向日葵がふわっと咲いたような笑顔
気付けば、財布を片手に購買へと足を運んでいた。優柔不断が邪魔して何を買うか迷ったけど、結局おにぎりとチョコが10個くらい入ったお気に入りのお菓子を一袋買った。
幸いにも、卒業式が行われている体育館は購買と真逆の場所に位置しているため誰にも会わず買うことに成功した。
昇降口に戻り階段を登ると、踊り場からはどこの窓からやってきたのか、オレンジの光が木の陰と共に揺れている。
確か、昨日も同じ時間帯だったような…。
ふと昨日見たあの景色をもう一度見たいと思った…いや思うより先に私の足は3年生の階まで階段を登り続けていた。
誰もいない3年生の廊下にまた寂しさを感じながら、私は立花先輩の教室へと向かった。
教室に入るとやっぱりスポットライトのように多くの座席が照らされていた。
まるで今日の卒業式を静かに祝っているかのように。
私はぎりぎり照らされていない窓側の一番後ろの席に座った。ずっと見てしまうほど夕日はきれいだった。窓の外からはなんて言っているかまではわからないけど、にぎやかであることは分かる。多分花道が始まっているのだろう。
卒業、おめでとうございます。
この夕日のように誰にも気づかれることなく、そして誰に伝えることもなく窓を見ながら心の中で呟く。
「ねぇ、本当に行かなくていいの?」
喜奈が帰る前に私に聞いた言葉…今でも本当に行かなくてよかったのか悩んでいる自分がいる。もう、花道は始まってるのにな…考え始めるの遅…。
あぁ、ダメだ。ここまで静かだと逆にいろんなことを思い出していろんなことを考えてしまう。夕日は見れたし、もう自分の教室に戻って帰ろ…ってやば、おにぎり食べ忘れた…まいっか帰りながら食べよう。
「あれ、草華?」
え…。
席を立ちあがると共に、聞き覚えのある少し音が残る感じの低い声が黒板側のドアから聞こえた。
「え、草華じゃん!何でいんの!?ね、聞いてる?」
「あ、ごめんなさい。え、えっと…すみません。勝手に教室使ってしまって、誰もいないと思って。そ、それじゃあ失礼します。」
やばい、なんでか顔が上がらない。声のある方を見ることが出来ない。と、とにかくここを出ないと…。
教室を後ろのドアから走って出たはいいものの、結局立花先輩に似た声のある方を通らないと自分の教室には戻れないことに出てから気づいた。何やってんだ私。
もうこうなったら、遠回りにはなるけどこのままその人の反対側…左に曲がるしか…
「って、ちょっと待てってば。」
その言葉と共に左の肩が少し重く感じたのが分かった。でもまだ私は自分の上履きを見ることしかできない。
「はーい、そのままいったん教室に戻りましょう~。質問に答えてもらいまーす!」
「ちょっ、え!?」
そうしてまた立花先輩の教室へと両肩を押されながら入るとドア近くの椅子に座らされた。
その人は、私の座った席の後ろにあるロッカーに腰を下ろした。
「久しぶり!って何でさっきは逃げようとしたんだよ~」
気まずさといういらない感情がチャックとなって口が開けずにいる。私は居場所を失い膝の上で遊んでいる私の指を見ることしかできない。
「っフ、さっきの草華の逃げる時の言葉…前も同じ事言ってたね。」
「えっ」
「あ、やっとこっち向いた!」
私は気まずい表情を表に見せるも、内心は声の持ち主の顔を見れたことにほっとしていた。やっぱり声の持ち主は、以前と変わらない優しい表情をした立花先輩だったから。
「う…えっとお久しぶりです。…それと前と同じことなんて言ってません!」
「えー言ってたよ~。ほら俺と初めてあの教室出会った時、俺が話しかけたら目が出てくるんじゃないかってくらい開きながらさっきと同じこと言って逃げようとしてた…っフ懐かしっ!ッハハ!」
「ちょ…勝手に一人で懐かしがらないでくださいよ…。てかなんでそんな前のこと覚えてるんですか…。」
懐かしい笑顔…どこか安心感をお感じさせてくれる。今、私は普通に前と変わらず話せているだろうか。
「それより、なんでここにいるんですか?ちょうど花道とかじゃ。」
「あぁ…ちと激混みすぎて逃げてきた。…それに最後にこの景色だけでも目に焼き付けておこうと思って…。」
だけでも…?
「俺さ、ここの景色好きだったんだよね。だからよく部活ない日も放課後ここに残って下校時間ギリギリまでこの景色見ながらいつの間にか寝落ちするっていうのが俺のルーティーンだった…って今考えると笑えるな。でも部活引退した後になって先生に残ってんのばれて”受験生がー”だのあーだこーだ、もううるさくてそれが嫌になってあの教室見つけたて寝てたんだよね。」
「その教室って…」
「そ、草華とあったあの教室。あん時ちょうど家族と将来のことでギクシャクしてて…まぁ受験生あるあるってやつ?っフ、マジあん時家にかえるのが嫌でさー、でも今考えるとギクシャクしててよかったかも。」
「え、何でですか!?」
「え、だってこうして草華に出会えたから。いや本当初めて草華のセリフの声聞いた時まじで綺…」
何でこう…立花先輩っていう人は、人が恥ずかしがることをこうさらっと言ってしまえるのだろうか。
でもこの恥ずかしさは、立花先輩の向日葵がふわっと咲いたような笑顔ですぐに懐かしさとどこからか感じさせてくれる安心感によってすぐに通り過ぎていった。




