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第二十四話 今孔明

 

 三日目。

 激戦の偵察任務から一夜が過ぎた。

 宿屋を出てヴェルツェルの広場に降り立つ。

 広場は相変わらず軍人や傭兵といった面々がたくさん行きかっていた。

 活気と共に独特の緊張感が漂っている。


 そんな中――ふと、目が止まった。


 そこには女性が立っていた。

 白髪を腰まで伸ばし、真っ白な肌と細い手足。

 彼女が軍服を身に纏ってなければ、貴族の令嬢とでも勘違いしていただろう。


(……プレイヤーか?)


 身に纏う雰囲気がNPCとは違っていた。


(しかし、だとすると不自然だ)


 彼女がこの広場で目立っていたのは、その容姿もさることながら何一つ武器を装備していないことにあった。

 好奇心に抗えず脳内で識別と唱える。



 名前:サラ

 所属:シェンケル辺境連隊 爵位:士爵 軍事階級:軍曹

 召喚士階級:伍長

 レベル:30

 種族:人族


 HP(体力):356

 MP(魔力):10


 STR(筋力):47(+3)

 END(耐久):84(+8)

 DEX(器用):43

 MND(精神):48

 INT(知力):56



 Skillスキル


 Specific Skill(固有スキル)

 種族適性(歩兵系統)

 個人適性(歩兵系統)


 Passiveパッシブ Skillスキル

【奇襲Lv,7】

【挟撃Lv,6】

【夜目Lv,5】

【夜襲Lv,4】

【縦陣Lv,3】

【横陣Lv,5】


 UniqueユニークSkillスキル

【今孔明Lv,1】


「――な!?」


 呻き声が零れる。


(ユニークスキル持ちだと!?)


 そのユニークスキルを俺は知っていた。

 昨夜、掲示板に馬車マラソンと呼称された経験値稼ぎの詳細を書き込んだときに見覚えがあったのだ。



 すると周囲を見回していた彼女の視線が此方を捉えた。

 相手も俺がプレイヤーであることに感づいたのだろう。

 視線を集中している。


 ――どうやら識別を開始したようだ。


 とはいえ、マナー違反を先に犯したのは此方の側。

 そのことを思えば、文句は言えない。

 思考を巡らせていると相手の方から近付いてきた。


「貴方もプレイヤーなのね」


 歳は同じぐらいだろう。

 碧眼の瞳が此方を見据えている。


「私はサラ」

「……初めましてカイです。カイ・クライス」


 右手を差し出すと握手には応じてくれたが、笑顔を浮かべることはなかった。


「正直、驚いているわ。貴方のレベルを拝見させてもらったけど、既に此処までの差を付けられていることに」

「……まあ、色々と上手く運びましたから」

「【夜叉姫】以外でこの街にいるとなると、出発前にシェルンで噂になっていた馬車マラソンの発見者かしら?」

「そのようですね」


 隠すことでも無いので肯首する。

 すると、サラは俯いて何かを考え込む。


 だが、それも一瞬の出来事。

 再び顔を上げた彼女。

 そこには今まで無表情だった顔に嗜虐的な笑みを貼り付けていた。


「なるほど貴方、運がいいのね」

「……」


 確かに運がいいのは否定できない。

 だが――

 他人に此処までの過程を全て運がいいで片づけられるのは不快だった。


「――私と模擬戦をやらない?」


 此方の心情を知ってか知らずかそんな提案をしてくる。


「トッププレイヤーの実力のほどを知っておきたいわ」

「どうして俺がそんなことを――」

「実力が露見するのが怖いのかしら?」


 安い挑発だ。

 それこそテンプレすぎだろうとでも流せば済むほどの――


「……そこまでいうなら、やってあげてもいいですよ」


 だが、その安い挑発に敢えて乗ってやる。


(別に理不尽な条件を付けられているわけでは無いしな)


 仮に敗北しても失うのは何もないのだ。

 強いていうなら、プライドが僅かに傷つくがそれは逃げても変わらない。

 それにここまで大口をたたく彼女の実力に興味があるのは此方も同様。


「場所は訓練所という事でかまいませんか?構造はシェルンの街と変わりませんから着たばかりの貴方とも公平性は保てていると思います」

「ええ、それでかまわないわ」


 彼女は同意の意を示す。


「それでは一時間後、訓練所に集合ということで」

「今から、行かないのですか?」

「貴方が言った通り私はこの街に着いたばかりよ。召喚兵士の装備を更新しておきたいのだけど?」


 それも許せないかしら?――と煽ってくる。


「……では、一時間後に……このまま逃げないで下さいよ?」


 俺の挑発を無視して、彼女は踵を返した。




 サラの背中が見えなくなる。


「なんだ……あの女」


 思わず吐き捨てる。


(初対面でいきなり突っかかってくるとは)


