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第二十二話 帰還

 

 目の前には背を向けている帝国兵士たち。

 彼らは既に戦意を失っていた。


「ひ、引くなッ応戦しろ!」


 突撃部隊の隊長が叫んだ。

 しかし、誰もその指示には従わない。

 無理もないだろう。

 敵からすれば総指揮官を討たれ背後を襲われたのだ。しかも、此方は援軍の存在まで匂わせている。

 組織的反撃を行えるはずが無い。


 だからと言って見逃してやる義理もないが……


「――追撃しろ!」


 召喚兵士たちが無防備な背中に襲い掛かる。


 度重なる悲鳴。

 一瞬にして三人の兵士が絶命した。

 続けざまに召喚兵士は次の獲物へと斬りかかる。

 それを見て、我先に逃げようともがき続ける帝国兵士たち。



 あれほど手強かった帝国軍人の姿はもうそこにはない。



 ――これが平地や森林での掃討戦なら彼らにもまだ救いはあった。

 だが、ここは谷間に架けられた吊り橋。

 突撃する際には背後に控えていた心強い仲間も、今となっては唯一の逃げ道を塞ぐ只の障害物でしかない。


 それに、どうにか仲間の屍を超えた先には――。


 吊り橋の向かい側に目を向ける。


「――ッ」


 ユイナさんが無言で弓を引き続けていた。

 次々とその場に崩れ落ちる兵士たち。

 その命中率はまさに一発必中。


「……ほんとに滅茶苦茶な人だな」


 観察していると、回避技術を習得する際に身に着けたであろう先読みの力が生かされているようだ。

 近接戦闘に遠距離射撃までこなせるとか……


「……もはや存在がチートだろう」


 彼女の反則ぶりに呆れているうちに、敵残存兵力を全て掃討することができた。





 レベル:35 → 52

 種族:ハーフ(人族×ドワーフ)


 HP(体力):652

 MP(魔力):10


 STR(筋力):64(+16)

 END(耐久):71(+8)

 DEX(器用):62(+8)

 MND(精神):50

 INT(知力):51



 Skillスキル


 Specific Skill(固有スキル)

 種族適性(歩兵系統、銃兵系統)

 個人適性(騎兵系統)


 Passiveパッシブ Skillスキル

【一刀両断Lv,1】

【縦陣Lv,1】

【奇襲Lv,6】

【挟撃Lv,5】

【狙撃Lv,1】

【夜目LV,1】

【夜襲Lv,1】

【横陣Lv,1】


 ボーナスポイント2



 一連の戦闘で50レベルの大台を突破した。

 ユイナさんが倒した分を差し引いても、レベル60前後の敵を十人以上は倒している。

 流石に経験値が桁違いのようだ。


 手に入れたポイントをSTR(筋力)に振っていると、笑顔を浮かべたユイナさんが近寄ってきた。


「――お疲れさま、カイくん」

「ユイナさんこそ」


 すると、彼女の顔が真剣なものへと移り変わった。


「しかし、君は凄いな……本当に私に剣を抜かせないまま勝利するなんて……」

「自分一人の力で勝てたわけではありませんし、あんまり褒められても困るのですが……」


 剣は抜かせなかったが、彼女の飛び道具での援護は本当に大きかった。


「とはいえ、この役目は私でなくとも果たせた以上、君の目的は達せられただろう?」

「……まあ」


 彼女の言う通りだ。

 少なくとも、ユイナさんの圧倒的武力に依存するような戦いにはならなかった。

 そう言った意味では俺と――そしてユイナさんの目的は達せられている。



「それで、今回の作戦について幾つか疑問があるのだけど……」


 時間が無かったので、作戦の詳細な意味までは彼女も伝えていなかった。


「君は焚き火の煙で敵を誘い出した」

「ええ」

「その時に敢えて一人だけ敵を逃がしたのはどうしてなんだい?……何となく意味は分かるのだけど改めて説明して欲しくてね」

「分かりました」


 苦笑いを浮かべた彼女に快く応える。


「敵を逃がした理由は幾つかありますが、斥候部隊だけでなく本隊も森林に誘い込みたかった、というのがまず一つ」


 森林に誘い込むことで、大軍の利を殺し敵に出血を強いる目的もあったが、それ以上に帝国軍の銃兵や弓兵という厄介な支援部隊を無力化したかった。


「逃がした敵に仲間の存在を匂わせたのは?」

「ユイナさんの伏兵を成功させるためです」

「わざわざそんな手間のかかることをしなくとも……最初から、私の姿を敵に見せなければそれで済んだのじゃないかな?カイくんと四体の召喚兵士だけでも斥候部隊の各個撃破は成功したと思うのだけど……」

