特別話 もし先輩が大丈夫だったら、バイト先まで来てもらうことってできますか?
テストが終わり冬休みが始まってもう2週間が経った。
もう12月下旬…1年が終わるのか…。
「はやっ…」(ボソッ)
「何をボヤついているの?早くご飯食べちゃいなさい、バイト行く時間になっちゃうわよ?」
「あ、本当だっ…ごちそうさまでした!」
冬休みは、当然バイト付け。お金を稼げる大チャンスの今を逃しまいと平日はほとんどバイトに入りお昼頃から働いている。出勤数は多いけど、静かな場所に建ち、何より落ち着いたオーナーが経営しているカフェだからか、お店に来るお客さんも物静かな落ち着いた人ばかりで正直私的に居心地が良く、働きやすい。
ちなみに土日はバイトを入れずにセリフの練習をしたりしている。
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
11時15分…ふぅギリギリいつも出てる時間に間に合った。幸いバイト先は家から歩いていける。走りたくはないっている理由で少し余裕をもって出る…そうそのベストな時間が11時15分!お母さんに言われなかったら完全に間に合わなかった…。危なかった…。
お母さんとは将来について自分の思いを語ったあの日以来話しやすくなった。というより多分私の変な警戒心のようなものがなくなったのだと思う。だからお母さんも話しやすいのかも…。まぁとにかく今は笑顔が絶えない。ッフ、よく考えるとやっぱり何か変な感じ(笑)それもこれも喜奈と立花先輩のおかげなんだよね…。本当に2人には頭が上がらないな…。私も何か恩を返したいとは思ってるけど…何かあるかな…。
【ブー】
立花先輩…?そういえば、先輩とは連絡交換してから、連絡はとっているものの直接は会っていない。大学の練習にもう呼ばれているらしくほぼ毎日行っているらしい。あれ、でも今家族で旅行中とか言ってなかったっけ…?
『よ!』
『今日草華オフ?』
『今日練習なくてこの前行った旅行のお土産渡したい』
『また練習再開するから、早めに渡せたらなって思って』
『あ、でも難しかったら全然言って!急に伝えちゃったし…』
帰ってきたのか…それにしてもめっちゃ気を遣われてる(苦笑)そこまで素直になれないわけではないんだけどな…なんか直接会ってる時の立花先輩らしい感じが文からも伝わってくる(笑)
でも、どうしよう…バイト。ん、待てよ。冬休みだし先輩1人なら騒ぎも起きない…はず。直接話せるし、もしかしたら何か恩を返せる情報を得られるかも!
『お土産いただいていいんですか?有難うございます!』
『でもすみません、これからバイトが入ってて…』
『もし先輩が大丈夫だったら、バイト先まで来てもらうことってできますか?勝手ですみません…』
『そしたら、4時半に終わるので終わった後にいただけたら嬉しいです』
『え』
『まじで』
うぅ、なんか変にかしこまった感じになってしまう。連絡するの慣れないな…。でもやっぱり流石に失礼すぎるよね…。別の日に変えてもら…
『行っていいの!?』
『行く行く!何時からバイト?』
『今日は12時から入ってます』
『おーけーおーけー』
『その時間あたりにお店行くわ〜』
あ、あっさりと決まってしまった。そういえば久しぶりに先輩と会うな…。
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「こんにちは、犬飼さん!今日もよろしくお願いします!」
「おぉ、草ちゃん。こんにちは、こちらこそ今日もよろしくね。あ、じゃあ早速これ持って行ってくれるかね。」
「はい、分かりました!」
落ち着きのある50代後半あたりの女性の犬飼さんは、このお店のオーナーだ。私の祖母がこのお店を好きだったこともあり、小さい頃から犬飼さんとは出会っていた。そのため祖母ほどではないが犬飼さんとは仲がよく、先輩と出会う前は声優を目指していることは伏せつつも将来について悩んでいることを相談したこともあった。
お店は立地などもあり、お昼でもお店は混まずゆっくりしている。お客さんも常連さんが多く、読書や仕事、勉強といった目的で1人で来店する人の方が多い。
基本犬飼さんが裏、私が表と役割分担をしている。私が入るまでは犬飼さん1人でやっていたこともあり、私がアルバイトとして入りたいと言った時はとても喜んでいた。まぁ確かにこれを1人って…いくら何でもきついよな…。まかないは犬飼さん特製のサンドウィッチ!小さい頃から変わらないこの美味しさをどう表現すべきか分からないけど…とにかく美味しい。バイトを終えた後に味わえる楽しみの1つである。お客さんの出入りが落ち着いたら犬飼さんと世間話や学校の話などをしている。これもバイトの楽しみの1つだ。たまにお客さんともお話しできたり、学校ではできない幅広い交流がバイトにはあることを知った。
「今日も有難うね〜」
「はい!あ、そうだ。今日はやく帰らないとで、まかないなしであがります、すみません。」
「分かったわ。そんな謝らないで(笑)あがる時間は早めなくても大丈夫?」
「あ、はい!大丈夫です、有難うございます。」
先輩を待たせないためにもはやくあがろう。
【チャリンチャリン】
「いらっしゃいま…」
え、立花先輩!?まだ1時半…あれ、私伝え間違えしちゃったっけ…。と、とにかくミスっちゃったならちゃんと謝って伝えないと。
「た、立花先輩、すみませ」(ボソッ)
「ホットコーヒー1つお願いします!」
「え…」(ボソッ)
「ホットコーヒーお願いします!あ、あとこのサンドウィッチも。あ、店内でお願いします(ニヤニヤ)」
ま、まさか普通に来店!?
