いざ出陣!
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──いざ出陣!
山賊討伐のためにアルノルトさんが傭兵を募集した。
小規模な傭兵募集に応じたのは、本当に僅かな傭兵だけであり、馬車や馬で数名の傭兵たちが村を訪れた。
彼らは作戦開始まで衛兵詰め所に寝泊まりすることになった。
そんなころである。クリストフさんが戻ってきた。
「いやはや。こんなことになっているとは」
「ええ。危ない時期にお戻りでしたね」
クリストフさんとエリザさんを俺たちはヴォルフ商会の事務所で出迎える。
「この事務所、なかなかに立派ですね。この椅子も座り心地が良く、机も作りがしっかりとしている。それにこの明るさと言うのは……」
「照明という電気で明るくなる家具を取り付けてあるのですよ」
「デンキ、ですか……?」
「電気と言うのはですね──」
再び電気について説明する俺。
「何と、雷の力を!? はあ……。凄い代物ですな……」
「しかし、いいね、この明るさってのはさ。外でも使えたら便利そうだ」
クリストフさんとエリザさんはそう言う。特にエリザさんは明るいのを気に入った様子で、エリザさん向けに懐中電灯でも今度は仕入れてこようかと思った。
「山賊の話はあれですが、いい知らせもあります。ノートとボールペンの売り上げは好調です。魔法使い連盟からは専属になって、これからも商品を融通してほしいとまで言われまして」
「おお。それはよかった。魔法使い連盟には味方になってほしいですからね」
「ええ。それと商業ギルド経由で商品の問い合わせをしてくる商人たちもいるようでしてね。ライバルができるかもしれません」
そんなライバルの存在にはクリストフさんは警戒しているようだった。
「それより山賊だろう? 山賊の動きはどうなんだい?」
エリザさんの方は商売より山賊の脅威の方が問題のようだ。
確かに今はそっちの方が重要かもしれない。商売で多少損はしても人は死なないが、山賊問題は人が死ぬかもしれないのだから。
「山賊討伐の準備は進んでいますよ、エリザさん。傭兵が衛兵詰め所に集まっています。今は5名ぐらいでしょうか?」
「たったの5名かい……?」
「こっちには秘密兵器がありますからね」
エリザさんが訝しむのに俺はそう言ってにやりと笑った。
「何でしょうか、その秘密兵器というのは……?」
「気になりますか? アルノルトさんに許可を得たらお教えできますよ」
「是非ともお願いします」
クリストフさんはそう頼んでくる。
一応山賊討伐が終わるまでは一種の軍事機密扱いになっているので、俺たちはアルノルトに許可を都市にお城に向かった。
「あれは!?」
「おいおい。こいつは……」
そこでは既にドローンを飛行させる訓練が行われており、クリストフさんとエリザさんが揃って目を見開く。
「おお、クリストフ君とエリザ君ではないか。こんなときだが、ようこそ。ノートとボールペンの売り上げはどうだね?」
「え、ええ、閣下。売り上げの方は順調です。しかし、これは……?」
空をぶーんとプロペラの音を響かせて飛ぶドローンが明らかに自然界のものではなく、クリストフさんたちはそれを驚いたままだ。
「これはね。ドローンというのだよ」
それからアルノルトさんはそのドローンが撮影したカメラの映像をクリストフさんたちに自慢げに見せる。空から自分たちを撮影している映像を見たクリストフさんとエリザさんの驚きようは凄かった。
「こ、これもヴォルフ商会で扱ったりは……?」
「残念だがその予定はないよ。これはジン君の国でもいろいろと法律がある品物だし、そもそもデンキというものがなければ動かないそうなのだ」
「ああ。雷の力ですね。残念だな……」
日本でもドローンは飛行できる場所が限られていたり法律がある。もし、誰かがドローンを購入してこっそりこの世界で機密になっている場所を除いたりして、それを犯罪に利用されても困るのだ。
というわけで、アルノルトさんと相談してドローンは今の段階ではグリムシュタット村の外には出さないことに決定していた。
「ところで、閣下。山賊討伐だが、あたしも手助けさせてもらえないだろうか?」
「ふむ。君も傭兵として参加を?」
「ああ。人は多い方がいいだろう? 5、6名ではこのドローンがあっても危ない場面が出てくる。なら、あたしも手伝いたい。役に立てることは保証する」
エリザさんはそう言ってアルノルトさんに申し出る。
「分かった。お願いしよう、エリザ君。山賊討伐はいよいよ明日からだ」
そうなのである。傭兵も揃って必要な武器もそろって、いよいよ明日から山賊討伐が開始されるのだ。
俺は誰も犠牲にならないことを切に祈っていた。
山賊の討伐には何せリーゼも参加することになっているのだから……。
* * * *
そして、夜が明けて朝が訪れ、いよいよ山賊討伐作戦が開始された。
「ドローンの方は任せてください!」
「うむ。頼むよ、ジン君」
アルノルトさんは鎧を身に着けて軍馬に跨り、俺は馬に乗れないので後方から馬車でリーゼとともに進む。他の傭兵は馬を持ってきた人は馬に乗り、そうでない人は徒歩だ。エリザさんは徒歩だった。
「お父様、ご武運を!」
「ああ、ニナ。勝利を手に戻ってくるよ」
ニナさんたちの見送りを受けてアルノルトさんたちは出発。
「領主様ー! 頑張ってください!」
「ジン兄ちゃん、リーゼ姉ちゃんも頑張ってー!」
グリムシュタット村の村人さんたちも俺たちを応援してくれる。アルノルトさんを戦闘に進む俺たちに手を振る子供たちに俺も手を振り返した。
そんな励ましを受けながら、俺たちは村の門に進み、村の外に出る。
「さて、ここからが本番だ」
俺はアルノルトさんとの打ち合わせ通りにドローンを空に向けて飛ばす。
これまで傭兵を待たせていたのは、まず村の周りの山林の正確な地図を作るためであった。それによってできた地図を俺たちは方眼紙で区分し、その一マスごとをドローンで探っていくのである。
全くの素人考えだが、ただ無為にドローンを飛ばしてもバッテリーが切れてしまう。なのでここはこの方法を取った。
俺ともうひとつの衛兵さんで予定通りにドローンを飛行させて、赤外線カメラの映像を眺める。人の熱源が捉えられれば、分かるはずだが……。
「いた!」
俺は森の中に複数の熱源を捉えた!
すぐさま赤外線カメラから通常のカメラに切り替えて熱源の正体を確認する。
「アルノルト様! 武装した人間を確認しました! 地図のC-15の位置です!」
「おお! よくやってくれた、ジン君! そのまま捉えておいてくれ! 皆のものは私に続け!」
アルノルトさんは傭兵を引き連れて、山林へと進む。俺も一緒に森の中に入ったが、ここに山賊が潜んでいるかと思うと足が震えそうだ。
「大丈夫だよ、ジン。私がいるからね」
「すまない、リーゼ。俺、頼りなくて……」
「何を言ってるんだい。ジンのおかげでこうしてすぐに山賊の位置が分かったんだよ? そして、位置さえ分かれば私が魔法で一網打尽にできるから!」
リーゼは俺を励ますようにそう言い、俺とともにアルノルトさんに続いた。
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