太陽の力とお祭り
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──太陽の力とお祭り
俺はいよいよあるものを異世界に持ち込むことを決意した。
それは……太陽光発電!
「ポータブルのこれならばよさそうかな?」
災害時やアウトドア用のポータブル太陽光発電機を俺は購入。
それを持っていざ異世界へ!
「さて、事務所の近くに設置しようかな?」
これからはもっと電気が使えることになる。もちろん事故には備えなければいけないけれど、便利になるのは確かだ。
などと思いながら太陽光発電を試していたときだ。
「ジン。ちょっといい?」
リーゼが事務所の方にやってきてそう声をかけてきた。
「どうしたんだい?」
「ちょっと相談があるんだ」
「ふむ。じゃあ、事務所の中に行こう」
俺たちは場所を移してヴォルフ商会の事務所の中に。
「それで、相談って?」
「アルノルト様たちとも相談したんだけど、グリムシュタット村でもお祭りをやろうって思うんだ。収穫を祝うようなお祭り。これまではそういうのはなかったから」
「へえ。お祭りか。これまではなかったんだ?」
「うん。今までは本当にぎりぎりだったから。余裕が生まれ始めたのはジンのおかげだよ。ヴォルフ商会のおかげでお祭りをする余裕も生まれそうなんだ」
「おお。それはいいじゃないか。俺も村に貢献できてるんだ……」
リーゼがいうにはヴォルフ商会として持ち込んだ足踏みミシンによって作られた衣類がフリーデンベルクでよく売れて、村に多額のお金が舞い込んだらしい。そのおかげで村の人にも余裕があるのだとか。
「うん。ジンのおかげで村は凄く豊かになったよ。このことをお祝いする意味でも、お祭りが必要だって思うんだ。ジンとこの村を結び付けてくれたことへの、神様へのお礼というやつだね」
「そういえば……あんまりこっちで神様の話を聞いたことがなかったけど、どんな神様をみんなは信仰しているの?」
これまで何となく触れにくかった話題。それは宗教の話だ。
グリムシュタット村にもフリーデンベルクにも教会や礼拝堂のような宗教施設というものを俺は見かけていない。なので、リーゼたちがどういう神様を進行しているのか知らなかったのである。
「う~ん。それに答えるのはなかなか難しいね。神様というものを私たちは信じているけれど宗教儀式というものが結構希薄なんだ。神様の存在は自分たちの心の中で信じることが美徳とされているから」
「つまり、神様を祭る儀式や大きな神様を讃える施設なんてのはない?」
「基本的には。けど別に禁止されているわけじゃないよ。神様に言葉に出して祈っても怒られたりするわけじゃないんだ」
「ふ~む」
よく詳しくないけどキリスト教でもプロテスタントに似ている感じ……なのかな? けど、本当に特殊な感じの宗教だ。
多分、インテリ層が魔法使いというもので占められているから、社会はそこまで宗教を必要としなかったのではないだろうかと思う。昔の宗教家はインテリ層としての役割もあったからね。
「今回のお祭りも表立って神様に幸運をもたらしてくれてありがとうとお礼をするものではなく、あくまでみんながここまで頑張ってきたことをお祝いするもので。まあ、個人的にはみんな神様にお礼をするだろうけどね」
「もしかして言葉に出して神様に祈ると、幸運が逃げちゃうって考えだったり?」
「一応それに近いね。願い事は聞かれない方がかなうって言われているよ」
なるほど。割と願掛け的なものでもあるのか。
「でさ、お祭りなんだけどジンも手伝ってもらえないかな? このグリムシュタット村で初めてのお祭りだからできれば盛大にやりたいんだ」
「もちろん手伝うよ。お祭りといえばいろいろと思いつくものがあるから」
「本当!? ありがとう~!」
リーゼは大喜びで俺をハグする。
「とりあえずはお酒だよね。それから何か子供たちでも楽しめるもの……」
俺はここ最近、お祭りというものに参加していない。年を取って忙しくなったからでもある。だが、記憶には確かにお祭りの知識のそれがある。
「よし。そうと決まれば準備しないとね。お祭りはいつごろやるの?」
「来週あたりを予定しているよ。準備に時間はかかりそう?」
「大丈夫。それならどうにかなるよ」
というわけで、俺は早速お祭りの準備をするために日本に戻る。
お祭りといえば……花火だ。
俺はホームセンターに花火コーナーで花火を購入。まあ、花火といっても個人で遊べるものなので派手な打ち上げ花火などは存在しない。だが、それでも子供たちには楽しんでもらえるだろう。
それから俺が選んだのは……たこ焼き!
もちろんタコを持ち込んで本格的なたこ焼きをする予定はない。グリムシュタット村のお祝いなのだから、なるべくグリムシュタット村にあるものでどうにかしたい。そこでタコの代わりに普段食されている豚肉を入れようと考えていた。
なのでたこ焼き用のグッズを購入するがタコは買っていかない。ただし、流石に代用が利かなそうなたこ焼きソースの類は購入することに。
他には……と俺はホームセンターを見渡すが、特に思いつくものがない。
市内のホームセンターにはさすがに綿あめを作る道具などはおいていないし、そもそも綿あめの作り方など俺は知らない。
「あとはお酒か」
俺は一度ホームセンターで会計を済ませてから、ドラッグストアへ。
お酒はいろいろな種類のものを購入した。リーゼの好きな梅酒からアルノルトさんが好きなウィスキーまで。あとはビールをたっぷりと。
それから子供たち向けにジュースなどを買うことも忘れずに。大人ばかりで盛り上がっていたら子供がかわいそうだしね。
そして会計を済ませるとそれらの品を持っていざ異世界へ!
「リーゼ。いろいろと持ってきたよ~。早速だけど試してみよう!」
「おおー! 了解だよ!」
俺とリーゼはグリムシュタット村の豚肉と小麦粉でたこ焼きを作る。卵などもグリムシュタット村のものを使用して、可能な限り村でとれるものを使ってたこ焼き(タコは入っていない)を作った。
俺はネットの動画を見て見様見真似でたこ焼きを焼き、その様子をリーゼは真剣に見つめていた。くるりと上手くひっくりかえせるとリーゼが歓声を上げてくれるのが嬉しい点だ。
「さて。試食してみようか?」
「どんな味なんだろう?」
俺たちはたこ焼きソースをかけて、パクリとアツアツのたこ焼きをほおばる。
「ん! 美味しいね! 外はカリッとしてて中はふんわりしつつも豚肉がいい感じに味わえるよ。これまでにない食べ物だね~!」
「よーし。何とか作れることは分かったから、あとはお祭りで披露するだけだね!」
「うん!」
それから俺とリーゼは同じようにお祭りで提供するドーナツなどをせっせと作り、来週開かれるお祭りに向けて準備を進めたのだった。
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