第三十話 最前線へ
八月五日、早朝――
サラとの模擬戦から二晩が過ぎた。
俺とユイナさんはヴェルツェルから歩いて約十分の距離にある丘の頂上で立ち尽くしていた。
周囲には、賊の亡骸。
その数は十人ほどか。
最初に倒した賊から順番に光へと移り変わている。
直後、レベルアップのアナウンスが流れた。
レベル:60
種族:ハーフ(人族×ドワーフ)
HP(体力):746
MP(魔力):10
STR(筋力):66→67(+16)
END(耐久):71(+8)
DEX(器用):62(+8)
MND(精神):50
INT(知力):51
Skill
Specific Skill(固有スキル)
種族適性(歩兵系統、銃兵系統)
個人適性(騎兵系統)
Passive Skill
【一刀両断Lv,2】
【縦陣Lv,1】
【奇襲Lv,8】
【挟撃Lv,7】
【狙撃Lv,3】
【夜目LV,3】
【夜襲Lv,4】
【横陣Lv,1】
「――これでレベルも60か」
「カイくんもレベルアップしたようだね?」
ステータスを閉じると、隣に佇むユイナさんが話しかけてきた。
「私も今の戦闘で60レベルに到達したよ」
「どうにか夜間帯が終わる前に決着がつきましたね」
東の方角に顔を向ける。
――地平線からは太陽が顔を見せ始めていた。
「賊は弓と銃持ちが複数いて数も多かったですから、視界が悪いなか乱戦に持ち込めたのは幸いでした」
「乱戦といっても……私は召喚兵士を指揮することに専念していて何もしていないけどね」
彼女は嘆息して、後を継いだ。
「それでも自分で戦うより、精神的に疲弊している気がするよ」
「……仕方ないでしょう。あの突貫するプレイングを矯正しなければならないのですから」
あの約束をして以来、ユイナさんとは何度かこうして行動を共にしていた。
そして、俺と一緒の際は剣だけでなく遠距離武器も出来るだけ制限するように言い含めている。
「……剣を抜くなというのは分かるのだけど、弓と銃も出来る限り使うなというのはどうしてなんだい?」
何処となく困惑した表情。
「これではサラくんと変わらないのだが……」
「先ずは指揮能力を身に付けなければなりませんからね」
ユイナさんは近接戦闘だけでなく射撃能力まで優れている。
しかし、それゆえに遠距離武器を使用しても部隊指揮が疎かになりやすい。
「しばらくは部隊指揮に専念して、それに慣れたら遠距離武器主体の戦術に移行するのが、SWOの戦闘に慣れる一番の近道だと思います」
戦争をコンセプトにしているこのゲームで、百発百中のスナイパーという存在は恐ろしい意味を持つ。
SWOでユイナさんのバトルセンスが真に発揮されるのは、圧倒的な近接戦闘よりむしろ射撃能力の方だろう。
「あとサラとユイナさんでは全然条件が違いすぎますから」
サラが常時あのスタイルなのに対して、ユイナさんは条件付きだ。
「武器を制限するのは俺がいる時だけなので、戦闘難易度も比較的難しくなくユイナさんの攻略にもそこまで支障はないでしょう」
ユイナさんがわずかに目を瞠った。
「……何ですか?その反応は」
「いや、直接指南を求めるなと言われた時には、正直どうしようかと思ったけど」
相好を崩して笑う。
「カイくんは何だかんだ言いながら、優しいというか面倒見がいいなと思って」
「……」
彼女とは対照的に、今の俺は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていることだろう。
(確かに言われてみるとおかしな話だ。こういうのが嫌でああいった条件を提示した筈なのに……)
自分でもどうしてこんなことをやっているのか、理解できず、ただ視線を宙に漂わせた。
その矢先――
西の方角から、此方に近づいてくる人影を捉えた。
「ん?」
ユイナさんもその視線の先を追う。
「あれは……サラくんだね」
「そうみたいですね」
真っ白な肌と細い手足には似合わない軍服を身に纏い、腰まである白髪が朝日に照らされている。
そして、ヴェルツェルの軍人で武器を装備すらしていない人物となると彼女ぐらいだ。
ふと、サラが立ち止まる。
朝日を眩しそうに目を細め、キョロキョロと周囲を見回す。
