後日談その12 二十歳になっても、しほちゃんはおこちゃま
――大学二年生の夏休み真っ只中。
幸太郎としほは、とある飲食店にいた。
「わぁ……! 幸太郎くん、すごいわっ。ここが『大人』の世界なのね!」
周囲を見渡しながらしほは目を輝かせている。
普段なら、無邪気にはしゃぐしほを見て幸太郎は笑っているところが……しかし今は、彼もしほと同じように周囲を見渡していた。
「うん。初めて来たよ……居酒屋って、やっぱりお酒の匂いがするなぁ」
そう。二人は今、居酒屋に来ている。
どこにでもある大衆店の一席。すぐ近くでは、仕事終わりと思わしきサラリーマンたちがいる。お酒を飲みながら楽しそうに会話している大人たちを見て、幸太郎は感慨にふけっていた。
「俺も、ニ十歳になったんだ」
「ええ。わたしたち、これで本当に『大人』だわ」
この前、しほと幸太郎は誕生日を迎えた。
晴れて二人ともニ十歳。合法的にお酒を飲める年齢になっている。その記念に、二人は居酒屋に来たというわけだ。
「まずは注文すればいいのかな? しぃちゃんは何にする?」
「――とりあえず『生』で」
「お。なんか大人みたいでかっこいいね」
「えへへ~。ずっと言いたかったセリフなの」
そんなやり取りを交わした後、幸太郎が店員に声をかける。
すぐに呼びかけに応じて、女性の店員が二人のもとに来てくれたのだが……しかし彼女は、怪訝そうな表情でしほを見ていた。
「あの、お客様……身分証を見せていただいてもよろしいですか?」
「お、おおおおとなでしゅっ」
「しぃちゃん、落ち着いて。動揺しすぎて逆に嘘みたいになってるから」
正直なところ、幸太郎はこうなることをなんとなく予見していた。しほは美人だが、見た目が大人っぽいとは決して言い難い。顔立ちとしてはまだ幼さが残るので、店員も勘違いしたようだ。
「これ! ど、どうぞ」
「……失礼しました。生二つでよろしいですね? すぐにお持ちします」
店員も身分証を確認して安心したようだ。笑顔で軽く頭を下げて、二人から離れていく。その後ろ姿を眺めて、しほは少しご立腹だった。
「むぅ。わたしからは『大人』のオーラがあふれているはずなのに……!」
「まぁまぁ、落ち着いて」
ほっぺたを膨らませているその仕草がもう子供っぽいのだが。しかし幸太郎は優しいのでそれは指摘せず、しばらくなだめていると……ようやく、注文していた生ビールが来た。
「お待たせしました。こちら、注文のビールです。あと、先ほどは疑ってごめんなさい……これ、サービスで食べてください」
女性の店員さんは、申し訳なさそうに冷ややっこをしほと幸太郎の前においてくれた。
そしてしほは、食欲に忠実な女の子なわけで。
「い、いえっ。全然、大丈夫です……やったぁ♪」
やや人見知りを発動させながらも、無邪気に喜んでいた。女性の店員さんはそんなしほに微笑んでから、再び自分の仕事へと戻っていく。その後ろ姿を見送って、二人はジョッキを持ち上げた。
「じゃあ、二人のニ十歳を祝して……乾杯」
「かんぱーい!」
見よう見まねで、二人ともジョッキをぶつけてビールを一気にあおる。
琥珀色の液体を口に含んだ瞬間、二人の表情が変わった。
「あ。意外と美味しいかも」
まず、幸太郎はその味に舌鼓を売っていた。甘い食べ物が苦手な彼の舌には、苦みのあるビールのクセが合っていたのである。
そんな彼に対して、大の甘党であるしほと言えば。
「に、にがっ……!?」
記号でたとえると『(><)』こうだった。
「あはは。しぃちゃんには早かったのかな」
「早くないもん! わたしは大人なはずなのに……うぅ~」
唸りながら、もう一口チャレンジするしほ。
だが、苦みはやっぱり消えないわけで、彼女はすごく辛そうにビールをちびちびと舐めていた。
ニ十歳になっても、しほはまだまだお子様舌である。
そんな彼女を見て、幸太郎はやっぱり笑ってしまうのだった――。
……二人の人生は、こうして続いている。
物語は終わり、登場人物としての役割も持たず、語られる媒体も今は存在しない。
しかし、それでも二人の幸せは、永遠に続いていた――。
お読みくださりありがとうございます!
久しぶりの更新となります。小説の方は5巻で完結していますが、漫画の方が最終話に入っております。そろそろ「霜月さんはモブが好き」のすべてが、終わりとなりそうです。
ここまで応援くださり、本当にありがとうございました。
漫画の方も、何卒よろしくお願いいたしますm(__)m