「しょ、承知しました。以上でよろしいですか?」
「はい(ニヤニヤ)」
ニヤけてるのが気になるが…今は仕事…ツッコまないでおこう。
「犬飼さん、ホットコーヒーとサンドイッチお願いします。」
「は〜い。」
「あ、えっと600円となります。」
「はい!」
「ちょうどいただきます。お席までお持ちいたしますので、お席に座ってお待ち下さい。」
はぁ、まさか来るとは思わなかった。
「なになに〜、草ちゃんのお知り合い?」
「学校の先輩です(苦笑)」
「あら、そうなの〜、あ、もうちょいで出来上がるから待っててね。」
「はい。」
な、何かやりにくい…。でもこんな早く来て何するんだろ。あれ、先輩って本読むんだ…、読まない人だと思ってた。
「お、お待たせいたしまし…」
「あがるまで待ってるから」(ボソッ)
え、ちょっ耳元で囁くなー!今は、仕事中、仕事中…我慢、我慢…。む、無駄に低い声だとイケボだから困る。
「わ、分かりました、でもそ、そのニヤついた視線を向けるのはやめて下さい。」(ボソッ)
「え〜、せっかく草華のバイト先来れたのに〜(ニヤニヤ)あんなにダメダメ言ってたのに、急に教えてくれるとか嬉しくなっちゃうっしょ!」(ボソッ)
「バイト終わりと同時に来てくれるのかと思ってました。」
「そんなわけあるか!(笑)お化粧ちょっとしてる?」(ボソッ)
「はい、一応バイトだし簡単にでもやっおいた方がいいかなと…。それより先輩、読書ですか?」
「それよりって(笑)そ!意外だろ?俺も読むなら漫画派だったんだけど。兄貴と奏にその大学行くなら学力上げるためにも本を読め、読めうるさくてさ〜。本当あの2人俺の勉強に対するうるささ似てる。でも意外と文だけなのも面白いのな。想像するのとか結構楽しい(笑)」
「確かに、物語を楽しむだけじゃないのが本の良さですよね。その時の時代背景とかからまた見方が変わったり
想像の仕方とか人によって楽しみ方が違うのがいいところだと思います。」
「草華も漫画以外の本読むの?」
「はい、読書好きです。」
「じゃあ、今度面白いやつあったら教えて。連絡するでもいいから。」
「わ、分かりました。そ、それではごゆっくりどうぞ。」
「ありがと」(ボソッ)
だ、だからそのイケボを私の耳に近づけるな!(照)
もう…本当にやりにくい。で、でもまぁ気にしなきゃいいだけだよね。うんうん、いつも通り頑張ろう。にしてもやっぱりオシャレだな。シャツインのコーデがよりスタイルの良さを目立たせてる。自分のことをよくわかったファッションで、センスの良さも感じる。こりゃ確かにモテるわけだ。っと仕事に集中、集中!
