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第二十五話 模擬戦

 

 ヴェルツェルの訓練所で、俺とサラは対峙していた。

 彼女は未だに武器を装備していない。

 ギリギリまで隠すつもりだろうか。

 距離は二十メートルほど。

 その中央には審判をかってでたレヴィン少尉。


「模擬戦のルールに関してだが――」


 彼がゆっくりと口を開いた。


「召喚士官、召喚兵士のHPが二割を切った場合、戦死扱いとする」


 プレイヤー、召喚兵士を殺してしまうと、デスペナルティでこの後のゲーム攻略に支障が出るのは避けられない。

 模擬戦でそこまでする意味もないだろうと、それゆえに取られた措置だ。


「勝利条件は召喚兵士二体を戦死させる、もしくは召喚士官プレイヤーを討ち取ることとするが、それでかまわないか?」

「条件はそのままでいいとして、私から一つ提案がある」

「……なんですか?」


 ――いったい何を吹っ掛けてくるのか。

 内心警戒しながら、彼女を見据えた。


「召喚兵士の兵数は三対三としたい」

「三対三?」

「私は種族適性と個人適性が歩兵系統。それゆえに現時点で歩兵を三体召喚できる」


 サラのステータスを思い出す。


(……確かに適性は歩兵系統だけだった)


 種族、個人適性を合わせて七割減で歩兵を召喚できるというわけか。


「だから――」


 彼女は振り向く。


「【夜叉姫】――貴方の召喚兵士を一体、彼に貸し与えてくれないかしら?」


 入り口付近で待機していたユイナさんに目を付けた。


「私は別にかまわないが……」

「俺はまだ了承していないのですが?」


 勝手に話を進めようとするサラに対して口を挟んだ。


「では、二対二でやると?――しかし、それでは高レベルでハーフである貴方のステータスが戦況に直接反映されやすく、三対三で戦うより大分優位になると思うけど?」

「何も二対二とは言っていないでしょう。貴方が三体召喚できるのも実力のうちなのだから三対二でやればいい」

「それじゃあ、今度は私が有利過ぎる」


 この戦力状況下での兵士一体の差はあまりに大きい。


「何よりその条件では私が勝っても貴方に言い訳の余地を与えてしまう」

「……言い訳などしませんが」

「それらの事から召喚兵士三対三の条件は必須条件」


 此方の言葉を無視して彼女はそうまとめた。


「……」


 無言でサラを睨め付ける。


(三対三の条件そのものは俺にとって悪くない……どころか有利な条件だ)


 しかし、何処か譲られているようで気に食わない。


(とはいえ、理があるのはあちら側だ)


「はあ……」


 諦めて視線をユイナさんへと移した。


「巻き込んでしまったようで申し訳ないですが、召喚兵士を一体、俺に預けて頂けませんか?」

「ああ、了解した」


 快く了承すると、彼女の前に魔法陣があらわれる。


「――カイくんの指示に従いなさい」


 顕現した召喚兵士が言われた通り眼前にやってくる。

 それを尻目に再び相手と向き合う。


「これでいいですか?」

「ええ」


 そこで視線が交錯する。


「――それでは戦闘態勢に入れ」


 レヴィン少尉の言葉に頷き返すと、お互いに右手をかざした。



「「――召喚サモンソルジャー!」」



 同時に、空中に浮かび上がった魔法陣。

 複雑奇怪なそれが脈動するかの如く青白い光を放ち始める。


 真っ白な世界。

 しばらくすると視界から光が晴れた。


 視線の先に――軍服を身に纏った召喚兵士が規律正しく並んでいた。

 サラに目を向けると、彼方にも三体の召喚兵士。


「――……」


 互いの布陣が完了する。

 続けてクロスボウを構えようと背後に手を回した。

 その間際――


「――どうして、武器をかまえないのですか?」


 彼女はこの段階になってもアイテムボックスから武器を取り出そうとはしなかった。


「ルール上でも召喚士官が武器を使うなとは言われていない筈ですが?」

「私は武器を使わないわ」

「は?」


 下士官――階級が伍長でしかない現在は、将であると同時に兵士でもあるのだから、自身の武力も貴重な戦力の一部である。

 ましてや、三対三となった現状では、彼女に数的有利など存在しない。

 武器を装備しない理由が理解できなかった。


「……まさか、負けた時の言い訳ですか?」

「これが私のスタイルなのよ」

「……馬鹿にしているのか?」


 怒りから敬語すら消えた。


(例え、武力に自信が無かったとしても、弓や銃を持っているだけで此方の牽制にはなる)


 それすら放棄している彼女はふざけているようにしか見えない。


 すると、サラが大きく息を吐いた。


「……ユニークスキル【今孔明】の発生条件はプレイヤーが武器を装備していないことなのよ。だから、これが本気という言葉に嘘はないわ」

「……それはどのような効果なのですか?」

「現在のスキルレベルでは、私と召喚兵士のステータスが一パーセント上昇するだけよ」


 その言葉に視線を鋭くする。


「その言葉が本当なら、やはりふざけているとしか思えない」


 この状況で武器を捨てる代償としてはリターンが安すぎる。


「……では、条件を付け加えましょう」


 僅かな思案のあと、再び口を開いた。


「私が負けたら一カ月間、貴方に全面的に従うというのは?」


 そして、懐から何かを取り出した。


「担保として、アイテムボックスを貴方に預けるわ」

「アイテムボックスを……」


 アイテムボックスは非売品でありながら、ゲームを攻略するためには必要不可欠だ。約束を違いさせない担保にはちょうどいい。


「【夜叉姫】という立会人もいることだし」


 ユイナさんを一瞥してから、歩み寄ってくる。


「これだけすれば私が手を抜かないという確証も得られたと思うけど?」

「……まあ、手を抜くつもりがないことは分かりました」


 彼女からアイテムボックスを手渡される。


「――ですが、傲慢がすぎる」


 アイテムボックスを俺に預けた時点で、戦闘中に武器を取り出すことすら叶わなくなった。

 これでは三対三というより、四対三といった方が正しい。

 しかも、召喚兵士のステータスすら負けている。


(これが実戦であれば、地形を利用し不意を突くことでその差を埋めることも出来たのかも知れない)


 だが、此処は障害物など何もない訓練所。


 戦闘も対峙している場面から、レヴィン少尉の合図と共に開始される以上、不意を突くことも困難だ。


(これほどの条件を付けてきたのだ――策の一つや二つはあるのだろう)


 不気味ではある。


(しかし、この状況はどうみても詰んでいるとしか思えない)


 サラが元の位置に戻ったのを確認したレヴィン少尉。

 彼は一度、頷いてその言葉を口にする。



「――では、戦闘開始!」


 遂に戦闘の開始が告げられた。

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