ややあって、此方に目を留めた。
彼方も俺達の存在に気が付いた様子だ。
足を速めて傾斜のある街道をのぼってくる。
少し後、近づいてきたサラに此方から応じた。
「サラもこんな時間からレベリングか?」
「……まあ、そんなところよ」
「調子はどうなんだい?」
「どうにか夜明け前で、レベル60に届いたわ」
その言葉に目を見張る。
二日前。
模擬戦の時点で俺とサラのレベルには20以上の開きがあった。
それにもかかわらず、俺と変わらないタイミングで60レベルに達したという。
そのことが意味するのは――
「……帝国軍人を討伐して来たのか?」
彼女がやってきた方角――【グロート森林】に目を向ける。
「ええ、貴方達が帝国軍人を倒したことをレヴィン少尉から聞いて、二日前の夕方から【グロート大森林】に入り浸っていたから」
彼女の実力を知らなければ、さぞ驚いていたことだろう。
「遭遇した規模はどれぐらいだった?」
俺が遭遇したのは小隊規模だったが、レヴィン少尉の話では分隊規模が通常らしい。
「どちらも十人ほどの分隊規模だったわね」
「――どちらも?」
「昨日の朝と今晩、合わせて二回帝国軍に遭遇したのよ」
一回で出会えれば御の字と思っていたから、思いがけない幸運だったわ――とサラはしみじみと語る。
そんな彼女に対して、俺は胸をつかれたような思いを味わっていた。
そして、それはユイナさんも同じ心境だったらしい。
「流石というべきか、よく勝てたね……」
感嘆するような声音で口にする。
「私とカイくんが帝国の小隊を殲滅したばかりだったから、サラくんが遭遇したどちらの部隊も相当警戒していたんじゃないかな?」
「その通りよ」
サラが肩をすくめる。
「一度目はどうにか、罠を仕掛けていた森に誘い込んでゲリラ戦を展開し勝つことができた」
だけど、と目尻を吊り上げる。
「今晩遭遇した部隊は警戒心が強くて、木々の開けた場所に陣取って警戒体制のまま一向に動かなかったわね」
「……だったら、どうやって勝ったんだ?夜襲でも仕掛けたのか?」
言ってから、正しくないことに気付いた。
「いや、警戒態勢の敵にただ夜襲を仕掛けるだけでは勝てないか……」
「夜襲がとどめになったのは間違いないわよ?」
彼女は〝ただ、その前に色々と小細工を弄して敵の士気崩壊を誘ったのだけ〟と興味深いことを言い添えた。
「それで貴方達もレベリングに勤しんでいたようだけど――」
サラが話題を変える。
俺的には様々な小細工という点が気になったが、今更問い詰める真似も出来ず、話の流れに乗った。
「俺とユイナさんもちょうどレベルが60に届いたところだよ」
「そう。私はさっそく次の目的地に向かおうと思っているのだけど……」
貴方はどうするのか、と視線で問いかけてくる。
「俺もこれからレヴィン少尉のところに行くつもりだ」
「私もだよ。サラくんに一緒していいかな?」
ええ、とサラは頷き返す。
こうして、俺達三人はヴェルツェルに足を向けた。
ヴェルツェル 訓練所
「……もうそんなレベルに達したのか」
レヴィン少尉が唖然とした様子で呟いた。
「貴様らがこの街を訪れてまだ二、三日ほどしかたっていない筈だが」
「次の街に向かうにはまだ早いですか?」
「……短期間だろうがそのレベルに達している以上実力は確かなものなのだろう」
一度大きく頷く。
「いいだろう。次の目的地に向かう事を許可しよう」
しかし、話はそこで終わらなかった。
「だが、貴様らが次に向かう目的地は街では無い」
「ん?では何処に向かうのですか?」
「――最前線だ」
その言葉の意味を理解して、思わず息を呑む。
「貴様らには、これから本格的にラグハイム帝国との戦争に参戦してもらう」
「戦争に参戦……」
「とはいえ、お前たちがこれから向かう地域は、大陸全体を見渡せば小競り合いの規模でしかないがな」
小競り合いとの言葉に、少しだけ緊張がほぐれた。
それに反応して、レヴィン少尉は視線を鋭くする。
「それでも、数百人の軍人同士がぶつかり合う本物の戦争だ」
居並ぶ俺達を見回す。
「今まで上手くいったからといってこれからも上手くいくとは限らない。覚悟しておくことだな」
その忠告に俺たちは三者三様に頷き返した。