「お忘れですか?召喚兵士にある額の紋章を識別されればユイナさんの存在は看破されてしまうのを?」

「あ、そうだったね」


 忘れていたという様に何度も頷く。


 召喚兵士を識別される恐れがあったからこそ、ユイナさんが存在しなくとも疑われないストーリーがどうしても必要だった。


「それに仲間の存在を匂わせれば、吊り橋の方角に撤退しても此方の真意を悟られなくてすむ」


 そのおかげで追撃してくる帝国軍のさらに背後から、ユイナさんが後をつけていたという事実を看破されずに済んだ。


「だけど、他にも仲間がいることを疑わせてしまったら、抑えの部隊を残されていた可能性もあったのでは?」


 そうなれば、結果的に私の奇襲は失敗したことになったはず――と付け足した。


「確かに奇襲は失敗したでしょう」


 否定せずに同意する。


「しかし、その場合には敵の戦力を大きく二分出来たので構いませんでした」


 そう、それはユイナさんの存在を気取っての部隊ではないのだ。

 敵が此方の纏まった援軍を警戒しての部隊である以上、相手もある程度の戦力を割かなくてはならなくなる。


「そうなれば、敵に遊兵を作りだせたわけですから、再び各個撃破すればいい」

「じゃあ、松明で脅していたのはどうして?」


 彼女は首をかしげる。


「それも、敵に遊兵を生み出させるためかい?それとも突撃部隊の士気を下げるのが目的?」

「敵もそう考えたのでしょうね。ですが、俺の狙いは別にあります」


 頭を左右に振った。


「狙いは指揮官の周囲に護衛となる兵を置かせないためです」


 あそこで、護衛を置いてしまえば突撃部隊の士気低下は避けられない。敵指揮官が有能なほど全軍で突撃させると読んでいた。


「――ッ!私が行う狙撃の成功確率を上げるためだったのだね!?」

「さらにいえば、敵指揮官の立ち位置まで誘導したかった」

「立ち位置?」

「総指揮官といっても、相手は小隊規模ですから一番階級が高い者で少尉――なので、吊り橋で陣頭指揮を執られる可能性があった」

「そうか、吊り橋に陣取られたら、射撃位置である森林から標的までの距離が開いてしまって失敗する可能性が高まっただろうね」


 松明で吊り橋を焼くと宣言すれば、十中八九ブラフだと見破られても敵指揮官だけは吊り橋に陣取ることはない。

 そうなれば、その背後を森林に紛れてユイナさんが接近できる。


 まあ、彼女の射撃能力を見た後では、杞憂であったのだろうと思えるが――


「付け加えると全軍を吊り橋に誘い込むことで、追撃時に一網打尽に出来る計算もありました」

「……そこまで考えていたんだね」


 感嘆の溜息を吐いた。


「じゃあ、これは一番気になっていた疑問」


 彼女は気を取り直して、そう前置きした。


「君は前もって松明を買っていたけど、これまでの展開を買い物の時点で全て読み切っていたのかい?」

「そんなはずないでしょう……もしそうなら、俺は神か悪魔ですよ」


「……納得できる説明をしてくれるまでは、その説を疑わなければならないのだが……」


 訝しそうな視線で此方を見つめてくる。


 その事に戸惑いながら、口を開く。


「いや、俺が松明を買っておいたのは、ただ単に火が欲しかっただけです」

「火?」

「ええ、火は敵に対して、撹乱に誘導、脅しと何にでも役にたちますから」


 寡兵が大軍を打ち破るのに火を使用した例は軍事史に有り触れている。


「帝国軍人のような強敵と遭遇する可能性はレヴィン少尉に指摘されていましたのでその対策としてね」


 様々な状況に対応できる火は、利便性、汎用性に優れたアイテムだ。

 持っていて損はないし、実際にどれほど役に立つものなのかは今回の戦で証明された。



「ちなみに聞いておきたいのだが雨が降った場合はどうしたんだい?その場合は諦めて撤退を選んだのかな?」

「雨が降ったら、火の代わりに音を代用しましたね」

「音?」


 俺は肩をすくめる。


「銃声でも大声でも何でもいいので音を利用して森へと誘い出す。音が代用できない部分もありますが、基本的には今回の作戦を僅かに修正するだけでいい筈です」


 彼女が何とも言えない顔をしていることにそこで気が付いた。


「ユイナさん?」

「……君は本当に恐ろしいな」


 そして、何かをぽつりと呟く。


「……兄と同じ匂いがするよ」


 その声は小さすぎて何を言ったのか、俺には聞き取れなかった。



 すると気を取り直したように、彼女が笑顔を向けくる。


「それじゃあ、クエストをさっさと済まして街に帰ろうか?」

「え、ええ……そうですね」


 踵を返したユイナさんの後に続く。



 こうして、俺達は激戦の連続となった、偵察任務をどうにか無事に終えることが出来たのだった。

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