あなたまだ声優になるなんて思ってないわよね?
学園祭が終わり、いつもの生活が戻った。
正直、学園祭は去年以上に楽しかったと思う。
それは立花先輩と過ごしたからだって喜奈は言ってたけど…分からない。ただ楽しかった。
そんな喜奈はというと学園祭当日、立花先輩のクラスで遊んでからどこか元気がない。
空元気というかなんというか…。でも本人が聞いて欲しくないような感じがあって理由は分からぬまま…。
【ガラガラ〜】
「お、来た来た!お疲れ…って何か元気ない?どした。」
「あ、お疲れ様です。今日も早いですね。いやちょっと考え事してて…。」
「お、何だ何だ。」
「あ、いや…その。蒼乃先輩って最近何か様子が変わったりしてましたか?」
もし、喜奈が落ち込む理由が推しである蒼乃先輩関連だったら、恋バナをして予想外の答えが返ってきたとかなのかもしれない。
それにその会話に告白が含まれているのなら…そしてその答えが良くない結果だったのなら…振ってしまった蒼乃先輩も様子が変わるんじゃって思ったけど…
「え、湊?いや別に何の様子も変わってなかったな。」
「そ、そう…ですか。すみません、急に質問しちゃって!あ、えっと忘れて下さい!それじゃセリフ練習私やっちゃいますね。」
「お、おう…?」
蒼乃先輩は関係ない?じゃあ何であんな元気がなかったんだろう…。やはり本人に聞くしかないのかな…。
結局、練習中も考えてしまいあまりセリフに集中できなかった。先輩からも今日は早めに帰ろうと提案されてしまい、気を遣ってくれた優しさとそれ以上に申し訳なさを感じた。
「家まで送ろっか?あ、そーいやどこらへんに住んでるか聞いたことなかったな(笑)」
「え、いや、大丈夫です!すみません、気を遣わせてしまって…。」
「全然!草華の大丈夫は信用ならんが…1人でちゃんと帰れるか?」
「はい!って高校生ですよ?私(笑)今日は本当にすみません。」
「気にすんなって!じゃーな!」
「ただいま。」
「おかえり、今日はいつもより早いのね。でも丁度よかった。ゆっくり話したいこともあるしもうお風呂入っちゃって。」
「分かった。」
話…話って何だろう。
どうしよう…心臓の動きが速い。理由は明確だ。
もし将来の話をされた時、まだ声優という夢を追い続けていることがバレたら…何を言われるのか考えたくもないほど怖いから。中2のあれ以来ちゃんと将来について話していない。
でももうすぐで高3。進路に対し厳しい両親にとってそろそろ将来について話してくる頃だろう。
今日の話というのはそういうことだろうか。
「あら、もうお風呂上がったの?随分早いじゃない。ちゃんと暖まった?風邪引くわよ?免疫力を下げるようなことだけはしないでよね。」
「ちゃんと温まったから大丈夫。」
嘘だ。帰ってきてあんなことを言われたら、何を言われるんだろうって…そんなことしか考えられなる。
ゆっくりなんてお風呂に浸かれるはずがなかった。
喜奈のこともあるし、流石にタイミングが悪すぎる。大切に思ってくれてる友達だからこそ、私も喜奈を大切にしたい。だから今日はどう上手く話を切り出すか考えたかったのに…。
「座って。最近ちゃんと話してなかったけど草華、あなたちゃんと進路のこと考えてるわよね。もう高3になるのよ。むしろ今から考え始めるなんて、遅すぎるくらいだわ。」
あぁ…やっぱり将来についてだ。
だから座りたくなかった。
はやく…はやく自分の部屋に戻りたい。
「考えてるし、高3になるのも分かってる。」
「本当?大学はどうするの?あなたの人生だし、お母さんもあまり口は出さないけど、最終学歴で就職は決まるんだからちゃんと考えなさい。あと資格は取っておきなさい。出産後とかでもちゃんと復帰できるところがいいわね。将来不安定なところはダメよ、生活とか大変だから。もう就職後はお母さん達を安心させて。ちょっとくらい楽させて。旅行もいいし、別荘とかもいいわね。
あ、それと…」
私の人生…?
口を出さない…?
いやいや十分出してる気がする。
いつも思うが私のことを心配してるというより、いつも自分が楽したいの主張の方が強い。
「あなたまだ声優になるなんて思ってないわよね?
将来だって不安定だし、そんななれるかどうか分からない賭けなんてお母さんだったらやらないわ。草華だってやらないわよね?中学の時はやりたいって言ってたけどもう高校生だしちゃんと考えてるわよね。」
あ…ついに言われてしまった。
お母さんだったらやらない、だから私もやらない…。
そんなはずがない。私はお母さんの分身じゃない。
私にだってやりたいことがあるし、夢だってある。
それが狭き門であったとしても…。
今日こそちゃんと言うんだ。
今まで黙って聞いて、自分の思いを殺して、従ってきた。
でももう変わりたい…いや私はもう変わってきている。
大切な友達ができた。
友達を思う心も生まれた。
自分の思いを応援してくれる人だっている。
そう、もう中学生の頃のような自分じゃない。
今ここでお母さんに自分の気持ちを素直に伝えれば…
大きく何かが変わる気がする。
そうだ、お母さんだって自分の子どもの思いを知れば、分かってくれるはずだ。
「あの…お母さ…」
「いつも言ってるけどお姉ちゃんなんだからちゃんと2人の見本となる行動をしてちょうだい。あなたにどれだけのお金を費やしてきたか。ちゃんと費やした分、将来お母さん達に楽させるとかで返してちょうだいね。」
あ…ダメだ…言えない…。
そうだ、何を考えていたんだろう。私に反論を言う資格なんてないんだった。
そう、私は弟達以上に色んな習い事も塾もやらせてもらっていた。
だからちゃんとやった分結果を残さなくちゃ。
もう結果を残すのに時間がない。就職で全てが決まる。
なのに…どうしてだろう…。
『今までの自分を変えたい。変わりたい。』
この思いがうるさいほどに心の中で暴れている。
あれ、でもすぐにおさまった。あ、そっか。
何で私は変わりたいの?
お母さん達は私に色んなことを経験させてくれたのに?
感謝はないの?
結果をちゃんと出さないといけないよ?
お母さんの気持ちを持った私が、変わりたいと暴れる私を言葉でおさえたんだ。
そしてお母さんの気持ちを持った私の声が、私の脳にまるで神経に浸透させるかのように響く。
ほら…答えは一つでしょ。言って…。
「うん、ちゃんと結果は出すし声優はもう考えてない。だから安心していいよ。」
あぁ…また私は変われなかった…。