 類は友を呼ぶというわけでは無いが、このSWOのトッププレイヤーともなると変なのが多いのかも知れない。

 やれやれと肩をすくめる。


「……ユイナさんも色々と変だったし……」

「――誰が何だって?」


 背後から聞き覚えのある女性の声。

 恐る恐る振り返った。


「昨日ぶりだね。カイくん」


 予想通りユイナさんが立っていた。

 表情を伺うが怒りの色は見えない。運よく聞こえていなかったようだ。


「それで誰かと話していたようだけど?」

「ああ、この街を訪れた新たなプレイヤーですよ」

「プレイヤー?」

「サラという女性プレイヤーですよ。ユイナさんと同じくユニークスキル所持者だったのでもしかしたら知っていますか?」


 ――掲示板でも噂になっていたようなだし、ユイナさんが知っていてもおかしくない。

 期待を込めてそんなことを訊いてみる。


「サラというと……【今孔明】の彼女か」

「あ、やっぱり知っているのですね?」

「実力と容姿、特徴的なプレイングと相まって、サービス開始初日から既に目立っていたからね」


 だとしても、彼女だって貴方にだけは言われたくない筈だが。


「それで彼女がどうしたんだい?」

「ああ、それは――」


 これまでの経緯をユイナさんに説明した。



「――へぇ……何だか面白そうな状況だね」

「面白いとは……他人事だと思って」


 大きなため息を吐くと〝ははぁいや、すまない〟と全然すまなさそうに謝罪する。

 そして一通り笑い終えてから、真剣な表情へと移り変わる。


「しかし、意外だったな……彼女がそんなことをするなんて」

「意外とは?」

「彼女の実力にも通じるところだけど、常に冷静沈着な立ち振る舞いでまさに渾名道理の【今孔明】みたいだな、と思った覚えがあったからね。このような衝動的行動に出たことを少し驚いているよ」


 冷静沈着ね――

 先ほどの邂逅を思い返す。

 確かに、最初は無表情でよく言えばクール。悪く言えば冷徹なイメージを抱いたが……


「まあ、彼女の戦闘を遠目でしか見たこと無かったから、私の勝手なイメージでしかないのだけど」

「俺も【今孔明】という名前を初めて見た時は、その印象に引き摺られましたが――直接この目で確認してみればイメージと全然違いました」


 それこそ竹中半兵衛よろしくの、キレ者、才人を勝手にイメージしていた。


(まあ、所詮ゲームの称号でしかない)


 やはり噂とは当てにならないものなのだろう。いい意味でも悪い意味でもな。


「しかし、意外と言えば君もそうだ」

「はあ、俺の何が意外だったのですか?」

「そんな安い挑発ぐらい君なら何でもないように流すと思っていた」


 ――そんなイメージを持たれていたのか。

 子供っぽいところが多いと自覚している身としては、その様なイメージを持たれていたことの方が意外である。


「まあ、経緯はともかく模擬戦そのものには此方にもメリットがありますから」


 模擬戦とはいえプレイヤーとの対戦を経験しておくのはマイナスにならないはずだ。

 そんな物思いに耽っている俺に、彼女がある提案をしてきた。


「その対決に私も着いて行ってもかまわないかい?」

「俺は別に構いませんが……野次馬ですか?」

「立会人と言ってほしいな」

「……立会人とは、また大袈裟な」


 決闘でもあるまいし。

 しかし、ユイナさんは首を何度も左右に振った。


「全然、大袈裟なんかじゃないよ。カイくんとサラくんはこのゲームでも有数の実力派じゃないか」


 此方を見つめてくる。


「それこそ、現時点でのトッププレイヤーを決定する頂上決戦と評してもおかしくない状況だね」

「ふは、頂上決戦と来ましたか」


 思わず吹き出してしまう。


「む、なら、客観的視点で話すために純粋な事実だけを列挙しようか」


 だが、ユイナさんは尚も言い募った。


「現時点でこの街に到着しているのは、私とカイくん、サラくんの三名だ。その中で一番レベルの高いのはカイくん――君だよ。そしてそれは、皇国のプレイヤーで最高のレベルを有しているという意味に他ならない」


 誤魔化すのを許さない力強い口調で断言した。


「そして、サラくんは今日――三日目でこのヴェルツェルの街に到着した」

「……」

「それは確かに、私達より遅い到着かも知れない」


 だけど――と後を紡いだ。


「君は前に、正攻法では短期間でこの街に到着するのは不可能だと言ったのを覚えているかい?」

「まあ、その様なことを言った覚えはあります」


 現実に俺は効率的な経験値稼ぎを、ユイナさんはふざけたプレイヤースキルのごり押しで押し通ってきた。


「なら、サラくんについてはどう説明するつもりかな?」

「ん?」

「彼女が何か特別な経験値稼ぎを編み出したという話を聞かなければ、私のようなPSを有しているという噂も聞かないよ?」


 確かに、掲示板でも特別な経験値の稼ぎ方をしていると書かれていた形跡はなかった。


「勿論、知らないだけで、彼女が私達のような独自の手段を有している可能性もある」


 一呼吸、彼女は間を置いたあと、その言葉を告げた。


「だけど、もしそんなもの初めから存在していなかったとしたら?」


 それが意味するところは――


 此処まで来るのに、正攻法でたった三日しか要しなかったという意味になる。



「それは実質的な――皇国のトッププレイヤーであるとは言えないだろうか?」



 この時が初めて、【今孔明】と評された彼女の持つ不気味さの一端を理解した瞬間であった。


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