子供の体では上手く抵抗出来ず、もがけばもがく程深みにはまっていった。


「あの、ソノラ様お戯れが過ぎるのでは……」

「えーと、貴方ランフィー君だっけ。可愛い顔してるけど、ちょっとあたくしの好みより年上なのよねぇ」

「あの、それはつまりソノラ様は……、少年愛こ……」


 唖然とするランフィー。ソノラは肯定するように、更にシャナを抱き締める。そしてそれを見た雛菊は顔を真っ赤に染め上げた。


「は、離して下さいっ!」


 いてもたってもいられず身を挺してシャナを片腕で引き剥し、雛菊はソノラを強く睨んだ。


「こういうのをいきなりやるのはどうかと思います!」

「貴方堅いわねぇ。それともシャナ様と恋仲?」

「ち、違うけど……」

「なら口出しなさらないでくれる? いくらセラフィムでもマスターの色恋に嘴を入れる権利はない筈でしょ」


 きっぱりと言われ、雛菊はぐっと唇を噛む。確かに口を挟む立場ではない。黙っている事が出来なくて、言葉が見付からなくてもごもごと口ごもる。それが余程滑稽だったかソノラは吹き出した。


「貴方、見た目と同じく中身まで小娘なのね」

「なっ……!」


 小馬鹿にした態度が雛菊の怒り中枢に突き刺した。重ね重ねの初対面から失礼な態度、物言いに雛菊もカッと顔が赤くなる。ソノラは楽しそうにクスクスと喉で笑った。

 そこで雛菊は確信する。始めから感じていた引っ掛かり。露骨に見せる彼女の態度に敵意が含まれている事を。

 ソノラはベッド脇に身を引いたシャナに再び迫り、不敵に口の端を吊り上げる。


「セラフィム。あたくしは北の魔女として貴方という花を許せないの。だから貴方の居場所を奪いに来たのよ」


 そう言ってソノラはシャナの顎を強引に掠め取ると、啄むように唇を重ねた。

 雛菊も驚いたが、何よりも目を丸くしたのは当の本人。

 女性相手に遠慮もあっただろうが、多少力ずくでも腕を突っ撥ねてシャナは抗った。満足したのかソノラは案外あっさりとシャナを解放する。


「ごちそうさま。まずはご挨拶でしてよ」


 指で潤った唇をなぞり、ソノラは愉快げに片目を閉じた。

 

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