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霜月さんはモブが好き  作者: 八神鏡@幼女書籍化&『霜月さんはモブが好き』5巻
第一部

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第五十九話 ハーレム主人公様の末路

 ――いつまでも、こんなやり取りが続くと思った。

 級友たちが見守る中、俺と竜崎の泥沼の争いが続く。


 戦局は、俺の一方的な攻撃でしかないが……見ている人間にとって、それはあまり面白いものではなかっただろう。


 彼らには詳しい事情が分からない。

 俺と竜崎の会話も、半分しか理解できないだろう。


 でも、そんな一同にも分かることが、一つだけある。

 それは、霜月しほという女の子が、泣いていたことだ。


 そんな、傷ついた彼女を守るために、俺が懸命に立ち向かっていることだけは、たぶん理解してくれている。


 だから何も言わずに見守っているのかもしれない。

 ありがたい。そのまま、最後まで見ていてほしい。


 そして、竜崎の異常性を理解してほしい。

 願わくば、彼のハーレムメンバーたちは、どうか目を覚ましてくれ。


 竜崎には、全てを犠牲にするような価値はない。

 ただ女にモテるだけのくだらない人間に、自分の人生を捧げないでくれ。


 そんなことを願って、俺はついに決着をつけることにした。


「竜崎、お前の思いは報われない。もう、終わりにしよう……なぁ、霜月。そろそろ落ち着いたか? 涙は止まったか? 鼻水はちゃんと拭ったか?」


 そして、時間が経って落ち着いたであろう、霜月に意識を向ける。

 ……本当は、彼女を利用したくはないけれど。


 しかし、この場を収めるには、どうしても霜月の助けが必要だ。

 諦めの悪い主人公様には、きっちりとけじめをつけなくてはならない。


 俺が告白して、霜月と結ばれることで、あいつの物語を終わらせなくてはならない。


 だから俺は、霜月と向き合った。


「…………んっ」


 念入りに鼻と目をこすったせいか、霜月の顔がいつも以上に腫れぼったい。ただ、さっきみたいに取り乱してはいない。どうにか落ち着いてくれたようなので、たぶんもう大丈夫だろう。


 後は、俺が告白するだけだ。

 これでようやく、霜月を救うことができる。


 そう思って、俺は全てを終わらせようとした。


「霜月。聞いてくれ……俺は、お前のことが――」


 ……でも、霜月しほという少女は、竜崎龍馬とちがって立派なメインヒロインである。


 しかも、ただただ助けられるだけの、弱い女の子ではないから。

 彼女は、俺が何を言おうとしているか察するやな否や、いきなり血相を変えたのだ。


「ダメっ」


 首を横に振って、まるで怒るように、彼女は俺を腫れぼったい目で見つめている。


 この子は人見知りで、他人の気配に敏感で、基本的にポンコツな女の子だが……心を許した人間の前でだけは、気が強くなるような内弁慶でもあって。


 だから、俺の隣にいる彼女は……とても強くなっていた。


「中山君……もう、大丈夫よ。だから、これ以上無理しないで? もう、傷つかなくていいわ……助けてくれて、ありがとう。おかげで、勇気が出たわ。だから、そのことに関しては、また後で話し合いましょう?」


 ――許さない。

 ――今、告白されても、困る。


 そう言われているような気がして、思わず喉がつまった。


「……そ、そうか? なら、うん。分かった、けど……」


 本当に、大丈夫か?

 霜月のことが心配だったが、彼女は自分で言った通り、もう大丈夫みたいだった。


「竜崎君。あなたの気持ちは、分かったわ。勘違いさせていたことには、私にも責任があるわよね……だから、ごめんなさい。先に、謝っておくわ。その上で、どうか聞いて?」


 霜月が、竜崎と向き合っている。

 恐らく、この物語で初めて、メインヒロインの本音が主人公様に語られようとしていた。


「し、しほ……?」


 竜崎は、びくびくしている。

 しかしどこか期待するような目で、霜月を見ている。

 まだ、彼女本人の口からは、何も言われていない。

 だから、わずかだが大逆転の可能性がある――と、そう言わんばかりに。


 だが、そんな物語の展開を、外道ヒロインの霜月が認めるわけがないのだ。


「私は、あなたのことが苦手なの。今まで、言ってあげられなくてごめんなさい……ずっと昔から、あまり好きではなかったわ。うん、だから……竜崎君。あなたの気持ちには、応えられません」


 彼女自らの手で、終わりを突きつける。

 俺が考えていたものとは、少し違う結末だった。


 想定していたのは、俺が告白して霜月と付き合うことで、竜崎龍馬の恋を終わらせようとしていたのだが……彼女は、自分自身の言葉によって、竜崎の思いを断ち切ったのである。


「――――っ」


 本人に言われては、さすがの竜崎も受け入れざるを得ないだろう。


 彼の恋は、報われることなく終わったことを。

 竜崎龍馬の物語は、何も生み出されることなく、収束したことを。

 ハッピーエンドではなく、バッドエンドという形で、終幕したことを。


 竜崎は、受け入れることしかできなかったみたいだ。


「…………」


 何も言わずに、あいつは舞台を降りる。

 そのまま、誰もいない方向へと、ふらふら歩いて行った。


 そんな竜崎を追いかける人間は、もういない。

 さっきは梓が追いかけて、あいつを勇気づけてあげたけれど。


 他のサブヒロインたちですら、もう竜崎龍馬を救うことは難しいと思ったようだ。

 これが、ハーレム主人公様の末路だ。思いを裏切り、踏みにじり、気付かないふりをした結果……愛想をつかされてしまったのである。


 ……かくして、竜崎龍馬のラブコメが終わった。

 カタルシスなんてまったく感じさせない、駄作という結果を抱えて、ハーレムラブコメが幕を閉じる――

くろちゃんさん

レビューありがとうございます!

励みにさせていただきます。至らない部分もございますが、楽しんでいただけるように努力します。

こうして評価いただけることで、また一段とモチベーションを上げられます!

今後ともよろしくお願い致しますm(__)m

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― 新着の感想 ―
[一言] モブが告白しようとしたのは、ヒロインが直接手を下して罪悪感を持たないように全てを被ろうとしたんだろ。 でもヒロインはそれを理解して、モブだけに任せるんじゃなく自分も一緒に決着をつけようとした…
[一言] 1章終わると サブヒロインズの掘り下げが始まるのかそれともしほとのこれまで以上のイチャイチャが見られるのか楽しみですねぇ個人的には後者を良くみたいです。なんというかサブヒロインズの影薄すぎる…
[一言] 告白を見せものにするなとか言いつつ、自分も同じことやろうとしてるのは何で…w
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