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仕方なく口を閉じて椅子の背もたれにもたれかかると、慶太はなんでもないように携帯を弄り始める。

「ねぇ、もうすぐお昼終わっちゃうのに、宮下くんってばご飯食べないの?」


声のしたほうに顔を向けると、クラスの女子の姿。

恥ずかしそうに俯いてる木内と、少しやかましい佐野。


「――別に。なんか、面倒だし」

「えーっ、昼ごはんが? 食べなきゃだめでしょ、若者が」


きゃんきゃんうるさいな。

しかめっ面で佐野を見上げたら、一瞬口をつぐんで視線を修平に動かされた。


「そう思わない? 高坂くん」

俺達の会話を面白そうに聞いていた修平は、佐野の言葉にそうだねぇと呟く。


「でも、涼介。今日なんも持ってきてないんだろー?」

修平の間の抜けた声に、なんか今は癒される。

いつもは嫌だけど。



「じゃ、これ食べなよ。ほら、きーちゃん」

佐野が待ってましたとばかりに、隣で俯いている木内の背中を軽く叩く。




そーいうことねー




促された木内は、小さな声で何か言いながら菓子パンを二つ俺の机に置いた。

何言ってるのかわからん。






が。


俺の周りにいる女は、こういう感じ。





よく言えば大人しくて可愛らしい、悪く言えば自己主張がない女。


よく言えば明るくて楽しい、悪く言えばおせっかいでうるさい女。



とにかく近くにいる奴からは、大体クラスメート以上の好意を向けられる。

こっちがうんざりしてても。




だから、勘違いしたんだよ



――ごめん。顔、見てなかった



莉子の声が、頭の中に響く。







思考がどうしても莉子に繋がるのは、ズタボロにされた俺のプライドの所為だろう。






パンを見ながら黙っていたら、木内が何か勘違いしたのかみるみる真っ赤になって俯いていた顔をもっと下に向けた。

それを見た佐野が、またきゃんきゃん言い始める。


「お礼くらい言いなさいよ、宮下くん。何、黙ってるの?」

「んあ?」


思考が引き戻されて、間抜けな声が口から零れた。

見上げた先の佐野の顔が、少し赤く染まる。



あ、怒ったのか?



首を傾げると、この雰囲気をどうにかしようと考えたのか、明るい声で修平が余計なことをあっさりと口にした。







「涼介、莉子さんのこと考えてたんだろー」




あはは、と笑いつきで。







「は?」

思わず、ぐりんっと修平を見上げる。


信じられないような目をしていたのは、俺だけじゃなかったようだ。


「――あんた、もう他の子と付き合い始めたの? さいてー」



横から聞こえる、不穏な声。




「行こ、きーちゃん」

振り向くと同時に見えたのは、木内が机に置いたパンを右手に、木内の手を左手で掴んで歩き去る佐野の後姿だった。





修平は何が起きたの? みたいな顔をして、首を傾げてる。





「また、涼介の評判落ちたね」

それまで黙っていた慶太が、携帯を閉じながらにこやかに笑った。



「……それ、笑って言うことか?」




「え? 俺、まずいこと言った?」



慶太と二人で、修平を見上げる。






「「それわかんないお前に、彼女は絶対できない」」





無邪気はある意味、最高に最悪だ。


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