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敗北した女騎士は、破滅を回避した悪役令嬢らしい  作者: ru
第二章 デートは警邏から
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14.離してくれない

 

 ひときわ音楽が盛り上がったかと思うと、ジャン、と、終わった。


 ヒューヒューと囃す声、大きな拍手、歓声に囲まれて、踊っていた男達は皆得意げに手を振る。


 シュタインはまっすぐ私の所に戻ってきた。上手くいったと思っているのだろう、キラキラと目を輝かせて得意げな顔をしている。


「盛り上がってたじゃないか」

「だろう? かっこよかったか?」


 手をあげてハイタッチを求めてきたので応えてやった。パシっと軽い音がする。


「踊ってるというより、戦ってるみたいだったよ」

「まあ、そうだな」


 シュタインはにっと笑って、私の耳に口を近づける。


「リーゼを相手してるつもりでやった」


「おい、勝手に人を使うな」

「いつもイメージトレーニングしてるから、これならスムーズに動けると思って」


 ご機嫌のご様子である。いつも相手は私なのか? まあ確かに、私もシュタインが一番イメージしやすい。


「シュタイナー様! リーゼロッテ様!」


 先程の彼が興奮した様子でやってきた。


「盛り上がりましたね! まさかシュタイナー様が出てきてくださるとは!」


「あ、さっきは……、っ」


 私が返事をしようとすると、シュタインにぐいっと肩を引き寄せられた。

 シュタインは割って入るように前へ出て、彼に握手を求めるように手を出す。


「こういうのも面白いものだな」


 二人、がしっと握手する。


「あいてて」

「おっと失礼」


 シュタインの力は強いのだ。一般人と握手するときは気をつけろ。


「いやぁ……さすがシュタイン様です。やっぱりホンモノは違いますね。そうだ、噴水の所でも盛大にやるようですよ。シュタイン様も行きませんか? きっと盛り上がるなー」


「……いや、今日は、()()()()()()、だから」


 せっかく誘ってくれたのに、シュタインの空気がぴりっと冷えたように感じた。

 彼はシュタインと私を交互に見ると、はっと何かに気づいたように、


「あー! す、すみません!」

 お邪魔しました〜!と、逃げるように去っていった。


「シュタイン?」


「行こうか、リーゼ」


 振り向いたシュタインはふわっと優しい顔で、私の手をまた大事そうに包んで歩き出した。



++



「おーい。お二人さーん!!」


 露天を覗きながら歩いていると、のんびりした声が掛けられた。


 そこには貴族らしくない格好をしたヴィンツェルがいた。

 目立たないよくある黒いコートに、野暮ったい眼鏡。キラキラの髪も帽子で隠している。

 お忍び?なのだろうか。大貴族様は大変だ。


「チッ」


 隣から小さく舌打ちが聞こえたような気がする。シュタインはヴィンツェルが苦手なようだ。しかし舌打ちは良くないぞ。

 ヴィンツェルはそんなシュタインの様子を全く気にせず駆け寄ってくる。


「ヴィンツェルも来てたんだ」


「懇意にしてる商会が、広場を借り切っていろいろやるって言うんで、覗きに来たんだ。そうだ、一緒に行こうよ。魔石探しとかやってるよ」

「子供か」


 魔石探しは、お祭りの露天の代表である。魔石は魔物の核のようなもので、良いものは加工すると魔力を伴った宝石の様になり、高値で取引される。


 魔物にも色々あって、巨大ワームの様な騎士団が駆り出される様なヤツばかりではなく、小鳥に混ざって畑を荒らすヤツや、気がつくと民家の軒先に巣を張っているヤツなんかもいる。


 魔石探しは、そういう小物から出たものを砂に入れて、スコップでそれを掘るのだ。制限時間内に見つけた石は貰える。

 お祭りで定番の、子供に人気の出店である。


「いやいや、あの商会、大人向けに結構いい魔石を入れてんだよ。グロウフェザントのとか。それで毎年大人気」


「へえ、グロウフェザント!」


 グロウフェザントの魔石は五色に輝き、様々な呪いから持ち主を護る力がある。宝飾品としても美しく、ちょっとしたプレゼントの定番だ。


「どう?シュタインも挑戦したくなったんじゃない?」


 うりうりと、ヴィンツェルはシュタインを、肘でつつく。

 シュタインはむっとしたように言い返した。


「グロウフェザントなら自分で狩る」

「はは、そうだね。狩ってきたらいい加工業者、紹介してあげる」

「……」

「シュタインには、ペアのデザインなんて、わかんないだろー?」


 シュタインはそう言われて、不本意そうな苦い顔のまま頷いた。


「……その時は頼む」

「よし、じゃあ早速行こうか」


 ヴィンツェルは上機嫌でシュタインを引っ張った。もちろん全く動かないが。

 シュタインはヴィンツェルの手を払う。


「今日ではなくて!」

「こういう時に紹介した方がうまくいくんだって。シュタインも人付き合い覚えないと、貴族社会で戦えないぞ〜」


 こういう事は、どう見てもヴィンツェルの方が上手である。シュタインに勝ち目はない。私も少し気になるし、今ばかりはヴィンツェルに味方することにした。シュタインはデートにこだわって、二人きりで遊びたいようだが、バラバラになるわけでもない。

 少しくらいはいいじゃないか。


「シュタイン、私も屋台を見たい。行こうよ」


「……リーゼが言うなら。少しだけな」


 シュタインは不満そうに口を尖らせるが、しぶしぶ頷いた。


 ふと、ヴィンツェルが二人寄り添った姿を見ている事に気がついた。

 急に人前……しかも友人の前で手を繋いでいるのが恥ずかしくなる。

 慌てて手を引き抜こうとしたが、この男、力が強い。全く無駄だった。


「……シュタイン、手」


 一応小声で伝えてみると、ちら、と一瞬拗ねた様な視線をよこし、するりと手を持ち替えた。

 互い違いに、指の間に指を挟んで固定される。これは……恋人繋ぎというやつだ。


「……おい、何してんだ」

「……」


 シュタインは意地になった様で、きゅっと少し力を入れた。絶対離さないぞと、そういうことのようだ。


 ……まあ、デートらしいといえばそうなのだろう。これは仕方がない。私が折れよう。


 わかったよ、と言う意味を込めて握り返してやると、バッと私を見下ろした。顔が赤い。

 だから照れるならやるな……


 シュタインは照れくさそうに口元をゆるめ、そのまま私の手を大事そうに握った。


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