閑話:異世界の少女の日記
ラキーアに来てから出来る限り日記をつけていたけど、今日は久しぶりに書く。
久しぶりだから少しだけ振り返ってみよう。
私は同年代の子よりちょっと家事が得意なだけの普通の女子高生だ。
勉強も運動も、ヒーローになれる素養は全くないのに、私は小さい頃から不思議な夢を繰り返し見ていた。
何かに必死に祈る男の子の夢を見て、私は向こうの世界へ行く事にずっと想いを馳せていた。
それから月日が流れて今年の春、私は念願叶ってラキーアへの扉を開けた。
迷いはなかったんだ。
それなのに向こうの世界で具体的に何が出来るとかそんな事、ちっとも考えた事なくて――でもそれでもいいと思って、出会ったシャナとアサド君と少しの時を過ごした。
何も出来ないけど何かしたくて、目的があって世界を渡ってきたはずなのにただ悪戯に時を重ねるだけでちょっと迷った時期もあった。
私がセラフィムというあらゆる願いを叶える至高の花だと判明したのはそれから間もなくだ。
力があればいいなって思ってた。
だけど本当に私の中にそんな不思議な力があるとは全然思いもよらず、セラフィムと言われても私は私のままで何かが劇的に変わるとも考えなかった。
アサド君が王宮のお城に帰らないと行けなくなって、アサド君一人が何かを抱えて出て行く事に我慢ならなかった私は、力もないくせにセラフィムという肩書きを背負って強引にお城までの同行を決めた。
守りたいと思ったんだ。何からなのかは分からないけど放って見送るのは出来なかった。
なのに私は守られる立場でしかなくて、何故かセラフィムという私を守る為にアサド君から求婚を受けた。
お城の人達のセラフィムを見る目。
アサド君は私がセラフィムという理由から婚約を申し出たつもりじゃない事は分かっている。
でも、気が付いたら、私はこんなに‘セラフィム’という肩書きを重みに感じてたんだ。
王宮にいる私は、何処へ行ってもセラフィムとまず紹介されるから。
私には何の力もないのに。
特別な力なんて何もないのに。
それを、今更ながら気付いた。
私は何を思い上がっていたんだろう。
セラフィムとしての力の欠片もないくせに、セラフィムを名乗り、挙句にセラフィムの重圧に負けてる。
私は何がしたいの?
私に何が出来るの?
私は何をしたらいいんだろう――?




