ヴォルフ商会の発展を祝って!
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──ヴォルフ商会の発展を祝って!
「今度、ヴォルフ商会の発展を祝ってお祝いをしないかい?」
グリムシュタット村にアルノルトさんたちが戻ってきた日、アルノルトさんは俺たちにそう提案した。
「お祝いですか?」
「そう。王室御用達の看板も手に入れたんだ。祝わないと。クリストフ君たちも招いて城でね。料理はこっちで準備するから、ジン君はお酒を準備してもらえるかい?」
「いいですね。やりましょう!」
というわけで、俺たちはクリストフさんたちも呼んでアルノルトさんの城でお祝いをすることになったのだった。
俺は再びお酒を買いに行き、アルノルトさんたちはその間にクリストフさんたちに招待状を書き、料理の準備をする。役割分担してお祝いの準備を進めた。
「ジン! お祝いをするんだってね!」
「そうだよ、リーゼ。ヴォルフ商会も王室御用達になったからね。そのお祝いだよ」
「ふふふ。楽しみ~! 私も何か手伝えることはない?」
「そうだね。それならビールとかを冷やしてもらえるかな?」
「了解! 任せて!」
リーゼにはビールなどが美味しく飲めるように冷やしてもらうことにした。リーゼの魔法の方がポータブル冷蔵庫などよりよく冷えるのだ。
「ジンさん。今日はよろしくお願いします」
「クリストフさん、エリザさん、ウルリケさんも。今日は盛大に祝いましょう!」
クリストフさんはエリザさんとウルリケさんもつれてグリムシュタット村までやってきた。俺とリーゼで彼らを歓迎し、アルノルトさんの城に向かう。
「しかし、この村も発展したものだねぇ。ちょっと前までは何の特徴もない小さな村だったのに今ではフリーデンベルクみたいに活気がある」
エリザさんは村の人たちが乗る自転車が行きかい、畑の広さもアルノルトさんが国王陛下から新しい領地をいただいたおかげで何倍にも広がっている。
村の人口が爆発的に増えたわけではないのだが、それでも人々の活気は満ちていた。
「そうでしょ、そうでしょ? ジンが来てから村は大きく発展したからね~!」
アルノルトさんによってグリムシュタット村に招かれ、村の発展のために働いてきたリーゼにとってもこの発展は嬉しいことだったようで、エリザさんに自慢するようにそう言っていた。
「いやはや。私も最初に訪れたときはここまで村が発展するとは思っていませんでしたよ。ヴォルフ商会が王室御用達になるとも思っていませんでした。何もかもジンさんのおかげですね」
「いやいや。この村の発展も、ヴォルフ商会が発展したのも俺だけの功績じゃないですよ。リーゼたちやクリストフさんたちのおかげです。俺だけではせいぜいこの村でお菓子をふるまうだけで終わっていたでしょうから」
そうそう。リーゼがこの世界のことを教えてくれて、アルノルトさんたちが貴族の方々に商品を紹介し、クリストフさんが新しい販路を営業で勝ち取り、ウルリケさんたちが支店を支えてくれたから今の発展があるのだ。
「ジンさんは本当に謙虚ですね」
「それがジンのいいところだからね~!」
クリストフさんはそう笑い、リーゼも笑顔でそういう。謙虚なつもりはないのだが、みんながそう言ってくれるので俺も笑っておいた。
「それでは今日は盛大にお祝いしましょう。みんなの努力を祝って!」
「おーっ!」
それから俺たちはアルノルトさんのお城に入る。
「おお。ジン君たち、来てくれたね。料理はできてるよ。お酒はいいかい?」
「ばっちりです、アルノルト様」
「では、早速宴を始めるとしよう!」
アルノルトさんはにっこり笑い、俺たちは宴の準備がされた大広間に案内され、そこにある料理を前にした。豚の丸焼きを中心に様々な料理が並んでおり、その香ばしさが鼻腔をくすぐる。
「これはまた盛大ですね~!」
「ははは。せっかくのお祝いだからね」
リーゼは満足そうに料理を眺め、アルノルトさんがそういう。
「それでは、まずはジンに挨拶してもらいましょう」
「え? わ、分かりました」
ニナさんにそう言われて俺はヴォルフ商会を代表して挨拶をすることに。
「えーっと。今日、こうしてお祝いができるのはひとえに皆さんのおかげです。自分は確かに異世界から商品を持ち込みましたが、それをこの世界に広めてくださったのは皆さんです。そのことに感謝します」
俺は続ける。
「最初に自分が考えていたのは、この村の子供たちに映画を見せてお菓子を売るというものでした。本当にちんまりとした商売を考えていたのです。それがここまで大きくなって、嬉しい驚きを感じています」
そして締めくくる。
「今日は皆さんとともにこのように成長したヴォルフ商会の発展を祝いたいと思います。そして、これからも皆さんと一緒にヴォルフ商会の仲間として友人として一緒に活動できることを祈ります。以上です」
俺がそう挨拶を終えると拍手が響いた。
「さあ、ジン君が言ってくれたようにここにいる皆がヴォルフ商会を盛り上げてくれた。今日はそのことを祝って乾杯しよう!」
「乾杯!」
それから盛大にお祝いが始まった。
俺たちはまずは缶ピールを開けて何度も乾杯し、それからめいめい好きなお酒を飲み始める。アルノルトさんはウィスキー、リーゼは梅酒といつもの好みのお酒を楽しみながら、ふんだんに提供された料理を食べる。
「なんだかいいなぁ、こういうの……」
信頼できる仲間たちでこうして盛り上がる。
最初は本当に俺がひとりで小さな商売をやるつもりだったのに、嬉しいことにここまで大きくなり、大勢の友人ができた。
友人ができたこと。それが何より嬉しい。
それに今は友人以上の存在もいる。
「リーゼ。これからもよろしくね」
「ふふ。こちらこそ、ジン!」
俺とリーゼは乾杯し、引き続き飲み明かす。
料理もお酒ももりもり減っていき、そして全て平らげたときにはみんな酔いつぶれて眠ってしまっていた。
「うう~ん。今日は飲みすぎたかも……」
「私もちょっと羽目を外しすぎたみたい……」
俺もリーゼも眠たげにうとうとしながら、宴が開かれていた大広間を見渡す。
アルノルトさんは酔いつぶれてニナさんに支えられて寝室に向かっている。クリストフさんとエリザさんは机に突っ伏していた。ウルリケさんも椅子に座ったまま幸せそうな寝顔で眠っている。
「俺たちも家に帰ろうか?」
「そうだね。家でゆっくり眠ろう」
宴は全員が酔いつぶれたことで解散となり、俺とリーゼは自宅に戻るとベッドに入った。俺はもうベッドに入るなり瞼が降りてしまう。
「ジン。これからもずっと一緒に過ごしたいよ」
リーゼがそういう声がかすかに聞こえ、それからリーゼの甘い匂いがした。
俺はそこでかすかに目を開けると、下着姿になったリーゼがいて俺に向けて微笑んでいるのが見えた。俺もそれに微笑み返し、俺たちはふたりで眠ったのだった。
俺たちは本当に親密な関係になっていた。
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