「お先に失礼します、お疲れ様です!」
「は〜い、お疲れ様。」
なんだかんだで、何事もなく無事バイトが終わった。着替えを済まし、外に出ると先にお会計を済まし外に出ていた先輩が、お店の入り口で待っていた。
「先輩!」
「あ、お疲れ〜草華!この後用事とかある?」
「お、お疲れ様です。何もなしです。」
「おけ、じゃあ散歩付き合って。」
「?…はい。」
せっかくのお休みなのに、休まなくていいのだろうか。昨日まで旅行で沢山動いたはずなのに…。
「あ、そだ。はい、これ!忘れないうちにお土産!」
「有難うございます。」
「好みとかよう分からんくて、とりあえず俺が試食した中で1番美味しかったお菓子選んだ!」
「有難うございます。お菓子好きなので、嬉しいです。」
「ならよかった!てか草華のバ先めっちゃいいとこやん!」
「はい、もう犬飼さ…オーナーの方が優しくて…。」
「安心したわ。結構人間関係で体調崩して辞めちゃったりとかもあるから色々心配したけど…大丈夫そうだな!(笑)」
「今の、めっちゃ親みたいです(笑)」
「大切な娘を守らなくては!(笑)」
「ふふっ(笑)」
あぁ何かこうやって話すの久しぶりだ。
「こうやって話すの久しぶりだな!」
「え…あ、はい。」
「何でそんな驚いてんの(笑)」
「いや…その…丁度同じこと思って驚いたというか…(照)」
「そゆことか(笑)」
そ、そんな笑わんでも…恥ずかしい。でも本当に久しぶりだ。
「いらっしゃいませとかもいい声だった。」
「…え…?」
「いや、バイトん時。だからセリフの練習もこう何つーの、恋愛、異世界系だけじゃなくて日常系のもやればいいのにとか思った。」
「日常系…。」
正直、個人的にアニメや漫画でも日常系のジャンルはあまりみないし、普段あまり外に出るタイプでもないし…みたいな理由で練習はしてこなかった。でも確かに、色んなジャンルをやれる人の方が将来的にもいい…。自分では薄々気づいてはいたけど…やっぱり人から言われると、そうなのかもしれないと思える。それが立花先輩だと尚更…。
「有難うございます。試してみます!」
「ッフ、草華って声優関連のことになると語尾に!がつくくらい、元気に話すよな(笑)」
「え…本当ですか?」
「本当、本当(笑)めっちゃ好きなんだな〜ってのが伝わる(笑)」
「うぅ…でも本当に好きですし、憧れてます。」
「まぁ、伝わってるからこそまじで頑張ってほしーなーって応援したくなっちゃうんよな…。好きなことにであうことも難しいことなのに、それを将来に繋げようなんて思うの簡単なようで難しいと思うんよ、俺。だから自分が好きになったものは、いくら他人に否定されても、他人と違っても大切にするべきだと思うんだよね〜。てゆかそもそも、自分の好きなものに対して他人が否定するなんてことしちゃいけないんだけどさ。あ、何か法に関わるとかは別よ?あ、てかやば。もう暗くなって来てる。帰んないとだな。送るわ!」
「あ、はい。有難うございます…。」
自分の好きなものを大切に…。そんなの当たり前とか思ってたけど、先輩と会う前の自分だったら当たり前じゃなかったのかもしれない。好きなことをひたすら隠していたあの時の自分なら…。
「…華、草華?」
「あ、すみません。ちょっと考え事してました。えっと…何でしたっけ?」
「バイト終わりでこんなに歩かせちゃったし、疲れたよな、ごめん…。いやさ、初詣!もうすぐじゃん?一緒に初詣して、お互い祈りに行かない?って思って!良き考えではなぁと思わないかい?(笑)」
は、初詣…!?初詣何か家族以外誰かとなんか行かない…。いや、行きたいと思わなかった。面倒くさいし、自分を取り繕ってまで、自分の体力を消費してまで誰かと過ごしたいなんて思うはずがない。でも何故こんな気持ちになるんだろう。私は何故立花先輩と…
「はい!行きます。」
「うんうん、ですよね〜。草華なら断…え?まじ!?」
「はい。」
「おぉー!そーこなくっちゃ!んじゃ、もう家着いちゃったし詳しくは連絡し合いながらってことで!」
「はい。あ、送っていただいて有難うございました。あとお土産も…。」
「何でそんな言葉かたくなってんの!(笑)全然へーき!俺がしたくてしてることだから気にすんなって!友達だしな!んじゃ!」
「はい、あ、気をつけて帰ってください。」
「はいよ!(笑)」
立花先輩といると、真っ白だった心の中に沢山の色が足されていく…私はそう立花先輩の背中を見送りながら思った。




