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25 聖女と海竜とクラーケン

遅くなりました。すみません。少し短いです。

 騒がしい親子が台風の様に去った後。上品な老人が入ってきた。

 黒い鞄を抱えている。

 おそらく領主お抱えのお医者様なのだろう。

 部屋の中に居た侍女達も部屋から出て行った。


「気分はどうだい? わしは医者のベリーと言う」


 老人はアリステアの脈をとる。


「はい。海水に浸かったせいか、少しだるいです」


「熱は無いようだ。ここいらの海流は冷たい。余り長く浸かっていると低体温症になってしまう」


 医者は鞄の中から白い紙包みを数個取り出した。


「これを飲みなさい」


「これは……体を温める効果がある、ヤクナス草とミッケルの実を煎じた物ですね」


 アリステアは薬の包みを開くと言い当てた。

 ヤクナスの柑橘系の臭いとミッケルの実の紫の粉の色をしていたからだ。

 ベリー医師は驚いた顔をした。

 包みを開けて見ただけで材料を言い当てたのだ。


「君は……薬師か?」


「はい。祖父に薬草の事を習いました」


 アリステアは今まで使っていた噓をここでもついた。


「祖父が亡くなり。祖父が長年行きたがっていた聖地巡礼を私が代わりに行こうと思って船に乗ったんですが、クラーケンに襲われて……」


「クラーケンだって‼ 良く生きていられたものだな!!」


「本当に良く助かったものです。あの青い海竜には感謝しかありません」


「海竜に助けられたのかい?」


「はい」


「不思議な事もあるものだ。伝説では聞いた事があるが。本当の事だったんだな」


 医者は感慨深げに頷いた。

 トントンとドアを叩く音がした。


「ああ。入っても良いよ」


 貫禄のある中年の女が入って来た。


「先生、彼女の具合はどうですか?」


「ああハンナか。少し体が冷えているが、薬を飲んで暖かくして眠れば元気になるよ」


「それは良かった。服を洗って乾かしておいたよ。それとマントなんだけど……」


 ハンナはアリステアの目の前でマントを広げた。

 穴が空いていた。

 海竜がアリステアを咥えた時に空けてしまった穴だ。

 その規則正しく空いた穴から海竜がかなりの大きさだったと推測できる。

 そしてアリステアが言ったことが真実なのだと。


「後で繕わなくてはならないね。それとも新しいマントを買うかい? 馬車で一時間ほど行ったところに町がある。古着屋も巡礼用のマントを売っている神殿もあるよ」


「このマントは知り合いのお婆様から頂いたもので、とても大切な物なんです。大丈夫。これ位の穴なら綺麗に直せます」


「君は薬師であるだけじゃなく、お裁縫も得意なんだね」


「薬師? 先生このお嬢さんは薬師なのかい?」


「そうだよ。とても優秀な薬師だ」


 優秀と褒められてアリステアは頬を赤らめる。


「そ……そんなことないです……」


 小さな声でアリステアは答える。

 あまり褒められたことのないアリステアだ。

 自己評価は低い。


「ベッドの横の三段チェストに服とマントを入れておくね。それと……」


 侍女長のメアリーはポケットから小袋を取り出す。


「スカートの裏に縫い付けてあった金貨三枚はこの袋に入れて服と一緒に一番上の引き出しに入れておくね。裁縫箱は後で持ってきてあげるよ」


 旅人は何かあった時の為に服の裏や靴の中にお金を隠している。

【ボックス】を持っているアリステアには要らない事だが、些細なことで不信感を持たれないためだ。


「はい。服まで乾かして頂いて本当にありがとうございます……それであの~」


「なんだい?」


「私が倒れていた所に鞄が落ちていなかったでしょうか?」


「鞄? いや……旦那様は何も言っていなかったし……私も貴女が倒れている海岸を見たがそれらしい物は無かったよ」


「そうですか……」


 アリステアはがっかりした。


「大切な物が入っていたの?」


「商売道具の薬が入っていたんです……」


「それは災難だね」


 それを聞いた医者のタフスはいたく同情してくれた。


「海水に浸かったから薬が駄目になったのは仕方ないんですが、あの鞄使いやすくてとても気に入っていたんです」


 そう予備の薬や金や服は【ボックス】に仕舞っているからいいのだが。

 鞄はとても気に入っていた。

 幾つも仕切りが付いていて、薬を分けていれるのに使い勝手が良かったからだ。


「多分海の底に沈んでいるよ」


 ベリー医師の言葉にアリステアは益々落ち込む。


「そうですね……」


「ああ。元気出して。もしかしたら海岸に流れ着いているかも知れないよ」


「そ……そうですよね」


 アリステアの顔がパアアァァァと明るくなる。


「そうよ。だからパン粥を食べて薬を飲んで今夜はぐっすり眠って。明日海岸に探しに行くと良いよ」


 侍女長は乾かした服とパン粥と水を持って来てくれていたのだ。


「はい。そうします」


 アリステアは言われた通りにパン粥を食べて薬を飲み、そして眠りについた。

 その夜、アリステアはレエンと出会った頃の夢を見た。

 レエンに色んな事を教わり、楽しく笑っている夢だった。




    ~~~*~~~~*~~~~



 サミュエルは巡礼札を見ていた。

 巡礼札には二人の名前が書かれている。


 ● エラ・ミエド 祭禮6年藍の月24日生まれ (お針子)


 ● エラ・ミエド 祭礼23年赤の月6日生まれ (薬師)


 巡礼札の名はおかしな所はない。

 一族で代々巡礼札を引き継ぐ事もおかしなことではない。

 それは信仰深い一族という誉れでもある。

 エラという名前はバイパー国ではよくある名前だった。

 ミエドもミエド地方の騎士達の一般的な名前だ。

 巡礼札の裏にロホ神官のサインがあった。

 ロホ……?

 何処かで聞いたような……

 サミュエルは首を振る。

 脳裏に高名な神官の顔が浮かんだが、単なる同名だろう。

 それにしても年号が変わっているから6年生まれのエラはかなりの年だな。

 サミュエルの机の上には、手紙が入る位の箱が置いてある。

 手紙を送るための魔道具だ。

 サミュエルはエラの生存を伝える為船舶ギルドに手紙を送った。


 タイタニ―号の事も気になる。

 クラーケンは執念深い魔物だ。

 一度目を付けた獲物はとことん追いかける。

 ……狙われたのは船か? あの娘か?












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 2021/1/13 『小説家になろう』 どんC

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去年父の喪中はがきを出したら。友人が亡くなっていることを知り落ち込んでいたら。

近所のお世話になっていたおばさんも亡くなって。ちょっとへこんでいました。

今年も私用で不定期更新になるので先にお詫びしておきます。

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