夜空を見上げて
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──夜空を見上げて
食って飲んでと楽しい祭りは夕暮れまで続いた。
それから酔いつぶれた人たちが集会場で横になったり、自宅に帰ったりして、祭りは徐々に静かになっていく。
「さて、日が暮れたころだし、そろそろ花火を出そうか」
「おー!」
暗くなり始めると俺たちは花火の準備を始めた。
「ジン兄ちゃん。それは何?」
「花火っていうものだよ。みんなで遊ぼう」
俺はそう言うとカラフルな花火の袋からまずは手持ち花火を取り出し、ガスマッチで火をつけた。
「わあっ! 凄い!」
カラフルな光がぱちぱちと手持ちあ花火から吹き出し、子供たちが歓声を上げる。
「みんなもやってみよう」
「うん! やりたい、やりたい!」
「人に向けたりせずに気を付けて遊んでね」
俺は注意点を子供たちに伝えると、リーゼとともに子供たちが花火で遊ぶのを監督しつつ手伝った。
「これ、凄く綺麗……」
そういうのは線香花火を持った子供。
「魔法使いになったみたい!」
そういうのはネズミ花火を放った子供。
このようにおおむね子供たちは花火に満足げだった。
「楽しいね、ジン」
「うん。こうしてみんなで遊べるものがあってよかったよ」
花火の火薬が焼けるどこか懐かしくなる匂いを感じながら、俺とリーゼはそう言葉を交わす。すっかり日は沈んで夜空が頭上には広がっている。
「さて、最後に大きなのを打ち上げて終わりにしよう」
俺は打ち上げ花火をセットすると、火をつける。じじじっと火が付き……。
「おおー!」
「凄い、凄い! とっても綺麗!」
夜空に鮮やかな花火が輝き、祭りの終わりを知らせたのだった。
* * * *
「お疲れさまでしたー!」
俺たちは祭りを終えて片づけを行い、それが終わったところで缶ビールで改めて乾杯をする。俺とリーゼ、アルノルトさん、そして村の大人の人で乾杯し、ぐいっと俺たちはビールを流し込んだ。
「いやあ、素晴らしい祭りになったね。これからも毎年やりたいものだ」
「そうですね~! とっても楽しかったですから!」
アルノルトさんが言うのにリーゼがそう賛同。
「これで収穫も祝えましたから、冬に備えてこれからまた衣類作りですね」
「ええ。ジンさんのが持ってきてくれたあのミシンという道具があればいくらでも服が作れますよ」
「フリーデンベルクでも売れているみたいですし」
フリーデンベルクではグリムシュタット村の商品を優先的に買い取ってもらえることになっており、特に質がいい衣類は高値で買い取ってもらっていた。
そのおかげでこうして村でお祭りができるくらいには豊かになったのだ。
「では、これからのグリムシュタット村の発展を祈ってもう一度乾杯!」
「乾杯!」
こうして俺たちは祭りを締めくくると、たこ焼き器やバッテリーをヴォルフ商会の事務所の中に片付け始めた。花火もしっかりと後片付けして火災などに発展しないように注意する。
「よーし。これで本当にお祭りはおしまいだね」
「楽しかった~! 本当に!」
リーゼはまだほろ酔い気分だ。
「今日はもうちょっと飲もうか? リーゼの好きな梅酒もあるよ」
「おお? いいね! そうしよう、そうしよう」
俺はそうリーゼを誘い、夜空を見上げながら梅酒を楽しむことにした。
この世界だと地上にほとんど明かりがないために星空がはっきりと見える。俺たちはそんな綺麗な夜空を眺めながら梅酒のグラスを口に運んだ。
「こっちの世界は星空がきれいだね」
「ジンの世界は違うの?」
「今いるところは割ときれいなんだけど、その前に住んでいた東京って街は地上の方が明るくて夜空あまり見えなかったんだ」
「星空より輝いている地上……。それはそれで見てみたいなぁ……」
「本当にいつかリーゼにも見せたいよ」
リーゼが地球に行けることができればいいんだけどなと思うのだった。
「ジンは今日は向こうに戻っちゃう?」
「どうしようかな。向こうに帰ってもひとりだし」
少し寂しいかもと俺。
祖父の家は俺がひとりで暮らしているだけだからがらんとしていて、こちらで賑やかに過ごしたあとだと寂しさが強く感じられる。
「じゃあ、こっちで過ごそうよ。朝まで一緒に過ごして朝は一緒にコーヒーを飲もう」
「そうだね。今日もこっちで過ごそうかな」
「うんうん! それがいいよ!」
「じゃあ、続きはリーゼに家でタブレットで映画でも見ながら過ごそう」
「おーっ!」
というわけで、俺たちはリーゼの小屋の中に移動した。
俺たちは祭りで余ったお菓子をつまみにしながら、映画を見つつ、梅酒をゆっくりと味わう。リーゼはそっと俺の隣に寄り添い、俺は彼女から確かな温度と女性らしい甘い香りを感じていた。
「……ねえ、ジン。今日もやっちゃう?」
「ど、どうしようか? リーゼは?」
「女の子にそんなこと言わせないで~」
「あはは。ごめん、ごめん。じゃあ……」
俺はリーゼと向き合う。彼女の顔がすぐそばにあって、リーゼの匂いがする。
俺はその顔に自分の顔を近づけ、彼女の唇にキスをした。
それからは……まあ、やることをやったのです。
* * * *
二度目の朝チュンを迎えて、俺とリーゼは朝から一緒にコーヒーを飲んでいた。
「昨日は楽しかったね~!」
「うん。お祭りは最高だったよ」
「……お祭りだけ?」
「……夜の方も楽しかったよ?」
そう言葉を交わしてあははと笑う俺たち。
「でも、こうなったからにはちゃんと責任を取らないとね。でも、リーゼは、その、そうつもりだった?」
「えっと。ジンを困らせたくはないけど、結婚はしたいかな……」
「よし。じゃあ、ちゃんと準備してくるよ」
結婚するからにはちゃんと指輪を渡したい。ただなし崩しに結婚するのではなく、指輪を渡し、告白してから結婚したいのだ。
「うん。待ってる」
リーゼはそう言ってにこりと微笑む。
「けど、こっちで結婚式ってどんな感じでやるんだい?」
「そうだね。地方によって異なるけど、この村ならアルノルト様が証人になってくださって、その下で愛し合うことを誓う感じかな? 結婚の証人は魔法使いでもいいんだけど、この村には私しか魔法使いはいないから」
「なるほど。宗教的な行事はないんだね」
日本だと必ず宗教色が出る結婚式だけど、こっちではそういうことはないらしい。
「でも、新婦は神様に見られても恥ずかしくないように白い衣装で着飾るんだよ~。そういうのも準備しないといけないんだけどね……」
「任せて。衣装はクリストフさんに伝えてフリーデンベルクで準備してもらおう」
「ありがとう、ジン!」
そういってリーゼは俺にハグする。
「冬になる前には結婚式を挙げたいね」
「そうだね。クリストフさんやウルリケも招待したいし!」
それから俺たちは結婚式をどのようなものにするかをいろいろと想像したのだった。
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