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霜月さんはモブが好き  作者: 八神鏡@幼女書籍化&『霜月さんはモブが好き』5巻
第二部

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第六十四話 テコ入れ

 ――二学期が始まった。

 長いようで短かった高校一年生の一学期は、振り返ってみると色々なことがあったような気がする。


 入学式には、特別だと思っていた義妹、幼馴染、大親友を失った。

 しかし一カ月後に霜月しほというメインヒロインと仲良くなった。

 そしてそれからまた一ヵ月が経ち、しほが竜崎の告白を振った。

 直後、俺としほはもっと仲良くなることができた。


 本当は、恋人になれたら嬉しかったのだが……そこまで関係が進展するには、もう少しが時間がかかるかもしれない。

 何故なら、どうにもしほの愛情が強すぎるせいである。普通の『好き』では満足できなくなってしまったようで、彼女は俺に一つの要求をした。


『もっともっと、私を好きになって?』


 それまで、しほは待ってくれるらしい。

 俺が、俺自身を好きになって、それからもっとしほのことも好きになったら……その時にきっと、望むような関係になれるのだろう。


 ……正直なところ、その提案はありがたかった。

 やっぱり、元モブキャラと自称していただけあって、俺はどうにも自己肯定感が低い。こんな状態だと、どうしてもしほに対する『好き』という感情にも、曇りが生まれてしまう。


 俺なんかが愛してもいいのだろうか。

 つり合いが取れないのではないだろうか。

 しほのことを、幸せにできないのではないのだろうか。


 などなど、油断するとすぐに不安を抱いてしまう。

 やっぱりそれは、しほにとっても面白くないだろう。


 だから、胸を張って堂々と彼女のことを好きになりたい。

 そのためには、しっかりと自分に自信をつけなければならない。


 なので、時間が必要だったのだ。

 幸い、しほは気長に待ってくれるらしいので、今は彼女の気持ちに甘えさせてもらうことにしたのである。


 夏休みは、通常のラブコメであれば海や山に行ってキャンプしたり、お互いの家に泊まったり、色々なイベントがあったと思うが……しほは過剰なインドア派である上に、門限が19時という家庭環境なので、そんな大層なイベントは起きなかった。


 基本的に、彼女はお昼ごろに俺の家に来て、だらだら遊んで、夕方に帰っていく。そんな生活を、なんと夏休みの間延々と続けた。


 ずっと一緒にいられたことは嬉しかったけど、まぁそんな調子なので、関係にも進展はない。


 やっぱり、俺が主人公のラブコメは駄作である。

 こんな鈍い展開、普通であれば読者が許さないだろう。


 まぁ、それはそれで俺らしいので、今更何かを思うようなことはないのだが。


 ――そんなこんなで、二学期を迎えた。


 九月。教室に到着して、ふと見えたのは竜崎龍馬の後ろ姿だった。


「…………」


 宿泊学習以来、あいつはとても大人しくなった。

 ずっと無言で、何かを思い詰めるように思慮にふけっている。


 ご自慢のハーレムメンバーとイチャイチャすることも少なくなり、なんというか……主人公様らしいとは、言えなくなっていた。


 もしかして、あいつは本当に落ちぶれてしまったのだろうか。

 しほに振られたことで、他の女の子の好意を無視して、無気力になっているのだろうか。


 だとするなら……まぁ、それもまた一つの結果である。

 他人の好意を踏みにじり、不幸のヒーローを気取って無気力になるのなら、ずっとそうしていればいい。


 竜崎がハーレム主人公の座から落ちぶれたのであれば……それはそれで、いいのだが。


 でもやっぱり、それはないだろう。

 だって、時折あいつは、俺を睨む。強い憎悪は、日に日に強くなっているような気がする。


 何かきっかけがあれば……あるいはまた、何かが起きるような。

 そんな様子にも見えてしまうのだ。


 ……できれば、何事も起きてほしくない。

 めんどくさいし、しほがまた傷つくようなことになるのは、嫌だ。

 願わくば、もう二度とイベントなんて起こさないでほしい。

 竜崎龍馬には、落ちぶれた元主人公様として、寂しく学園生活を終えてほしい。


 そう、俺は思っていたのだが――しかし、竜崎龍馬の物語は、まだ終わっていなかったようだ。


「はいはーい! みんな、夏休み気分は抜けてますかー? 抜けてない人は抜いてくださいね~。それでは、早速ですけど……転校生を、紹介しちゃいま~すっ」


 朝からテンションの高い鈴木先生の言葉と同時に、教室に見知らぬ女子生徒が入ってきた。


「ハロー♪ メアリーだよーっ! アメリカから来たけど日本語は話せるから、みんな仲良くしてねー!」


 金髪碧眼の、派手な女の子が教室に入ってくる。

 同時に、教室の誰もが、こう思ったはずだ。


 かわいい――と。


 雰囲気は、しほに近いかもしれない。

 常人離れした容姿の少女に、男子はほとんどが目を奪われている。

 同性の女子でさえ、見惚れるほどにかわいい少女が、転校してきた。


 そして、その子はなんと――転校して早々に、あいつの虜になってしまった。


「……あっ!」


 メアリーさんは、不意にとある一点を凝視する。

 その視線の先にいたのは……竜崎龍馬だった。


「アナタ、そういえば朝にも会ったよっ! ワタシのこと、助けてくれた人でしょっ!?」


 もう、他の人間なんて見えていない。

 竜崎龍馬に駆け寄る彼女を見て……俺は、嫌な予感を覚える。


(これは……テコ入れか?)


 続刊で、物語をマンネリ化させないために、ヒロインを追加するという『テコ入れ』は、ありふれた手法だ。


 竜崎龍馬の物語も、どうやらテコ入れをするらしい。

 つまりこれが示唆していたのは――竜崎龍馬が、再び舞台上に戻って来ると言うことだ。


 まだ、あいつの物語は終わっていないのである。


(はぁ……頼むから、もう巻き込まないでくれよっ)


 心の中で祈るが、しかしそういうわけにもいかないだろう。

 だって俺は、竜崎龍馬の物語における『悪役』なのだから――

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― 新着の感想 ―
[一言] ラブコメの世界と現実を混同している主人公、一部の時は確かに気持ち悪かったけど、成長した今だと一周まわって面白いかもしれないw
[一言] 悪役って自称しながら、竜崎の人間関係ぶち壊して行くのか…? 匙加減間違えると、ざまぁというより、イジメに見えてくる。 もう霜月との事だけ考えて、そっとしておいてあげたら良いかと。
[一言] ハーレムメンバーが増えようが竜崎がどうなろうが中山の恋物語には関係ないじゃんと思う。 そんなこと気にするより霜月をどうやってもっと好きになるかを考えてほしい。転校生は放っておけば。もう決着は…
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