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霜月さんはモブが好き  作者: 八神鏡@幼女書籍化&『霜月さんはモブが好き』5巻
第二部

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第八十三話 クリエイター

 メアリーさんは語る。


「うんうん、シナリオが見えてきたよ。これは、主人公クンが見下していたモブキャラに敗北して、打ちのめされる物語にしようっ」


 彼女は、楽しいことのためならなんでもやる快楽主義者だ。

 ご所望の物語は、少し歪んでいると言わざるを得ない。


「何もかもに恵まれている主人公クンは、数多くの女の子に好意を持たれている。いわゆるハーレム系のラブコメだね。そんなある日、彼はついに一人のヒロインを愛する決意をするわけだ」


 ……その概要は、既視感があるのであまり面白くなるとは思えないのだが。

 まぁ、ひとまず最後まで話を聞いてみよう。


「ああ、テンプレだと思っているのかい? もっと奇抜な方がお好みかな? でも、こうも典型的な主人公クンだと、なかなか遊べないんだ。冒頭くらい、ありふれた形で許してくれよ」


「……いや、別に文句なんてないけど」


 相変わらず迂遠な物言いだ。

 相手を小バカにしたような説明口調が鼻につくが、それがメアリーさんの話術なのだろう。あまり心を惑わされないように気をつけて話の続きを促した。

 

「一人のヒロインを愛する過程で、他のサブヒロインを振ることもあるだろう。でも、そんな女の子の思いさえも利用して、主人公クンは意中のヒロインと結ばれる――そんな王道の物語を、私は好まない」


 ……ああ、そうだろう。

 ひねくれているメアリーさんが、典型的な枠にはまったラブコメを楽しめるはずがない。


「でも、主人公クンをメロメロにしたヒロインには、実は他に好きな男の子がいた。その相手が、なんとモブキャラだった。見下していたモブキャラに愛する人を奪われて、主人公クンは嘆き悲しんで物語は終わる――のも、まだ早いね」


「……早い?」


 その言葉に、思わず口を挟んでしまう。

 ずっと既視感のある物語を語っていたが、その続きを俺は知らなかったのだ。


「ああ、早いよ。だって、ここで終わったら前と同じだよ? 二番煎じなんて、芸がないよ」


 なんだ……随分身に覚えのある物語だと思っていたら、やっぱり分かっていて話していたようである。

 彼女はなんでも知っている。だから、宿泊学習の時に何が起きたのかも、把握しているのだろう。


「これでは、ワタシの望む『ざまぁみろ』が足りない。もっともっと、主人公クンは不幸になるべきだし、モブキャラは幸せにならないといけない」


「それは、どんな風に?」


「そうだねぇ……立場を入れ替えたりすると、より一層二人の対比が際立つかな? たとえば、ヒロインだけじゃなくて、振られたサブヒロインも主人公クンを好きになる、とかね? いや、まだ足りないなぁ。今度は逆に、モブキャラがハーレムの主人公になるなんて、いいかもしれないっ」


 メアリーさんは本当にそういう物語が大好きみたいだ。

 今まで、どこか演技がかっていた言葉選びをしていたけど、今だけは素直な思いをしゃべっているような気がした。


「自分が持っていたはずのものをすべて奪われて、ようやくハーレム主人公だった男の子は気付くんだ。自分がヒロインたちにどれだけ酷いことをしていたのか、どれだけ愛されていたか、どれだけ恵まれていたか……うん、いい! それで、自分の行動に後悔しながら、余生を一人で寂しく生きるっ。そうやって打ちのめされた主人公クンを、ワタシは見たい……にひひっ。ああ、たまんない! うんうん、これはいい。ワタシはなかなか、いい『クリエイター』じゃないかなっ?」


 ……あるいはそれは、虚構の物語にしたら面白いのかもしれないけれど。

 しかし、現実で行おうとしているところが、やっぱり不気味である。


「配役は、もう決まっているよ? 主人公クンはもちろんリョウマ。モブキャラはコウタロウ。ヒロインは……僭越ながら、ワタシがやることにしよう。振られるサブヒロインは、ユヅキ……だと意志が弱すぎるから、キラリがいいね」


「……配役、か。随分、記憶にある物語なんだけど、また同じことをさせられるのか?」


 どうやらメアリーさんは、ついこの前の物語を踏襲して、それを繰り返すつもりらしい。


「うん。でも、ラブコメなんて愛するか愛されないかの二択なんだから、物語が同じタイプになるのは仕方ないよ……まぁ、ワタシは過程にはあまり興味がない。主人公クンがいかに落ちぶれるかどうか、という部分がワタシの『オリジナリティ』になるね」


 結局、メアリーさんは竜崎が落ちこぼれる様を見たいだけらしい。


「不安なのかな? 大丈夫、ワタシはクリエイターとしても優秀だし、役者としても申し分ない動きができる。だって、ワタシにはできないことがないからね?」


 今まで、できなかったことなどない。

 そう言わんばかりの傲慢な言葉だけど、それに説得力があるのは、『完璧系ヒロイン』だからだろうか。


「……クリエイター、か」


 自身をそう称するメアリーさんに、俺は思わず笑いそうになる。

 彼女に自覚はないようだけれど……うーん、やっぱり俺には彼女がクリエイターには見えない。


 だって、メアリーさんもまた『サブヒロイン』なのだ。

 そんな彼女がクリエイターを自称しているのだから、滑稽に思ったのも仕方ないと思う――




秋雨ルウさん

再びのレビューありがとうございます!

こんなに自分の作品で考えていただけるとは思っていなかったので、とても嬉しく思います。

願わくば、期待通りの作品を目指したいのですが……と、後ろ向きな発言をしていても仕方ないので、お言葉を励みにがんばります!

これからもよろしくお願い致しますm(__)m

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― 新着の感想 ―
[気になる点] メアリー… メアリー・スーからきてる…?
[一言] メアリーは実際に行動するキチだから 関わらない方が良いのでは 主人公様ハーレムが壊滅しようがモブ様には関係無いし 頭のおかしな金持ちにこれ以上目を付けられない様に する方が大事です
[気になる点] 結果としてざまぁになったものは仕方ないよねと思うのですが、意図してざまぁしようというのは、ただのイジメなのでは? 中山君には、止めて欲しいですね。
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